『もしもし、パチュリーどうしたの?何か用?』
「ハイ、実はですね冰鞠ちゃんが——」
私の声なのに若葉さんの声に聞こえた。
電話越しで一言だけなのに、直感で若葉さんだと分かったのだ。
もう我慢できなかった。
「若葉さん!!!!若葉さん!!!!冰鞠です!あぁ若葉さん!会いたかった!どうして何も言ってくれなかったんですか!私はあなたのためなら何でもしたのに!若葉さん!」
『お、落ち着いて冰鞠。どうしたのそんなに慌てて、怖い夢でも見た?』
「い、今が夢みたいで、ヒッ、若葉さんはわた、わたしを、廃人にしようとして、ヒッ、してて、最後のお別れも言えなくて、ヒッ、ずっと会いたくて、グスッ」
言葉が、伝えられなかった言葉があふれてきて、ついには泣きすぎて何も言えなくなってしまった。
『…………私も会いたいから今からそっちに行くね、冰鞠。パチュリー、みんなを呼んで』
「ハイ、分かりましタ。冰鞠ちゃんはワタシが落ち着けマス」
『お願いね。冰鞠、また会った時に話そう。1時間くらいで行けるから』
「はい、言いたいことが……たくさんあって」
夢、だろうか。
若葉さんの体になっていて、若葉さんが私の声でしゃべっていて。
若葉さんがいて、若葉さんが答えてくれて。
いや、いつも夢は過去の思い出ばかりなのにわからないことが多すぎる。
夢じゃないのかもしれない。
「とりあえず、泣き止んだみたいですし、お話しましょうカ。」
スマホを操作していたパチュリーさんがそう誘ってくれる。
(若葉さんと話していて知り合いらしいパチュリーさんをまずは信じよう)
まだ謎は何も解決してはいない。
少し冷めて苦くなった紅茶を飲み、さっきの質問に答える。
「まずはごめんなさい、パチュリーさん。私は嘘をついていました。私は一色冰鞠。13歳じゃなくて14歳で、記憶も……自覚している限りでは覚えています」
「フム、accelerateの呪文も知っていて、14歳でもある。しかしワタシのことを知らない。……冰鞠ちゃん、ベッドで起きる前は何をしていましたカ?」
起きる前、私は……
「えっと……起きる前は若葉さんの一周忌、みんなで……あっ、みんなっていうのは私と一緒に虚空神話と……若葉さんと戦って、寄り添ってくれた仲間で……」
「ナルホド……分かりました、そこまでで大丈夫デス」
パチュリーさんが納得したような顔をして私の話を切る。
「ワタシパチュリーと仲間たちは、冰鞠ちゃんと一緒に虚空神話や若葉サンや坂崎と戦いました。そしてあなたにはその記憶はない。そしてあなたの認識では若葉サンは死んでいるが若葉サンは生きている。つまり、あなたにとってこの世界は異世界、もっと言えば平行世界である、と考えられマス」
「平行世界……ですか」
どこか……そう若葉さんの話の中に出てきていた。
アザトースによりあらゆる世界線が破壊された、と。
世界線については、可能性の数だけ分岐するもの、と説明していた。
{あなたは以前聞いた「世界線」の話と、目の前の状況が結びつく。≪アイデア≫(75)→9:成功}
「つまり……ここは……」
気分が悪くなる。胸が苦しくなる。気づきたくなかったことに気づいてしまった。
「若葉さんが生きてる世界線……」
ここは私の世界ではないのだ。
さっきの若葉さんも私の若葉さんではない。
もっと頑張れば、油断しなければ、若葉さんが生きてくれていたのではないか。
私があの時捕まったから、若葉さんは死んでしまったのではないか。
歯がガチガチと震える。耳鳴りがしてうすら寒くなる。寒いのに汗が出てくる。
私のせい——
「落ち着いてください、冰鞠ちゃん。あなたのせいではありません。」
不意に暖かくなった。抱きしめられたのだと気づく。
「あの頑固者の若葉のせいで、あなたは悪くありません。だって、あの出来事を乗り越えて生きているんでしょう?なら間違いではありません。あなたの仲間もあなたに生きてほしいから戦ったのではないでしょうか。私たちは半分はそう思って戦いました。残りは若葉を止めるため、でしたが」
……そうだった。
私はみんなに支えられて、みんなが戦ってくれたおかげで生きている。
若葉さんにも強く生きてほしいと願われた。
別れは突然だったけど、死んでしまったことも受け入れた。
「何度も迷惑をかけてごめんなさいパチュリーさん。もう大丈夫です」
「ごめんなさいじゃなくて、ありがとうと言ってほしいデス」
「ありがとうございます、パチュリーさん」
「ドウイタシマシテ、それにしても年頃に泣く冰鞠ちゃんなんて新鮮デスね」
「新鮮?どういうことでしょうか」
もしかして、この世界のわたしは泣かなくて強い子なんでしょうか。
気分がまた少し落ち込みます。けど……
「よかったら、この世界で何が起こったのか教えてくれませんか」
私は知りたい。
どうして若葉さんが生きているのか。
どうして若葉さんが私の体にいるのか。
「大丈夫デスか冰鞠ちゃん、無理して聞かなくてもいいんですヨ」
「無理はしていません。大丈夫です。それに聞きたいです。若葉さんをどうやって救ったのか」
「……冰鞠ちゃんは他の世界でも強いですね。分かりました、話しまショウ」
ゴクリ、と息を飲む。
大丈夫とは言った手前言えないが、少し緊張する。
「イエ、その前に紅茶を入れなおしましょうカ」
パチュリーさんは席から立って紅茶を淹れなおす。
今度は熱い紅茶を少し飲む。
「デハ、話を始めまショウ」
「お願いします」
{少女説明中}