{少女説明中}
「……というわけデス」
「ありがとうございました」
なんだか別のお話みたいだった。
起きたことは違わないのにその結果は全然違う。
パチュリーさんは若葉さんの間違いをいち速く気づいて指摘していた。
二階堂さんは有田さんのため、最後には虚空神話の人まで説得してしまった。
伊達さんは私の心を守るため有田さんを殺した、と嘘をついてくれた。
しつじさんは、私が死なないように自分を犠牲にして未来を切り開いてくれた。
……そして一番の違いはこの世界の私は本当に強かったこと。
この世界の私は一度も暴走せずに仲間を守り、若葉さんを自分の言葉で説得した。
泣いてばかりの私とは大違いだった。
「本当に大丈夫デスカ?」
「いえ、大丈夫です」
それでも、私はみんなに希望をもらった。
網玉さん、ラウさん、三上さん、殺戮の女神さん、ゴーストハスターさん。
みんなじゃないと駄目なのだ。
「心配いらないようですネ。いい顔をしていますヨ」
「ありがとうございます。ところで、この世界からもとに戻るには……」
突然「ピンポーン」と音が鳴る。
若葉さんだろうか。
そう思い、いてもたってもいられず走って玄関に向かい、ドアを開ける。
開けなれたドアの向こうには、私がいた。
「冰鞠、ただいま」
私がしない顔で、声でそう言った。
今日は泣いてばかりだ。
「若葉……さん。会いたかった」
小さな体で私を受け止めて、困った顔で優しく包み込んでくれた。
「おっと、今日は甘えん坊だね。どうしたの冰鞠」
「そのことについてはちょっと事情がありマス。とりあえず座って話しまショウ」
飛び出した私を追いかけて来てくれたパチュリーさんに促され、若葉さんに抱き着いたまま座った。
「それで、冰鞠がこうなっているのは?」
「それはですね——」
{少女説明中}
「なるほど、違う世界線から来た、と」
「はい、あなたが知っている冰鞠じゃないんです。ごめんなさい、戻り方も分からなくて」
落ち着くと急に不安が湧く。
元に戻れなくなってしまったら、ずっとみんなに会えないかもしれない。
「大丈夫だよ冰鞠。どんな世界線でも変わらず私の冰鞠だ。必ず帰してみせるよ。むしろ冰鞠のおかげで世界線が回復していることが知れて嬉しいくらいだ。」
若葉さんが優しく頭をなでてくれる。
元気そうに私の顔と声で言われると少し変な気分になってくる。
「こっちの冰鞠は強い子だからね。きっと、そっちの世界に入れ替わりで行って元気にしてるよ。そんな気がする」
「はい、そうですね……」
この世界の私は、若葉さんとこうして一緒にいて、信頼されている。
羨ましいと思った。
「デモ、そっちの世界の仲間は心配しているかもしれまセン。早く帰らないといけないでショウ。冰鞠ちゃん、こっちの世界に来る前のことをもう少し詳しく教えてくだサイ」
そうだ、私には私の、私だけの大切な人たちがいる。
泣いてばかりではいられない。
2人にできるだけ詳細にこの世界に来る前の出来事を話す。
「はい。私がこっちに来る前は……」
若葉さんの一周忌だったこと、花を添えたこと、寂しくなってみんなに慰められたこと。
そして……
「若葉さんに会いたい、と強く思ったら意識が遠くなってしまって……気づいたらベッドの上でした」
「フム…………冰鞠ちゃんはあっちの世界ではまだ人格に宿る神がいるんですよネ」
「はい、慣れた今では触手で米研ぎながら野菜切ってハンバーグ焼けますよ!」
「へー器用だね冰鞠。私はできる気がしないよ」
思わず若葉さんと話し込んでしまうと、考えをまとめていたのか黙っていたパチュリーさんが止めに入った。
「ハイ、お喋りはそこまで。若葉サン、人格に宿る神には大抵のことは叶うエネルギーがあると言っていましたネ。つまりこの状況は、冰鞠ちゃんの若葉に会いたいという願いを叶えて、この世界線に精神だけ来た、と考えられマス」
「願いを叶える、なんて神様みたいだな。いや、神なんだが」
若葉さんは「フッ」と少し笑った後、考え込むような顔をして続ける。
「記憶がこっちの冰鞠と混ざっていないことを見るに、やはり入れ替わっている。……おそらく私が生きている世界線を探し出し、冰鞠の体にかかっていた「意識の集約」を使ってこちらの冰鞠の意識を呼び寄せる。その世界線を通った道から逆流するように冰鞠がこちらに来たんだ」
若葉さんが話した難しい話をなんとか噛み砕く。
つまり私が願ったから神様が叶えてくれたのだ。
「えっと、神様が叶えてくれた、ということは今の私には戻る方法がないんじゃ……」
今の私が入っている体は若葉さんのもので神様はいない。
やっぱり戻る方法が無いんじゃと不安に思ったところで意識が……遠くなる。
「いや、こっちが干渉する方法は無い、というだけであっちのの世界に行った冰鞠が望めば……冰鞠!大丈夫か!」
若葉さんが体を支えてくれる。
「若葉サン!これは入れ替わる前にワタシが見た冰鞠ちゃんが気絶するときと同じ!」
「そうか……つまりこれでお別れ、ということか」
あぁ。
またお別れを言えなかった。
……いや、今度こそこの世界の私のように自分の言葉で伝えるのだ。
「ありがとう……ございました。愛しています。……わか…………ば」
この、思いを。
「あぁ、私も愛してる。冰鞠」
最後に見たのは……笑顔で…………