ポケモントリオン兵導入によるボーダー隊員の反応 作:ジャサス
(犬飼視点)
「食べないね」
「だね。食べたがってない」
ひゃみちゃんと辻ちゃんが、ズバットの前で首を捻っている。
鳩原とヘルガーがいなくなって、おれ達の隊が新しく迎え入れたのがこの子だった。
ズバット/ゴルバット/クロバット
・必要トリオン量5
・バランス型
・レーダージャミング搭載
・技:吸血
→噛みついた相手のトリオンを吸収
開発室の努力って言うか、ポケモンに関する技術進化は目覚ましい。どこからアイディア出てるんだろ?噛んだら発火するヘルガーの炎の牙もなかなかカッコいいと思ってたけど、この子はバックワームを標準装備してるようなものだし、実質、技が2つだよ?運動機能も必要トリオンの割に高めで、でもその分トリオンの消費が激しい。だからそれを吸血で補いつつ、噛み付いたり翼で切り裂いて戦う、と。
二宮さんは、こういう強いけどちょっとクセのある子、好きなのかもね。
この子の訓練自体はスムーズに進んだ。おれ達は2回目、二宮さんに至っては3回目の育成だし。
俺達の連携パターン、攻撃のタイミング、囲まれた時の対応、フェイントの掛け方、ランク戦と防衛任務の違い、その他諸々。素直で賢い子(ポケモンって基本的にそうらしいけど)だったから、すぐ実戦にも連れ出せるようになった。
ところが、ランク戦に出るようになってから問題が発生した。
大好きだったオヤツをあまり食べなくなっちゃったのだ。それまではあげたらあげただけ、パクパク食べてたのに。
口が小さくて食べにくいのかと、オヤツを小さく砕いてみても、ゴルバットに進化させてもダメ。
二宮さん製オヤツ(オヤツだってトリオンでできてる)に飽きたのかと、俺や辻ちゃん、はてはひゃみちゃんにまで作ってもらったけど、ダメ。
開発室に連れて行ってみても、「特に異常はなし」とのこと。
オヤツはポケモンへのトリオン供給手段の1つだけど、実際の所、食べさせなくても問題はないらしい。オヤツからのトリオンなんて微々たるもので、ボックスに戻しておれ達のトリオンを注げばそれで足りるんだとか。
「そういう気分なのかもだし、あんまり気にしなくていいんじゃない?」
「そうは言っても…」
「前は食べていただろう。急に食べなくなったのなら何か理由があるはずだ」
だからあんまり悩みすぎないように声をかけてみるけど、やっぱり心配そう。二宮さんも気にしてるみたいだし。オヤツ置き場のオヤツ、どんどん作って増やしてるのも二宮さんだしな…。
「オヤツが嫌って感じじゃないんですよね。ズバット、口しか無いから自信は無いですけど」
「それはおれも思ってた。でもなんか…しぶしぶ食べてる感じって言うか」
確かに辻ちゃんの言う通り、食べないわけじゃないって所が気になる。任務の後とかトリオンを消費した後なら食べるし。オヤツを渡すとしばらく見つめて、それから仕方なさそうに食べてる。
「別の物が食べたいとか?」
「ポケモンに飲食機能は無い。食えるのはオヤツだけだ。昔、太刀川が餅を食わせて大変な事になったし、間違いはないはずだ」
生き物に見えるけど、ポケモンはトリオン兵だ。本来、食事の必要は全く無い。ポケモンにのエネルギー源は隊員のトリオン。ただし誰のトリオンでもいいわけじゃない。所属する隊の隊員のものに限定される。
ポケモンとボックスを支給される時に、おれ達のトリオンはボックスに登録してある。そうする事で隊員とボックス、ポケモンを紐付けて、登録した隊員以外からトリオンの供給を受けられなくする。ポケモンをネイバーに使用されないようにしてるんだってさ。
ちなみにトリオンでできてるオヤツも同じ。だから自分の隊のポケモンのオヤツは、自分達で作らないといけない。ボックスへの供給は戦闘員、オヤツの作成はオペレーター、みたいに分担してる隊もあるらしい。
「食べる前にじっと見てるってことは…オヤツに不満がある?何か食べたい物がある?」
「何をだ?コイツが食えるものは他に無いんだぞ」
「とにかく探してみよっか。それでズバットも落ち着くかもしれないし」
そんなわけで、おれとひゃみちゃんはズバットを連れてボーダーの中を散歩する事になった。二宮さんと辻ちゃんには遠慮してもらった。人数が多すぎても邪魔だし、ズバットの後を延々付いて回る二宮さんとか目立ちすぎるでしょ。
ボーダーは人もポケモンも混ざって今日も賑やかだ。廊下のベンチに座った半崎くんの膝で、諏訪隊のピチューが撫でられてる。タイレーツが1匹、目の前を横切って行った。ゴマゾウ抱えてダッシュしてる帯島ちゃんは…何があったの?トリオン体でも軽くないでしょソイツたぶん。
ズバットは辺りを気にすることもなく、フラフラ飛んでる。この子なりに散歩を楽しんでるんだと思う。でも特に何か興味を惹かれるものは無いみたい。「これはハズレかな?」なんて思いながら歩いてたからか、角から飛び出して来た太一くんに気付くのが遅れてぶつかった。
「うわー!」
「太一くん!?」「犬飼先輩、大丈夫ですか?」
「太一、大丈夫?犬飼君もゴメンね」
来間さんに支えられたのもあっておれは踏みとどまったけど、ものの見事にすっ転んだ太一くんは、持ってたものをばら撒いた。うん、やると思った。
流石に放っておけないので、来間さんと一緒におれ達も拾うのを手伝う。事務用品、ポケモンのオヤツ、提出書類、その他諸々。来間さんは苦笑い。…たぶん、「オレが持ちます!」って言って来間さんが持ってた荷物まで持ってたんだろうな。目に浮かぶ。
「ホントにすみません!ありがとうございました!」
「気にしないで。でも気をつけてね」
「はいっ。あ、そうだ。ズバット、コレどーぞ」
「太一、違う隊のオヤツをポケモンは食べられないよ」
荷物を拾い終えて(今度は来間さんと手分けして持っ事にしたらしい)、ひゃみちゃんと話してた太一くんが、ズバットに差し出したのはオヤツ。お礼のつもりだろう。ズバットも荷物を拾う手伝いをしてたから。
おれが何か言う前に来間さんが静止してくれたし、気持ちだけ受け取って終わろうとしたその時だった。
「え」
ズバットは嬉しそうに太一くんの持つオヤツに齧り付いた。
他隊のオヤツ、おれ達二宮隊のものじゃないトリオンでできてる、食べれないはずのオヤツに。
「大丈夫、不具合じゃないよ。ズバットのって言うか『吸血』の仕様だね」
「『吸血』の、ですか?」
「うん。ポケモンは所属隊の隊員のトリオンしか吸収できないのが基本だけど、ズバットは技の関係で経口でならイケるから」
ズバットを掴んで慌てて駆け込んだ開発室で、寺島さんに言われて肩の力が抜けた。良かった、致命的な不具合とかじゃなくて。
「これはオレの想像なんだけど。ズバットさぁ、飽きてんじゃない?」
「飽きてる…オヤツに?」
「オヤツって言うか、二宮隊のトリオン?」
よく意味が分からない。寺島さんが言葉を続ける。
「ポケモントリオン兵って隊員のトリオンで動くでしょ。つまりトリオンがご飯なわけ。で、オヤツも隊員のトリオンでできてるから、まぁ味が同じなわけだ」
「トリオンに味ってあるんですか?」
「例えだよ。実際トリオンって生体エネルギーだから、人によってビッミョーに性質は違うんだけど」
手元のタブレットを見ながら寺島さんは言う。たぶん隊員毎のトリオンの性質データでも見てるんだろう。
「普通のポケモントリオン兵はそもそも、他の隊の人のトリオンを受け付けない。でも、ズバットは他の人のトリオンも摂取できるから、結果的にいろんな『味』のトリオンを楽しめちゃう。選択肢があるんだ。オヤツ食べなくなったの、ランク戦に出るようになってからでしょ?」
寺島さんは引き出しからオヤツを取り出した。開発室のポケモン用のやつだろう。オヤツを差し出されたズバットは、やっぱり嬉しそうに噛みついた。
…ひゃみちゃん、口が開きっぱなしになってるよ。気持ちは分かるけど。
「ほらね?要するにご飯もオヤツも同じ『味』だから、ランク戦で味わったような別の『味』が欲しくなってるってこと」
かろうじて耐えたけど、なんか膝から崩れ落ちたくなった。おれマジで心配してたんだけど。
「ランク戦以外で、人とか他のポケモントリオン兵に噛み付いてないでしょ?今回だって、散らばったオヤツを勝手に食べる事はしてないし。よく躾ができてるし、問題ないよ。ちょっとコイツが味にこだわってるだけ」
思わずひゃみちゃんと顔を見合わせた。考えてる事はたぶん同じ。
コレ、心配して待ってる二宮さんに説明するの…?
※「トリオンに個人差がある」は捏造設定です。