ポケモントリオン兵導入によるボーダー隊員の反応 作:ジャサス
時系列としては「第一期東隊のトリオン兵」のすぐ後です。
(風間視点)
「いやダメでしょ。カメレオンが使えても動けなきゃ意味ないんだから」
「クエェ…」
俺の隊に実験機として配備されたポケモントリオン兵のカクレオンは、菊地原の言葉で早々に撃沈し、悲しい声で鳴きながら開発室に逆戻りしていった。
東隊のニューラ/マニューラが代表的だが、現在実験的に各隊に配備されているポケモントリオン兵は運動機能特化型ばかりだ。
そんな中で、「技」つまりトリガー能力を搭載した最初のポケモントリオン兵として作製されたのが、このカクレオンだった。搭載したトリガーはカメレオン。さまざまな技が考案されているらしいが、まずは既存のトリガーを搭載する所から始めたそうだ。
そして必要トリオン量1のトリガー機能特化型として作成されたカクレオンは、あまりにも運動能力が低かった。しかも腹の赤い模様は、技の「変色」を発動しても消えなかった。開発室は、何のために俺たちが透明化してると思ってるんだ。
これはさすがにどうしようもないという事で、必要トリオン量を5まで盛り、ある程度の運動機能を有したバランス型に変更した。さらに(なぜか)しぶる開発室を説き伏せて、腹の模様も「変色」発動時には消えるようにしてもらった。
そこまで行ってようやく、カクレオンの訓練が始まった。透明になれるのであればと、カクレオンを隊の連携に組み込む事になったものの、上手くいかない。ある程度連携が完成しつつあった俺たちと、そこに後から加わる形のカクレオン。当たり前だが全く動きが噛み合わない。
「足音大きすぎ。見えなくても音でバレるでしょ」
「遅い、もう一回」
「ちゃんと音聞いてる?そっち行ったら風間さんにぶつかるの分かんない?」
あまりにも菊地原にボロクソに言われていたので心配になったが、訓練が終わればまず菊地原に駆け寄るあたり、誰が1番自分をかわいがっているのか、カクレオンなりに分かっているのだろう。
菊地原に額を突かれ、歌川に宥められ、宇佐美に撫でられ。カクレオンはその度に、口を大きく開けて笑っているようだった。
その日はカクレオンの調子が明らかにおかしかった。しきりに腹を擦っている。それを見た菊地原と歌川、そして宇佐美の様子もおかしくなった。問い詰めると「ペットフードを食べさせた」との事だったので、開発室に連れて行った。
折良く寺島がいたため事情を説明すると、「丸呑みしたみたいだし、溶けた骨ガムよりは摘出は楽だから大丈夫」という何と言ったらいいか分からない返事が返ってきた。直るならいいが。
なおカクレオンは「摘出」と聞こえた時点で、信じられないとでも言いたげな顔で俺と寺島の顔を交互に見ていた。爬虫類モデルのトリオン兵の割に分かりやすい奴である。
そうしてボックスに収めたカクレオンを開発室に預けて隊室に戻ろうとした時、今度は別のエンジニアから声をかけられた。
「交換?」
「はい。ご存知の通り、あのカクレオンは実験機なんです。カメレオンを搭載したことから風間隊にお預けしましたが、この機会に別のポケモントリオン兵と交換した方がいいのでは、という話が出ていまして」
…おそらく、カクレオンの訓練が上手くいっていない事が問題視されたのだろう。他の隊が防衛任務やランク戦にポケモントリオン兵を投入しつつある中で、カクレオンはまだ実戦に出せていなかった。急に仕様書を用意できるわけもないから、前々から議題にされていたのかもしれない。
渡された2枚の仕様書を見る。
カミツルギ(運動能力特化型)
・必要トリオン量6
・カミソリのような薄く鋭い身体で相手を切り裂く
・耐久力はやや低め
バチュル/デンチュラ(バランス型)
・必要トリオン量6
・技:エレキネット
→視認性の低い、電気を帯びた糸で巣を作成
→巣としてだけでなく、糸としても活用可能
どちらも良いポケモンだと思う。能力も使いやすく、運用パターンもすぐにいくつか思いつく。開発室も俺の隊での運用だと念頭に置いた上で開発・選出してくれたのだろう。ありがたい事だと思う。
「ポケモントリオン兵の本格的な導入も決定しました。これからは、隊が希望するポケモントリオン兵を選ぶ形になります。ですので風間隊でも、他に希望があれば申し出てくだされば対応は可能です」
その場では答えず、仕様書を預かって隊室に戻った。
「風間さんおかえりなさい。カクレオンは…あれ、いない?」
「腹を開けてペットフードを摘出するそうだ。2・3日かかる」
「うわ…大手術になってる」
「自力で排出できないから仕方ないだろう。もう食わすなよ」
カクレオンはトリオン兵だ。どんなに懐いていたとしても兵器で、兵器であるなら性能や使いやすさが重視されるべきだ。おそらくカクレオンの交代を告げれば、菊地原達も従いはするだろう。
ふと、歌川のカバンの横の、ペットフードの大袋が目に入った。
俺の見ている物に気がついたらしい歌川が慌てたように言った。
「あ、大丈夫です。もうカクレオンにはやりません。ペット飼ってる友達が引き取ってくれる事になりました」
「また大きいの買ったよね。アレ全部食べさせる気だったの?」
「一回で食べさせる気はなかったさ。悪くなる物でもないから少しずつやろうと思って…」
「そういうきくっちーだって、今日、コオロギ捕まえて来てたじゃない」
「カメレオンがモデルだし、生き餌の方がよさそうじゃん。食べなかったけど」
「『平気です、大好きです』みたいな顔で、ペットフード食べてたもんね。まさか食べられないなんて、あの食べっぷりだと思わないよ」
わいわいと騒ぐコイツらを見ていると思うのだ。
たぶんカクレオンを単なる兵器と見なすのはもう無理だし、遅かれ早かれ、他の人隊も似たようなことになるんだろうな、と。
ポケットに入れていた仕様書は隊室で広げることもなく、その日の内に開発室に返却されることになった。
「クエエェ!」
2日後、帰って来たカクレオンは変わらず元気がよかった。菊地原に突撃して、雑に頭を撫でられている。
満足したらしいカクレオンが戻って来たので、俺も軽く撫でてやった。おい、何で目を剥いてる?初めてじゃないだろう、撫でるの。
とにかく戻って来たからには訓練も再開だ。カクレオンを使い続けると決めた以上は、これまで以上に本腰を入れて鍛えてやる必要があるだろう。幸いにして、牛歩の歩みでも進歩はしているのだ。できないならできるまで繰り返せばいい。
何かを察知したらしいカクレオンが、今度は恐々と俺を見上げた。見つ目返してやると、慌てて宇佐美の背後に逃げ込んだ。失礼なやつである。
今日の訓練では、菊地原は口を挟む暇も無いぐらい厳しくいこうと心に決めて、スケジュールの共有を始めた。