ポケモントリオン兵導入によるボーダー隊員の反応 作:ジャサス
民間用ポケモントリオン兵設定
・戦闘力なし
・盗難防止のため据付型の大型ボックス(高さ2m程度、無駄に重い)ポケモンを格納
・隊所属のポケモンのような、トリオン供給者制限は無し
→大型ボックスに付属するタッチパネルに触れると、触れた人からわずかにトリオンを徴収する
・有事の際には、警察や消防、ボーダー本部などに通知が飛ぶ
・大型ボックスと民間用ポケモンは、ボーダー本部が遠隔で回路を焼き切って破壊可能(技術漏洩防止)
・どのような状態であっても、市民(非トリオン体)に暴力行為は行わない
(三門市女性職員視点)
朝、子どもを保育園に連れて行ったら、保育園にポケモンがいた。息子は目をまんまるにしてポケモンを見つめている。
そういえば、月始めの保育園からのお知らせに書いてあった。
「おはようございます。ポケモン、今日からでしたっけ?」
「おはようございます。そうなんです。パモたろうって言うんですよ」
いつも元気よく教室に駆け込んでいく息子が、今日はその場を動かない。パモたろうとやらが気になっているが、まだ怖くて近づけないようだ。
息子を先生に任せて、職場に向かう。息子は先生に手を引かれても、じっとポケモンを見つめ続けていた。
パモたろう(パモ)
・三門市立の保育園に配属
・配属理由:ペットを飼っていない児童や動物アレルギーの児童が、動物(仮)と触れ合う機会を持てるようにするため
・進化機能は無し
・配属前にボーダー内で3日(慣らし)、玉狛支部で2週間(幼児対応訓練・生活訓練)、鈴鳴支部で2週間(トラブル対応訓練・市民対応訓練)過ごし、また嵐山隊と2度ほどボーダー園(エネコ配属済)を訪れている
「おはようございまーす」
挨拶をして私の職場である市役所に入れば、あちこちから挨拶が返ってくる。それぞれに適当に挨拶をしながらICカードをかざす。
ちょうど課長が席を立って、受付横の大型ボックスを開けている所だった。気持ち急いで席に着く。家を出る前に息子がぐずると、どうしても朝がギリギリになる。明日はスムーズに家を出られるといいのだけど。
そうこうしているうちに、市民課のアイドル、イエくんとサンちゃんを連れた課長が席に戻って来た。朝礼開始。今日は午後から防犯訓練。イエくんが市民対応、サンちゃんは雑務担当。
イエくんとサンちゃんこと、イエッサン2匹が市民課に配属されてもう1年以上になる。初めはとても大変だった。
イエッサンに群がる人。鳴り続ける電話。「暴れたらどうするんだ?」「どうすればポケモンをもらえますか?」などなど、ポケモンに関する質問や問い合わせ。事前説明の段階である程度覚悟を決めていたものの、とてもじゃないけど仕事が回らなかった。
それでも時間は偉大だ。まだポケモン目当てでやって来る人はいるものの、その数は減った。初めは人に囲まれすぎて何もできなかったイエくんもサンちゃんも、今では市役所を訪れる子どもの相手や、高齢者介助、案内や荷運び、掃除など、くるくると日々仕事に取り組んでいる。
また広報課や観光推進課などにもポケモンは次々と配備されて、今では市役所の各フロアでポケモンを見かけるようになっている。
イエくん(イエッサン♂)、サンちゃん(イエッサン♀)
・三門市役所市民課に配属
・配属理由:行政とボーダーの協力関係明示、市役所業務補助
・配属前にボーダー内で3日(慣らし)、営業部で1週間(対人訓練・業務訓練)、鈴鳴支部で2週間(トラブル対応訓練・市民対応訓練)過ごしている
昼休憩の時間、仲のいい後輩とテレビを見ながらお弁当を広げる。
お昼のニュースでは、昨日の警戒区域での戦闘の様子が放映されていた。黒いスーツを着た3人組と紫色のコウモリみたいなポケモンが、画面の中でネイバーと戦っている。あっという間にネイバーをやっつけた。ニュースで見るボーダー隊員、遠すぎてほとんど見分けがつかないのよね…この黒スーツ部隊は分かりやすいんだけど。
ぼんやりテレビを眺めていると、後輩が話しかけて来た。
「今日は普通の防犯訓練ですよね?」
「ええ。刃物を持った不審者が…ってやつ。前回のと基本は一緒」
「前回はネイバー訓練でしたね。ネイバーを見かけたって通報したら、あとはボーダー隊員が来るのをひたすら待つだけで、楽でした」
「こら、市民対応とかあったでしょ」
「外に出ないで下さーいって呼びかけですよね。でも実際ネイバーが来たら、庁舎に立てこもっても意味無くないですか?」
「まぁ、そこはイエくん達に頑張ってもらいましょ」
「えぇー…」
さて、件の防犯訓練である。
不審者役の同僚が刃物を取り出すと、サンちゃんが不審者役の前に躍り出る。みんなで市民役を下がらせて安全確保をしている間に、課長がイエくんの後ろから不審者役の説得を行う。私の仕事は隙を見ての通報である。こっそり奥に行って警察署に連絡。
「こちら三門市警です。事件ですか、事故ですか?」
「三門市役所の防犯訓練です。刃物を持った不審者一名が侵入しています」
「承りました、すぐに現場に急行します。犯人を刺激しないよう、安全確保に努めてください。通話は可能であれば繋いだままでお願いします」
こっそり様子を伺えば、サンちゃんを前衛にした係長が刺股で犯人役を取り押さえる所だった。それを電話口で伝えて、私の仕事は終わった。
夕方、息子を迎えに車を走らせる。
信号待ち中にふと傍を見ると、警戒区域の空に緑色の柔らかな光が浮いていた。どうやら誰かがまた警戒区域に無断侵入したらしい。度胸試しだと警戒区域に侵入する子どもが増えていると聞いた覚えがある。今回もきっとそれだろう。
ボーダーが警戒区域内に浮遊させている小さな星。普段は茶色く、さして目立たないが、勝手に警戒区域に入り込んだ人を見つけると、さまざまな色に柔らかく、あるいはチカチカと瞬くように光る。
よく考えれば、重力を無視して宙に浮くなんてすごい技術のはずなのだけど、「うちの庭に飾れないかな?」なんて考えてしまうあたり、毒されてるなぁと思う。
小さな星(メテノ)
・普段は警戒区域内を「流星の姿」で浮遊して巡回
・侵入者(市民・ネイバー問わず)を発見すると「色のコア」状態となり、光って場所を示す
・モールス信号を会得
ネイバーの侵攻があったばかりの頃にはとても考えられなかったけど、良くも悪くも、私達はもう、ボーダーとネイバーに慣れてしまっている。
耳を澄ませば銃声や爆音が響くなかで息子の送り迎えをすることも、ポケモンがいる職場で働く事も、私にとってはいつもの事。
ネイバーは警戒区域の外には出てこないし、何かあればボーダーが助けてくれる。それが、今の「当たり前」なのだ。
おそらく今頃、侵入した子どもは、急行したボーダー隊員に叱られているだろう。それでもたぶん、面白半分に警戒区域に入り込もうとする子どもはきっとまた出てくる。
ネイバーが恐ろしい存在である事を忘れたつもりは無いけど、ボーダーが、ポケモンが私達を守ってくれると、私達はもう知っている。
イエくんもサンちゃんも、初めて参加した防犯訓練の時からずっと、私達を守る動きを訓練の中でし続けているのだから。
保育園に着くと、帰り支度をした息子が飛びついて来た。
「あのね、あなね、ママあのね、ぼく、パモたろうだっこしたよ」
目を輝かせて、本当に嬉しそうに私に伝える息子を軽く抱き締めながら、こんな日々が続いていく事を願った。
イレギュラーゲート多発事件の1月前の話。