ポケモントリオン兵導入によるボーダー隊員の反応 作:ジャサス
自分達が一生懸命守ってる街で、絶対に勝てる相手(害意有り)に手を出しちゃいけないって、なかなかイライラすると思います。
(黒江双葉視点)
混成部隊での防衛任務を終えて、帰る前にランク戦でもしようと思っていた時だった。
『現在ボーダー本部内にいる隊員は帰宅せず、そのまま本部に残ってください。各隊の隊長は速やかにミーティングルームに集合をお願いします。隊長が現在いない場合は代表の隊員一名が来るようにしてください。C級隊員については…』
全体放送が入った。沢村さんの声だった。
加古隊は、今日は私だけだ。とにかくミーティングルームに向かおうと廊下に出たら、同じくミーティングルームに向かうらしい諏訪さんがいた。
「黒江?加古隊はお前だけか?」
「はい。…これ、何の招集でしょうか?人型ネイバーでも出たんでしょうか?」
「いや、そりゃねーよ」
あっさり言い切られて、少し驚く。
私の様子に気がついたらしい諏訪さんは、説明するようにそのまま言葉を続けた。
「ネイバー絡みの案件ならだいたい忍田さんからの放送になるんだよ。んで、何か外部の人に隊員がやらかしてたら根付さん」
「そうなんですか。じゃあ、さっきの放送は沢村さんだったから…」
「たぶん、不審者でも出たんだろ。最近いなかったんだけどな」
思わず、まじまじと諏訪さんを見つめてしまった。
私達ボーダーが守っている三門市は、実は割と不審者(産業スパイ含む)が多いらしい。知らなかった。
「へー。諏訪さんそんな事言ってたんだ。大当たりじゃん」
「不審者じゃなくて、変質者だって沢村さんは言ってたけど」
「おんなじようなもんでしょ」
ランク戦の後、いつも通り駿と帰る。草壁先輩の話をしっかりとは聞いていなかったらしいので、改めて説明しながらだ。
ミーティングルームに集められた私達に告げられたのは、諏訪さんの予想通り、市内で変質者が目撃されたので気をつけるようにとの注意だった。
指示は4つ。怪しい場所や人物には生身で近寄らないこと、できる限り1人での行動を避けること、何かあれば換装して警戒区域に逃げ込むこと、そして可能であればポケモンを連れて歩くこと。
右手に抱えたカジッチュを見る。いつもはボックスに入れて連れ帰るから、こうやって抱えて家に帰るのは初めてだ。カジッチュも目だけ動かして、私の様子を窺っているようだ。この子も慣れない状況で落ち着かないのかもしれない。軽く撫でてやれば、安心したように目を閉じた。
手が疲れてきたので、カジッチュを左手に持ち替える。トリオン体なら、何時間抱えたって平気なのに。
私の心の声が聞こえたのか、駿がぐちぐち言い出した。
「もうさー、行き帰りとか学校行く時もトリオン体でいさせてくれればいいのに。そしたら変質者とか全然平気だし」
「ダメに決まってるでしょ。一般人へのトリガーの使用は禁止よ」
「変質者って一般人なの?」
「少なくともネイバーじゃないでしょ」
沢村さんから指示を受けたあと、諏訪さんだけでなく他の人達からも、ボーダー隊員と三門市に出現する不審者・変質者とのアレコレを聞かせてもらえた。
当初多かったアンチボーダーやマスコミの突撃取材はメディア対策室のおかげで徐々に数を減らし(まだ時々いるけど)、三門市が安全であると知れ渡るようになると、普通の不審者・変質者が出るようになり。そして、特に変質者は顔や名前の売れているボーダー隊員(特に女子)を標的にするようになったらしい。
諏訪さん曰く、「相手がナイフでも持ってりゃ、換装してはっ倒してもいいんだろうけどな」とのこと。武器を持ってない変質者が、ボーダーとしては一番対応に困るんだそうだ。
隊員はたまに現れる不審者・変質者にあの手この手で対抗して、その度に色々怒られてきたのだそうだ。
『手を出さなければいい』と見つけた変質者を警察が来るまで睨み続けた弓場さんや、換装して追い回した米屋先輩(警察から自分安全を優先するように指導された)。
日浦先輩をアブソルに乗せて帰らせようとした那須先輩や、ぬいぐるみのフリをしたピチューを抱いて帰ろうとした小佐野先輩(ボーダー入り口で止められた)。
被害が出ないように見回りをしようとした嵐山先輩(根付さんが慌てて止めた)
『トリオン体じゃなければいい』と変質者を生身で制圧した風間さんや影浦先輩(厳重注意)。
ポケモンの扱いはトリガーと同じ。当然、一般人へ攻撃は厳禁だ。人命救助のためにウインディを使った柿崎さんでさえ厳重注意をされたぐらい、このあたりの規則は厳しい。
だから、あくまで念の為だった那須先輩や小佐野先輩も止められたわけだが。
「ポケモンで一般人攻撃するのも禁止だよね?」
「そうよ。だからポケモンは見せて歩くだけ。戦闘用のポケモンがいれば、変な人は寄ってこないから」
それでも不審者・変質者による被害を防ぎ、ボーダー隊員の外聞を守るため、不審者が出た場合に限ってポケモンの連れ歩きが認められるようになったそうだ。
民間用のポケモンと違い、隊所属のポケモンの戦闘力は高いし、テレビなどでもポケモンが戦う場面はよく取り上げられている。だからこそ、隊員がポケモンを連れていれば、大抵の不審者は警戒する。犯罪抑制効果を期待してのものらしい。
腕の中で、カジッチュが小さく跳ねた。任せろ、とでも言いたげだ。さっきは私を見ていたが、今度はあちこちキョロキョロし始めた…変質者がいないか見張ってるつもりだろうか?そう言えば、なんで抱えて帰っているのか、カジッチュに伝えてなかった気がする。帰ったら、おやつをあげよう。
「そういえば、駿のポケモンは?」
「隊長がまだ残って仕事するって言ってたから、隊長が使うと思って置いてきた」
「量産型ビリリダマ借りればよかったじゃない。レンタルできるんだし」
「めんどくさいじゃん。カジッチュいるし、いいだろ」
「もう…」
警戒区域はもう遠く、なんだかんだでいつも光ってるメテノ達ももう見えない。
「実際さ、もし今、変質者が来たらどうする?」
「カジッチュいるし、来ないと思うけど」
「もしもだってば」
「カジッチュを投げる」
「…一般人を攻撃しちゃダメなんじゃないの?」
「きまぐレーザーさせるわけじゃないし。投げつけるだけなら大丈夫、たぶん」
「チュ!」
「カジッチュもそれでいいんだ…」
「水上先輩の所で練習してるもの。お墨付きももらったし」
家までもう少し。駿と話しながら、いつも通りに歩いて帰った。
草壁「ポケモン置いて帰った?黒江さんとカジッチュが一緒だから大丈夫だと思った?誰か止めなさいよ。露出狂相手に、あの2人と1匹が抑止力になると思うの?どれだけ強くても、見た目はリンゴよ」