ポケモントリオン兵導入によるボーダー隊員の反応 作:ジャサス
オレはボーダー開発室で働くエンジニア。
それなりの腕もあると自負してはいるが、ここでは飛び抜けて優秀と言うわけでもない、一介の技術者である。
強いて特別な事があるとすれば、生まれる前の、いわゆる前世の記憶がある事だ。…とんでもない事じゃないかって?そんな事はない。
オレは前世でも技術職だった。とあるマフィアの兵器開発部門で「ボックス兵器」と呼ばれる特殊兵器の作成に携わっていたのだ。
しかしその前世の知識を総動員したって、鬼怒田室長は言うまでもなく、チーフの方々に発想でも技術でも追いつかない。さすが近界の脅威から世界を守るボーダーの開発室、マジもんの天才がゴロゴロしてやがる。
それなりに高かった鼻っ柱をへし折られたオレは、寺島チーフの下で日々おとなしく研究・開発に励んでいた。
そうして忙しくも充実した日々を過ごす中で、ある日ふとオレは思いついてしまった。
かつての世界で多くの人を夢中にさせたあの生き物、今なら再現できるんじゃないか?なんて。
最終的に世界最大のマフィアに就職してしまったとはいえ、前世のオレにも幼気な子供時代はあった。
人並みに友達と遊び、アニメを見て、ゲームにのめり込んだ。その中でも大好きだった、なんだかんだ大人になってもゲームだけはし続けていた、ずっと愛していた不思議な生き物達の物語。
ポケットモンスター、縮めてポケモン
残念ながら、新しく産まれ直したこの世界にポケモンはいなかったし、アニメもゲームもない。
でも、かつて身につけたボックス兵器とボックスアニマルの知識。そして今世で得たトリオン及びトリガー技術。
これを組み合わせればポケモンをこの世界に作り出せるのではないか、そう思ったのである。…前世で作らなかったのかって?怖いだろ、著作権法とか色々。
とはいえ、今のオレは社会人。それもネイバーから世界を守るその最前線、戦いに赴く少年少女達のために日夜研究を続ける開発室の一員なのだ。仕事を疎かにできるわけがない。
そんなわけでボックスシステムとトリオン工学を組み合わせた「ポケモントリオン兵」研究は、あくまで仕事の合間の趣味であり。オレの知識と技術の全てを注ぎ込んだ設計図は、オレの机の引き出しに眠ったまま終わるはずだった。
まさか休憩時間にチマチマ書き溜めていた設計図案を、鬼怒田室長をはじめとした開発室のエンジニア達が後ろからこっそり見ていたなんて、オレは全く気がついてなかったし。
とうとう我慢できなくなったらしい寺島チーフが「ここ、こうした方が効率良くなると思う」と口を出して来た事を皮切りに、アレやコレやとそれぞれの得意分野を持ち寄るようになり。
「これデザイン案いくつあるの?100や200じゃないでしょ…」
「トリオン兵作成に興味あるなら言ってくれればいいのに」
「ボックス技術ぅ?こんな応用が効きそうなもんを何で黙っとるんじゃ!名前までつけて…これだけ設計図書き溜める暇があるなら、とっととこっちに持ってこんか!」
「鬼怒田殿、ずーっと相談されるの待ってましたもんね」
「あー、自律式のトリオン兵にすることで自己判断で行動したり、トリガー使ったりできる、と。…え、この機構、開発中のこっちのトリガーに使えそう」
同僚や上司に叱られたら呆れられたりしながら、通常業務を圧迫しない範囲で改良が進められ。
「ポケモントリオン兵…いいですね、これ。見た目を愛らしいものにすれば、セラピードッグの代替として売り出せそうです。もちろんトリガー機能は取り外して、ですが」
「ボーダーのマスコットキャラクターとしても活躍できそうですねぇ。『ポケモンと触れ合おう!』とか子供向けイベントのメインにも据えられますよ」
「知能は犬ぐらい?もうちょっとある感じ?ならかなり賢いし、隊員にも懐くな。軍用犬とかいる事考えたら、現場でも使えるだろ」
「隊員の募集と育成は継続して行っているが、人手は足りてないのが実情だ。トリオン兵をそのまま使うのは市民感情を考えると不可能…だがこのポケモントリオン兵なら一見してトリオン兵とは分からないだろうし」
「けして安価ではないが、一定の効果が見込める、と言うことになるな。…いいだろう。まずは試作だ。何体かこのポケモントリオン兵を作成、隊に配布して運用してみることとしよう」
いつの間にやら城戸司令の認可まで降りて、机上の空論で終わるはずだったポケモントリオン兵は、この世界で産声を上げたのである。
そして現在。
ラウンジにC級隊員が数人集まって、ポケモン図鑑を覗き込んでいる。正隊員となったときに、使いたいポケモントリオン兵を選んでいるらしい。
目の前を柿崎隊が揃って通り過ぎた。どうやらガーディを散歩に連れ出すようだ。巴隊員にいたってはフリスビーまで持っている。
どこかで情けない悲鳴が上がった…緑川隊員だろうか?落ちていたマッギョを踏んで噛みつかれたのかもしれない。
ランク戦室からピカチュウが飛び出して来た。
隊員の肩にホーホーが止まっている。
寝ているチョロネコが、何人かの隊員にゆっくり撫でられている。
オレはポケモンというコンテンツの強さを見誤っていたらしい。
ボーダー内には、ポケモンが溢れかえっていた。
前世持ちエンジニアの出番はここで終わりです。
ここからはポケモンとボーダー隊員の日常などを描いていく予定です。