美女と付き合いたいから強くなる   作:マンダ

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プロローグ

 

 

「魔法の使い方なんて、学校で習ってないんだよ……っ!」

 

 

目の前に立ちふさがる、灼熱の炎と漆黒の鬣を纏った巨大な異形――テオ・テスカトルを思わせるキマイラを前に、情けない声が出たのは最初だけだった。

 

 

 

 

 

数分前、白い空間で出会った金髪の女神様の言葉が頭をよぎる。

 

 

『ふふふ、良いですよ。貴方の努力値次第ですが、この女の子たちに好かれるくらいの容姿と実力を与えてあげます。この世界に転生させてあげましょう』

 

 

優しく微笑む女神様がぱちんと指を鳴らした。

 

 

『容姿は文句なしの超絶美形イケメン。潜在的な魔力量は……あの『冥府の門(タルタロス)』のマルドギールすら超える超絶スケールにしておきます。さらに体内には『闇竜のラクリマ』を埋め込んであげますね。実力の方は貴方の努力次第でどんどん伸びますから、頑張ってくださいね』

 

 

 

 

 

 

 

 

まばゆい光に包まれ、覚醒した先がここだ。

 

見た目は銀髪の超絶美形イケメン。潜在魔力もマルドギール超え。主人公補正ここに極まれり、と高揚したのも束の間、放り出されたのはS級モンスターが蠢く『魔物の谷』のど真ん中だった。

 

 

(おい小僧! ぼさっとするな、闇を練れ! 奴を殺せ!)

 

 

脳内に直接響く怒号。

 

 

(……いや、お前誰だよ!?)

 

 

心の中で突っ込むのが限界だった。体内のラクリマか何か知らないが、魔法の込め方なんて分かるわけがない。

 

 

「ルオォォォンッ!」

 

 

キマイラが咆哮を上げ、灼熱の爪を振り下ろす。

 

 

「ひっ……!」

 

 

声にならない悲鳴を上げて地面を転がる。だが、直後の熱風だけで皮膚が焦げ、激痛が奔った。

 

 

(ええい、歯痒い! 胸の奥の熱を手に集め、前方に撃ち出せ!)

 

(こ、こうか……!? 出ろ、出ろっ!)

 

 

必死に魔力を手元に集めようとするが、感覚が分からない。魔力は体内で暴走し、自爆するように腕の血管を内側から叩いた。

 

 

「がっ……!?」

 

 

激痛に悶絶する隙を突かれ、キマイラの太い尻尾が直撃する。

 

 

ガツンッ!!

 

 

「カハッ……!?」

 

 

肋骨が砕ける音とともに弾き飛ばされ、岩盤へ背中から叩きつけられた。激しい吐血。現代日本で育った身には、ただの一撃すら耐えがたい地獄の激痛だ。涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら這い出ようとするが、キマイラは逃がしてくれない。

 

 

(立て! 立ち上がらぬか無能! 魔力を皮膚に纏わせろ!)

 

(纏わせろってどうやるんだよ! 説明書をよこせチクショー!!)

 

 

心の叫びすら途切れさせるように、キマイラの重い前脚が上空から踏み降ろされた。

 

ドグシャァッ!!

 

 

「あ……が……っ!?」

 

 

声すら出ない。凄まじい圧力が全身を押し潰し、泥と血を吐き出しながら視界が真っ赤に染まる。

 

 

(騒ぐな! 我の魔力を吸い上げろと言っているのだ!)

 

(無理……痛い……無理無理無理、助けて神様、死ぬ、マジで死ぬ!!)

 

 

キマイラが嘲笑うように口を開け、奥でドロドロとした高温の火炎を渦巻かせる。至近距離からの灼熱ブレス。 

 

 

(嫌だ嫌だ嫌だ! 来るな、あっち行けぇぇぇ!!)

 

 

パニックで惨めに両手を振り回すと、暴走した魔力が手から漏れた。

 

ポンッ。

 

不発弾のような情けない音を立てた漆黒の小さな火球は、明後日の方向へ飛んでいき虚しく弾けた。

 

 

(どこを狙っておるか大愚か者がぁぁぁぁっ!!)

 

(狙う余裕なんてあるわけないだろぉぉっ!!)

 

 

直後、キマイラの口から灼熱の炎が放たれた。

 

 

ゴォォォォォォォッ!!

 

 

「……っ!? ……っ!?」

 

 

叫び声すら熱風に掻き消される。至近距離での火炎放射。体内の巨大な潜在魔力が無意識に肉体強化を張ったおかげで即死こそ免れたものの、全身の皮膚が一瞬で黒く焦げ付く。銀髪の毛先は焼き払われ、服はボロ切れになった。

 

 

(ひぐっ……痛い……痛いよぉ、帰りたいよぉぉ……!)

 

(泣くな! 立ち上がれ!)

 

(宝の持ち腐れなんだよ! 使い方を知らない大砲なんてただの鉄くずだろぉっ!!)

 

 

泥を舐めて身悶えする俺を、キマイラは「手応えのない餌」と認識し、鋭い爪で何度も引き裂いて弄び始めた。

 

 

ザシュッ! ザシュッ!

 

 

「あ……っ! ひ……っ!」

 

 

声にならない呻き声が漏れる。血が噴き出し、地面が赤く染まっていく。プライドもイケメンの面影も欠片もない。ただただ激痛に狂い、泥を舐めながら惨めにのたうち回るだけだ。

 

 

(……ええい、もういい! 地上では拉致が明かん! 飛べ! 空へ逃げろ!)

 

(と、飛ぶ……!? 人間が飛べるわけないだろ……!)

 

 

追撃のブレスが迫る。無様に地面を転がって間一髪で回避した。爆風で身体が吹き飛ばされ、泥まみれになりながら激しく血を吐く。

 

 

(背中に意識を向けろ! 身体の力を背に集中しろ!!)

 

(背中……!? 背中って言われても……っ!)

 

 

立ち上がろうとした瞬間、キマイラが巨大な前脚を振り下ろしてきた。とっさに体をひねり、目の前数センチで爪をかすらせてかわす。衝撃波だけで頬が鋭く切れ、血が吹き出した。

 

 

(迷うな馬鹿者が! 背中から魔力を噴出させるイメージを持て! 背だ! 背に力を込めろ!!)

 

(背中、背中……出ろ、出ろぉぉぉっ!!)

 

 

必死に背中に意識を集中させる。だが、感覚が全く掴めない。

迷っている隙に、キマイラの鋭い尾が横一文字に払われた。

 

 

ドカァンッ!

 

 

「ぶぐっ……!!」

 

 

脇腹に直撃を食らい、俺の体は低空を斜めに弾き飛ばされた。受身も取れず地面を何度もバウンドし、全身の骨が悲鳴を上げる。

 

 

(痛い……痛い痛い痛い! もう嫌だ、死んじゃう、誰か助けて……!)

 

(騒ぐな! 立つんだ! 奴が来るぞ!!)

 

 

キマイラが灼熱の火球を立て続けに吐き出してきた。

 

 

ドドドドドッ!!

 

 

「……っ!?」

 

 

 

這いつくばったまま、泥だらけで必死に地面を転がる。爆炎がすぐ隣で跳ね返り、熱波が背中の皮膚を直接焼き焦がす。直撃は免れたものの、爆発の余波をまともに食らって身体が宙に浮いた。

 

 

(焦げる、焦げる……溶けちゃうよぉぉ……!!)

 

(今だ! 空中で背に全魔力を注ぎ込めぇぇぇっ!!)

 

(うあぁぁぁぁぁっ!! 出ろぉぉぉぉぉっ!!)

 

 

半狂乱になりながら、ラクリマの怒号に合わせて背中にすべての意識を叩きつけた。

 

 

――バサァッ!!

 

次の瞬間、背中の皮膚を突き破るような強烈な衝撃とともに、漆黒の巨大な翼がバサリと背中から生え出た。重厚で、禍々しく、闇そのものを形にしたような巨大な竜の翼。

 

 

(な……え……っ!?)

 

(羽たたけ! 風を起こせ!)

 

 

突如現れた翼の重量感に引っ張られ、空中での体勢はぐちゃぐちゃだ。バタバタと無様に翼を振るうが、揚力を得るどころか錐揉み回転して地上へ落下していく。

 

 

(上がらない! 上がれないよ!? 落ちる落ちる!!)

 

 

ドカンッ!

 

 

地上から追い討ちのように放たれたキマイラのブレスが、落下する俺の右翼と脚をかすめた。

 

 

「がぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

かすれきった悲鳴を上げながら、必死の思いで黒翼を打ち振るう。一風ごとに猛烈な闇の風圧が巻き起こり、身体が強引に上昇を始めた。

 

しかし、一気には上がれない。姿勢制御すらままならず、キマイラが跳躍して振り下ろす爪を間一髪で掠らせながら回避し、追撃の火球を至近距離で被弾して黒煙を上げ、全身丸焦げになりながら、泥臭く、必死に、何十回も撃ち落とされる恐怖に怯えながら空中へ這い登っていく。

 

 

「はぁ……はぁ……っ……!」

 

 

血と涙で視界が滲む中、満身創痍でようやくキマイラの攻撃が届かない上空へと逃れて出た。

背中で力強く揺らめく、漆黒の巨大な翼。身体の奥底から伝わってくる、荒々しくも絶対的な力。

 

 

(これが……この世界のドラゴンの力……?)

 

 

己の背に生えた異形の翼と、体内で波打つ圧倒的な暴力の気配に、恐怖で全身の鳥肌が立った。

 

だが、浸る時間はない。

地上で片翼を広げたキマイラが、獲物を逃すかと執念の形相で跳びかかってくるのが見えた。

 

 

(今だ小僧! 我の力を引き出せ! 上から叩き落とせ!)

 

(絶対生き残る……! お前の言う通りにしてやるよぉぉっ!!)

 

 

死にたくない一心で、言われるがまま身体の奥底へと意識を沈める。

その瞬間――ドクン、と心臓が跳ね上がった。

 

体内から、あり得ないほどのエネルギーが爆発的に湧き出してきた。

血管を駆け巡る魔力は、冷たく、重く、そして圧倒的。身体全体であり得ないほど重たい力を纏っているという、恐ろしいまでの全能感。自分という存在の境界線が溶け出し、まるで『俺が俺じゃない』ような、異質な怪物に塗り替えられていく感覚に全身が震えた。

 

 

「う……あぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

俺の頭上に形成されたのは、漆黒の雷光をバチバチと激しく撒き散らす、巨大な闇の火球。

跳び上がってきたキマイラに向かい、俺はその暗黒の雷火球を全力で振り下ろした。

 

 

ドゴォォォォォォンッ!!

 

 

放出した瞬間の凄まじい風圧が空間を切り裂き、俺の身体ごと吹き飛ばしそうになる。

直後、闇の雷火球とキマイラが空中正面から激突した。

 

 

「ギャオォォォォォンッ!?」

 

 

キマイラが耳を劈くような悲鳴を上げる。

圧倒的な威力のエネルギーがキマイラの全身を押し潰し、灼熱の皮膚を焼き裂いていく。キマイラは爪を立て、必死の形相でその超絶な魔圧に耐えようと空中でもがき狂っていた。

 

だが――耐えられたのは、ほんの数秒だった。

 

 

「ル、アッ……!?」

 

 

キマイラの抵抗を容易く叩き潰し、爆発的な闇の魔圧が怪物の巨体を丸ごと押し流す。

 

 

ズドォォォォォォォンッ!!!!

 

 

地線が激しく揺れ動いた。

キマイラはそのまま一直線に地上へと叩きつけられ、地面を深く深く陥没させていく。大地の悲鳴のような重低音が響き渡り、大量の土砂と衝撃波が嵐のように吹き荒れた。

 

……静寂が訪れる。

 

煙がゆっくりと晴れていく。見下ろした谷の底には、巨大なクレーターがぽっかりと口を開けていた。その中心で、キマイラは白目を剥き、二度と動かない肉塊となって埋まっている。

 

 

(……は……?)

 

 

空中でふらつきながら、俺は自分のボロボロの手を見つめた。

 

 

(これ……俺が、やったのか……?)

 

 

自分の放った惨状の恐ろしさに戦慄した瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れた。全身の骨折と激痛、そして魔力の急激な枯渇が押し寄せる。

 

空中で平衡感覚を失い、俺の意識は真っ暗な闇へと落ちていった。

 

 

原作より活躍増やして欲しいヒロインは?

  • エルザ
  • ミラジェーン
  • カグラ
  • ルーシィ
  • ユキノ
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