美女と付き合いたいから強くなる 作:マンダ
動き出す物語
ギルドの前に立ち、木製の重厚な大門を見上げる。
ここが……『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』。
俺の家であり、これから数々の試練と激闘に晒されることになる魔境だ。
「随分と緊張しているようだな」
隣に立つエルザが、俺の雰囲気を察して声をかけてくる。
「国内最高クラスのギルドですから。緊張もしますよ」
「そうか? そう言われると、なんだか誇らしいな」
エルザは嬉しそうに胸を張り、豪快にギルドの大扉を押し開けた。
――ドサァッ! ギシィッ!
扉を開けた瞬間、ギルド内に響き渡る大喧嘩の音と怒号。だが、エルザが踏み込んだ瞬間にその場の空気が凍りついた。
「ただいま戻った! ……そしてナツ! グレイ! カナ! ロキ! そこへ正座しろ!!」
帰還早々、エルザの雷が落ちる。
街での物的破壊行為を咎められるナツ、下着泥棒の疑いをかけられるグレイ、酒の盗難で怒られるカナ、街のアイドルに手を注ぎ込んだロキ……名だたる問題児たちが、一列に並んで正座させられ冷や汗を流していた。
(原作通りのカオスっぷりだな……)
苦笑いしながらその光景を見つめていると、ギルドの端で静かに酒を飲んでいた大柄の銀髪の青年――エルフマンが、俺の姿を視界に捉えた瞬間に固まった。杯を握ったまま、信じられないものを見たかのように目を剥き、絶句している。
「そうだ、待たせたな。今日はマスターに新人を紹介……」
正座組への説教を一旦切り上げ、エルザが俺の肩に手を置いて皆へ紹介しようとした、その時だった。
「……いらっしゃい。ご注文は――」
カウンターの奥から、トレイを手にした一人の少女が歩み出てくる。
銀色の美しい髪。かつてのみつ編みではなく、前髪を上に少し結い上げた柔らかいヘアスタイル。エプロンを身に纏い、完全に「ギルドの看板娘」として穏やかな微笑みを浮かべていた彼女の動きが、ぴたりと止まった。
トレイが細かく震え、彼女の藍色の瞳が俺の顔をじっと射抜く。
かつて戦場で魅せたあの狂暴な「魔人」の面影はどこにもない。しかし、その瞳の奥には、忘れるはずもない記憶が鮮明に揺れていた。
「……グレモリー……?」
絞り出すような小さな声。
悲しみを背負い、優しさを身に纏ったミラジェーン・ストラウス。対してこちらはあれから更に2年間修行した俺。
緩やかだった時が、ついに再び動き出した。
「グレモリー……なの……?」
トレイを抱えたまま、ミラは信じられないものを見るような目で見つめてくる。その声は微かに震えていた。
「……久しぶり、ミラジェーン」
俺が努めて静かに微笑みかけると、離れた場所からそのやり取りを見ていたエルフマンが、目を見開いたまま駆け寄ってきた。
「ぐ、グレモリー……!」
「よ……弟君。元気にしてたか?」
あえて名前を知らないフリをして声をかけると、様子のおかしな三人を見比べながら、エルザが不思議そうに首をかしげた。
「なんだ、お前たち知り合いだったのか?」
「……エルザ、ごめんなさい。この子、少し借りてもいい?」
「 ミラ?」
「少しだけ、お願い……」
そう言うと、ミラはトレイをカウンターに置き、俺の袖を引いてギルドの外へと連れ出した。状況が飲み込めていないエルフマンも、無言でその後ろをついてくる。
マグノリアの街並みから少し離れた、陽の光が届く静かな木の陰。周りに誰もいなくなったところで、ミラはくるりと振り返り、俺の手を両手でそっと包み込んだ。
「……っ!」
思わず胸が跳ねる。すべすべとした温かく柔らかい感触。だが、その華奢な手のひらには、この数年間で彼女が積み重ねてきた苦労と痛みの名残が、微かな温もりと共に確かに伝わってきた。
二年前(15歳の時点)ですでに175cmあった俺の背丈は、17歳となった今、183cmほどにまで伸びていた。もともと見下ろす形だった彼女との身長差はさらに開き、上目遣いで俺を見つめてくるミラの瞳には、かつての刺々しい狂暴さは欠片もない。ただ溢れんばかりの寂しさと、深い愛おしさが揺れていた。
「グレモリー……ほんとうに、久しぶり……」
「久しぶりです。……俺がいない間に、色々と苦労したみたいですね」
「……っ!? 分かるの……?」
ハッとして息をのむミラ。俺は静かに首を振った。
「なんとなく、です。だけど……いいえ、多くは聞きません。よくここまで頑張りましたね。二人とも……本当に、辛かったでしょう」
妹のリサーナを失い、魔人としての牙を折り、自分を責め続けながら看板娘として笑うことを選んだミラの1年間。
すべては原作知識として知っていることだ。だが、それを口にするわけには絶対にいかない。
けれど、目の前で嘘みたいに雰囲気を変えてしまった彼女の姿を見れば、その胸を裂くような絶望と心理的負担の重さは、知識などなくても痛いほどに伝わってきた。
「っ……、グレモリー……っ!」
言葉を詰まらせるミラの瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ出す。
俺の手を握りしめる彼女の力が、すがりつくようにぎゅっと強くなった。
「そうか、そんなことがあったんですね……」
静寂に包まれた街外れで、俺は二人から「リサーナの死」についての話を聞いていた。ミラは痛みを隠すようにただの悲痛な「事故」だと語っていた。
が、隣に立つエルフマンは拳を強く握りしめ、肩を大きく震わせていた。
「違う……っ! 事故なんかじゃないんだ……! 俺が……俺がリサーナをこの手でやっちまったんだよ……っ! 俺さえ……俺さえいなければ……!」
「エルフマン!」
悲鳴のようなミラの制止も、今の彼には届かない。
「せめてあの時……ナツを連れて行けば……っ! 俺が変なプライドなんかにこだわらなきゃ……リサーナは……っ!」
溢れ出す涙を拭おうともせず、自分を苛み続けるエルフマン。
そんな彼の姿を、俺はしばらく無言で見つめていた。
原作の知識として知っていた結末。だが、目の前で魂を削るように苦しんでいる彼を見て、ただの傍観者でいるなんて選択肢は、俺には存在しなかった。
「……エルフマン。ミラ、彼を少しお借りします」
俺はそう言うと、エルフマンをミラから少し離れた場所へと連れ出した。
「グレモリー……俺は、俺はもう……どうすればいいのか分からねえんだ……っ」
耐えきれずに膝をつきそうになる大きな肩に、俺はそっと手を乗せた。
「エルフマン。お前が自分を責め続ける限り、俺がどんな言葉をかけてもお前は救われない。その上で言うぞ」
乗せた手にぎゅっと力を込め、俺は低く問いかけた。
「お前……このままでいいのか?」
「……え?」
「妹を失い……俺の予想だが、今の状態じゃせいぜい腕一本分程度の部分テイクオーバーしか使えなくなってるだろ。このまま己の力を恐れ、制御もできず、何もできずに終わるつもりか?」
「俺に……俺になんか、もう何もできるわけねえだろ!!」
エルフマンが悲痛な叫びを上げ、声を荒らげた。
俺は膝を折り、彼の目線にまっすぐ自分の目を合わせる。
「駄目だ。お前はまだ終わってない。終わっていいはずがないんだ。お前自身の心にある叫びを無視するな」
力強く彼の手を握りしめる。
「誰にここまで大きくしてもらった? 誰にここまで強くしてもらったんだ? ギルドの仲間や、逝ってしまった妹もそうだろう。……だが、お前は一番大事な存在を忘れていないか?」
俺は目線を外し、少し離れた場所で不安そうに見守るミラの方を向いた。エルフマンも引き寄せられるようにそちらを見る。
「お前をずっと支えてくれた姉だ。お前をここまで成長させてくれたのは誰だ?」
エルフマンの瞳が大きく揺れる。
「またいつか、仲間や、一番大事な姉が危険に晒されるかもしれない。そんな時、お前はまた無理をして、使いこなせない力を使って暴走するのか? そんなのは何の意味もないだろ」
「じゃあ……じゃあどうすればいいんだよッ!!」
怒りと悔しさに震えるエルフマンの拳に、俺は静かに自分の手を重ねた。
「テイクオーバーを完成させろ……。お前の特訓は、全部俺が見てやる。俺がいる限り、お前がどれだけ暴走しようが必ず止めてやる」
「っ……!」
「姉や仲間を護るために、お前は進み続けるしかないんだ。ここで腐って終わりでいいのか? 違うだろ。お前の魂は勝ちたがっている。『もう誰も失いたくない』っていうその本音を、絶対に無視するな」
言葉に魂を込めて、俺は彼を見据えた。
「それが、今のお前にできる唯一のことだ。安心しろ……お前の全力を、俺が全部受け止めてやる」
「グレモリー……! うわあああああッ!!」
精神のタガが弾け飛んだエルフマンが、咆哮とともに俺の顔面へ向けて拳を振るった。
ドカッ! ドカッ!!
何度も、何度も、なけなしの感情をぶつけるように繰り出される拳。
異変に気づいたミラが青ざめた顔で止めに入ろうとしたが、俺は片手を軽く挙げて首を横に振り、それを制した。
四年の修行を経てハデス級の悪魔や巨竜すら打ち倒した俺の肉体は、彼の素手での打撃を受けても微動だにしない。ただ、彼が己の絶望と罪悪感を吐き出すための標的として、その全てを無言で受け止めた。
やがて――拳の勢いが落ち、力尽きたエルフマンの巨体がゆっくりと前へ傾く。
「……よく言った」
倒れ込む彼の体を、俺はしっかりと両腕で受け止めた。
原作より活躍増やして欲しいヒロインは?
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エルザ
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ミラジェーン
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カグラ
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ルーシィ
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ユキノ