美女と付き合いたいから強くなる 作:マンダ
エルフマンの身体を闇の再生魔法で癒やした後、俺たちはギルド内へと戻った。
マスター・マカロフのもとへ出向き挨拶した後に、皆に自己紹介した。「グレモリーです。闇属性の魔法を使います。こんな自分ですがよろしくお願いします」とだけ手短に自己紹介を済ませる。手の内を明かす気も、無用な目立ち方をする気もなかったのだが――
「お前強いだろ! 俺と勝負しろぉっ!」
案の定、俺の纏う雰囲気を察知したナツが威勢よく噛みついてきた。
「遠慮しておきます」
あっさり断った俺だったが、「まあそう言わんか。新人の顔見せじゃ」とマカロフが面白がってやんわりと場を誘導し、逃げ場をなくされて強制的に勝負させられる羽目に。
……面倒だが、適当にあしらうか
勝負が始まると、俺は魔法を一切使わず、最小限の体さばきだけでナツの猛攻を回避し続けた。時折、軽い拳や蹴り足を合わせて吹き飛ばし、勝負をわざと盛り上げて引き延ばす。
周りの連中の目には『魔法は大して使えないが、純粋な体術と身体能力が異様に高い奴』と映っているはずだ。ナツ相手に魔法なしで互角を演じる程度に抑え、十分な時間を稼いだ。
「まだまだぁっ!」
存分に暴れて息を荒らげたナツが、最後の決め手と言わんばかりに一直線に飛び込んでくる。
その勢いをそのまま利用し、すれ違いざまに腕を引っかけると、体さばき一つでギルド裏の湖へ向けて豪快に投げ飛ばした。
ドシャァァン……ッ!!
派手な水柱が立ち上がり、水面に顔を出したナツが濡れた髪をかき上げる。
「ハッハ! お前、マジで強えな!」
全身ずぶ濡れになりながらも、その瞳には満足げな色が浮かんでいる。俺も息ひとつ乱さず立ち尽くしたままだ。
互いに倒れることなく立ち続けているその光景に、マカロフが「そこまで!」と手を挙げたことで、勝負はそのまま引き分けという形で幕を閉じた。
……まあ、これくらいで十分だろ
魔法を一切使わず、純粋な体術だけでナツの猛攻を受け切り、対等以上に渡り合ったのだ。新人としての実力を示すにはこれ以上ない内容であり、観戦していたマカロフも満足そうに髭を撫でながら頷いていた。
「ほう……見事な身のこなしじゃ。これなら文句はあるまい」
マカロフからの評価も上々。無用な底を見せることなく、ギルドの一員として自然な形でその存在感を刻みつけることができたのだった。
適当にギルドの依頼を数件消化し、生活基盤を整えた俺が取り組んだのは、エルフマンとの秘密の特訓だった。
最初は己の内に眠る破壊衝動に怯え、迷いを隠せなかったエルフマンだったが、あの日を境に彼の目からは甘えが消えていた。どれほど過酷なメニューを課しても、弱音を吐かずに喰らいついてくる。
だが、そんな俺たちの無茶な特訓がミラに隠し通せるはずもなかった。
「……エルフマン、グレモリー。二人で何をしているの?」
森の奥で傷だらけの二人を見つけ、青ざめた顔で駆け寄ってくるミラ。俺たちが危険な橋を渡ろうとしているのを察し、必死に止めようと心配の声を上げてくる。
「……姉ちゃん、すまねえ。姉ちゃんがこんな暴虐な魔法、もう見たくもないのは分かってる。けど……俺は強くなりてえんだ! このまま力に怯えて仲間に守られるだけの情けない弟でいられねえんだよッ!」
頭を下げ、声を絞り出すエルフマンの覚悟は本物だった。ミラの制止を受け止めつつも、彼の意思は日を追うごとに固く、鋭くなっていく。
「グルァァァァアアッ!!」
今日もまた、暗い森の中に地響きのような咆哮が轟く。
己の魔力を制御しきれず、理性を失って獣の如く暴走するエルフマン。刺々しい皮膚と巨躯に変貌した彼の巨大な拳が、容赦なく俺へ振り下ろされる。
「――来いッ、エルフマン!」
俺は魔法を展開することすら拒み、ただ純粋な己の怪力と肉体だけでその巨躯を受け止めた。
ドカァァンッ!!と爆風が吹き荒れ、足元の大地が深く抉れる。
暴走する彼の腕を力任せにねじ伏せ、身を挺してその破壊衝動を力で押さえつけ、押さえ込む。
「絶対に俺が止めてやる……だから逃げるな! その力を自分のものにしてみせろ!」
激しい衝撃と土煙の中、俺たちは己の限界に挑み続けていた。
「はぁ……っ、はぁ……っ……!」
夜の帳が降りたギルド裏の深い森に、荒い息遣いだけが虚しく響き渡る。
俺の目の前に立ちはだかるのは、かつて俺自身が倒し、俺自身の魔法によって蘇生・召喚したゼレフ書の悪魔たちだ。スタンダードな悪魔体型をした巨大で強大な異形たち――爆炎を全身に纏う者や、巨大な爪を持つ怪物たちが、俺を取り囲むように迫ってくる。
俺の特訓と実戦勘を鈍らせないための、命がけの単独演習。
「ハッ……!」
一斉に襲いかかってくる敵の凄まじい攻撃を、ギリギリの体さばきで回避する。直後、悪魔の拳が叩きつけられた地面が大破して豪快に穿たれ、俺は弾かれるように空中へ逃れた。
だが、空からも二対の禍々しい翼を生やした悪魔が急降下して迫る。俺は空中で体勢を入れ替えると、鋭い蹴りをその頭部に叩き落とした。
ゴォンッ!
墜落した巨翼魔の巨体が地上で待ち構えていた他の悪魔たちを巻き込み、激しい衝撃音が響く。
「落ちろッ!」
そのまま手をかざし、紫黒の闇の電撃波を放出。バリバリと空間を裂く雷光が悪魔たちの群れを撃ち抜き、次々と吹き飛ばしていく。
着地と同時に、俺は全身の魔力を限界まで練り上げ、一気に解き放った。
「――『闇の絶対零度(ダーク・アブソリュートゼロ)』ッ!!」
空間そのものが凍りつく絶望的な冷気が森を包み込む。
溢れ出た紫色の氷塊が一瞬で浸蝕し、群がる悪魔たちを丸ごと凍りつかせていった。
「……解除」
低く呟き、氷を解く。
この魔法の真価は単なる凍結ではない。闇属性以外のあらゆる魔力・呪力源を強制的に分解・消滅させる、圧倒的なメタ魔法。
パリンッ……と美しい音を立てて氷の粒子が舞い散ると同時に、蘇生された悪魔たちの呪力源は完全に破壊され、魔力の残滓すら残さずに次々と倒れて消滅していった。
「はぁ……はぁ……っ!」
激しい魔力の消費に耐えかね、俺はその場にガクリと膝をついた。ごっそりと魔力を削り取られ、荒い息が止まらない。
――ガサリ。
その時、静まり返った夜の森に、背後から草を踏みしめる音が響いた。
ハッとして振り向くと、そこには月光に照らされた綺麗な銀髪を揺らし、心配そうに俺を見つめるミラの姿があった。
「修行……してたの?」
静かに歩み寄ってきたミラが、どこか呆れたような、けれど心配そうな眼差しで問いかけてくる。
「はい。俺自身も、常に強くありたいですから」
荒い息を整えながら答えると、ミラは破壊し尽くされた周囲の惨状を見回し、ぽつりと呟いた。
「……やり過ぎよ」
「こうでもしないと、気が弛んでしまいますから。あ、ギルドの皆には内緒にしてくださいね」
「……強いのね、グレモリーは」
「そう見えますか?」
「ええ……すごく」
「憧れの先輩にそう言われると、自信がつきますね」
「そう……」
静かな夜の森に、二人の声が低く溶けていく。俺は膝をついたまま、月光に照らされる彼女の美しい側顔を見つめ、思ったままの言葉を口にした。
「俺にとって、ミラ先輩とギルドで会うことが生きがいのひとつになってるんです。……もし先輩がいなかったら、俺がフェアリーテイルに入っていたかどうかも分かりません」
俺の言葉を聞いたミラは一瞬息を呑み、そのまま無言になった。
そして静かに俺の隣へと歩み寄ると、スカートの裾を揺らしてその場に小さくしゃがみ込む。
彼女は俯いたまま、膝の上でぎゅっと両手を握りしめていた。
「……エルフマンの特訓は、上手くいってるの?」
「はい。あと少しです。じきに彼は立ち直り、力を取り戻して復活しますよ」
「……」
俺の確信に満ちた言葉に、ミラは再び沈黙した。ポツリポツリと溢れ出る言葉は、ずっと彼女の胸の奥底に澱んでいた迷いそのものだった。
「私は……どうするべきなのかしら。エルフマンも、貴方も、みんな前を向いて強くなっているのに……私だけ、前に進めないなんて……」
「……先輩」
「ううん、分かってるの。本当は私も強くなって、みんなを守るべきなのに……どうしても、決意が湧かないの。私は……自分がどうすればいいのか、もう分からないの……」
途方に暮れたように声を震わせるミラ。
妹を失ったトラウマと、戦うことへの恐怖。看板娘として笑いながらも、置き去りにされたような孤独と葛藤に苛まれていた彼女の心が、ついに限界を迎えていた。
俺が彼女の人生や未来を勝手に決めることなんてできない。
だからこそ、俺にできるのは――隠すことのない本当の想いを伝えることだけだった。
俺はそっと手を伸ばし、膝の上で震えるミラの手に、自分の手を静かに重ねた。
相変わらず柔らかく、けれど少し冷たくなった彼女の手。
「先輩……俺は、強かった頃の先輩が好きだったわけじゃないです」
「……え?」
「俺の闇魔法を怖いって切り捨てず、受け入れてくれた……あの温かくて優しい先輩だから、俺はついていきたいと思ったんです。だから……戦うのをやめたっていい。弱くなったっていいんです。先輩がどんな道を選んだとしても、俺は絶対に先輩の隣を離れません」
力強く、けれどどこまでも優しく包み込むように言葉を紡ぐ。
「俺の『一番』は、他の誰でもなく……ミラ先輩なんですから」
「グレモリー……」
瞳を揺らし、呆然と俺を見つめ返すミラ。その瞳に、月光を反射した涙がうっすらと浮かぶ。
「先輩が魔道士としての復帰を望むなら、俺は全力で応援します。もちろん、このまま看板娘として居続けてくれたって構わない。でも……先輩は心のどこかで、本当はまた戦いたいって思ってる気がするんです。だから、どうか自分の気持ちに嘘をつかないでください。俺はいつでも待ってますから」
重ねた手に少しだけ力を込め、俺は優しく微笑みかけた。
「エルフマンの特訓は、あと少しで終わります。彼は必ず成功します……俺が絶対に成功させます。そうすれば、俺はまたフリーになりますから」
いつでも俺を頼っていい――そう告げる俺の言葉に、ミラは溢れ出そうになる涙を堪えるように、ぎゅっと俺の手を握り返してきたのだった。
原作より活躍増やして欲しいヒロインは?
-
エルザ
-
ミラジェーン
-
カグラ
-
ルーシィ
-
ユキノ