どうやら凌辱系エロゲの世界に転生したようですが、俺は今日も平和に生きたい。~なのでBADエンド回避のために殺します。理由はもちろんお分かりですね?~ 作:誰でも愉快なハメハメハ
「くっ……! この、放しなさいよ……!! 指一本でも私に触れてみなさい!? 手首ごとねじ切ってやるんだからっ……!!」
東京の中心に聳え立つ高層ビル。
その最上階の部屋に、一人怒りを滲ませた声を張り上げる少女の姿があった。
いや、部屋というよりも壁に、と言った方が正しいだろう。
現に少女は、今まさに両手足を機械のアームで拘束され、
なんとか拘束から逃れようともがくも、少女の特徴的な桃色の髪、そして十六歳とはとても思えないほど豊かな双丘が揺れるばかりで効果はなく……それどころか動くほど彼女の肌を汗が濡らし、その歳にに見合わない身体の艶を際立たせた。
そんな少女の前には、豚のように肥え太った男が一人。
少女の様子に下卑た笑みを浮かべていた。
「おおー、怖い怖い……さすが、
デフフフ、と男が笑って肩を揺らせば、一緒に頬の肉もブウンブルンと揺れる。
男の言う
古よりこの世界に存在する、人を襲う異形。文献によれば、奴らは突如別世界からこちらの世界へと渡り、そのまま居ついたモノたちだという。
人よりも力が強く、そして超常の力を使う上位種を前に、人々はただ殺され、あるいは苗床とされた。
そんな折、淫魔たちに対抗できる力を持った者が現れる。
それが姫巫女と呼ばれる者たち。
巫女力という女性にしか宿らない未知の力により、こちらも超常の力を身に付けた淫魔討伐のスペシャリスト。
以降、淫魔と姫巫女の闘争は現代にいたるまで続いているのだ。
そして、そんな超常の力を持つ存在が……今、成すすべもない状態で男の前にいるのだ。
淫魔でもない、力ある姫巫女でもない、ただの男の一般人。
何もかも、思い通り。
男はさらに笑みを深めた。
「しかし、さすがは姫巫女……それもあの神剣の娘なんだな。デフフ、高い金を払って淫魔どもに取り入った甲斐があったというもの。この体を、今からワシの思い通りにできるんだな……!」
「くぅ……!! 淫魔に魂を売った人間の裏切者!! 恥ずかしくない――ひゃんっ!?」
「デフフフフ……!! 威勢の割に、かわいらしい声を出して……ますますこの後が楽しみなんだなぁ!」
少女の脇腹に指を這わせた男は、そのまま柔らかい肌をなぞって少女の胸を鷲掴んだ。
悔しさで目に涙を滲ませる少女は、その弱さを気取られないようにと男を睨みつける。
だがそれも逆効果。この後、この勇ましい少女をベッドで屈服させることを想像し、胸も股間も大きく膨らませた。
何をされるか、想像に容易い。
本来姫巫女は淫魔を討伐する者たちであるが、それでも絶対にそうとは限らず、逆に姫巫女が淫魔にやられてしまうケースもある。
その場合、待っているのはのは死……ではなく、もっと恐ろしい結末。それすなわち、淫魔たちの苗床へとされることだ。
凌辱に次ぐ凌辱。その末に、姫巫女はただ淫魔を孕み生み落とす肉人形へとなり下がる。
姫巫女として戦う以上、そんな結末を辿る気はさらさらないが……少女もまた、覚悟は決めていた。
だがしかし、こんな結末を……それも、守るべきである人間の裏切りで終わるなんて考えもしなかった。
「このっ……! 今に見てなさい!! この拘束解いたら、すぐぶちのめしてやるんだからっ……!! 法の裁きを受けさせる前に、私がボコボコにしてやるぅ……!!」
機械による拘束は強力で、足掻けど逃れられないことは少女自身もよくわかっている。
だがそれが諦める理由にはならない。何か策はないかと思考を巡らせながら、己の膂力で機械の破壊を試みる。
だがしかし、彼女を拘束する機械は特殊な力によって姫巫女の力の源である巫女力を抑制する拘束具。
今の彼女は、そこらの女子高生と何ら変わりない力しか持たないのだ。
故に、彼女は逃げられない。
目の前の、醜悪な豚のような男のおもちゃにされる未来しか残されていなかった。
「デフフフフッ!! 愉快なんだな! そんなに揺らしたら、誘っているようにしか見えないんだな! なに、そう焦らずともすぐ淫魔どもから買った媚薬でお前もワシ好みに調教をするんだな! 契約じゃ苗床用に引き渡すけど……存分に楽しんでからでいい――」
「そうか、なら俺の平和のために死ね」
それも、本来であればの話である。
「――んだな?」
「え?」
「【
突然男の背後に現れた第三者。
全身を黒いローブで包み、顔は深く被ったフードでわからない。
かろうじて、声から男だと判別はできるもの……少女が、姫巫女である
アンリの目の前で、男の首が落ちた。
切り落とされたわけではなく、ただ元からそうだったように、まるでそれが当たり前だったかのように突然落ちたのだ。
一拍遅れて、男の体が思い出したかのように血を吹き出す。
「たく……なんで淫魔に手を貸すんだか。意味わかんねーし、こっちが迷惑なんだよ」
やれやれとため息を吐き肩を落とす第三者。
いきなりの状況変化に頭が追い付かないアンリは、ただその様子に目を白黒させるしかなかった。
「上級国民様ってのは、下々の事なんざゴミと同じとか考えてんのかねぇ……姫巫女のあんたもそうは思わねぇか?」
「え……? え、えっと……」
任務で淫魔討伐に来たはずが、それは依頼元であった企業の偉い奴が己を捕えるために仕組んだ罠で。
自分はその罠に嵌められ、もうダメと思った矢先、突然この場に現れた男によって助けられた。
簡潔に自身の状況を整理できたのは、その助けに入った第三者に声をかけられた時だった。
最初は自分に話しかけられていると気づかなかったアンリは、曖昧にその問いかけに首を傾げる。
「……まあいいや。にしても、ほんっとにこの世界って怖いわ。よりにもよって、何で凌辱エロゲなんだか……パッケージくらいしか知らねぇっつーの」
「……?」
続けざまに零れ出る独り言。
アンリには良く聞こえなかったが、その男はブツブツと何かに文句を言いながらアンリの下へと歩み寄ってきた。
そして、今度は「別て」という言葉が聞き取れた。
直後、彼女を拘束していた機会がバラバラに崩れ落ちる。
「これは……」
「うし、救助完了。これに懲りたら、もうちっと気を付けてくれよ? 淫魔退治なんて危険な仕事、あんたら姫巫女にしか出来ねぇんだ。頼むぜぇ?」
一言呟いた。
たったそれだけで起きた超常とも言うべき現象を前に、アンリは思わず絶句する。
力そのものに驚いたわけではない。
明らかに男だと思われる人物がその力を用いたことに驚いたのだ。
(じゃあ淫魔……いや、なら私を助ける意味もないし、何より淫魔特有の気配がないわね。てことは、本当に人間の男なの……?)
拘束されていた手首を擦りながら、注意深くフードの奥を注視する。
だが月明かりを背後にしているためか、影になって口元すらも見ることは叶わない。
「それじゃ、俺はこれで。拘束も解いたし、もう一人で帰れるだろ?」
「ま、待って……!」
ではでは、とその場を立ち去ろうと踵を返す男に、アンリは咄嗟に叫ぶ。
その声に立ち止まった男の背に向けて、彼女は問いを投げかけた。
「ありがとう。助けてくれたこと、本当に感謝してるわ。けど、だからと言ってあなたに聞かなくちゃいけないことがたくさんあるわ」
チラとアンリが視線を落とせば、そこには首から上のない死体が横たわっていた。
淫魔に与していたとはいえ、これは人だ。
そして人であるのならば、法の下で正当な裁きを受けさせる必要があった。
「申し訳ないのだけれど、姫巫女としてあなたのことは無視できないの。一緒に本部まで来てくれないかしら? 悪いようにはしないと約束するわ」
「断る。誰が行くかよ」
即答したその言葉には、先ほどまでとは違って強い意志が込められていた。
「あ、いや勘違いしないでくれよ? 別にあんたら姫巫女が嫌いなわけじゃない。むしろ国のために淫魔と戦ってくれてる分感謝しかねぇんだ」
「だ、だったら……」
「だが姫巫女はともかく、俺は上の奴らってのを信じちゃいねぇんだ。だから断る」
話は以上だ、と告げた男は再び歩を進める。
これ以上は無理だろう、とさすがのアンリも察せられた。一瞬力づくで、という選択肢も思い浮かんだが……怪しくとも彼は恩人であるため、ぐっとその気持ちを抑え込む。
「わかったわ……ならもし気が変わったら、いつでも本部へ……対淫魔機関へ来てちょうだい! 私、
「おーおー。わかったわか……待て、今なんて言った?」
ピタリ、と男が足を止め、まるで油の切れた機械のようなぎこちなさで振り返った。
それどころか、先ほどまでとは打って変わり、動揺していることが見て取れるほど声が震えている。
「え、何って……対淫魔機関へ――」
「そこじゃねぇ……! あんたの! 名前だ……!」
「み、神剣アンリ、だけど……」
「……パッケージタイトルにあった名前じゃねぇか!?」
よくわからないことを叫びながら頭を抱える男。
その突然の奇行に、アンリは「え、え……?」と驚きが隠せない。
たしかに淫魔の間でも、関係者の間でも
だがこのような意味の分からない驚かれ方をしたのは、彼女にとって初めての経験だった。
「てことはここ、凌辱系のエロゲ世界かよぉ……!? どうりでおかしな世界観と倫理観なわけだよこんちくしょう……! それで今度は主人公と接触しちまったわけか!? 嘘だろ、何で主人公様がこんなところで捕まって……いや凌辱ゲーだからありえなくはないってか……!」
「えっと……」
「もうダメだお終いだぁ……他はともかく主人公なんかと関わり持ったら、俺自身の平和が脅かされるに決まっている……だって凌辱ゲーの主人公様だぞ……!? きっとフラグ塗れに違いねぇ……」
「あの……大丈夫かしら?」
あと勝手に人の名前を聞いて絶望しているのは、あまりにも失礼だろう。
こめかみに青筋を立てながら、とりあえず男を心配するように声をかけるアンリ。
しかしそんな彼女の気遣いに対して、男は一度アンリに視線を向けると、大きな大きなため息を吐いた。
なんだこいつは、と拳を握りしめる。
「よくわからないけど、気が変わったのなら一緒に――」
「あ、それはないから。んじゃ、願わくばもう会わないことを祈る。ほんっとに気をつけろよ? この国の未来はお前にかかってるも同然だからな!? 【跳べ】」
それじゃ、とアンリが話し終えるよりも先に言葉をまくしたてた男は、そう言って姿を消してしまった。
「な……なにがどうなってるのよ! もう……!」
一瞬で静けさを取り戻した高層ビルの最上階。
残されたのはアンリと、既に事切れた男の醜い死体だけ。
そしてその日をもって、これまで幾人もの姫巫女を救助していたであろう男を、対淫魔機関は【