どうやら凌辱系エロゲの世界に転生したようですが、俺は今日も平和に生きたい。~なのでBADエンド回避のために殺します。理由はもちろんお分かりですね?~ 作:岳鳥翁
「~♪~~♬」
「……なんか、やけに楽しそうだな?」
「ええ~? そりゃホクトくんがウチに来てるんだもん。張り切って作らなきゃ、胃は掴めないでしょ?」
「こ、こいつ、衣食住の二つを掌握しようとしてやがる……!!」
恐ろしい奴だ、と一人で勝手に恐れ慄くホクト。
そしてそんな彼の『衣』まで、どうやったらコンプリート出来るかにゃ~とわざと聞こえるように呟きながら、來伊サキは手元の鍋をおたまでくるくると回していた。
住む場所を失ったホクトに対してサキは彼を自宅へ招き、「一緒に住んじゃいなよ!」とラブコール。
しかしながら、「付き合ってもいない相手と同棲なんてできるか!」とホクトはこの提案を拒否。最終的にはサキの伝手へ連絡を取り、無事隣の部屋に住むことになったのだった。
ドア・イン・ザ・フェイス成功にガッツポーズのサキである。
(さぁて、ホクトくんのことバレないようにしないと。バレたらどうなるか、私にもわかったもんじゃないしぃ? なのでぇ~これは理由のある独占ってことでっ♡)
あからさまに上機嫌なサキに、「なんか変なこと考えてるんじゃないだろうな……」と警戒を強めるホクト。
だがそれも仕方のないことだろう。
なにせ今サキが住んでいる集合住宅は、小さな不動産会社が管理していることになっている。
がしかし、これはあくまでも表向き。
その実態は野良となった姫巫女、あるいは隠れ里出身の元々野良だった姫巫女が集まった組織でもある。
どうやって会社として登録したか?
そんなもの、姫巫女ならそういう異能でちょちょいのちょいである。さすがガバガバ世界の杜撰な役所だな!? とホクトが知れば嘆いていただろう。
そして野良の姫巫女が多いということはつまるところ。
その中には、魔法使いとして活動していたホクトによって助けられた姫巫女も多かい。
およそ二年で百人以上。それがホクトが救った姫巫女の数だ。
そしてその助けられた姫巫女のその後は、そのまま組織所属の姫巫女として活動する者と、組織や国たる政府を信じられず野良へと下る姫巫女のおおよそ二つのパターンに分けられる。
その両者の違いも明白だ。
穢される前に助けられたか、穢された嬲られ、散々尊厳を凌辱された後で助けられたか。
言わずもがな、野良になるのは後者の者たちである。
それと同時に、助けてくれた魔法使い……ホクトに対して、彼が考えている以上の感謝と好意を彼女たちが持つのも当然のことであった。
サキも、そんな姫巫女の一人。
(きっと何でもないこと、みたいに思ってるんだろうなぁ~。まあ? ご主人様……ホクトくんってば、色んな所で女の子を助けてるみたいだしぃ? 私なんてその中の一人にすぎないよねぇ~)
チラと料理を待っているであろうホクトを覗き見れば、昨夜から寝てないからかうつらうつらと舟をこいで待っている姿が目に入った。
その顔を見て思わず下腹部にキュンときたサキは、襲い掛かってしまいそうな欲求をねじ伏せる。
住む場所が決まっても、まだ部屋には食材もない。今日一日くらいはうちで食べていくにゃ、という提案に渋々ながら頷かせたのだ。
今後の付き合い、そして将来の付き合い(意味深)のためにもここは我慢を選択する。
「ほぉらホクトくん。朝ごはんが来たよ~? 寝るなら食べてからにしなよ?」
「んお? ……すまん、ちょっと寝てたわ。一般人モードで姫巫女から逃げるのに必死だったからかねぇ……」
あくびを噛み殺すホクトに、白米とみそ汁、そして焼き魚の三点セットを配膳するサキと、目の前に並ぶ食事に、「おお……朝に和食とは、贅沢な気がしていいなぁ……」と呑気に喜ぶホクト。
そんな彼の喜ぶ姿に、思わずサキもにやけた。
嬉しいからではない。
いや、その表現だと正しくはない。もちろん、サキにとってその光景が嬉しいものであることは事実だ。
己が好意を寄せる相手が、己の作った料理を嬉しそうに食べている。それもある。
だが彼女の心中を占めているのは――献身。
己が主に仕え、そして主の役になっているのだという実感に、彼女は歓喜していた。
(ああ、ダメ……ホクトくんの前でこんな、治りきらなかった私を見せちゃ……!)
グイ、とホクトにバレないように頬をつねる。
(ご主人様ぁ♡)
ダメだった。
眠そうにしながら、それでも作ってもらったものは食べなければと気合を入れて食事を進めているホクトを見る彼女の目には文字通りハートが浮かんでいた。
だがしかし、ある意味ではこれも仕方のないことだろう。
なにせ來伊サキという少女が救われたあの日。
競売の目玉商品として出品された当時の彼女は、穢されてはいなかったものの、淫魔製の怪しい薬や度重なる調教によって、自身を買うご主人様を待つだけの、意思なき奴隷も同然の状態であった。
そこに現れたのが、魔法使いことホクトである。
彼は会場にいた関係者をすべてバラシて皆殺しにし、そして人形も同然であった彼女を助けたのだ。
そして自力ではどうやっても帰れないであろう彼女を一度自宅まで連れて行き、裸同然の姿に服を着せて一晩面倒を見たうえで、次の日の夜に発見した姫巫女へ彼女を無理矢理預けたという経緯がある。
ホクトにとって不幸だったのは、この時彼が來伊サキに触れ、自宅まで連れ帰ったことで、無意識的に彼女にとってのご主人様として登録されてしまったことだろう。
預けられた姫巫女によって学園へ保護され治療を受けたサキだったが、心の深いところまでは治せなかったのだ。
組織と政府への不信感から野良となった彼女がホクトの下へとやって来たのは、その後のこと。
無意識ながらに、彼と、そして彼の自宅へとたどり着いた彼女は、なぜバレたというホクトの疑問に対して「帰巣本能♡」と返している。
「……なんかめっちゃ見てないか?」
「うん、見てる。ふふふ~、今は私だけのホクトくん~。他の子にはこの光景は見せたくないなぁ~」
「まるで他にもいるような口ぶりだな……お前みたいな変なのが他にもいてたまるかよ」
そう言ってズズズとみそ汁をすするホクトだったが、サキは「いるよ」と心の中だけで返答していた。
なんなら、ここを管理している担当はホクトが助けた元組織の姫巫女である。
戸籍無くした私の知り合い住まわせてもいい? としか聞いていないため、その彼女が知る由もないだろうが……きっと件の魔法使いであると知ったならば、今日にでも他の野良の姫巫女に話が伝わり、他の部屋も一瞬で埋まるだろう。
そして始まるのがチキチキ嫁入り合戦である。
あるいは夜這い合戦か。
ともかく、騒がしくなるのは当然だろう。
そしてそれをホクト自身が望まないことも、サキは理解している。
主の要望を叶えるのが、良き僕なのだから。
「ありがとう、來伊。美味かった」
「お粗末様にゃ~」
「それじゃ、俺は部屋に戻るって寝るとしよう。さすがに疲れたからな……」
「別に私のベッドで寝てもいいけど?」
揶揄うように告げた軽口に、「寝るわけないだろ」とホクトがため息を零す。
そして部屋を出る直前、ホクトが立ち止まって先へと視線を向けた。
「改めて。ありがとうな、來伊。色々と迷惑かけちまったが……今後ともよろしく」
「……うん。こちらこそ」
「んじゃ」と去っていくホクトを見送り、サキは一人残された部屋の中でふぅと息を吐く。
そしてそのまま、流れるように壁に身を寄せると、変化で耳だけ猫に変え、そのままピタリと壁に耳を当てる。
少しすると、隣の部屋の扉が開く音が響き、ホクトの独り言を耳が拾った。
「にゃ~ん……特権特権♡ 穴は……開けたらバレそうだし、しばらくは音で我慢するかぁ~」
しばらくはおかずに困らないだろうと、一人にゃんにゃんと鳴くサキなのであった。