どうやら凌辱系エロゲの世界に転生したようですが、俺は今日も平和に生きたい。~なのでBADエンド回避のために殺します。理由はもちろんお分かりですね?~ 作:岳鳥翁
『なぁ、聞いたか? 本部のえらいさん方、全員殺されたっちゅー話やで』
『ああ、聞いた聞いた。東京の方やろ? えげつない殺され方されたらしいやんけ。バラバラ死体やってんやろ?』
朦朧とする意識の中、少女はその声にうっすらと目を開く。
意識的に、ではなく、それが限界であるためだ。
何ならかの液体に包まれた彼女の口から、ゴポリ、と気泡が溢れる。
いったいここはどこなのか。
そして……自分はなんなのか。
何もわからず状況も理解できないそんな中、彼女はぼやけた視界で声の主を見つけた。
透明なガラスの向こう側で、白衣姿の男たちが話している。
『せやせや。ほんでな? 幹部連中もそやけど、研究所もぶっ飛んだうえに所属の研究員も全員死んだらしいわ。バラバラやで? 姫巫女の連中、そこまでするんかいな。物騒な話やで……』
『こっちも注意せなあかんな。まぁ言うても、この研究が完成したら姫巫女なんて怖あらへんやろ。それまでの辛抱や』
『やな~。ほんま頼むで、ワイらの兵器様。淫魔王様のためにも、邪魔する姫巫女み~んなぶっころすんやで! まぁ脳改造はまだやねんけども』
白衣の一人が歩み寄り、ガラス越しに少女を覗き込む。
『アホ。とっ捕まえて、ワイらが楽しんでからの苗床化が普通やろ。それはそうと、最終調整はもうできそうなんか? 見た目おもきし子供やけど』
『これがええんやで。子供の姿やったらみぃ~んな油断するやろ? 保護せなと近づいたところでブスリやし、普通に戦うだけでもめっちゃ強い。まあ元にした細胞が優秀やし当然やな』
『悪いやっちゃな』
『そりゃお前、ワイらは悪~い研究者やさかい』
ほな行くで~、と少女を覗き込んでいた男は、もう一人を連れて少女の下から離れていく。
自意識が芽吹いたばかりの少女には、彼らの話がほとんど理解できなかった。
だがしかし、これだけは理解できた。
己は、何か悪いことのために生み出された存在なのだろうと。
(私は……なんなの……)
ゴポリと息が零れる。
培養液で満たされた巨大水槽に浮かぶ少女の体。
それは、とある人物の細胞を元にして造られた人造人間であり、対姫巫女用に造られた人間兵器。
淫魔王と呼ばれる最上位淫魔のためにと、彼らに与した人間たちが創造した生命体であった。
(……まだちょっと、眠いわね……)
ぼやけた視界が闇に染まり、少女の朦朧とする意識が遠のいていく。
彼女を生み出した研究所支部が姫巫女たちによって壊滅する、五分前の出来事であった。
◇
気づいた時には、少女の水槽は破壊され、飛び出た培養液とともに彼女も外へと吐き出された。
襲撃によるものだろう。
悲鳴がそこら中で響き渡り、多くの白衣の研究者たちが逃げ惑い、変な格好をした女がそれを追う。
これはいったい、と困惑する少女。
しかし、状況は彼女を待ってはくれなかった。
変な格好をした女の一人が少女に視線を向け、「いたぞ!」と声を張りあげる。
すぐさま女の同族だろう二人が加わって少女を取り囲み、そしてメカメカしい銃を彼女に向ける。
「こいつ、情報にあった人造人間やな? あいつらいらんもん作りおってからに……」
「無駄口叩くなや。子供や思って油断したら、こっちが食われるかもしれん。淫魔や思って対処するんや」
「実際、淫魔も混ざってるらしいからな。先制攻撃で一気に仕留めるで!」
困惑、動揺。
それは状況が理解できていないことだけが原因ではなかった。
彼女らから向けられる嫌悪感と、明らかな敵意。そして殺意。
向けられた三つの銃口が光ったのを見て、咄嗟にまずいと少女は身を捩った。
「ぐっ……!?」
「避けた!? こいつ、反応速度ヤバいで!!」
放たれたのは銃弾ではなく、エネルギー弾。
それは西の姫巫女たちが使用する、己の巫女力を弾として放つ《姫巫女式光弾銃》と呼ばれる武器であった。
普通なら姫巫女たちの異能に使用されるエネルギーを、エネルギーそのものとして圧縮し放つこの銃は、当然ながら淫魔にも有効なダメージを与えることが可能だ。
だからこそ、淫魔が混じる少女の体にとって脅威になるのは当然のことであった。
故に、兵器として優秀な少女の体は今この状況を危険だと判断した。
無意識に、彼女の体は立ち上がり駆け出す。
「あ!? 逃げ……はっや!?」
「神剣の【強化】か! 絶対逃がすなよ! 追うんや!」
そう姫巫女の一人が叫んだ頃には、すでに時遅し。
少女は常人ではありえない速度で壊滅した研究所を飛び出していた。
そこから先は、少女自身もあまり覚えがない。
ただひたすら、殺されたくないと飛び込んだ山の中で数日を過ごし、腹を空かせ空腹に耐えかねて山を下りた。
造られた身体、淫魔という異形の混じる体であろうとも、喰わねば命は繋がらないのだ。
だがしかし、姫巫女、そして人類の裏切者双方が目を光らせ、逃げた彼女を探す街の中。
のこのこと現れた彼女が見つかるまで、そう時間はかからなかったのだ。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
「待てやガキィ!! 逃げんなや!!」
「クソが!! ちょこまかと逃げ回りおってからに……!!」
「見た目に騙されんな! あんな成りでも、中身は
走る。
ただひたすらに少女は走る。
少女が最初に引っかかってしまったのは、裏切り者たちの捜査網だった。
何か食べるものはないかと暗い夜道を歩く彼女を、組織の下っ端である男たちが発見し、これを追う。
姫巫女相手でも簡単に逃げることが可能な少女であれども、腹を空かした今の状態では、見た目通りの力しか発揮できなかった。
そして、彼らから逃げようとした路地裏の曲がり角。
その先に道がないことに気付いた少女は、「そんな……」と絶望を口にする。
「やっと追いついたで、ガキィ……」
引き返そうとした少女だったが、その背後にはすでに男たちが立ち塞がっている。
じりじりと後ろへ下がるが、行き止まりであるこの場所では意味がない。やがて少女の背は壁へとたどり着いた。
「ひっ……いやっ……」
「大人しくせんかい! さぁ、姫巫女の奴らが来る前にとっととずらかって――」
「ダイナミックにエントリー!」
「――ぶげらッ!?」
「「あ、あにきぃ~!?」」
追い詰めた少女の手を取り、その場からすぐ離脱しようとした男。
だがしかし、少女を掴んでいた男は真上から文字通り降ってきた男によって踏みつけられ、そのままコンクリートの地面へと叩きつけられてしまった。
「はいっと。これでカスのクッションが一つ出来上がりっと。大丈夫かい、お嬢さん?」
黒いローブに、深く被ったフード。
その奥あるはずの顔は、なぜかわからないが、空間が歪んでいるかのようにまったく見えない。
見るからに怪しい男のその言葉に、少女はただただ困惑するしかなかったのだった。