どうやら凌辱系エロゲの世界に転生したようですが、俺は今日も平和に生きたい。~なのでBADエンド回避のために殺します。理由はもちろんお分かりですね?~ 作:岳鳥翁
ただ、それだけなんです。
無敗三冠馬できたから許してね
とりあえずすぐに寝てしまわないよう、少女を部屋に招いて早々にコーヒーの準備を始めた。
もちろん、目の覚めるブラックである。
少女用のホットミルクを準備する合間にグビリと一口煽れば、多少眠気も覚めてきた。
「そういえば、よく俺だってわかったな? 昨日は顔を隠してたはずなんだが……あ、ホットミルクでもいいか?」
そこでふと、昨晩は顔を隠したままだったことを思い出して少女に問いかける。
魔法を使っていたため、フードの中の顔は見えていなかったはずなのだが……なぜ彼女は俺だと認識できたのだろうか。
「うん、ありがとう。それとホクトさんの質問については……私が普通じゃないから、かしら。なんとなく、でわかるの」
「……」
座卓を挟んだ向こう側の彼女はお礼を言ってホットミルクを受け取ると、静かに目を伏せジッと手元のミルクに視線を向けていた。
……まぁでも、彼女をここに連れてきた時点で何となく予想はできた。
そう呼ばれていたと聞いて、この少女に何かしら事情があるとは察していたし、だからこそ俺は大掃除を思いついたのだから。
実際、その答え合わせも昨日襲撃を駆けてきた奴らに聞いている。
「ホクトさんは、もう聞いてるんでしょ? 昨日の人たちに」
「っ……おいおい、まじか。それにも気づいてたってか……?」
嘘だろ、と少女の言葉に驚く。
相手は銃火器で発砲までしてたし、なんなら喚き騒いでいたのだから聞こえていて当然だと思われるかもしれない。
だがしかし、それはあり得ないのだ。
なにせ昨日この周辺で起きた出来事は、すべて俺が俺の領域として囲った範囲での出来事として処理したのだから。
内部でどれだけ騒ごうが喚こうが、あるいはどんなことをしたても……外からは何も起きていないようにしか見えない認識不可能の絶対領域。
去年開発してから裏活動の度に使用してきたため、魔法の練度は問題ないはずだ。
となると俺自身の問題ではなく……少女側にその理由があるとみていいだろう。
……少なくとも、俺が認識できないようにした視覚、聴覚、嗅覚以外の何かで感知したのか。
「うん。言ったでしょ? 普通じゃないの、私」
「普通じゃない、ねぇ……」
「ホクトさんに助けられて、一日ゆっくり休んで……ようやく、私という存在が何なのか整理がついたわ」
ホットミルクから手を放した少女は、そうして金色の瞳をまっすぐ俺へと向けた。
「十八年前の一件で最強の姫巫女と謳われるようになった現対淫魔機関長官、神剣カンナの細胞。そして研究所の協力者だった淫魔の力。その二つを組み合わせることで、より強力な力を持つ個体を生み出す
「……」
なんとなく。
なんとなくではあったが、心のどこかで似ているとは思っていた。
別に確信があったわけでもないし、そもそも俺は顔は知っていても名前は知らなかったのだから。
姫巫女と淫魔という存在を知った、十八年前のあの日。
瓦礫の隙間から見えた、淫魔たちを拳一つで屠っていた姫巫女の姿と、目の前の少女の顔。
そしてようやくそこで、俺の中にあった名前と顔が繋がった。
俺がやらかした、以前の失敗。
私立
……そうか。
あの人は、神剣カンナって名前だったのか。まさか、そんな堂々と表側に立ち場があるとは思ってもいなかった。
「昨日のことに気付いたのも、その力があったから。神剣カンナの異能……【強化】はクローンの私も当然使えるし、淫魔混ざりのこの体にはもってこい」
「……聞いた話じゃ、身体能力以外も強化できるんだってな?」
「五感に加えて、所謂第六感みたいなものも可能なの。むしろ、そっちのほうが得意だわ」
たとえば……そうね、と。
目を閉じ、何かに集中しているような仕草を見せる少女。
どうかしたのかと思ったのも束の間、彼女はポツリポツリと言葉を紡ぎ始めた。
「『うぅ~……! 私のスマホなのにぃ……! せっかくホクトくん使用済みの、仄かに匂いも感じられる
「待て待て待て。ストップ、ストップだ。やりたいことはわかるが、このシリアスな状況にあまりにも似つかわしくない文字の羅列だ。やめておいた方がいい」
「……それもそうね。あまりにも哀れだったわ」
おそらく、己の聴覚がどれほどのものかを示してくれようとしたのだろう。
たしかに、俺の部屋を挟んだ向こう側にある來伊の部屋。今その部屋にいるであろう來伊が何を話しているか俺にはまったくわからないため、力の証明には有用ではある。
ただその、内容があまりにもあれ過ぎただけで。
「……ま、まぁ、ある意味証明にはなったってことで」
「ええ……尊い犠牲だったわ」
「犠牲にしたやつが言うんじゃないよ……」
來伊ならともかく、この少女の頭かあんな言葉が出てくるとはあまり思えない。本来なら少女の力が本当彼の確認のため、後で來伊に確認を取るべきなのだろうが……その必要はなさそうだ。
うん。
「さて、変なのが混じってそういう空気じゃなくなったわけだが……つまるところは、だ」
空気を変えようとして、先ほどまでの話に戻す。
緩んでいた空気が僅かに引き締まったことを感じたのだろう。少女の笑みは消え、どこか憂いを孕んだ表情へと変化する。
俺の言葉のその先が予想できたからだろう。
きっと、姫巫女と淫魔が混ざった化物、などと言うと思ったのだろうか。
であれば、それは心外だな。
「生まれがちょっと変わった女の子……ってことだな、うん」
「……え?」
コーヒーをグビリと呷りながら言ったその言葉に、少女は驚きでか目をパチクリと見開いて俺の方を見つめていた。
それをただの慰めだと思ったのだろう。少女は「それは無理がないかしら」などと、もの悲しそうに、呆れたように口にする。
そんな少女の額を、パチン! と指で弾いた。
「イッ……!? え、ホクトさん、今どうやったの……?」
「魔法。なに、俺の指先の空間と君のおでこから数ミリの空間を繋げただけだよ」
ほれ、とつないだ空間に指を押し付ければ、離れた位置からでも彼女の額をグリグリと押すことができる。
なんか変な感じね、とその様子を見ている少女に、俺はそうだろそうだろと頷いてみせた。
「で、だ。君はこれが怖いと思うか?」
「え……いや、別にそうは思わないけど……」
「なぜ? 昨日のことを知ってるならわかるだろ? 俺のこの力は、容易く人を殺すことができる。超長距離から、外傷を出さずに内部だけを壊すこともできる。今この瞬間、ここにいない誰かを話をしながら殺すこともできる」
怖いだろ? と再度問いかける。
だが少女は、少し考えながらも最後には首を振ってそれを否定した。
「だってホクトさんのそれは、悪人にしか向けないでしょ?」
「おう、そうだな。殺すのはゴミだけと決めてるぜ。そんで、君はそうじゃない」
「なら、怖がる必要はないでしょ?」
「なら、俺も君を怖がる必要はないな」
瞬間、彼女は「きゃっ」と小さな悲鳴をあげ、座った姿勢のままその場から『落下』した。
出てきたのは俺の目の前。
少し高い位置から出てきた彼女を受け止め、そのまま息を意を殺して目の前に座らせる。
そしてその頭にポンと手を乗せてやった。
「だいたい、君の持ってるそれはこの世界にある物だろ? 俺なんて見てみろよ、意味がわからんだろ? 姫巫女でもなければ、淫魔でもない普通の人間がこんな力持ってるんだぜ? こっちの方が不気味で仕方ないに決まってら」
はたして、この力が転生者であるが故の力なのか。
それとももっと別の何かなのか。
そこまでは俺にはわからない。
自我が芽生えたゼロ歳児の時から持って生まれたものだったし。
「そんな俺に比べりゃ、君の方が普通だ普通。特別変な存在の俺がそう言ってやらぁ。まだまだ子供なんだから、変に気にせず好きに遊んでればいいんだよ」
「……クローンの私って、生まれた時からこの見た目なんだけれど」
「なら赤ん坊だな。食って寝て泣いて笑ってりゃいいんだよ、まったく」
また変に気にしてら、と頭に乗せていた手をグリグリと動かしてやれば、少女の淡い紫の髪はみるみるうちにボサボサになっていった。
だが、少女はそれを嫌がるそぶりは見せず、「そう……」どこか嬉しそうにされるがままになっている。
そんな時になって、「お?」と俺の頭の中に思い浮かんだ。
「よし、決めた。『ユウカ』ってのはどうだ?」
「え……」
「名前だよ、名前。漢字で書くなら、『遊ぶ』に『風』で『遊風』だな。風みたいにどこへでも行って、遊び回ってこいって意味を込めてみたぜ。どうだ?」
なぜかこっちの世界、名字は漢字でも名前がカタカナなんだよな……生まれた時からそうだから、こっちでの常識なんだが、前の世界を覚えている俺にとっては少し違和感がある。
なので名づけも、その名残を残したものとなっている。、あぁ。俺の名前だって漢字にできるのだし、特に問題はないだろう。
我ながら、なかなかセンスのある名前を思いついたのではなかろうか。
すこーしだけ不安になりながら少女の方をチラ見してみれば、彼女は小さく「遊風……私の、名前」と口にして噛みしめているようだった。
やがて彼女は顔を上げ、まっすぐに俺を見る。
「私……ユウカ。よろしくね、ホクトさん」
「おう。よろしくな、ユウカ」
「名付け親だからパパって呼んでもいい?」
「ダメに決まってるだろうがい」
急にブッ込んできたユウカにツッコミを入れると、彼女は「え~」と残念そうにしながら立ち上がり、そして極々自然な動きで俺の足の間に座って収まってしまった。
え、何してるのと思ってのも束の間。彼女の指がピトっと俺の額に当てられる。
「ふふ……さっきのお返し」
「え、なに……ふぁ~……あ、これヤバ寝る奴やつ……」
突如襲い来る眠気は、俺が抗う暇もなくまぶたを落とし、そしてそのまま俺を夢の世界へと誘ってしまった。
コ、コーヒーでの誤魔化しは無理があった……クカー
◇
「ふふ……私の異能はね、ホクトさん。眠気とかそういうのも、【強化】できちゃうの」
まぁ触れないとダメなんだけど、と少女――ユウカと名付けれらた少女は、目の前で眠りこけた青年にむけてクスリと笑って見せた。
もちろん、彼女の異能があれば、青年の性欲を【強化】することも可能である。
今ここで
別に『いい話だなぁー』の直後だから、ではない。
「ヤるならもっと
彼女は間違いなく、乙女であった。
中身が多少人と違うため、その趣向が少々ずれている、ただそれだけの女の子である。
ホクトが普通だと言ったのだから間違いない。
「さてそれじゃ……私も一緒に寝ようかしら。同衾から始めるのも、乙なものよね」
もぞもぞと身をよじりながら、ホクトの腕の間に挟まり、その顔を見上げて嬉しそうに目を細めるユウカ。
それはまるで獲物の横に寝そべる蛇のようだったと、第一発見者である來伊はホクトに語る。
なお、聞かされた本人は「んなわけねぇだろ馬鹿猫娘」と呆れるばかりであった。