どうやら凌辱系エロゲの世界に転生したようですが、俺は今日も平和に生きたい。~なのでBADエンド回避のために殺します。理由はもちろんお分かりですね?~ 作:岳鳥翁
「急ぐぞアンリ! 反応があったのはこの先の路地裏だ!」
「了解です!」
神巫女学園の先輩姫巫女である少女、
先ほどの一般人の記憶処理については気にはなるものの、今は姫巫女の救援が優先だ。
彼女らの不注意によって発生してしまったものではあれども、人命に勝るものはない。
ましてや同じ姫巫女だ。
日夜淫魔と戦い続けなければならない姫巫女にとって、戦力の損失はできるだけ避ける必要がある。
これもまた人々を淫魔から守るために必要なことだ。
故に姫巫女は救援要請があれば、できるだけ近くにいる者が助けに向かうことになっている。
とはいえ、あの一般人が気になることも事実だった。
説明した通り、一度でも裏側……すなわち姫巫女や淫魔の事情に足を踏み入れ、そして記憶に刻み込んだ者たちは、高確率で淫魔と遭遇するとされている。
これは名前や存在を認知したことで、強い縁を持ってしまうことに由来する。
そのため姫巫女有する対淫魔機関は、そうした事情に巻き込まれた一般人に対して記憶処理を行うことで、被害が広がらないようにしているのだった。
もちろん、まったく知らなくても被害にあうことはゼロではない。
だがしかし、知っているか知らないかでの被害の差はかなり大きく、姫巫女の絶対数が足りていないからこそ、被害を抑えるための必要な措置であるともいえる。
「……気になるのか、アンリ」
そんな彼女の内心に気付いているのか、セイラは屋根をかけながら問いかけた。
「はい……元々は私たちの不注意ですし、そのせいであの人が淫魔に襲われでもすれば……」
「……そうだな。なら、すぐに救援を済ませてさっきの男の保護を急ごうか。検索した者の調査はそれからでいいだろう」
もともと急ぎじゃないしな、とセイラは前を向いた。
今回彼女ら二人に与えられた任務は、神巫女学園および神剣について検索した者についての捜索であった。
神巫女学園はその実態こそ秘匿されてはいても、世間には神道系のミッションスクールとしてその名前が一般公開されている。
神道と深く関わりのあるこの国においては、なんらかの検索の結果引っかかることだってあるだろう。
だが今回の件については話が別。
こちらは完全に秘匿されているはずの神剣……それもカンナではなく、アンリの名前が検索された痕跡があったのだ。
そしてもう一つ。
検索のあった同日、神剣アンリは『
そしてその時の『
現状姫巫女がピンチの場に現れ、そしていつの間にか消えている存在。
故に接触を試みようとも、手掛かりすらない状況だった機関にとって、この僅かながらの可能性は無視できないものでもあった。
だからこその調査である。
そして、この可能性が事実であった場合。
その交渉も、彼女らの任務の一つでもある。
だからこそ、神剣アンリが……対淫魔機関長官の娘であるアンリが赴いたのだ。
「見えたぞアンリ! ここからは戦いに集中しろ!」
「っ……! はい!!」
空高く跳び上がりながら、先を行くセイラが刀の柄に手をかける。
その背中を追ったアンリが眼下を見下ろせば、その異常に気付くことは容易い。
住宅街の裏路地。
先が行き止まりになったその場所の目に見えるほどの妖気と、壁から壁へ、さらには電柱や木に張り巡らされた大量の糸。
その中心に異形はいた。
『ケケッ……追加ノ餌カァ?』
人間の男のような上半身に対して、巨大蜘蛛がそのままくっついたような下半身。
八つの足を糸の上で這わせながら、その異形の八ツの複眼が彼女ら二人を捉えていた。
「人語……上位淫魔かっ……!! 【
『喰ラウカソノ程度ォ!!』
セイラの抜刀と同時に、鞘から零れた炎が弾丸のように弾け、蜘蛛淫魔へと殺到。
しかしその攻撃を、蜘蛛淫魔は蜘蛛足二本を振るうことで簡単に掻き消してしまった。
『ケケッ……助ケニ来タ姫巫女モ、大シタコトハ――』
「セイヤァアアア!!」
『――ガッ!?』
ニヤリと笑みを浮かべた蜘蛛淫魔。
しかしその直後、腰だめに構えた刀から炎を吹き出し、その勢いに乗って急降下したセイラが斬りかかっていた。
間一髪、脳天からかち割られることは避けられたが、肩から下半身の蜘蛛の部分までを一気に袈裟切りにされてしまう。
「やりましたか!?」
「いや、浅い……!! 仕留め切れなかった!!」
着地とともにバックステップで距離を取ったセイラが見上げる。
大きさにして三メートル近くもある蜘蛛淫魔。
その蜘蛛淫魔に刻まれたセイラによる斬撃痕は、傷口から煙を吹き出しながらゆっくりと再生を始めていた。
『ケケケ……残念ダッタナァ? 今度ハコッチノ番ダゼ!!』
そう叫ぶや否や、蜘蛛淫魔は下半身となっている蜘蛛の腹の先端を二人へ向けた。
直後、二人に向けて吐き出されるように放たれた大量の糸。
一度でも捕まれば、たちまち身動きが取れなくなるほどの強力な粘着性を持つそれを、アンリは慌ててその場から飛び退いて避け、セイラは炎を纏わせた刀を振るって燃やし尽くす。
「ふん、どうやら私との相性は悪いようだな? 大人しく、退治されてもらおうか」
『……ケケケ、ミタイダナ。ダガ、コレヲ見テモ同ジコトガ言エルカ?』
クイクイ、と蜘蛛淫魔の人の形を成した上半身が指を動かす。
いったい何をするつもりなのかと、セイラは刀を、アンリはガントレットを構えた。
するすると、どこか近くの電柱にでも吊り下げていたのだろうか。
糸でぐるぐる巻きにされ繭のようになったナニカが、ゆっくりと降下して蜘蛛淫魔の両サイドでピタリと止まる。
「……まさかっ!」
『ソウ! ソノマサカダ! ケケ……オ前タチノオ仲間ダゼェ? ムヤミヤタラニ糸ヲ燃ヤセバ、コイツラマデ巻キ添エダロウヨ』
蜘蛛の足が繭の一部をかき分ければ、そこには姫巫女の姿。
アンリたちは知らないだろうが、彼女たちがファミレスを訪れるよりも前、ホクト自身が対応した二人組の姫巫女である。
顔の繭が解かれたからか、苦しそうな呻き声が路地裏に漏れ出る。
毒でも浴びたのだろうか、隙間から垣間見えた顔は恐ろしいほどに青ざめていた。
今はまだ生きているようだが、早く治療しなければその命も危ういだろう。
「……アンリ。私が前に出て奴の気を引く。お前はその間に、なんとか二人を救出してくれ」
「わ、わかりました!」
「では、行くぞ!!」
短い指示とともに駆け出したセイラ。
そんな彼女に向けて蜘蛛淫魔は再び大量の糸を噴き出して拘束を試みるのだが、セイラは意に介することなく、そのすべてを炎を宿した刀で斬り払っていく。
まるで踊るように、舞うような戦闘に、さすが先輩と感心するアンリだったが、すぐに二人を助けるべく動き出した。
『チィッ……! 糸ヲ抜ケテキヤガッタカ!!』
「ハァア!!」
一方で、セイラは糸の攻撃を抜け刀の距離へと持ち込んでいた。
蜘蛛淫魔の上半身。人である部分を狙い刀を振るうが、その攻撃は下半身の蜘蛛の前足によって防がれる。
だがそれでも、炎を帯びた刃は鋼鉄並みに硬いその足に亀裂を入れた。
グッ!? と蜘蛛淫魔の顔が歪み、痛みからか僅かに隙が生じた。
その隙を見逃すセイラではない。
「もらったぁ!!」
『――ト、思ウヨナ?』
だが、それこそが蜘蛛淫魔の罠だった。
前足の防御が緩み、僅かに生じたその隙間。
その先に見えたのは、糸で作られた繭だった。
セイラに動揺がはしる。
『ハァイ、捕マエタ!』
「グゥッ……!?」
「先輩!?」
そしてその動揺を待っていたかのように、いつの間にか蜘蛛淫魔の蜘蛛の腹がセイラへと向けられていた。
直後の糸の噴射により、セイラの体は磔のように壁へと拘束されてしまう。
その際、手にしていた刀も手から零れ落ちた。
万事休す。
『ケケッ、油断シタナァ! コレダカラ姫巫女ッテヤツハチョロイ! コイツラ毒デ餌ニスルシカナカッタンダガ……チョウドヨク苗床モ手ニ入ッタゼ! ケケ、コリャ運ガイイ!! シカモ中々の上物ダァ!』
「くぅ……!」
愉快な笑い声が響く中、一人残されたアンリはどうするべきか思考を巡らせた。
徒手空拳による格闘戦がメインのアンリにとって、今対峙している蜘蛛淫魔は相性最悪の相手と言っていいだろう。
セイラのように糸をどうにかできるのならともかく、彼女はその術を持ち合わせてはいない。
ならばどうするか。
「決まってるわ……! 糸を搔い潜って、一撃で仕留める!!」
「いや脳筋過ぎるだろそれは」
覚悟を決めて拳を構えたその直後。
突如後ろから響いた声に、アンリは思わず「え」と振り返る。
「【別て】【繋げ】」
『ナッ……!?』
そしてそんな軽い一言とともに、二人の姫巫女を捕らえていた繭も、セイラを拘束する糸も。
さらには蜘蛛淫魔の体までもがバラバラに斬り刻まれ、拘束されていた三人に至ってはいつの間にかアンリの足元に根転がされていた。
突然の出来事に蜘蛛淫魔も思わずという声を零しばがら、すぐにその体を完全再生させる。
『オ前……姫巫女ジャナイナ!? 何者だ!?』
姫巫女の攻撃ではないため、バラバラに刻んでもすぐに復活を果たす蜘蛛淫魔。
そんな様子に、「やっぱ再生はっやぁ~」と呆れたように肩を落とした黒ローブの男は、アンリを見て肩を竦めてみせた。
「言っただろう、もうちょっと気をつけろって。普通こういう時は、撤退して増援読んだり、体勢を立て直すのが基本だろ。なぁんで一か八かで突っ込んで、身を危険に晒すかねぇ……」
「あなたは……『
「え、俺姫巫女の間でそんな呼ばれ方してるの……?」
アンリの驚愕の声に反して、気の抜けるような反応を返す男、『
アンリたちが探すその男が、路地裏に現れるのだった。
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