どうやら凌辱系エロゲの世界に転生したようですが、俺は今日も平和に生きたい。~なのでBADエンド回避のために殺します。理由はもちろんお分かりですね?~   作:岳鳥翁

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8話

 姫巫女の間でとてつもなく恥ずかしい名前で呼ばれていることには驚いたが、そもそも彼女らには名乗っていないのだし、わかりやすいように呼称するのは当然だろうと思いなおす。

 

 ただそれが『正体不明(アンノウン)』とは……少々安直ではなかろうか?

 

「……まぁ、とりあえず『魔法使い(メイジ)』とでも呼んでくれ」

 

「メイジ……?」

 

「そ。ほれ、魔法みたいだろ?」

 

 そう言って、救出された三人を取り返そうと射出された糸を再び魔法でバラし、そのついでに蜘蛛淫魔の脚をすべて切り落とす。

 残念ながら、淫魔はすぐに再生してしまうためダメージらしいものはない。足止め時間稼ぎがせいぜいなのが歯がゆい点である。

 

 案の定、切り落とした足は、根元から噴き出た真っ黒いオーラのようなものが繋がることで再生した。

 

「はぁ~マジで面倒だ。俺が殺せるのなら、どれほどよかったか」

 

 一応俺の魔法でもなんとか殺せないかと切り離した胴体を海中へ繋いだ穴に落としてみたり、地中深くに落としてみたり、あるいは粉微塵に切り離して全パーツをまったく別の場所に転送したりもした。

 

 結果、なぜか淫魔はその場で即座に復活しやがる。パーツすべて別の場所に移動させたのに、いきなりその場に完全復活した時はさすがの俺も驚いたものだ。

 そして同時に諦めた。

 

 淫魔を倒すには、姫巫女の力が必須。

 俺だけではどうしようもないのだと。

 

『オ前オ前オ前オ前オ前ェエエエ!! オレノ獲物ヲ奪イヤガッタナァ!? 許サナイ逃ガサナイ殺シテヤルゥ……!!』

 

「おーおー、荒れてらっしゃる荒れてらっしゃる。ほれ、もういっちょ分割してやるよ」

 

【別て】と呪文を一言唱え、蜘蛛淫魔の体を再びバラバラにばらす。

 その際、二人の姫巫女をぐるぐる巻きに拘束する繭も一緒に斬って壊しておく。

 

 淫魔本体でなければ再生することもないのだ。

 

「どうだ、助かりそうか?」

 

 蜘蛛淫魔からはできるだけ視線を逸らさず、チラと下に視線を向ける。

 見るからに毒にでも侵されているであろう二人の姫巫女に、神剣アンリはすぐに駆け寄って様子を見た。

 

「……大丈夫。これならまだ間に合うわ!」

 

「そうかい、なら何よりだ。で? この状況で、そちらさんはなぜ俺を警戒するのかね?」

 

 神剣アンリとは異なり、こちらを警戒するように一歩下がった位置で様子見に徹していたもう一人。

 すると赤髪の姫巫女は「いや」と首を振って頭を下げた。

 

「ありがとう、助かった。私は龍雅生セイラだ。貴殿が噂の『正体不明(アンノウン)』で相違ないか?」

 

「その呼び名はやめてくれ。『魔法使い(メイジ)』で頼むわ」

 

「メイジ……なるほど、魔法使いか。ふむ、たしかに私たち姫巫女とは異なる力。魔法と言われても納得できるな」

 

「そうそう。今後はそっちでよろしく頼むよ。それと、これ使うだろ?」

 

 ほれ、と一緒に回収しておいた彼女の刀を放って渡す。

 見たところ普通の刀のようだが……炎を纏ったり、淫魔にダメージを与えていたところを見るに、姫巫女本人が使用することで何かしらの力でも帯びるのだろう。

 

 特別な武器であれば、こっそり回収して俺が使用したのだが……俺が使ったところでただの刀にしかならない。

 まぁ、決定打にはならなくとも、斬ることに関しちゃ魔法の方が優秀だからいいのだが。

 

「これは……私の刀か! ああ、これがあるのなら問題はない! 感謝する!」

 

「そりゃよかった。で? あれの討伐はお二人さんに任せたいんだが……いけるよな?」

 

 あれ、と親指で背後を指差せば、そこには延々と俺の魔法によってバラされ続けている蜘蛛淫魔の姿。

 文句か何か言おうとしているのか、再生する度に俺に向かって何かを叫ぼうとしているのだが、その瞬間に口ごとバラされるため何も言えずにいるようだった。

 

 本当に、後は殺せる力だけなんだけどなぁ……

 

「あれで死なないの?」

 

「まぁ、俺は姫巫女じゃないからな。淫魔を滅する力はねぇよ」

 

 そんなことよりもだ、と俺は二人を見る。

 

「サポートは任せろ。速攻であの淫魔を仕留めて、そこの二人の治療を急ぐんだ。貴重な姫巫女を減らしちゃいけねぇからよ」

 

「……わかったわ。今は二人の命の方が大事だもの」

 

「ああ。だが……アレの討伐が完了したら、私たちの話を聞いてもらいたいな」

 

 神剣アンリがガントレットを装着した両拳を、龍雅生セイラは炎を纏わせた刀を構える。

 

「ハッ、気が向いたら聞いてやるよ。それと……五秒だ。五秒後、目の前に現れた淫魔を全力で仕留めろ。お前ら二人は、ただそれだけやればいい」

 

 こちらからの指示に不満を持たれるかと思ったのだが、以外にも神剣アンリが「わかったわ!」と威勢よく応えてくれた。

 それに続く形で、龍雅生セイラも「わかりやすくていいな!」と肯定を返す。

 

 俺が言うのもなんだが、それでいいのか姫巫女さんよ。

 

 ため息をつきそうになったところを、肩を竦めるだけに留める。

 

「まぁ、それでいいならいいさ。んじゃ、バラシ作業をやめてっと……」

 

『グェグェ……ッ!! オ、オ前ェエエエエエエエエエエエ!!! ヨクモヨクモヨクモ!! 何度モ何度モ何度モ!!! オレヲ虚仮ニシヤガッテェエエエエエエエエエエエエエ!!!!』

 

 バラシ作業を終えた途端、完全再生した蜘蛛淫魔が怒りの形相で俺を見る。

 そしてその怒りをぶつけるように、再び腹の先から今までの比にならないほどの糸が吐き出された。

 

 普通なら逃げ場がないほどの圧倒的な物量。

 

 その糸を前に、俺はただ一言叫んだ。

 

「行ってこい!」

 

「わかった!」

 

「わかったわ!」

 

 呪文とともにこちらへ迫っていた糸が半ばから断たれると、そこから抜け出す様に神剣アンリと龍雅生セイラの二人が飛び出していく。

 二人の姿を見た蜘蛛淫魔も、さすがに俺だけに注力するわけにはいかなかったのだろう。

 

『ゲゲッ!?』と険しい声をあげながら、二人に向けて糸を噴き出した。

 

 だがそれは、俺が斬れる。

 

「【別て】」

 

『ゲェ!? コノッ、フザケルナァ……!!』

 

 たった一言の呪文で、二人に向けて噴き出した糸はすべて斬り刻まれ無に帰す。

 

 そしてその隙に二人は距離を詰め、やがて拳も刀も届く位置まで進んだ。

 

 ならば、と蜘蛛淫魔は蜘蛛である下半身を後ろ二本で持ち上げ、まるで立ち上がるように彼女らと向かい合う。

 おそらく残りの四歩足による攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。

 

「【繋げ】」

 

「「『ッ!?』」」

 

 だからこそ、好都合だ。

 

 二人の目の前に穴を繋げば、そこに飛び込んだ二人の姿が一瞬で消え、すぐさま蜘蛛淫魔の背後へと現れる。

 

 蜘蛛淫魔は二人が姿を消したことによる驚愕を。

 姫巫女の二人は自身の身に起きた事象に困惑を。

 

 だがしかし、事前に伝えていたからだろう。

 きっちり五秒後に起きた瞬間移動。その不可思議な現象に対応してみせた姫巫女たちは、目の前で背を向けている蜘蛛淫魔に向けて武器を振るった。

 

「「ハァアアアアアアアアアア!!!」」

 

『ゲェェエエエエエエエエエエ!?!?』

 

 神剣アンリの拳が蜘蛛の下半身を破壊し、龍雅生セイラの刃が人の形をした上半身を袈裟斬りで真っ二つに斬り捨てる。

 蜘蛛淫魔は断末魔の声をあげながら、その体を真っ黒に染め、やがて崩れるようにその体が崩壊していく。

 

 そうして真夜中の路地裏では、蜘蛛淫魔を討伐した姫巫女二人がパチンと手を叩き合ってこちらへと戻って来る。

 

 そんな彼女らを見て、俺は「いいなぁ」と一人小さく呟くのだった。

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