どうやら凌辱系エロゲの世界に転生したようですが、俺は今日も平和に生きたい。~なのでBADエンド回避のために殺します。理由はもちろんお分かりですね?~ 作:岳鳥翁
俺にもその力が……淫魔を殺せる力があればと、何度そう思ったことか。
それは昔から、この世界がゲームの世界だと知った今でも変わらない。仕様上、姫巫女にしか倒せない存在。それが淫魔だ。
故に、俺には倒せない。
俺が殺すことはできない。
もしも殺せたのなら……きっと、俺自身の手で皆の仇が取れたのだろう。
ポロリと、つい口から零れてしまった言葉に気付いて下を向いた。
「……いかんいかん。ナイーブになるなよぉ~俺ぇ~。できないものはできない、できることをやる。それでいいんだ」
「……? どうかしたの?」
ブツブツと独り言を呟く俺が気になったのだろう。
蜘蛛淫魔の討伐を終えた神剣アンリが毒に伏せる姫巫女の一人を背負いながらこちらに問うてくるのだが、そんな彼女に「いんや、なんでも?」とだけ返した。
「よし、それじゃあ『正体……いや、『魔法使い』殿も。一緒について来てくれないだろうか。話はそこでしたい」
「……ほいほいりょーかい。なんて言うと思ったか? 行くわけがないだろ」
神剣アンリと同じく、残るもう一人を背負った龍雅生セイラに呆れながら言葉を返す。
しれっと俺を連れて行こうとするんじゃねぇよ。
「む……しかし、アレの討伐の後私たちの話を聞いてくれるのだろう? この二人の治療もある。本部で聞いてもらうのが一番手っ取り早いんだが……」
「気が向いたら、とも俺は言ったがな。姫巫女の本部なんざ行くわけがねぇだろうがよ」
ケッ、とその提案を吐き捨てるように首を振れば、彼女は残念そうに肩を落とした。
「まぁ、私は助けられた身だ。今回は大人しく引くこととしよう。少なくとも、貴殿が敵ではないということは理解した」
「敵であるはずがねぇだろ。これでも、あんたら姫巫女には感謝もしてるし、国のため人のため、何より淫魔討伐のために必要な存在だとも思ってる。そんな善良な一般市民だぜ?」
そんな俺の返答に、龍雅生セイラは「ハハッ」と苦笑を返す。
まるで俺が一般市民ではない、と思っているような苦笑だった。
明らかな異形である淫魔と、その淫魔を討伐できる姫巫女に比べれば、まだまだ一般市民寄りで考えてもいいだろうに。
「ほら、もう用は済んだだろ。さっさとその二人を治療してやれ」
「そうだな。改めて感謝する、『魔法使い』殿」
「また助けられちゃったわね。ありがとう。この間も言ったけど、気が変わったらいつでも私たちのところに来てちょうだい」
「行く訳ねぇだろ。どうせ信用できねぇお前らの上層部のことだ。裏切者を殺し回ってる俺が怖くて仕方ねぇんだろうし、不穏分子は排除したくてしょうがねぇだろうよ」
何度でも言うが、俺は姫巫女には好意的にしか見ていない。何なら淫魔を討伐してくれてありがとうといつも感謝すらしている。
だからこそ、彼女らがピンチであれば助けたいし、淫魔の討伐の手助けだってしたい。
淫魔が消えるならそれが一番いいのだから。
だがしかし、姫巫女である彼女らを、そして淫魔の脅威に晒される人々を裏切るようなクズでごみの人間は割と多い。
そしてそういう裏切者というのは、たいていが富裕層だったり、政治の偉い奴だったりする。
この世界で色々殺した末での経験談である。
親も親なら子も子、ということもあった。
姫巫女をペットにして買いたい、などと言うゴミの将来なんてなくていいだろう。それの将来に殺される一般市民がどれほどいることか。
ギリッ、と歯の奥から聞こえた音で己が冷静でないことに気付く。
ふと気づけば、固く握りしめられていた拳を心配そうに見ている二人の姿があった。
小さく息を吐き出し、「いかんいかん」と拳から力を抜く。
「すまん、一人で熱くなってたな。とにかく、俺個人としては姫巫女には協力したいが、お前らの上が信用できねぇ。そんでその上の奴らに少しでも俺の情報が漏れる可能性があるから、お前らのところには行くつもりはない。信用できる上司に、そう伝えておけ」
それじゃあな、と彼女らにはそれだけ告げ、瞬間移動ですぐさま自宅へ跳ぶ。
一瞬、もう俺のことを嗅ぎ回らないようにと伝えようかと思ったのだが、それをすると、彼女らに追いかけ回された男が魔法使いであると気づかれてしまうかもしれない。
もう一度言うが、姫巫女のことは信用している。
良い意味でも、悪い意味でもだ。
淫魔を滅する存在としては尊敬もしてるし、信じてもいるし、感謝だってしている。
だが同時に、彼女らの組織体制や頭が脳筋な部分、そして姫巫女という超戦力を扱う頭が腐っていることも事実。
全部が全部そうではないのかもしれないが、脳みその中で一部でも欠陥があれば人体に悪影響が出るようなものだ。
その結果淫魔によって人が死ぬのだからなお質が悪い。
と、いうわけでだ。
本当に……本当に残念で仕方ないのだが、これ以上ここに長居はできないだろう。
魔法使いの姿から元の服装に戻し、最低限のものを空間魔法で広げたポケットへと突っ込んでいく。
高校を卒業してから二年。アルバイトではあるが働き口も見つけ、なんとか借りられる賃貸を探して契約し、裏活動で人を殺してはいたが人並の生活をおくれていたのだ。
それが今日、終わるわけだ。
多少ナイーブになるくらいは許してほしい。
電気を消し、二年間住んだ部屋に別れを告げて家を出る。
相変わらずの真っ暗闇だ。
住宅で囲まれた道路には、チラホラと古くなった電灯が立ち並ぶ。
世話になった街で愛着もある。
そこを走った。
全力で。
必死に、何かから逃げるように。
そして電話をかける。
通話相手は、同じアルバイトの同期だ。今日はシフトに入ってなかったが、普段はキッチンを担当している。
俺よりも料理の手際が良く、たまに店を訪れる姫巫女に鼻の下を伸ばすくらいには助平な男だ。
夜中も夜中だが……明日もシフトが入ってなかったため、この時間ならゲームでもして起きているだろう。
案の定、そいつは電話に出てくれた。
出てくれなくてもよかった、という気持ちがないわけではない。
だからこそ、本当にごめん。
『はいはーい、どうしたキタちゃん。こんな時間に――』
「た、たすけっ……!! いま、にげてっ、こ、殺され、これされる……!! 化物が……!?」
『……は? おいおい、キタちゃんどうした!? もしもし!?』
電話の向こうから聞こえる声は、俺の名演技によって即座に焦りへと変わった。
そしてそこで通話を切る。
相手には突然、何かしら起きて電話が切れたのだと、そう思われるように。
「はぁっ……はぁっ……ごめんな……」
同期へはもちろん、きっと心配をかけ悲しんでくれるかもしれない者たちへの謝罪の言葉を吐き出す。
やろうとしていることは単純だ。
俺はこのまま失踪する。
それも、淫魔に襲われて消えるという体でだ。
残念ながら、いくら姫巫女がいようとも淫魔に襲われる人間はゼロにはならない。
なにせ今の体制では、淫魔が発生してからの討伐が主になる。となれば、最初に襲われる人間も存在するのは当然の事。
これによって、毎年少なくない人間が失踪しているのがこの世界の現状だ。
政府や警察は淫魔の存在の秘匿のために行方不明として処理しているが、そのほとんどは淫魔に食われていなくなった人間だろう。
俺もそうした、失踪の一例になるだけの話だ。
「だがこれも、俺という存在を腐ったゴミどもに知られないためだ。俺がやらかしたポカは、俺自身で挽回する。少なくとも、これで姫巫女も『北畑田ホクト』という人間を追うことはできないだろうさ」
まぁ一番の問題は、俺自身は死んだことにするため、今後がいろいろと面倒が多いことなのだが……そこはまぁ、なんとかできるだろう。きっと。
だってここは凌辱系エロゲの世界。エロ以外に関してはガバガバな設定に決まっている……ことを願おう。
「……一応、アイツを頼ってみるか。どこにいるかは知らんけど」
スマホは……死んだ人間が使えるはずもないため、空間魔法を使ってその場でバラし、ポケットの異空間へと放り込んでおく。
さて、まずは人探しからだ。
俺が殺しに向かう現場で、たまにふらりと遭遇するため、今回もそうやって探してみることにしよう。
そうして俺は、二年間住んだ街に別れを告げ、瞬間移動でその場を去るのだった。
応援よろしくお願いします。
書き溜めがないよぉ~……