1人の少女の旅の物語です。
目を開くと、僕は見知らぬ場所にいた。いや、見知ったはずの場所というべきだろうか。足元には湖が広がっており、水没したと思われる電車の上で目を覚ました。
現在の時刻を確認しようとスマホを見た。しかし反応はなく、スマホの画面は暗転したままだ。もう一度今の状態を確認しようと顔を上げて辺りの様子をゆっくり飲み込むように見渡してみた。
ここがどこなのかは分からないが、ずいぶん都会のようで、周辺には見上げるほどの高層ビルが遠くまで立ち並んでいた。今立っているのは電車の上のようだ。目に見える建物全てが水底から聳え建っていた。いや、水没していたという表現が正しいのだろう。水に反射する光景は、どこか現実離れしており、何度も夢ではないかと疑ったが、耳に入る風の音や、目に映る雄大な景色の自然さがそれを否定してきた。
目が冴えてきて、遠くがよく見えるようになってきた。蔦が這い回り、植物に支配されたビル群。その間を飛び回る鳥ポケモンたちも見える。
水中を覗き込んだ。水面に映る自分の姿。ウルフカットの黒髪に家系譲りのターコイズ色の毛先。それと同じ色の瞳。間違えなく自分、『アサミヤ』の姿だった。
少し離れていたところに落ちていた僕のトートバッグは、ナゾノクサというポケモンが住処にしていた。ボストンバッグは持っていたし、トートバッグには特に大したものは入っていなかったのでそのまま置いていくことにした。
改めて辺りを見渡す。
何かが僕の中で引っかかった。
特におかしなところはないはず。
改めて水底に目を向けた。もう一度確認しても、水面に映る姿は間違いなく自分の姿だ。
───間違えなく、気を失う前の自分の姿と同じなのだ。
ビルを植物が支配し、都市が広がっていたであろう地に海が広がってしまい、人の荷物をすみかにしているポケモンがいる。果てしない年月が必要なはずなのに水面鏡に映る僕の姿は何も変わっていなかった。
何かが起こっている。僕はすでに自然という摂理の歯車から逸脱している。
長い時間考えていた気がする。僕がこれからどうすればいいのかを。
そして進むべき道は決めた。今こんなところでぼっとしてても、何も進展しない。
ボストンバッグの中には、旅のための道具が沢山入っている。テントや鍋などのキャンプセット。ペットボトル。ラジオ。そしてスペアのモンスターボール。
ラジオは周波数を合わせようとしたが、案の定どのチャンネルも繋がらなかった。
そもそも僕以外の人間がいるのかもわからない。
まずはそれを確かめる必要があった。
腰につけていたひとつのモンスターボールに手をかけ、恐る恐る中の相棒に声をかけてみる。
「パルメ。起きてたら、返事をして欲しいな。」
…
「まあ、そりゃそうか。ポケモンにも寿命が…」
そう言いかけた時、ボールの中から光と共にポケモンが現れた。
変わらないその姿に、ああ、パルメも僕と同じか。と考えがよぎった。
「パルメ、おはよう。心配かけてごめんね。」
僕は目の前に浮かぶポケモン、ドラパルトのパルメに触れ、その感触が懐かしい相棒の触り心地であることを確かめる。パルメはただ主人の、アサミヤの掌の感触を確かめ、落ち着いた表情を浮かべていた。
少しして、パルメの背に乗り、空を見上げる。まだ太陽は高く、雲ひとつもない青空が広がり、出発するにはこれ以上ない天気だろう。
「行こうかパルメ。」
1話を読んでいただきありがとうございます。
少女と1匹のドラパルトは、この世界で何を見て、何を思うのか。
ぜひ続きをお待ちください。