朝起きたら、俺はなぜか椅子に拘束されていた。
どこだよ……ここは。
今日はせっかくの休日なのになんてこった。俺のふかふかなベッドと布団を返してくれ!
「ねぇねぇ、
目の前には、仰々しい格好をした女が一人。こいつが俺を縛り上げた犯人だろ絶対。しかも喋り方まで妙に馴れ馴れしい。
「ワタシはビッグマザー。みんなからは女神様って呼ばれてます☆」
女神を名乗る不審者が満面の笑みを浮かべて、自己紹介までし始めた。
人を拉致するような輩が女神なワケないだろ。
「さっそくですが、キミをスカウトしに来ました☆」
「なんのスカウトだよ。っていうかそんな言い方で誤魔化すな。どう考えても拉致だろ」
「キミ、持ってるでしょ『チートスキル』」
なぜ、こいつは俺が持っている特殊能力のことを知っているんだ。
俺だって、この力が何なのか詳しくは知らないけど、便利なのは確かだ。連日、美味い個人店を開拓できているのはそのおかげだろう。これで連続十軒目だ。
おかげで人生は今、最高に楽しい。
「ワタシは女神ですよ、なんでもお見通しです」
まさか、本当に女神!? 異世界転生によくいる奴か?
俺まだ死んでないよ!?
「キミの能力を見込んで、私の手足……いえ、第十翼としてスカウトしに来たというワケです。手荒な真似してごめんね☆」
「やっぱり、異世界転生なのか……!」
第十翼ってのはよくわかんないけど、多分、勇者とかと一緒だろ。ナンバリングが十なのはちょっとだけ気になるけど。
まあ、魔王に倒され続けて十人目の勇者が必要になったとか、そういう感じだよな……恐らく!
俺は内心ワクワクしながらも、あくまで冷静に振舞った。
「わかったよ、俺の力が必要なんだろ。それで、特典とかないワケ?」
「特典……?」
「いや普通あるでしょ? あっ俺の場合はもう持ってるから、ステータス確認できるやつとか、身体能力上がるやつとか!」
「ああ、なるほど……」
合点がいったようで、女神が指を鳴らした。すると、何もない空間からキャリーケースが現れた。
なにそれ、女神の特典ってキャリーケースに入っているの?
「これは社員証。これは通信機。あと制服ね☆」
「???」
女神がキャリーケースから出してきたのは、空白のネームプレートと、薄型のスマートフォンのようなもの。それに、白を基調とした軍服だった。
明らかに勇者の格好じゃなくないか?
それとも、俺が遅れてるだけなの?
「着替えたら『執務室』に行って、ちゃんとリーダーに挨拶するように。それじゃあね、チャオ☆」
チャオ☆――じゃねぇよ!
それにしても『執務室』か……最近の異世界転生モノはずいぶんと現代チックだな。
というか拘束されたままなんだけど!?
いや、待てよ……これは勇者の力を試されてるってことだな。
いいぜ、やってやるよ。
(チートスキル!)
声に出すとあんまり格好良くないので、心の中で叫びながら、強く念じた。
俺の意思に呼応するかのように、縄がひとりでにほどけて千切れていく。
どうやら俺の『チートスキル』が、縄を切るために経年劣化という現象を引き起こしたらしい。
渡された軍服に袖を通すと、サイズがぴったりだった。心なしか動きやすいように感じる。これが特典の力なのだろうか。
ネームプレートを首にぶら下げ、通信機と呼ばれていた端末をポケットにしまうと、俺は意を決して外に出た。
「執務室、近ッ!?」
思わず声に出てしまった。割と大声を出してしまった気がするが、特に反応はないようだ。
間近にあった執務室のドアをノックする。
「どうぞ」
渋くて低い男の声で返事が返ってきた。年を取ったら、俺もこういう渋めの声で格好つけてみたい。
俺はドアノブをそっと回して扉を開け、『執務室』へ入室した。
部屋には男が一人。銀髪オールバックで伊達メガネ、壮年のイケオジがそこに座っていた。
白い軍服姿が異様な威圧感を放っている。俺と同じ恰好をしてるはずなのに、ものすごい貫禄だ。
「君が、留守木透智だな?」
「ああ、そうだけど」
「残念だが本日をもって『留守木透智』という人物は存在しないことになった」
「は?」
「今日から君は、特殊補助班所属、第十翼『トーチ』だ」
えっ、ダサッ……。
特殊補助班はまだいい。なんか主人公が最初に所属する場所っぽいし。
けど、トーチってなんだよ。それチートスキルから取っただろ、確実に!
「さて、創始者の『ビッグマザー』……奴がろくな説明をしてないと仮定して、君には我々の組織のことについて話しておこう」
女神様って呼んでないどころか、奴呼ばわりしてる人が出てきちゃったんだけど、大丈夫これ?
組織の創始者に対する態度じゃないだろ。
「Numbering ∀bnormal phenomena Law keeperS――通称
ナロウズ……なろうズ……おい、それ小説家にな――
「宇宙にはびこるあらゆる異常を調査し、記録する。そして、世界に危険をもたらすものであれば排除し、秩序を維持すること。それが我々の存在意義であり、行動理念だ」
「異常って、例えばどんな」
「君」
「え?」
「君が持っている人ならざる力。常人には備わっていない能力などを我々は『権能』と呼び、異常として扱っている」
俺が……異常?
言われてみれば確かにそうかもしれない。勇者って王様に認められなければ、基本的に異端扱いだもんな。
「私は第一翼『テンセイ』だ。一応、この組織の実質的な責任者……いわゆるリーダーを務めている」
まんまな名前の人きちゃったよ。
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異常事象調査記録
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報告者:(検閲により削除されました)
識別番号:N∀-00
仮称:N∀LS
脅威度:(検閲により削除されました)
概要:
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宇宙全域において確認される異常現象、異常存在およびそれらに関連する事象を調査・記録・管理する組織。
異常採番秩序維持機構『Numbering ∀bnormal phenomena Law keeperS』。
通称――N∀LS。
当該組織そのものが異常存在として認定されている理由については、現在も調査中である。
報告者のコメント:
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N∀LSによる、N∀LS自身を対象とした調査を禁ずる。
また、理由を問うことも禁ずる。
違反者は第一級異常性処分の対象とし、速やかに破棄すること。
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