「はい、確かに受け取ったよ」
スローラから預かった果物とマオに渡されたホログラムペーパーを、フヨに渡す。
フヨの話によると、この果物はなかなか危険な異常物のようで、B級異常性保管室行きらしい。
確か、マオの魔眼解放で映っていた脅威度はB+。なるほど、脅威度は等級で表されていたのか。
「なあフヨ、D級とB+級って何が違うんだ?」
「世界にとっての脅威だって聞いたことがあるよ。D級なら個人、C級なら団体、B級なら国、A級は世界そのもの。B+だから大陸全域とかになるのかな?」
「じゃあ、その果物って結構危ないんじゃないか?」
「そうだね。でも、ここで管理してる分には大丈夫。中身の液体を悪用されると国を一夜で滅ぼせるのは間違いないから、しっかり管理しないとだけど……」
レアアイテムだからといって、必ずしも有用な物ばかりじゃないんだな。
ふと目を下ろすと、ティムが俺とフヨの間をうろうろして、行ったり来たりを繰り返しているのが見えた。
ちょっと退屈させちゃったかな。
「トーチくん、ティムと散歩してきなよ」
「え?」
「にゃあ……!」
ティムが目を輝かせている。
そんなに散歩に行きたかったのか? 結構、一緒に歩いて来ただろ?
「ふふ、ティムも期待してるよ」
「あ、ああ、わかったよフヨ。それじゃあ、ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃい」
俺はティムを肩に乗せると、エレベーターに向かって歩き出した。
「ティム、ボタン押しはお前に任せたぞ」
「にゃお! んごろろろ」
ティムは上機嫌になって、喉を鳴らし始めた。
俺とティムは一日でかなり仲良くなった気がする。
エレベーターに乗ろうとした、その時だった。
廊下の向こうから、一人の男が身体をくねらせながら歩いてくる。
……なんだ、あの人。
長身で、妙に姿勢が良い。
こちらに気付いた瞬間、目を輝かせて変な動きで近寄ってくる。
「あら~? アナタがウワサの新人、トーチちゃん?」
ティムの乗っていない肩に手を置き、顔を覗き込んでくる。
「ちょっとちょっと、イケメンじゃないのぉ♡」
「えっ、なんだよ一体!?」
無駄に距離が近いし、顔がすごく濃い。
典型的なおネエキャラだ。
「お肌も綺麗ねぇ。若いっていいわぁ~」
「は、はあ……」
困惑している俺をよそに、その人は俺の周囲をぐるりと一周する。
「もうティムちゃんを手懐けるなんて、やるわねアナタ」
「そ、それはどうも」
「アタシはハムレット。交・渉・班ぁん、第六翼の
俺がこれまで出会った十翼はなかなかに個性豊かなメンツだったが、これほどまでに強烈な奴に出会うのは初めてだった。
ナニを交渉するんだよ思ったが、聞くと大変なことになりそうなので、心にしまっておこう。
「よ、よろしく……」
「んもう、照れちゃって……♡」
照れてねぇよ。困惑してんだよこっちは。
「そうだわ、トーチちゃん。お腹空いてない?」
「いや、別に……」
「遠慮しなくていいのよぉ。新人ちゃんの歓迎祝いってことで、アタシが腕によりをかけて美味しい物を作ってあ・げ・る♡」
確かにハンバーガーだけだと物足りなさを感じていたけど、付いていったらいったで、なんだか大変なことになりそうだ。
ここは、穏便に断って……。
「にゃむにゃっお、んにゃ」
「あらやだ、ティムちゃんったら、そんなにお腹空いてるの? これはもう急いで準備するしかないわね♡ 今すぐ六階へレッツゴーよぉん♡」
ティム、嘘だよな……?
「さあ、トーチちゃん。はやくこっちへいらっしゃい♡」
「にゃお」
俺とティムは半ば強制的にエレベーターへと押し込まれた。
このまま強引に連れていかれてしまったら、一体どうなってしまうのか。
「さあ、目指すは六階よ。お客様二名をご案内♡」
「シャーッ!」
ハムレットが六階のボタンを押そうとしたとき、ティムがうなり声をあげて威嚇する。
よかった、ティムとの友情は壊れていなかった!
「あら、気に障ること言っちゃったかしら? ごめんね、ティムちゃん」
ハムレットがしゅんとした表情で、ティムに謝罪の意を表す。
ちょっと強引だけど、そんなに悪い人ではなさそうだ。
「ティムはエレベーターのボタンをこうやって、自分で押すのが好きなんだよ」
「にゃ!」
俺はティムの右前足をそっと持ち上げて、いつもの通り肉球をボタンに近づける。
六階のボタンを押せたティムは、満足気な顔をして目を細めた。
「だから、他の人に押されるのが嫌だったんじゃないかな?」
「そうだったのね……。それにしてもすごいわね、トーチちゃん♡ ティムちゃんの気持ちまで理解してるなんて♡」
「ちゃんと理解してあげられているかは、わからないけどな」
「アタシもまだまだね。これじゃ交渉班失格だわ」
なんだかんだで六階まで連れてこられているので、実は高等な交渉術の一つだったのかもしれない。
そんなあるワケないことを考えていると、六階でエレベーターは停止した。
扉の先に広がっている光景は、何かの冗談かと思った。
夜景を思わせるかの藍色に佇むピンク色の建物。ギラつくように光るネオン。でかでかと書かれた『ホテルニューカマー』の文字。やたらと電球の付いた看板。
どう見てもラブホテルです。本当にありがとうございました。
「どう? 素敵でしょう?」
ある意味、素敵ではある。
「『ホテルニューカマー』。ここがアタシのお城よ♡」
「お、お城……」
「そう、お・し・ろ♡ だけど、異常事象の調査に疲れた人を癒すためのお宿でもあるわ。食事もお風呂も完備。もちろん客室も最高級よ♡」
「いや、でも……」
俺はもう一度、建物を見上げる。
ピンク色の壁に反射するネオン。無駄に大きな看板。そして、入口の左右に並ぶ謎のハートマーク。
「どう見ても別の用途にしか見えないんだけど……」
「もう、失礼ねぇ。アタシが丹精込めてデザインしたのよ?」
お前のせいかよ……!
「ちなみに内装もこだわってるの。ほら、こっちよぉん♡」
ハムレットに手を引かれ、建物の中へ連れていかれる。
「やめろー! 俺はまだ、大人の階段を上りたくない!」
「もう何言ってるのよ♡」
ハムレットは俺の叫びなど気にも留めず、扉を開け放った。
───────────────────
異常事象調査記録
───────────────────
報告者:第三翼『フヨ』
識別番号:N∀-3
仮称:第三翼『フヨ』
脅威度:D
概要:
───────────────────
■■国の■■部族の生き残りであり、現在はN∀LS本部の三階を拠点として生活している。
本名は
管理維持班に身を置き、異常事象の観察や保管に注力している。
重度のインドア派で肌も不健康なまでに白いため、時折、第一翼『テンセイ』によって、現地調査に赴かされている。
所持する権能『シークレットエンチャント』は、対象の潜在能力を最大限まで引き出して、身体能力や精神力の向上を図る能力。
ただし、自分自身に使うことはできず、一定期間の経過後に付与されていた効果は消失する。
報告者のコメント:
───────────────────
自分で自分を評価しているみたいで、なんだか恥ずかしいです。
報告書ベースに編集されると、自分で書いた内容なのに、公文書っぽくていいですね。
───────────────────