N∀LS―異常採番秩序維持機構―   作:ひみっち

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第11話「ホテルニューカマー」

「どう、綺麗でしょう♡」

 

 思い描いてしまった空間とはまったく異なる景色を見て、俺は抵抗を止めた。

 馬鹿みたいな外観からは想像も付かない高級ホテルのような、広々としたロビー。

 ピッカピカに磨き上げられた床を照らす、モダンでシックな落ち着いた照明。壁には美しい絵画まで飾られている。

 

「う、嘘だろ……?」

「本当よん♡」

 

 ハムレットが嬉しそうに胸を張る。

 内装にこだわっているというのは本当だったらしい。

 

 だったら、なぜそれを外観に分けてやれなかった……!

 

「突き当りにレストランがあるから、そこで食事にしましょ♡ もちろん、シェフはア・タ・シ♡」

「いいけど……あんた、料理できるのか?」

「もう、失礼しちゃうわね! こう見えてもアタシ、ミシュランの三ツ星レストランで働いてた時期もあったのよ♡」

 

 は? 冗談だろ? というか異世界にもミシュランがあるのかよ!?

 

「うふふ、冗談だと思う?」

 

 心を見透かすかのような台詞を吐くハムレット。

 俺はどう返したらいいか分からず、何も言えなかった。

 

「んにゃーあ……」

 

 困惑する俺をよそに、ティムがあくびをする。

 ありがとうティム、危うくあいつのペースにかき乱されるところだった。

 

「わかった、信じるよ。けど俺も結構、舌にはうるさい方なんだ。あちこち食べ歩いてて経験値を積んでるからね」

「んふ♡ 作り甲斐がありそうね。燃えてきたわ♡」

 

 レストランに入った俺とティムは、ど真ん中に設置された丸テーブルの席に案内された。

 

「イラッシャイマセ。コチラノ席ヘドウゾ」

「いつもありがとうね、ネコちゃん♡」

 

 出迎えてくれたのは、ネコちゃんという直球すぎる名前の猫型給仕ロボ。

 そういや、前の世界だとチェーン店の系列レストランは、ロボットによる給仕が当たり前になってたなぁ……。

 異世界で見ることになるとは思わなかったけど。

 

 白のテーブルクロスは埃ひとつなく清潔で、ちゃんと手入れが行き届いているようだ。向かいに座るティムも気持ちよさそうに毛づくろいしている。

 

 それにしても、異世界のレストランか……。

 憧れのドラゴン肉のステーキやとか食べられるのかな。

 

「はい、これがメニューよ。好きなものを選んでちょうだい♡」

「あ、ああ……ありがとう」

 

 ハムレットから渡されたメニューを恐る恐る開いていく。

 そこには、見たことのある和洋中の料理がたくさん並んでいた。

 なんだ、異世界だからといって、魔物を料理に使うわけじゃないんだな。

 

「シェフのおすすめ気まぐれスペシャル?」

「あら、お目が高いわね。それじゃ、期待して待っててねぇん♡」

「あっ……」

 

 思わず口に出してしまい、メニューが決まってしまった。

 だって、突っ込まずにいられないだろ! 気まぐれなのに、おすすめって!

 既にハムレットの姿はない。

 ティムは相変わらず毛づくろいに勤しんでいた。

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「お待ちどうさま、ジョージア料理の大皿コースよ。たくさん食べてね♡」

 

 既視感がありつつも見たことのない料理が、ハムレットの大きな手で順番に並べられていく。

 舟形の巨大なパン。肉汁の詰まった謎の小袋。骨付き肉の豪快な串焼き。そして、白いソースに浸かった肉らしき料理。

 

 これが異世界の料理か……!

 

 メニューを見て内心ガッカリしていたが、目の前の風変わりな料理の数々に俺の心は躍っていた。

 

「はい、ティムちゃんはこっちの特別メニュー。秋刀魚の素焼きよ♡」

「んにゃ……!」

 

 猫用に小さく切り分けられた秋刀魚の素焼きに、ティムは興奮している。

 異世界にも秋刀魚があるのか……。

 

「さあ、召し上がれ♡」

 

 ハムレットの合図を皮切りに、俺たちは料理に食らいついていく。

 まずは、この舟の形をしたパン。チーズのようなものが乗っかっていて、噛めば噛むほどにまろやかな風味が広がっていった。

 

「う、うまい……!」

「うふふ♡ お口に合ったようで何よりだわ。それはハチャプリっていうチーズパンよ。左から順にヒンカリ、ムツヴァディ、シュクメルリ。どれも味には自信があるわ♡」

 

 聞いたことのない料理名の数々。

 普段ならどんな料理かを聞いているところだが、眼前の料理を前に我慢が効かなくなってきている。

 

 ……ミシュラン三ツ星の腕前は伊達じゃないってことか。

 

 ハムレットの説明を聞き流しながら、俺は夢中になって異世界の料理を貪り食らいつくしていった。

 

「ごちそうさま……。完敗だ。今まで食ったどんな料理よりも格段にうまかった」

「お粗末様でした。嬉しいこと言ってくれるじゃないのぉ♡」

「にゃおん」

 

 ティムもご満悦のようだ。

 

「そうだわ二人とも、今日は泊っていきなさいな♡」

「泊まるって、どこに?」

「いやねぇ、トーチちゃん。ここをどこだと思ってんのよ。ここは『ホテルニューカマー』、宿泊施設の本領発揮よん♡」

 

 ハムレットはウインクしながら、部屋の鍵がたくさんぶら下がっているマスターキーをチラつかせる。

 

 もしかして、ここを切り盛りしてるのか? 一人で!?

 

「あら、201号室の鍵がないわね。あそこがアタシの一番のオススメなのに……。まあいいわ、部屋はこっちで用意しておくからトーチちゃんは温泉に入ってらっしゃい。さあ、ティムちゃんはこっちよ」

 

 ティムが名残惜しそうにこちらを見ているので、手を振ってやった。

 大丈夫だよ、また遊んでやるからな。

 

 しかし、ここって温泉まであるのか……。

 どういう原理なんだろうと一瞬考えたが、異世界だから多分、魔法的な何かだろう。

 

 大浴場行きと書かれた案内に従って、通路を進んでいく。

 エレベーターを降りた先の建物で、さらに地下一階行きのエレベーターに乗るって、どういうことだよ!?

 俺はどうしても、心の中で突っ込まずにはいられなかった。

 

「大浴場はこちらです……?」

 

 大浴場……男湯とか女湯とか書いてないんだけど、大丈夫かな。

 

 暖簾をくぐり、更衣室で服を脱ぎ捨て、大浴場へ入る。

 広々とした浴場から立ち上る熱気に、俺は思わず目を細めた。

 湯気の向こうには露天風呂まで見える。

 

 異世界の温泉……俺の想像では山奥の秘湯なんだけど、まあ、こういうのも悪くない。温泉の効能もちょっと気になる。

 

 異世界転生モノでは定番の病気がなお――

 

「あ、新人ちゃん」

「…………え?」

 

 湯船の中から聞き覚えのある声がした。

 見覚えのある顔が、見覚えのない肉体を晒しながら、こちらをじっと凝視している。

 

「バ、バズレア!?」

 

 自己主張の激しい性格にマッチするかのように、大きな双丘が湯船に浮いていた。

 

 

───────────────────

 異常事象調査記録

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 報告者:第六翼『ハムレット』

 

 識別番号:N∀-16

 

 仮称:ネコちゃん

 

 脅威度:D

 

 概要:

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 ■■社製の人工知能搭載システムが組み込まれた猫型の配膳ロボット。

 

 外観や材質、機能は一般的なファミリーレストランに導入されているものと同一で、相違はなかった。

 

 音声認識で自動判断する際に、同系機器ではありえない自律操作をしたことから、異常物と認定。

 後の調査によって、搭載されている人工知能のシンギュラリティ臨界値が、基準値を大幅に超過していたことがわかっている。

 

 自動判断能力は応対する客を第一に考えた内容となっており、配膳のみならず接客も可能。

 また、人間に対しては特に友好的であり、第六翼『ハムレット』の指示に背くことはなかった。

 

 現在は、N∀LS本部六階の『ホテルニューカマー』で従業員として稼働している。

 

 報告者のコメント:

───────────────────

  頼りになるアタシの大事な仲間よぉん♡

  相棒のタチちゃん共々、ホテルニューカマーの経営に欠かせない人材となっているの。

 

───────────────────

 

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