テンセイっていうからには異世界転生の経験者なんだろうな。
俺が第十翼でこの人が第一翼……。
あれ、これっていわゆる四天王みたいなやつだよな。ってことは、勇者に倒される方じゃん。やばくね。
「特殊補助班は君一人だけの特別な班……その役目は他の十翼のサポート。というわけで、まず君には、他の十翼と顔合わせをしてもらう」
やばい。四天王会議ならぬ十翼会議が開かれる感じじゃん、これって。
「そこで聞き耳を立てているバズレア、入ってきていいぞ」
「ありゃりゃ、バレちった」
執務室に入ってきたのは、薄紫色のパーカー姿の小柄な少女だった。
いきなり第二翼のお出ましか……。
この後、続々と集まってきて、
(我々の『時』を奪ったからには、さぞ重要な案件なのでしょうね)
(けっ、くだらねぇ。御託はもういい、早く戦わせろ!)
(ったく暑苦しいなぁ、もう。先に始末されたいの?)
(フン……)
とかやるんだろうなぁ……。
「やっほー、新人ちゃん。ウチは情報収集班のバズレア、よろしくね。あっ、ちなみに第七翼ね。この肩書き、めっちゃハズいから、ただのバズレア呼びでいいよ」
第二翼じゃないのかよ……!
今のは、第二翼が来る流れだろッ……!
「俺は
調子を狂わされたが、せっかくなので、出来るだけクールに振舞って挨拶をかましてみた。
ダサいと思っていた二つ名も名乗ってみると、意外にしっくりくる。
「ぷっ……アハハ、なにそれウケる!」
ややウケです。
その無邪気な表情を見て、さっきまでの俺の邪推は杞憂にすぎないと感じた。
よくよく考えてみると、この二人は四天王ってガラじゃない。
それにこの組織のトップは、魔王ではなく女神だ。
俺の想像してた異世界転生とあまりに違っているので戸惑っていたが、ようやく腑に落ちた。
ここはギルド的な場所なんだろう。差し詰め、このテンセイって人がギルドマスター的な立ち位置か。
「バズレア、他の十翼は来れそうか?」
「無理。ウチとリーダー以外はみーんな、出払ってる。あっ、フヨくんなら管理棟に居るから探せば会えるかも」
「いや、いい……。仕方がない、トーチ、君に最初の任務を与える」
ついに来たか。異世界転生者としての、記念すべき初クエスト。ゴブリン退治かスライム狩りか、盗賊団の討伐も捨てがたいな。
「最初の任務は、とある樹海に出現するというオークの調査だ」
「オーク……!」
最初の相手としてはかなりの大物だ……。
豚の頭をした巨大な人型モンスター。俺の知っている限りでは全身が緑色で、斧とか持ってたな。
「最初の相手としては荷が重すぎやしないか?」
「問題ない、私も同行する。異常性を発揮したら直ちに伐採すればいい」
正直ほっとした。そうだよな、いくらチートスキルがあるからといって、実戦経験ゼロの俺にとっては初戦の相手がオークなのは流石に厳しい。
でも、今なんて言った? 伐採? 気のせいか。
「面白そう、ウチも一緒に行きたい」
「駄目だ」
「えー、いいじゃん」
「モニタリングなら許そう。お前の好きなUnknownも釣られてやってくるかもしれんぞ」
モニタリング……遠隔でこっちをサポートしてくれるのかな。
Unknownってなんだろう? 未知との遭遇? まさか、宇宙人!?
最近の異世界転生は何でもありだな。
「マジ!? さすが、リーダー!」
あちこち跳ねながら、バズレアは執務室を飛び出していった。
その影を追うように、俺とテンセイも執務室を後にした。
「ところで、その樹海とやらはどうやって行くんだ」
「このエレベーターだ」
「エレベーター!?」
執務室から少しだけ離れたところの開けた通路。
その右側に鎮座するエレベーターが、樹海に行く手段らしい。
「少し特殊な操作が必要な都合上、見ていて変に思うかもしれないが気にしないでくれ。また、途中で何者かが乗ってくるが、これも気にする必要はない」
エレベーターに入るなり、テンセイはまず、四階のボタンを押した。ウイーンというクリアな音が鳴り、あっという間に四階へとたどり着く。
そこで降りる……ことはなかった。
テンセイはそのまま二階のボタンを押した。そして二階に着くと、今度は六階。六階から二階。二階から十階。十階から五階。
目的地に着くたび、同じ動作を淡々と繰り返していく。
……なにをやってるんだ? 今のところ、子供のいたずらにしか思えない。
しかし、五階に着いた直後だった。
チン、と音が鳴り、エレベーターの扉が開く。そこに立っていたのは、赤いドレスに身を包んだ若い女だった。そいつが、いそいそとエレベーターに乗り込んでくる。
……ん? なんかおかしい。
もう一度、女の姿を確認すると、足がないことに気付いた。
おい、これ幽霊とかゴーストとかそういう類だろ。
思わずテンセイの袖を引っ張り、小声で尋ねる。
「な、なあ、あれって」
「気にするな」
有無を言わせぬ一言。女は俺たちの存在など気にも留めず、エレベーターの隅に立っている。
……まあ、いいか。異世界なんだから、幽霊くらいいるだろう。
テンセイが一階のボタンを押すと、なぜか十階に上がっていった。
なんでだよ!?
もはや、女のことはどうでもよくなっていた。
エレベーターの先に広がっていたのは、鬱蒼とした緑の大自然。
十階の、樹海……。
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異常事象調査記録
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報告者:第一翼『テンセイ』
識別番号:N∀-10
仮称:第十翼『トーチ』
脅威度:Ⅾ
概要:
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■■県■■市の■■学園に通っていた男子学生であり、身柄はN∀LS本部が確保している。
本名は、
所持する権能『チートスキル』は、使用者が直面する状況に対して、最適解を得る能力と推測されている。
権能を詳細に記録するには、経過観察が必要。
特殊補助班に所属させた後、第十翼『トーチ』として活動させる予定である。
報告者のコメント:
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N∀LS所属に対する疑念や反発する様子は、今のところ見られない。
なかなか肝がすわっている少年のようだ。
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