薄暗い空の下、俺の視界は、見渡す限りの木々の嵐で塞がっていた。
似たような木がたくさん生えているせいか、どこが入り口で、どこが出口かまったくわからない。
まさしく、樹の海。ここで迷子になったら一巻の終わりだろうな。
だが、ようやく異世界らしくなってきた。さっきまでのSFチックで現代的な雰囲気は吹き飛び、自然豊かなファンタジー世界らしい光景が広がっている。
最初の冒険ってやっぱり森が定番だよな。
「オークはどの辺に居るんだ?」
「調査班からの報告によると、ここから中央に進んだ奥地にあるらしい。かなり特殊な性質で現物を持ち帰ることは叶わなかったようだ」
先行で調査していたギルドメンバーが居たのか。けど、オークを討伐できなかった……。
なかなか強そうだな。気をよく引き締めないと!
俺はテンセイを見失わないように、よく目を凝らして付いていく。
さすがに置いていかれるなんてことはないだろうが、この人の猪突猛進的な歩き方を見ていると不安になってくる。
オークが迫っているというのにまったく減速しない。ギルドマスター……恐るべし。
「着いたぞ」
「……ッ!」
辿り着いたのは拓けた空地。唯一変わっている点といえば、ナラの木が一本生えている程度だ。
オークの姿は今のところ、見当たらない。
テンセイが腰の鞘から刀を引き抜き、前方に構えを取る――来たか。
(チートスキル!)
俺の願いは、一振りのロングソードという形で果たされた。テンセイにならって構える。
「ほう、気合充分のようだな」
「ああ、バックアップは任せろ」
テンセイがナラの木を切り払う。地面に叩きつけられるナラの木の半身。
その合図を皮切りにオークが……来ないぞ?
静まり返った樹海。
木々の隙間を吹き抜ける風だけが通り過ぎていく。
オークの奴、相当用心深い性格をしているな。
「来ないな、オーク」
「何を言っている? オークはあれだぞ」
「は?」
テンセイが指差した先には、斬られたはずのナラの木。
切り株から新しい芽が伸び、凄まじいスピードで再生している。
――ザザッとノイズのような音が通信機から鳴り響いたと思うと、目の前にホログラムモニターが映し出された。
『新人ちゃんwナラの木はオークww英語でオークって意味だよwww』
そこに映っていたのは、第七翼『バズレア』。ポテチの袋を抱えて大笑いしている。
「……オークってそっちのことだったのかよォォォ!」
「君は何を想像していたんだ」
『めっちゃウケる』
紛らわしいどころの話じゃない。最初に木って言っといてくれよ!
っていうかこの女、今までわざと黙ってただろ!
「ともかくあの木の異常性は分かってくれたと思う。問題はどう持ち運ぶか、だ」
テンセイが期待に満ちた眼差しで、こちらを見つめている。
早く能力を使えということだろう。
言われなくても、やってやるさ。
ところで、このロングソードはなんだい、チートスキル君?
俺がオーク戦を想定してしまったせいか? これでは問題解決にならない気がする。
それにしても、どうして剣なんだろ。確かに剣が一番カッコいいし、初戦であんまり派手な武器は持ちたくないもんな。
……まさかとは思うが、この能力、俺の考えたことを読んでるのか?
だったらもう一回、試してみるか!
「チートスキル!」
念じるだけでは芸がないので、俺はロングソードを天に掲げて仰々しく叫んだ。
どうだ、テンセイ、バズレア。カッコいいだろ?
その瞬間、轟音と共に一陣の風が通る。
木々を蹴散らすように現れたそれは――無人のトラックだった。
「……その発想はなかった」
『ウチも』
俺もだよ!
………………
…………
……
「木を丸ごと持っていくという柔軟な考え。そしてそれを実現可能にする権能、か。やはり、君は十翼に必要な人間のようだ」
トラックを運転するテンセイがやたらと褒めてくる。
どうやら、俺のチートスキルは想像以上にすごいらしい。
異世界転生初日としては、まずまずの滑り出しだ。
エレベーター付近までたどり着いた俺たちは、トラックから再生するオークを下ろして運び出した。
入口の扉は来た時と同じく開きっぱなし。赤いドレスの女もそこに留まったままだった。
『ねぇリーダー、新人ちゃん。これ、一体どうやって運ぶの?』
確かに。無意識に考えないようにしてたけど、どうやってエレベーターに押し込むんだよ!
「問題ない、私に考えがある。先にエレベーターへ向かってくれ。扉をいつでも閉められるように」
テンセイが眼鏡の縁をくいと持ち上げる。
……嫌な予感しかしない。
「はっ!」
テンセイは再び刀を抜いた。そして、オークを一刀両断――ではなく、根元から伐採する。
無残な切り株を掴むと、凄まじいスピードでこちらへ向かって走ってきた。
「私が入ったらすぐに扉を締めろー!」
「力技じゃねぇか!」
切り株はすでに再生を始めていた。
テンセイがエレベーターに乗ったことを確認し、開閉ボタンを押下する。
すると、ひとりでにエレベーターは降下し出す。
恐る恐る横目でテンセイを見ると、オークが再生する度に刀で切断していた。
「やっぱり、力技じゃねぇか!」
しかも刀を振るうたび、赤いドレスの女に当たりそうになっている。
めっちゃ危ない!
『リーダー、フヨちゃんに連絡しといた!』
「恩に着る」
エレベーターは三階で停止した。扉が開いた先の案内板には、管理棟の文字。
走るテンセイを追って、エレベーターを後にする。
心なしか、赤いドレスの女が縮こまっていた。
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異常事象調査記録
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報告者:第七翼『バズレア』
識別番号:N∀-13
仮称:異世界に繋がるエレベーター
脅威度:Ⅾ
概要:
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N∀LS本部に配置されている押しボタン式のエレベーター。
一階から十階までの同フロアに出入口が設置されており、最大十名までの人員を載せられる仕様となっている。
第七翼『バズレア』が以下の操作を行ったことで、特定条件下で異常性が発揮されることを確認した。
(検閲により削除されました)
前述の操作による異常性の再現を行う際には、最低一名以上の十翼の承認が必要。
報告者のコメント:
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噂が本当だとは思わないじゃん!?
この裏技、他のエレベーターでも出来るのかな?
誰か試してみてよ。
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