N∀LS―異常採番秩序維持機構―   作:ひみっち

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第3話「オーク」

 

 薄暗い空の下、俺の視界は、見渡す限りの木々の嵐で塞がっていた。

 似たような木がたくさん生えているせいか、どこが入り口で、どこが出口かまったくわからない。

 まさしく、樹の海。ここで迷子になったら一巻の終わりだろうな。

 

 だが、ようやく異世界らしくなってきた。さっきまでのSFチックで現代的な雰囲気は吹き飛び、自然豊かなファンタジー世界らしい光景が広がっている。

 最初の冒険ってやっぱり森が定番だよな。

 

「オークはどの辺に居るんだ?」

「調査班からの報告によると、ここから中央に進んだ奥地にあるらしい。かなり特殊な性質で現物を持ち帰ることは叶わなかったようだ」

 

 先行で調査していたギルドメンバーが居たのか。けど、オークを討伐できなかった……。

 なかなか強そうだな。気をよく引き締めないと!

 

 俺はテンセイを見失わないように、よく目を凝らして付いていく。

 さすがに置いていかれるなんてことはないだろうが、この人の猪突猛進的な歩き方を見ていると不安になってくる。

 オークが迫っているというのにまったく減速しない。ギルドマスター……恐るべし。

 

「着いたぞ」

「……ッ!」

 

 辿り着いたのは拓けた空地。唯一変わっている点といえば、ナラの木が一本生えている程度だ。

 オークの姿は今のところ、見当たらない。

 

 テンセイが腰の鞘から刀を引き抜き、前方に構えを取る――来たか。

 

(チートスキル!)

 

 俺の願いは、一振りのロングソードという形で果たされた。テンセイにならって構える。

 

「ほう、気合充分のようだな」

「ああ、バックアップは任せろ」

 

 テンセイがナラの木を切り払う。地面に叩きつけられるナラの木の半身。

 その合図を皮切りにオークが……来ないぞ?

 

 静まり返った樹海。

 木々の隙間を吹き抜ける風だけが通り過ぎていく。

 

 オークの奴、相当用心深い性格をしているな。

 

「来ないな、オーク」

「何を言っている? オークはあれだぞ」

「は?」

 

 テンセイが指差した先には、斬られたはずのナラの木。

 切り株から新しい芽が伸び、凄まじいスピードで再生している。

 

 ――ザザッとノイズのような音が通信機から鳴り響いたと思うと、目の前にホログラムモニターが映し出された。

 

『新人ちゃんwナラの木はオークww英語でオークって意味だよwww』

 

 そこに映っていたのは、第七翼『バズレア』。ポテチの袋を抱えて大笑いしている。

 

「……オークってそっちのことだったのかよォォォ!」

「君は何を想像していたんだ」

 

『めっちゃウケる』

 

 紛らわしいどころの話じゃない。最初に木って言っといてくれよ!

 っていうかこの女、今までわざと黙ってただろ!

 

「ともかくあの木の異常性は分かってくれたと思う。問題はどう持ち運ぶか、だ」

 

 テンセイが期待に満ちた眼差しで、こちらを見つめている。

 早く能力を使えということだろう。

 言われなくても、やってやるさ。

 

 ところで、このロングソードはなんだい、チートスキル君?

 俺がオーク戦を想定してしまったせいか? これでは問題解決にならない気がする。

 

 それにしても、どうして剣なんだろ。確かに剣が一番カッコいいし、初戦であんまり派手な武器は持ちたくないもんな。

 ……まさかとは思うが、この能力、俺の考えたことを読んでるのか?

 

 だったらもう一回、試してみるか!

 

「チートスキル!」

 

 念じるだけでは芸がないので、俺はロングソードを天に掲げて仰々しく叫んだ。

 どうだ、テンセイ、バズレア。カッコいいだろ?

 

 その瞬間、轟音と共に一陣の風が通る。

 木々を蹴散らすように現れたそれは――無人のトラックだった。

 

「……その発想はなかった」

 

『ウチも』

 

 俺もだよ!

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

「木を丸ごと持っていくという柔軟な考え。そしてそれを実現可能にする権能、か。やはり、君は十翼に必要な人間のようだ」

 

 トラックを運転するテンセイがやたらと褒めてくる。

 どうやら、俺のチートスキルは想像以上にすごいらしい。

 異世界転生初日としては、まずまずの滑り出しだ。

 

 エレベーター付近までたどり着いた俺たちは、トラックから再生するオークを下ろして運び出した。

 入口の扉は来た時と同じく開きっぱなし。赤いドレスの女もそこに留まったままだった。

 

『ねぇリーダー、新人ちゃん。これ、一体どうやって運ぶの?』

 

 確かに。無意識に考えないようにしてたけど、どうやってエレベーターに押し込むんだよ!

 

「問題ない、私に考えがある。先にエレベーターへ向かってくれ。扉をいつでも閉められるように」

 

 テンセイが眼鏡の縁をくいと持ち上げる。

 ……嫌な予感しかしない。

 

「はっ!」

 

 テンセイは再び刀を抜いた。そして、オークを一刀両断――ではなく、根元から伐採する。

 無残な切り株を掴むと、凄まじいスピードでこちらへ向かって走ってきた。

 

「私が入ったらすぐに扉を締めろー!」

「力技じゃねぇか!」

 

 切り株はすでに再生を始めていた。

 テンセイがエレベーターに乗ったことを確認し、開閉ボタンを押下する。

 すると、ひとりでにエレベーターは降下し出す。

 恐る恐る横目でテンセイを見ると、オークが再生する度に刀で切断していた。

 

「やっぱり、力技じゃねぇか!」

 

 しかも刀を振るうたび、赤いドレスの女に当たりそうになっている。

 めっちゃ危ない!

 

『リーダー、フヨちゃんに連絡しといた!』

 

「恩に着る」

 

 エレベーターは三階で停止した。扉が開いた先の案内板には、管理棟の文字。

 走るテンセイを追って、エレベーターを後にする。

 

 心なしか、赤いドレスの女が縮こまっていた。

 

 

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 異常事象調査記録

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 報告者:第七翼『バズレア』

 

 識別番号:N∀-13

 

 仮称:異世界に繋がるエレベーター

 

 脅威度:Ⅾ

 

 概要:

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 N∀LS本部に配置されている押しボタン式のエレベーター。

 一階から十階までの同フロアに出入口が設置されており、最大十名までの人員を載せられる仕様となっている。

 

 第七翼『バズレア』が以下の操作を行ったことで、特定条件下で異常性が発揮されることを確認した。

 

 (検閲により削除されました)

 

 前述の操作による異常性の再現を行う際には、最低一名以上の十翼の承認が必要。

 

 報告者のコメント:

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  噂が本当だとは思わないじゃん!?

  この裏技、他のエレベーターでも出来るのかな?

  誰か試してみてよ。

 

───────────────────

 

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