フヨの話では管理棟にはAからDまでの四つの区画があり、今ここにいるD級異常性保管室は最も危険度が低いらしい。
俺には難しい話が多くていまいち理解できなかったが、要するに大量のレアアイテムが保管されているということだろう。
「まず、最初はなんといってもこれ、XDプリンター!」
そう言ってフヨが横にスライドしながら、中央に鎮座する物体へ掌を向ける。
どこかのテレフォンショッピングの商品紹介を思わせる動きだったので、思わずニヤけてしまった。
現れたのは、ガラス張りの巨大な箱。
その大きさは、あのエレベーターを思わせるほどだ。
内部にはカメラやドリル、クレーンゲームでよく見るアームなどの器具が取り付けられている。
一体何をプリントするというのだろう。
「3Dプリンターって聞いたことある?」
「あるよ。小物とか模型とかフィギュアを作れる機械だろ。それを聞くってことはつまり……」
「トーチくん、するどいね。そう、これは3Dプリンターの全次元版なんだ!」
フヨに褒められてしまった。ちょっとうれしい。
全次元版とか想像もつかないが、四次元は時間が関係するって何かの本で読んだことがある。
ということはつまり……タイムマシンだって作れるってワケだ。
とんでもない技術だな……さすがは異世界。
「実際に見てもらった方が早いよね。ちょっとそれ貸してくれる?」
「あ、ああ」
フヨに未記入のネームプレートを渡す。
そういえば女神に貰った社員証、名前入れるのをすっかり忘れていた。
バカ真面目に首からぶら下げてたけど、名無しだったら意味ないよな。
どうせなら、名入れは恰好よく決めたいよなぁ。
――プシュゥゥゥと音を立てて、箱が小刻みに揺れ始める。
おっ、始まったのか?
騒がしい駆動音と共に、ガラス越しに見える機械たちがせわしなく何かを作り出して……いかなかった。
あれ?
「はい、これ。こ、個性的な社員証だね……」
返ってきたネームプレートは漆黒で覆われ、上段は銀色の文字で『魔王を討つ最後の翼』。
下段には金色の文字で『第十翼†トーチ†』と記載されていた。
『魔王を討つ最後の翼』か。
俺も似たような二つ名を付けようと思っていたが……お前のセンス、認めざるを得ないようだ。
やるな、XDプリンター。
「トーチくんはこういう感じのが好きなんだね」
「ああ気に入ったよ、XDプリンター。ちなみに今のは何次元の動きだったんだ?」
「そこは僕にもわからないよ。でも……なんとなく、無意識が支配する次元に反応したんじゃないかな」
無意識……つまり、自分でも気付いていない欲しいものが作れるってことか。
思ったことが実現できる俺の『チートスキル』と似ているようで、正反対。
なんてやつだ、XDプリンター。
だが、箱の内部は広く見積もっても一畳半程度。
「トラックをも召喚できる俺の勝ちだな……」
「……トーチくん、何と戦ってるの?」
しまった。声に出ていた。クソ恥ずかしい!
「なんでもない……気にしないでくれ」
なんでもあるだろ、と心の中で自分にツッコミを入れる。
XDプリンターなら、こんなとき何を生み出すのだろうか。
ちなみにチートスキルくんは飴玉をくれた。
飴でも舐めて落ち着けってことか? ふざけすぎだろ。
「お次はこれ、自炊販売機!」
あるのか異世界にも……自動販売機!
……いや、今、『自炊』って言わなかったか?
俺の目の前には、どう見ても自動販売機としか思えない機械が鎮座している。
やっぱり聞き間違いだったか?
そう思って、中央のタッチパネルに目を向けると『作りたい料理を書いてください』と表示されている。
……自炊販売機で合っているようだ。
だが、もしこれを使って料理が出来ても、それは自炊じゃなくて他炊じゃないか?
喉から出る言葉をぐっとこらえて、俺はじっと自炊販売機を眺めていた。
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異常事象調査記録
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報告者:第三翼『フヨ』
識別番号:N∀-30
仮称:XDプリンター
脅威度:D
概要:
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内部の可視が可能なガラスで覆われた巨大な箱。全長は縦170cm × 横85cm × 奥行き90cm。
3Dプリンターに類似した構造を持ち、同様に立体物の製作が可能。
入力となるデータはデジタルデータに限らず、製作を依頼する人物の思考や無意識の欲求に従って造形物が出力されている模様。
コンピューターなどの精密機械の他、D級の異常性を発揮する物体まで作成できることがわかっているため、濫用は禁止とする。
現在は第三翼『フヨ』の監査の元、利用が許可されている。
なお、材料となる樹脂や金属などがどこから補充されているかは一切不明である。
報告者のコメント:
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作りたいものがあったら、僕を訪ねてきてください。
でも、異常性を発揮するものは、なかなか許可が下りないみたいです。
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