N∀LS―異常採番秩序維持機構―   作:ひみっち

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第6話「自炊販売機」

 

「トーチくん、今、お腹空いてる?」

「ああ、割と」

 

 そういえば拉致られてから、今日はなにも食っていない。

 さっき飴玉よこしたのって、そういうことか? チートスキルくんよ。

 

「何か食べたいもの……ある?」

「いきなり言われてもな……」

「あっ、そ、そうだよね、ごめん」

 

 やばい、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。心に来てしまう!

 

「ハ、ハンバーガー!」

「え?」

「ハンバーガーが食いたい」

 

 我ながら、もっと異世界っぽい食べ物にしておけよと思ったが、別になんでもよかったのでこれでいい。

 異世界でもパンと肉さえあれば、ハンバーガーを作れるだろう。

 この自炊販売機が作ってくれるのかな?

 

「はんばーがー? わかった、ちょっと待っててね」

 

 フヨは、自販機の中央に設置されているタッチパネルを指でなぞり、でっかく『はんばーがー』と描いてみせる。

 機械音声で『受理されました』とアナウンスが流れると、画面の文字が瞬時に整形されたカタカナの『ハンバーガー』に書き換わった。

 

 そうか、ここって異世界だから、フヨはハンバーガーを知らないのか!

 ならば俺が教えてやろう。

 現代日本の偉大な食文化を――!

 

 そう意気込んでいる俺に対して、機械音声が淡々と解説し始める。

 

『ハンバーガーとは、牛ひき肉を丸く平らに成形して焼いたビーフパティと野菜などをパンで挟んだ軽食の一種です。挟む材料を変更することで、様々な味が楽しめる――』

 

 おい、俺の出番を取るなよ。しかもなんで俺より詳しそうな解説なんだ。

 

「へえ……ハンバーガーってそういう料理なんだ」

 

 ここでハンバーガーに関するうんちくを垂れて、やや賢そうな素振りを見せる計画がすべて台無しとなった。

 やってくれたな、自炊販売機。

 

 内部がどうなっているのかはさっぱり不明だが、先ほどからガコガコと音がしている。

 どうやら解説の合間に調理を進めているらしい。

 

 肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。

 そろそろだろうか。

 

「トーチくん、ピクルスってなに?」

「きゅうりの酢漬けだよ、個人的にはハンバーガーに欠かせないやつさ。嫌いな人も結構いるけどね」

「ありがとう。じゃあ、これでいいね」

 

 フヨの質問の意図がわからず即答してしまったが、タッチパネルを見てようやく理解した。

 

 一丁前に、ピクルス抜きを注文できるようになってやがる……!

 

 フヨが選んだのは、ピクルスの入っている通常版だった。

 俺の回答を聞いて、判断してくれたのだろう。

 

 しばらくすると、自炊販売機の内部から軽快な電子音が鳴った。

 

『調理が完了しました』

 

 ガコンという音が鳴り、下部に設置された取り出し口から、紙に包まれた何かが滑り出してくる。

 

「トーチくんできたよ、ハンバーガー!」

 

 包み紙にくるまれたハンバーガーを取り出し、フヨは今日一番の笑顔を返してくれた。

 

 開かれた包み紙からは、見慣れたハンバーガーのフォルムが顔を出している。

 焼きたてのパンに挟まれた、分厚いパティ。その下にはレタスとトマト。極めつけに、とろっとろのチーズと緑色のピクルス。

 

 そうそう、これだよこれ。

 

「これがハンバーガー、なんだ……」

 

 フヨが目を輝かせている。もちろん、俺の目も輝いていた。

 視線に気づいたフヨは、少しだけ恥ずかしそうにハンバーガーの包み紙をこちらに向けてくる。

 

「俺が食べていいのか?」

「もちろん。トーチくんが食べたいって言ったんだから」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 俺はハンバーガーを手に取り、大口を開けて勢いよくかぶりついた。

 

「……うまい」

 

 思わず声が漏れる。

 出来立てのハンバーガーって、こんなにうまいものだったのか。

 

 焼きたてのバンズのふっくら具合は言うまでもなく、肉汁たっぷりなパティと相性抜群だった。

 シャキシャキとしたレタスの歯ごたえと、トマトの爽やかな酸味がいい味を出している。

 アクセントのピクルスも、主役に負けじと存在感を放っている。

 

 今まで食べたハンバーガーの中で、一番美味いかもしれない。

 見直したぞ、自炊販売機。

 

「フヨも食べてみろよ」

「えっ、いいの?」

「ハンバーガー、はじめてなんだろ?」

「う、うん……」

 

 フヨは少し戸惑いながらハンバーガーを受け取り、両手で包み紙ごと持ち上げた。

 しばらくじっと眺めていたが、俺の動きに追従するかのようにパクッとかじりついた。

 

 かわいい。

 思わず顔がほころんでしまう。

 

 ……あれ、そういえばこれって、間接キスじゃね?

 さっきの微妙な間はもしかして、そういうこと!?

 

 気づいた瞬間、もうダメだった。顔が熱い、半端なく。

 落ち着け。落ち着くんだ、トーチ。

 チートスキルくんもきっと「気にされてないぞ?」と言ってくるに違いない。

 

「これ、すごくおいしいね」

「あ、ああ……そうだな」

 

 ほら、変なこと考えてるから声が裏返りそうになっている!

 

「ありがとう、おいしかった!」

 

 満面の笑みでフヨが食べかけのハンバーガーを差し出してきた。

 まだ半分以上残っている。

 つまり、これを食べることで俺も当然、間接的に……。

 

「トーチくん?」

「な、なんでもない……」

 

 フヨからハンバーガーを受け取ると、俺は無心でそれを食べた。

 最初の一口よりも断然、うまく感じるのはきっと気のせいだろう。

 

 余計なことは何も考えず、俺は残りのハンバーガーを一心不乱に貪り続けた。

 

 

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 異常事象調査記録

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 報告者:第三翼『フヨ』

 

 識別番号:N∀-31

 

 仮称:自炊販売機

 

 脅威度:D

 

 概要:

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 標準的な成人男性と同じくらいの高さを持つ、箱型の機械。

 

 中央にタッチパネルが設置されており、初期状態では『作りたい料理を書いてください』というメッセージが常に表示されている。

 

 タッチパネルに触れることでメッセージは消失し、フリーハンドによる文字入力が可能となる。

 

 この時、一定時間入力を行わないことにより、初期状態へと戻ることが確認されている。

 

 入力された文字の全文、または一部に料理の名称が含まれていると、『受理されました』という音声アナウンスと共にメッセージが料理名に固定される。

 

 その後、表示されている料理名と同一の物体が取り出し口に投函され、初期状態に戻る。

 

 

 報告者のコメント:

───────────────────

  美味しいものが食べたい人は、ぜひ試してみてください。

  僕も管理棟に引きこもってばっかりだから、助かってます。

 

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