「トーチくん、今、お腹空いてる?」
「ああ、割と」
そういえば拉致られてから、今日はなにも食っていない。
さっき飴玉よこしたのって、そういうことか? チートスキルくんよ。
「何か食べたいもの……ある?」
「いきなり言われてもな……」
「あっ、そ、そうだよね、ごめん」
やばい、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。心に来てしまう!
「ハ、ハンバーガー!」
「え?」
「ハンバーガーが食いたい」
我ながら、もっと異世界っぽい食べ物にしておけよと思ったが、別になんでもよかったのでこれでいい。
異世界でもパンと肉さえあれば、ハンバーガーを作れるだろう。
この自炊販売機が作ってくれるのかな?
「はんばーがー? わかった、ちょっと待っててね」
フヨは、自販機の中央に設置されているタッチパネルを指でなぞり、でっかく『はんばーがー』と描いてみせる。
機械音声で『受理されました』とアナウンスが流れると、画面の文字が瞬時に整形されたカタカナの『ハンバーガー』に書き換わった。
そうか、ここって異世界だから、フヨはハンバーガーを知らないのか!
ならば俺が教えてやろう。
現代日本の偉大な食文化を――!
そう意気込んでいる俺に対して、機械音声が淡々と解説し始める。
『ハンバーガーとは、牛ひき肉を丸く平らに成形して焼いたビーフパティと野菜などをパンで挟んだ軽食の一種です。挟む材料を変更することで、様々な味が楽しめる――』
おい、俺の出番を取るなよ。しかもなんで俺より詳しそうな解説なんだ。
「へえ……ハンバーガーってそういう料理なんだ」
ここでハンバーガーに関するうんちくを垂れて、やや賢そうな素振りを見せる計画がすべて台無しとなった。
やってくれたな、自炊販売機。
内部がどうなっているのかはさっぱり不明だが、先ほどからガコガコと音がしている。
どうやら解説の合間に調理を進めているらしい。
肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。
そろそろだろうか。
「トーチくん、ピクルスってなに?」
「きゅうりの酢漬けだよ、個人的にはハンバーガーに欠かせないやつさ。嫌いな人も結構いるけどね」
「ありがとう。じゃあ、これでいいね」
フヨの質問の意図がわからず即答してしまったが、タッチパネルを見てようやく理解した。
一丁前に、ピクルス抜きを注文できるようになってやがる……!
フヨが選んだのは、ピクルスの入っている通常版だった。
俺の回答を聞いて、判断してくれたのだろう。
しばらくすると、自炊販売機の内部から軽快な電子音が鳴った。
『調理が完了しました』
ガコンという音が鳴り、下部に設置された取り出し口から、紙に包まれた何かが滑り出してくる。
「トーチくんできたよ、ハンバーガー!」
包み紙にくるまれたハンバーガーを取り出し、フヨは今日一番の笑顔を返してくれた。
開かれた包み紙からは、見慣れたハンバーガーのフォルムが顔を出している。
焼きたてのパンに挟まれた、分厚いパティ。その下にはレタスとトマト。極めつけに、とろっとろのチーズと緑色のピクルス。
そうそう、これだよこれ。
「これがハンバーガー、なんだ……」
フヨが目を輝かせている。もちろん、俺の目も輝いていた。
視線に気づいたフヨは、少しだけ恥ずかしそうにハンバーガーの包み紙をこちらに向けてくる。
「俺が食べていいのか?」
「もちろん。トーチくんが食べたいって言ったんだから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺はハンバーガーを手に取り、大口を開けて勢いよくかぶりついた。
「……うまい」
思わず声が漏れる。
出来立てのハンバーガーって、こんなにうまいものだったのか。
焼きたてのバンズのふっくら具合は言うまでもなく、肉汁たっぷりなパティと相性抜群だった。
シャキシャキとしたレタスの歯ごたえと、トマトの爽やかな酸味がいい味を出している。
アクセントのピクルスも、主役に負けじと存在感を放っている。
今まで食べたハンバーガーの中で、一番美味いかもしれない。
見直したぞ、自炊販売機。
「フヨも食べてみろよ」
「えっ、いいの?」
「ハンバーガー、はじめてなんだろ?」
「う、うん……」
フヨは少し戸惑いながらハンバーガーを受け取り、両手で包み紙ごと持ち上げた。
しばらくじっと眺めていたが、俺の動きに追従するかのようにパクッとかじりついた。
かわいい。
思わず顔がほころんでしまう。
……あれ、そういえばこれって、間接キスじゃね?
さっきの微妙な間はもしかして、そういうこと!?
気づいた瞬間、もうダメだった。顔が熱い、半端なく。
落ち着け。落ち着くんだ、トーチ。
チートスキルくんもきっと「気にされてないぞ?」と言ってくるに違いない。
「これ、すごくおいしいね」
「あ、ああ……そうだな」
ほら、変なこと考えてるから声が裏返りそうになっている!
「ありがとう、おいしかった!」
満面の笑みでフヨが食べかけのハンバーガーを差し出してきた。
まだ半分以上残っている。
つまり、これを食べることで俺も当然、間接的に……。
「トーチくん?」
「な、なんでもない……」
フヨからハンバーガーを受け取ると、俺は無心でそれを食べた。
最初の一口よりも断然、うまく感じるのはきっと気のせいだろう。
余計なことは何も考えず、俺は残りのハンバーガーを一心不乱に貪り続けた。
───────────────────
異常事象調査記録
───────────────────
報告者:第三翼『フヨ』
識別番号:N∀-31
仮称:自炊販売機
脅威度:D
概要:
───────────────────
標準的な成人男性と同じくらいの高さを持つ、箱型の機械。
中央にタッチパネルが設置されており、初期状態では『作りたい料理を書いてください』というメッセージが常に表示されている。
タッチパネルに触れることでメッセージは消失し、フリーハンドによる文字入力が可能となる。
この時、一定時間入力を行わないことにより、初期状態へと戻ることが確認されている。
入力された文字の全文、または一部に料理の名称が含まれていると、『受理されました』という音声アナウンスと共にメッセージが料理名に固定される。
その後、表示されている料理名と同一の物体が取り出し口に投函され、初期状態に戻る。
報告者のコメント:
───────────────────
美味しいものが食べたい人は、ぜひ試してみてください。
僕も管理棟に引きこもってばっかりだから、助かってます。
───────────────────