豆の上で鎌は躍る   作:あるてみす@二次創作

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3.銀河の掃き溜め

 拾ったコムリンクの通信履歴を解析した。

 先程のヒューマンの男が所属しているのは、カイドー商会に物資を運ぶ輸送船だった。だとすれば、デンタ豆の件にカイドー商会が関わっている可能性が高いが、無闇に襲撃しても反撃されるだけだし、従業員の一人がキューゾに連れていかれて戻ってこなかったことが知られれば警戒されているだろう。

 となれば、カイドー商会の実態を探り、その上で弱点を見つけ出して叩くのが確実だ。そこで、エンボは行き先を変更した。銀河の物流に関する情報を得るためには、その筋の関係者に聞くのが手っ取り早い。

 アウターリムの悪党の巣窟、タトゥイーンに行けば銀河の表と裏に通じた商人が見つかるはずだ。あの星の気候はキューゾには不向きだが、そんなことをいちいち気にしていては旅は出来ない。

「タトゥイーンに向かう」

 これまでの経緯を説明した上でエンボが目的地を告げると、ナゴンはカイボを見やった。

「カイボの故郷か」

「そうでもある」

「だが、タトゥイーンはハット・カルテルの御膝元じゃなかったか?」

「少し前まではそうだった。今は違う」

 エンボは床に伏せているカイボの背中をするりと撫でてから、操縦席に座った。ぐるりと回転しながら上昇し、コクピットに収まってから、ハイパードライブの行き先をタトゥイーンに設定した。

 そういえば、キャド・ベインはタトゥイーンに向かったそうだが、その後はどうなったのだろうか。エンボを上回る実力の賞金稼ぎで、早撃ちの名手にして冷酷な犯罪者だった。パイク・シンジケートに雇われてタトゥイーンに行ったが、その後、キャド・ベインの行方は解らない。

「死んだのか」

 まさか、あのキャド・ベインが。エンボはスイッチを押す手が止まったが、賞金稼ぎの消息が知れなくなったということは、それ以外の結末は有り得ない。それに、どれほど強かろうとも死ぬ時は死ぬ。もちろん、エンボも例外ではない。

 それが賞金稼ぎだ。

 

 

 砂漠の星、タトゥイーン。

 モス・アイズリーの宇宙港にギロチンを着陸させ、エンボはカイボとナゴンを伴って外に出たが、砂混じりの乾き切った風が吹き付けてきた。それだけで呼吸用マスクのフィルターが目詰まりを起こしそうになるが、耐えるしかない。

「こいつはひどい」

 ナゴンが円盤型のヘルメットを下げると、エンボは二つの太陽の日差しを除けるためにマントを羽織る。

「日差しにも気を付けろ。水分を持っていかれる」

「カイボは……」

 ナゴンがカイボに目をやると、暑さと乾燥に辟易しているキューゾとは対照的に元気そのものだった。アヌーバの生息地なのだから当然だ。

「カイボ」

 エンボが諫めると、落ち着きなく歩き回っていたカイボは大人しくなった。ナゴンはカイボの頭を何の気なしに撫でると、ばさばさと砂が落ちた。

「この星に来てから一時間も経っていないのに?」

「カイボが抱え込んだ砂を落とすのは大変だが、換毛期と似たようなものだ」

 エンボはため息交じりに零したが、アヌーバの手入れに時間を取られることにも慣れてきた。それに、手を掛けたら掛けた分、カイボはエンボに信頼を寄せてくれる。最初のうちは懐かせすぎないように気を付けていたが、今となってはどうでもよくなった。

「まずは大名のツラを拝みに行く。相手が誰であれ、筋を通さないと面倒なことになる」

 エンボが歩き出すと、ナゴンはそれに続く。

「大名はタトゥイーンにもいるのか。ファトロングと似たようなものか?」

「少し違う。ファトロングの大名は領主と同義だが、タトゥイーンの大名は犯罪王だ」

 エンボの簡潔な説明に、ナゴンはぎょっとしながらも足を止めなかった。すっかり腹を括っている。それでこそキューゾの男だ。エンボは僅かに気を良くしながらも、それを表には出さずに足を進めた。

 ハットの宮殿へと。

 

 

 かつて、ここは密教の寺院だったそうだ。

 そのせいか、ハットの宮殿にはそこかしこに宗教的な意味合いがありそうな彫刻や装飾が施されているが、長らく居座っていたハット達にはどうでもよかったらしく、色褪せて風化している。

 エンボとカイボとナゴンは見張りのドロイドに用件を告げ、中に入ろうとすると、オレンジ色の液体の中に脳髄が浮いた球体をぶら下げた、蜘蛛に似た奇妙なドロイドが走ってきた。動きに合わせて髄液のような液体が揺れ、脳髄が泳いだ。

「うわっ」

 ナゴンが身じろぐと、エンボが諫めた。

「気にするな。アレは何もしない」

「外の星には変なのがいるんだな……」

 ナゴンは奇妙な蜘蛛型ドロイドが通り過ぎるのを待ってから、エンボに続いた。砂の積もった階段を下りていくと、獣の唸り声が地下から響いた。

 そういえばランコアを飼っていると聞いたな、とエンボは思い出したが気に留めなかった。カイボが警戒していないので、大名が飼っているランコアは大人しくしているようだ。とはいえ、飼い主の命令一つで無礼な来客を貪り食うように躾けられているだろうが。

「キューゾのエンボが何の用事?」

 三人を出迎えたのは、ヒューマンの女だった。暗殺者、フェネック・シャンド。彼女の最大の武器であるライフルを担いでいないが、立ち姿に隙はない。

「情報収集に来ただけだ。俺がタトゥイーンで動き回っていることに妙な勘繰りをされて、撃たれでもしたら困るからな」

 エンボはキューゾ語で説明してから、ナゴンを示す。

「今の雇い主だ」

「キューゾがキューゾを?」

 フェネックが訝ると、ナゴンは銀河標準語(ベーシック)で話した。

「デンタ豆の価格が高騰した原因を探っている。そのためにエンボの力を借りているんだ」

「デンタ豆? あんたらしくもない仕事だね」

 フェネックがエンボに目をやると、エンボは平坦に返した。

「仕事は仕事だ」

「うちのボスに挨拶に来たのなら、ちゃんとしていきなよ」

 フェネックは興味を失ったのか、背を向けて去っていった。戦う気はないという意思表示だ。彼女と入れ違いに現れたのは、グリーンの使い込まれたベスカーアーマーを纏った男、ボバ・フェットだった。

「珍しい顔だな」

 ボバはヘルメットを外し、素顔を曝す。クローン・トルーパーと同じようでいて違うのは、彼らとは別の人生を生きてきた証だ。そして、今のボバ・フェットはただの賞金稼ぎではない。タトゥイーンの大名だ。

「ボバ。話は聞いたな」

 エンボが歩み寄ると、ボバは頷く。

「ああ。俺の部下には、キューゾには構うなと言っておく」

「それだけでいい」

 エンボは頷き、身を引いたが、玉座の奥には見覚えのあるブラスターが横たわっているのが見えた。キャド・ベインのものだ。

「やはり……」

 エンボが呟くと、ボバはヘルメットを被った。

「奴を仕留めたのは俺だ」

「そうか」

 それだけ聞けば充分だった。エンボは、キャド・ベインとボバ・フェットの間には浅からぬ因縁があることは知っている。だが、それ以上でもそれ以下でもない。下手に興味を持ってしまったら、痛い目を見るだけだからだ。

 ボバ・フェットからキャド・ベインを葬った場所を聞き出して墓参りなんてしたら、地獄の底から蘇ってきて撃たれてしまいかねない。熱い砂の下で静かに眠っている男のことを頭から振り払い、エンボは仕事に戻るべくモス・アイズリーに引き返した。

 死は平等だ。誰に対しても。

 

 

 モス・アイズリーの酒場に寄った。

 エンボは仕事の最中は酒は口にしないし、ナゴンも砂っぽい空気に辟易して呼吸用マスクを外さなかったが、注文しないと店主に煙たがられる。なので、スポチュカを一杯ずつ注文し、後で適当な客に押し付けることにした。カイボは店の外で待っていた。

「カイドー商会について知らないか。取引がしたい」

 エンボが手近な客に尋ねると、ローディアンの男が割って入ってきた。

「やめとけ、大損するぞ!」

「聞かせてくれ」

 エンボがスポチュカをローディアンの男に差し出すと、既に相当酔っていたローディアンの男は捲し立ててきた。

「俺ぁよ、武器の密売でちょっとばかし儲けたんだ。んで、それを増やしたくなったんだが、サバックじゃ巻き上げられるのが目に見えている。そんな時、先物取引の話が耳に入ってきたんだ。これから値上がりするから絶対に儲かる、と言われてよ。んで、言われるがままにカイドー商会に金を預けたんだが、儲かるどころか1クレジットも返さねぇんだ!」

「先物取引の品物はデンタ豆か?」

「よく知ってんなぁ。あんたも大損したのか?」

「損をさせる方だ」

 エンボはクレジットを取り出し、カウンターに置いてから店主に言った。

「俺の奢りでもう一杯飲ませてやれ。情報料だ」

「どうも、邪魔をした」

 ナゴンも手付かずのスポチュカを適当な客に押し付けてから、酒場を抜け出した。カイボは地面に身を伏せていたが、二人が出てきた途端に耳をぴんと立てて立ち上がった。

「先物取引って聞いたことがある。投資してくれる相手に金を預けておいて、儲かった時はかなりの配当金があるが、損をした時は差額を巻き上げられると。……もしかして、それがデンタ豆の価格が吊り上がっていった原因なのか?」

 ナゴンが考えを巡らせると、エンボはカイボに付いた砂を払ってやった。気休めだが。

「一因ではある」

「それなら、カイドー商会をどうにかすれば、デンタ豆の価格高騰は収まるんだな」

「可能性は高い」

「でも、カイドー商会の本拠地はどこにあるんだ?」

「それを調べるのは簡単だ」

 エンボは先日奪ったコムリンクを取り出すと、逆三角形のマークが入ったラベルが貼られていた。カイドー商会の備品だからだろう。

「これと同じものを付けた宇宙船を探し、追えばいい」

「そう簡単に見つかるかな」

 ナゴンが懸念するも、エンボは事も無げに言った。

「待つのも仕事のうちだ」

 ナゴンはあからさまに嫌そうな顔をしたが、円盤型のヘルメットを下げて隠した。タトゥイーンの環境がキューゾに合わないのは百も承知だが、不用意に動いて怪しまれると後の始末が面倒だ。

 結果としてエンボとナゴンはタトゥイーンで足止めを食らったが、カイボだけは上機嫌だった。熱い砂を物ともせずに砂漠を駆け回り、通りすがりのジャワを追いかけて遊んだり、ブラックメロンを掘り返したり、と宇宙船暮らしの運動不足を晴らすかのように動き続けた。

 もちろん、エンボもギロチンの中でカイボを散歩させていたが、それではカイボの必要な運動量には及ばないのは解っていた。要するに、カイボの聞き分けの良さに助けられていただけだ。

 タトゥイーンに来る頻度を増やそうか、それともギロチンの居住区を改造しようか、とエンボは頭の片隅で考えながら、カイボがどこからか持ってきたタスケン・レイダーの杖を放り投げてやった。

 カイボは見事にキャッチした。

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