そして、カイドー商会の商船を発見した。
モス・アイズリーの宇宙港に停泊していた商船に発信機を付け、追跡した。ハイパースペースを越え、辿り着いたのは、タトゥイーンからは遠く離れた宙域に浮かぶ惑星だった。
「どこだ、ここは?」
ギロチンの船内にてナゴンが訝ると、エンボは星図と現在位置を照らし合わせた。
「ソーラ星系の惑星ユーバだ。俺も来るのは初めてだが、どういう場所なのかは少しは知っている」
「というと?」
ナゴンが聞き返すと、エンボは星図から映像に切り替えた。惑星ユーバの地表は分厚い雲に覆われていて、衛星軌道上には衛星基地らしきものが漂っている。
「鉱山惑星だった。クローン戦争の頃は戦争特需で潤っていたが、戦争が終わると鉱山会社と従業員が引き上げていった。その後は誰も寄り付かなくなって、衰退する一方だ。賞金首が逃げ込むにはうってつけの場所だ。新共和国の管轄外だから尚更だ」
エンボが答えると、ナゴンはエンボに目をやる。
「それなら、もう誰も住んでいないのか?」
「いや。地上には熱反応がある。恐らく、原住民が小さな集落を築いて細々と生活しているんだろう。鉱山の恩恵がなくなったとしても、故郷は捨てられるものではないからな」
エンボは足元で寝そべっているカイボをするりと撫でてから、操縦席に座った。上昇させてコクピットに戻り、ギロチンを降下させてユーバの重力圏に入った。多くの鉱山惑星がそうであるように大気汚染が著しく、ギロチンが切り裂いた雲にも粘り気があった。
雲を突き破って地表に接近したが、ひどい有様だった。川はどろりと濁り、鉱石を掘り尽くされた山は崩れ去り、廃棄された工場が錆び付き、採掘用ドロイドが整備されずに朽ち果てていた。
明らかに空気が悪い。エンボは喉の奥で呻きを漏らしかけたが、気持ちを切り替えた。忘れ去れた星であれば、カイドー商会が拠点を築いていても不思議ではない。手早く済ませよう、長居は無用だ。
マスクのフィルターも安くはないのだから。
採掘場の跡地に着陸した。
ギロチンと輸送船が地面に接してから、エンボはナゴンとカイボを伴って外に出たが、タトゥイーンの方がまだマシだと思えるほどの空気の悪さだった。不用意に採掘したせいで火山ガスも漏れているらしく、嫌な匂いが漂ってくる。
「……うっ」
ナゴンは呼吸用マスクを押さえて声を潰したが、エンボは平静を保った。
「我慢しろ」
「それで、カイドー商会の拠点がどこにあるのかは見当が付いたのか?」
ナゴンが顔をしかめながら問うと、エンボはカイボの頭を軽く叩いた。
「カイボならドロイドよりも鼻が利く」
「こんなに空気の悪い星で大丈夫か?」
ナゴンが案じるも、カイボはワンと一声吠えた。エンボが指示を出すと、カイボは素直に従って駆け出していった。ナゴンは不安そうだったが、エンボのやり方に口出しはしなかった。
ギロチンの外でカイボの帰りを待つ間、エンボは武器の手入れと装備の確認をした。使い慣れているからこそ、気を配らなくてはならない。ナゴンは手近な岩に腰を下ろし、濁った空を仰ぎ見た。
「随分遠くに来たもんだな」
「アウターリムを転々としてきたからな」
エンボはボウキャスターを一通りチェックすると、目標を定めて引き金を引いた。エネルギー弾が金属片に命中し、弾き飛ばす。
「いつもこうなのか?」
ナゴンに問われ、エンボはボウキャスターを分離させて一対の鎌にする。
「賞金稼ぎだからな」
「カイボが一緒だから寂しくないのか」
「何が言いたい」
エンボがウォー・ヘルメットの下からナゴンを睨むと、ナゴンはヘルメットの端を上向ける。
「ファトロングにいた頃のあんたはどういう奴だったのかな、と考えてしまったんだ」
「どうもしない。お前達と同じだ」
「田んぼと畑と家畜の世話に追われて、天気に一喜一憂して、年に一度の収穫祭を楽しみに?」
「そうだ」
エンボが簡潔に返すと、ナゴンは黄色の複眼にエンボを映す。
「でも、あんたは俺達とは少しだけ違ったんだ。だから、こういう生き方を選んでいる。羨ましい……とはちょっと違うな、なんて言うのかな」
「隣の畑の瓜は大きい」
「そう、それだ」
ナゴンは納得し、頷いた。自分にはないものや他人の生き方を目にすると、多少なりとも羨望を抱くのは無理からぬことだ。だが、それが身の丈に合うものならまだしも、そうでなければ諦めるしかない。
ナゴンは朴訥とした男だが、愚かではない。稚拙な好奇心や浅ましい功名心もなく、エンボのやり方も咎めず、目的を果たすために旅を続けている。
鎌を傾け、刃に自分の顔を映す。賞金稼ぎになるためにファトロングを飛び出した頃に比べれば、随分と年齢を重ねた。キューゾでは青年期の範疇だが、命のやり取りを幾度となく繰り返したことで、厳しい面差しになったのは否めない。
ファトロングから離れずに生き続けていれば、いずれは伴侶を迎え、家庭を築き、一族の後継者を育てていただろう。だが、それを拒んだのは自分自身だ。
後悔はない。
カイボが戻ってきた。
但し、良からぬ客を連れて。ケージに入れられたカイボは耳を伏せて尻尾を丸め、申し訳なさそうに俯いていた。そのケージを蹴り飛ばしたのは、擦り切れた作業着姿で逆三角のマークの腕章を付けた、大柄なデヴァロニアンの男だった。
「こいつの飼い主はお前か?」
デヴァロニアンがブラスターをカイボに向けると、エンボはボウキャスターを構える。
「そうだ」
「返してほしければ、うちのボスと取引だ」
「応じなければ?」
「まともに話せ、田舎者。キューゾ語なんてまともに解る奴はいない!」
デヴァロニアンのブラスターが狙ったのはエンボではなく、ナゴンだった。すかさずエンボはウォー・ヘルメットを下げて間に割り込み、エネルギー弾を弾くと、地面を力一杯蹴り付けて跳躍する。真横へ。
エンボのウォー・ヘルメットは、キューゾの伝統的なウォー・ヘルメットに更に改造を加えて強度を引き上げている。単純な硬さだけなら、マンダロリアンのベスカーアーマーにも引けを取らないと自負している。
故に、防御と攻撃が同時に可能だ。矢のように飛んだエンボはデヴァロニアンに体当たりし、吹っ飛ばすと、すぐさまウォー・ヘルメットを外して投擲する。物陰に潜んでいた敵に次々に命中し、ぐるりと弧を描いてから戻ってくる。
ウォー・ヘルメットを被り直し、エンボはボウキャスターを分離させて鎌にすると、手始めにカイボのケージを破壊した。そして、カイボには足元で呻いているデヴァロニアンを襲うように命じてから、身を屈めて駆け抜ける。
ブラスターの軌道を掻い潜って接近し、鎌を振るう。ヒューマンの男がぎょっとして硬直した瞬間を見逃さず、その首に鎌を食い込ませて振り抜くと、果実のように頭部が宙を舞う。
逃げる暇など与えなかった。一人、二人、三人、四人、五人、とエンボは的確に仕留めた。返り血すらほとんど浴びず、汚れたのは鎌だけだった。
「カイボ」
エンボが静かに名を呼ぶと、デヴァロニアンの男の右足に食らい付いていたカイボが身を起こした。アヌーバの強靭な顎と牙により、デヴァロニアンの男の右足は骨が砕けて肉が裂け、辛うじて皮だけで繋がっている状態と化していた。
「お前達のボスはどこだ。俺達はデンタ豆を売りに来ただけだ」
エンボが輸送船を指すと、デヴァロニアンの男は唖然とする。
「……は?」
それならそうと早く言え、と顔を歪ませながら、カイドー商会は鉱山会社の工場跡地だと言った。それが解れば生かしておく意味もないので、エンボは鎌をもう一振りしてデヴァロニアンの男の首を刎ねた。
「ナゴン。行くぞ」
エンボが短く命じると、ナゴンは青ざめていたが立ち上がった。
「あ、ああ……」
採掘場の跡地から少し離れた場所に、カイドー商会の部下達が乗ってきたスピーダーバイクがあったので、エンボとナゴンはそれを拝借し、カイボはエンボの後ろに収まった。
スピーダーバイクを走らせていくと、原住民の集落に差し掛かった。汚染された水が流れる川の傍には痩せた畑があったが、作物は育っておらず、人々も弱っていた。それでも、生まれ育った星から離れられないのは事情があるからだ。宇宙に出るための金もなければ手段もなく、どれほど汚れていようとも故郷を捨てられない。
彼らを責める謂れはない。
カイドー商会の拠点に到着した。
エンボがカイボを従えて降り立ち、ナゴンがそれに続くと、数人の用心棒が立ちはだかった。いずれも賞金稼ぎだろうが、エンボは見覚えがないので、それほど腕の立つ連中ではないだろう。
「構わん、通せ」
用心棒を制したのは、ノートランの男だった。
「お前がボスだな?」
エンボがボウキャスターに手を伸ばすと、ノートランの男はそれを諫めた。
「まあ落ち着け、まずは話をしよう。うちと取引に来たんだろ?」
「そうだ。だが、お前の部下共が俺の相棒に無礼な真似をした。故に手打ちにしたまでだ」
エンボが淡々と述べるも、ノートランの男は動じなかった。
「それはこちらの手違いだ、申し訳ない」
ノートランの男は二人と一匹を促し、奥へと進んだ。デンタ豆以外も密売しているようで、大量の物資が倉庫に並べられていて、ドロイドが整理に追われていた。迷いなく歩くエンボとカイボの間に挟まれたナゴンは、少々気後れしながらも進んだ。
いくつかの部屋を通り過ぎた後、内装が整った部屋に通された。恐らく、ノートランの男のオフィスなのだろう。
「私はル・モーイ、カイドー商会の代表だ」
ノートランの男はそう名乗った。
「それで、何がお望みだ? デンタ豆からは、そろそろ手を引こうと思っていたんだよ。先物取引もね。それなら、そちらにも特に問題はないだろう?」
「取引だ」
エンボが言い張ると、ル・モーイは笑いを漏らす。
「何を? デンタ豆ならもういい、値崩れするのは時間の問題だからな。それとも、先物取引で大損した分を取り返したいとでも言うのか? 生憎、それは私にはどうにも出来ない。契約書を読み返してくれ、配当金以外は払い戻せない契約になっているんでね」
「デンタ豆の在庫を放出して適正価格に戻せ。先物取引も終わりにしろ」
「そうすることで私に何の利益があると?」
「逃げる余裕を与えてやる」
「お気遣い、どうも。だが、それは結構だよ」
ル・モーイが手招くと、用心棒達が部屋に入ってきた。エンボ達を取り囲み、ブラスターを突き付けてくる。
「キューゾのエンボ。あんたは賞金稼ぎだが、賞金首でもある。ナル・ハッタで暴れすぎたんだ」
そう言い残し、ル・モーイは部屋から去っていった。呼吸用マスクの内側でため息を吐き、エンボは悪態を吐きながら鎌を握り締めた。
「ダンク・ファリック」
どこの誰がエンボの首に賞金を懸けたのかは、この際どうでもいい。こうして囲まれるのも初めてではないし、切り抜ける方法は体が覚えている。カイボもエンボの指示を待たずに動ける。だが、ナゴンは違う。
さて、どうする。