豆の上で鎌は躍る   作:あるてみす@二次創作

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5.鎌を振るう先

 答えは簡単だ。

 エンボは右腕に付けたガントレットのボタンを押し、遠隔操作でスイッチを入れた。間を置かずに爆発音が響き、エンボ達を囲んでいる賞金稼ぎ達の注意が僅かに逸れた。それを見逃さず、エンボはウォー・ヘルメットを投げて一斉に全員を倒す。

 ベルトに仕込んだ投げナイフを抜いて投擲し、後方の数人の動きを止めてから、ボウキャスターを撃って順番に仕留めていく。ブラスターを向けてきた相手は蹴り飛ばして壁に激突させ、投げられたナイフはウォー・ヘルメットで弾く。カイボはエンボの視界の外にいる賞金稼ぎに食らい付き、荒々しく引き摺っていく。

 最後の一人の頭部を撃ち抜くと、束の間、静寂が訪れる。ナゴンはその場で立ち尽くしていたが、質問してきた。

「……最初の爆発は何なんだ?」

「スピーダーバイクに爆弾を仕込んでおいた」

「いつのまに」

「乗り込む時だ」

 エンボは投げナイフを死体から引き抜き、ベルトのホルダーに戻す。

「カイボ」

 エンボが名を呼ぶと、カイボは既に動かなくなった賞金稼ぎから離れ、意気揚々と戻ってきた。

「これからどうするんだ?」

 ナゴンがヘルメットの下で目線を揺らすと、エンボはウォー・ヘルメットの位置を直す。

「カイドー商会を拠点ごと潰す。考えてみたが、そうするのが最適解で最短だと判断した」

「それについては異論はないが……」

 ナゴンは死体を跨ぎ、エンボに近付く。

「カイドー商会が搔き集めたデンタ豆の在庫が、どこにあるかを確認しないと。さっきみたいに爆弾で吹っ飛ばして燃えカスになったら、俺達の苦労が無駄になる」

「それは道理だ」

 エンボはナゴンの意見に同意すると、室内を見渡し、端末を見つけた。帝国軍から鹵獲したものかと思いきや、独立星系の仕様なので若干操作に苦労した。使用されている言語は銀河標準語(ベーシック)だが、端々の癖が強い。だとすると、ここは。

「分離主義勢力と関わりがあるようだ」

「ああ……。聞いたことはある」

 ナゴンは実感が湧かないようで、曖昧な返事をした。無理もない。共和国が帝国と化しても、その帝国が戦争に末に倒されても、それ以前からアウターリムで自治している惑星にとっては縁遠い話だからだ。分離主義勢力ともなれば尚更で、ドロイドを大量に作っていた企業の複合体、ということを漠然と知っているだけでもマシな方だ。

 もしかすると、カイドー商会の実態はエンボの想像から少し外れているのかもしれない。タチの悪い詐欺を行う密売組織だと捉えていたが、その先があるとすれば厄介だ。それを調べるべく、エンボはカイドー商会が所有する商船のリストと取引先を照会した。

 輸送会社、倉庫、小売業者を装っているが、それにしては規模が大きい上に納品される品物が武器やスターファイターといった物騒なものばかりだ。となれば、これは恐らく。

「分離主義勢力の地下組織だな。カイドー商会は奴らの隠れ蓑であり、資金源でもあったんだ」

 面倒臭いことになった、とエンボが呼吸用マスクの下で嘆息すると、ナゴンは戸惑う。

「だとすると、それを知った俺達は?」

「消される。ドロイド・ゴートラでも寄越すんだろうよ」

 エンボが気を取り直すと、ナゴンも気を戻した。

「だが、まあ、それはそれだ。やるべきことをやらないと」

「意外と冷静だな」

「さすがに慣れてきたんだ」

 ナゴンが端末に近付いてきたので、エンボは倉庫の在庫管理プロトコルに目を通した。デンタ豆の入ったコンテナは地下倉庫の第三区画にあった。改造されたスターファイターは格納庫に、武器弾薬は第四区画にあった。

「よし、行こう」

 ナゴンが促すと、エンボはカイボを呼んだ。

「カイボ、来い」

「エンボが戦ってくれている間、俺はデンタ豆の在庫を外に運び出す。それでいいな?」

「持っていけ」

 エンボはナゴンに小型爆弾を一つ渡した。

「お前はブラスターも撃てないが、爆弾の使い方ぐらいはさすがに解るだろう? スイッチを入れたら三十秒に爆発する。使いどころを間違えるな」

「恩に着るよ」

 ナゴンはヘルメットを少し上向けた。

「この工場の見取り図だ」

 エンボはナゴンにホロの見取り図を見せると、ナゴンはそれを覗き込む。

「地下倉庫から地上に上がるためのリフトがここで、搬出口がこっちか。よし、覚えた」

「事を終えたら、ギロチンで合流する」

 エンボが短く告げると、ナゴンはカイボを軽く撫でてから駆けていった。ナゴンの仕事が上手くいくことを内心で願いながら、エンボはこれからどう動けば最小限の攻撃で最大限の被害を出せるのかを計算した。

 無駄を省くのも大事だ。

 

 

 賞金稼ぎを雇ったのは愚策だ。

 少なくとも、エンボに対しては。金次第で動く連中だが、裏を返せば日雇いの兵士でしかなく、多少腕が立っても統率は取れていない。練度も士気も低い兵隊なんて、何の役にも立たないというのに。

 そして、それは明確な事実を示している。分離主義勢力の地下組織はまだ兵力を備えておらず、準備段階に過ぎないということだ。

 エンボは通路を進み、迎撃してくる賞金稼ぎや従業員を一人ずつ的確に処理していく。ウォー・ヘルメットで銃撃を防ぎ、カイボで撹乱し、一発で仕留める。中には逃げ出そうとする者もいたが、投げナイフで足止めした後に撃つ。呆気なさすぎて、ストーム・トルーパーの方がマシに思えてくる。

 格納庫に行き着くと、警備用のN-1バトル・ドロイドがブラスターを連射してきた。エンボは遮蔽物に身を隠しながら、周囲の様子を窺う。TIEファイターが四機、TIEボマーが一機、TIEインターセプターが二機、それからAT-STが五機。

 エンボはAT-STに乗り込もうとした従業員を撃ち、右端の一機をよろめかせた。それによって隣接していたAT-STに寄り掛かり、ぐしゃぐしゃに絡み合いながら壊れていった。

 ドロイド部隊の撹乱をカイボに任せてから、エンボは手近なTIEファイターのコクピットに滑り込む。レーザー・キャノンでTIEボマーを粉砕し、浮上させてから他のスターファイターも破壊する。TIEインターセプターにパイロットが乗り込むも、発進するよりもエンボが撃つ方が早かった。

 爆発に次ぐ爆発の中、エンボは兵員輸送車に飛び込むと、カイボも爆風を避けて転がり込んできた。兵員輸送車が辛うじて通れる通路に突っ込み、格納庫から離れた直後に隔壁のスイッチを撃って閉鎖した。

 直後、TIEボマーに搭載されていたプロトン魚雷に引火し、更に激しい爆発が起きて地下施設全体が震えた。エンボは興奮しているカイボを宥めながら、倉庫へと向かった。

 同胞は無事でいるだろうか。

 

 

 地下倉庫の壁と天井が波打った。

 この爆発はエンボの仕業だな、とナゴンは気付いたが、作業の手は止めなかった。デンタ豆の入ったコンテナを輸送車に乗せ続けたが、思いの外在庫が多く、積み切れないコンテナがいくつかあった。

「仕方ない」

 ナゴンは躊躇いを振り切り、輸送車の運転席に乗り込んだ。アクセルを踏んで発進するも、やはり積み荷が重すぎて速度が上がらない。それでもなんとかリフトに到着し、運転席から出て上昇のボタンを押した。

「それで、この後は……」

 ギロチンまで戻って合流する。その後でどうするのかは、それから考えればいい。ナゴンは深呼吸してから運転席に入ろうとすると、がくんとリフトが停まった。

「えっ?」

 なんで急に止まったんだ。ナゴンが狼狽えながら外を窺うと、リフトが停止した場所の壁には緊急避難用のドアが設置されていた。そのドアを開けて入ってきたのは、ブラスターを手にしているル・モーイだった。

 ナゴンは心臓がひどく痛んだ。この男のせいで俺達は、という怒りが込み上がってくる。ル・モーイは輸送車がリフトに乗り込んでいることを疑問に思わず、歩み寄ってきた。

「おい運転手、さっさと積み荷を捨てろ! 地上に出たらシャトルで離脱する、お前が操縦するんだ! ドロイドか? だとしても返事をしろ!」

 ル・モーイは威圧的に叫び、迫ってくる。ナゴンは助手席側のドアを開けて抜け出し、コンテナの上によじ登った。ル・モーイはそれに気付き、ブラスターを向けてくる。

「あのキューゾの片割れか。待ち伏せしていたのか」

 ナゴンはコンテナの陰に身を潜め、腰の後ろから鎌を抜いて握る。様々な感情が去来するが、ひどく冷静に状況を捉えていた。

 キューゾの身体能力は、ファトロングの外でこそ真価を発揮する。それはナゴンも例外ではなかった。デンタ豆を満載したコンテナを力一杯蹴り付けると、コンテナは空中に躍り出た。ル・モーイは慌てて逃げ出すも、倒れ込んできたコンテナが下半身に覆い被さった。骨が砕ける音がした。

「待て、おい、待ってくれ」

 ル・モーイはナゴンを制するも、ナゴンはリフトの上昇ボタンを押した。鎌を翻すのが先か、リフトが到着するのが先か。ナゴンは生まれて初めて感じる激情で、鎌の柄を握る手が震えるほどだった。

 ナゴンは重たい足取りで、ル・モーイに歩み寄る。先程とは別人のように憔悴していて、情けないほど怯えている。ただの小悪党だ。そんな奴のせいで。

 ナゴンは呼吸用マスクの下で顔を歪め、鎌を高々と振り上げた瞬間、がこん、とリフトが停止した。ハッチが開いて地上に繋がるタラップが伸びると、その先ではカイボが待っていた。

 アヌーバの一吠えで我に返り、ナゴンは鎌を下ろして腰の後ろに戻した。コンテナも積み直した。輸送車に備え付けられている牽引用ワイヤーでル・モーイを拘束して外に放り出した後、運転席に乗り込んだ。

「おいで、カイボ」

 ナゴンが呼ぶと、カイボは助手席に収まった。

「エンボは先に行ったんだな。俺達も行こう」

 再び、カイボは吠えた。ナゴンはル・モーイをバックミラーに捉えたが、振り返らずにアクセルを踏んで輸送車を発進させた。エンボであれば躊躇いなく鎌を振り抜いていただろうが、ナゴンはエンボではない。

 だから、同じことはしない。

 

 

 そして、ギロチンに乗り込んだ。

 デンタ豆のコンテナを積めるだけ積み込み、輸送船には藁の入ったコンテナだけを残した。とはいえ、ギロチンは戦闘に特化しているので、積み荷の重量で挙動が変わるのは否めない。

 コクピットに入ったエンボは機体のバランス調整を念入りに行ってから浮上したが、それでも重たいことに変わりはなかった。

「離脱する」

「そういえばエンボ、ル・モーイが……」

 カイボと共に居住区に入ったナゴンが、ル・モーイには脱出手段のシャトルがあったことを伝えようとすると、警報が鳴り響いた。鉱山跡地から発進したTIEファイターが、ギロチンの照準をセットしたからだ。

 ギロチンが急浮上すると輸送船も追随する。エンボはギロチンを輸送船の陰に隠し、迎撃するが、重量に引っ張られたせいで照準がズレた。

「ダンク・ファリック!」

 そのせいで命中するはずの初弾が外れ、エンボは苛立ちを押さえながら急上昇する。輸送船も続くが、こちらは足が遅いのでギロチンには追い付けず、どんどん間隔が開いていく。

 どうするんだよこれ、とナゴンは焦りかけたが、エンボに任せるしかないのだと思い直した。ギロチンは彼の手足も同然なのだから。機体が傾くにつれてカイボがずり下がり、キュンキュンと鳴いていた。

 分厚い雲に突入し、視界が塞がると、エンボはそれを好機として反撃に出た。ギロチンを追尾する敵機の軌道を予測してプロトン魚雷を空中にばらまくと、それが命中して砕け散る。更にもう一機が迫り、逃げるうちに雲を抜けて宇宙空間に脱した。

 輸送船を盾にしたギロチンは、TIEファイターからのレーザー・キャノンを輸送船で受け止めた後、エンボの遠隔操作によって藁のコンテナに仕込んでおいた爆弾が起動した。爆砕する輸送船に巻き込まれ、TIEファイターは呆気なく壊れたが、その寸前に撃ったレーザー・キャノンがギロチンの底部を掠めた。

 運の悪いことに、その一発が壊したのはハイパードライブユニットだった。ハイパードライブに必要な燃料も抜けていき、回路も遮断された。辛うじて一回は飛べるが、距離は限られている。エンボはハイパースペースを越えた先にある惑星の名を見、僅かに手を止めかけたが、それを振り払ってボタンを押した。

 ギロチンはハイパースペースに突入した。

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