豆の上で鎌は躍る   作:あるてみす@二次創作

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7.畑は土から作る

 ネヴァロの街は賑やかだ。

 今まで訪れた星とは雰囲気が異なり、ナゴンは安堵した。街の建物に弾痕らしき痕跡があったり、瓦礫を撤去したばかりの跡地があったり、ドロイドが修復中の歩道や建物があるのは気になったが、それ以外は至って平和だった。

 様々な種族の人々が行き交い、子供達が遊び、店先には豊富な商品が並んでいる。しかし、やけにマンダロリアンが目に付く。あの銀色のマンダロリアンとは装備もアーマーの色も違うが、ヘルメットの形状が同じなのでマンダロリアンなのだろう。

 仲間同士で談笑しているマンダロリアン、ドロイドに指示を出しているマンダロリアン、買い物をしているマンダロリアン、転んだ子供を抱き起こしてケガがないかと確かめているマンダロリアン。

「なんで……?」

 ナゴンは大いに戸惑った。マンダロリアンは伝説と謳われるほどの存在であり、ジェダイやシスと似たようなものだとナゴンは捉えていたのだが、それにしては数が多い。多すぎる。

 ナゴンはマンダロリアンを気にしながらも、本来の目的を果たすべく周囲を見回した。デンタ豆を買い取ってもらうには、商人を見つけなくては。それから、食糧を買い足さなくては。

「こんにちは、ようこそネヴァロへ」

 ナゴンに声を掛けてきたのは、縦長の円筒形の頭部が特徴的なドロイドだった。胸部パーツには赤と白の塗装が施されている。

「私はIG-11、この街の保安官です。お困りでしょうか? でしたら、お手伝いいたします」

「ドロイドの保安官?」

「はい。私はIG-11です」

 ドロイドが同じ言葉を繰り返したので、ナゴンは期待せずに尋ねた。

「デンタ豆を売りたいんだが、商人はいないか?」

「デンタ豆ですか?」

「これだ」

 ナゴンが背負っているマントを広げ、デンタ豆の入った袋を見せると、IG-11はそれを確認する。

「確かに豆ですね」

「問屋でもいい、教えてくれないか」

「あなたはどちらからいらっしゃったのですか?」

「ファトロングだ」

「ファトロング。了解いたしました。では、こちらにどうぞ。お連れいたします」

 IG-11はがしょがしょと歩き出したので、ナゴンは若干不安を抱きながらもドロイドに続いた。背負っていたマントを開ける際、マンダロリアン達の視線が一斉にこちらに向いたのは気のせいではないだろう。もしもデンタ豆ではなく爆弾でも取り出していたなら、その時は彼らが動いていたに違いない。

 あいつらも銀色のマンダロリアンと同じように賞金稼ぎなんだろうか、そうとは限らないけど、似たような感じはする、と懸念しながらも、ナゴンはネヴァロの街を進んだ。

 到着したのは街全体を見下ろせる位置にある建物で、更にその最上階に連れていかれた。あれ、これはどういうことだ、とナゴンが先程とは違う意味で戸惑っていると、赤いローブを纏ったヒューマンの男が現れた。

「IG-11、客を連れてきたのか?」

「はい、カルガ上級監督官。こちらはファトロングから来ておられ、デンタ豆の取引をしたいとのことですが、昨今はデンタ豆の市場価格の変動が著しいという情報を得ています。なので、カルガ上級監督官の判断を仰ぎたいのです」

 IG-11が淡々と述べると、ナゴンはヘルメットをぐいっと持ち上げた。

「へ?」

 上級監督官に会うなんて聞いていない。しかし、取引の相手としては充分すぎるのも事実だ。ネヴァロの経済や流通も仕切っているので、デンタ豆の売買を持ちかけるには申し分ない。ナゴンは気を取り直し、ヘルメットを外す。

「俺はナゴン、ファトロングのキューゾだ。ファトロングで栽培したデンタ豆を適正価格で売りたいんだが……」

「グリーフ・カルガだ、よろしく」

 上級監督官にしては気軽な挨拶をされ、ナゴンは拍子抜けしながらも話を続けた。

「話せば長くなるんだが、デンタ豆が価格高騰していた原因は……」

 ナゴンは事実関係を整理しつつ、なるべく簡潔かつ的確に説明した。銀河標準語(ベーシック)に徹したが、時折、キューゾ語が入るのは仕方なかった。どうしても銀河標準語(ベーシック)では言い表せない表現があるからだ。だが、カルガは他種族の言語に堪能らしく、聞き返してくることもなかった。

「そんなわけで、俺が乗った宇宙船があっちの方に不時着して」

 ナゴンが窓の先を指すと、カルガはその方向に目をやった。

「マンドーのキャビンの傍じゃないか」

「そう、そのマンドー」

「品物を検めさせてくれ。その上で取引する価格を決めたいんだが、それでもいいか?」

「構わない。デンタ豆の品質は保証する」

「それなら、コンテナを回収させよう。IG-11、ドロイド達に声を掛けてくれ」

 カルガが指示すると、IG-11は応じた。

「了解しました。これも保安官の仕事です」

 がしょんがしょんがしょん、とIG-11が階段を下りていくと、カルガはネヴァロの街を見渡した。

「見ての通り、ネヴァロは活気付いている。人の出入りも増えたし、観光客も来るようになったし、新しい友人達も居を構えるようになった。となれば、食糧もそれ相応の量が必要になる。ファトロングの作物の評判は聞いている、デンタ豆以外も取引出来るように話を取り付けてくれないだろうか」

 カルガからの申し出に、ナゴンは驚きながらも承諾した。

「ありがとうございます!」

 断る理由なんて、あるはずもなかった。ナゴンはデンタ豆以外の主要な作物について説明し、おおまかな生産量と市場価格にも説明した。デンタ豆の適正価格と比較検討するために調べておいたのだが、それが功を奏した。カルガと充分に話し合った後、ここまで持ってきたデンタ豆を買ってもらってから、ナゴンは意気揚々と街に戻った。

 ようやく事態が好転してきた。

 

 

 一方、その頃。

 エンボは宇宙船の修理を請け負ってくれるメカニックを探そうとしたが、街の至るところにマンダロリアンがいるせいで落ち着かなかった。こちらが何もしなければ彼らは何もしない、と解っているが、それはそれで据わりが悪い。荒事に慣れすぎたせいだ。

 それでも、やるべきことはやらなくてはならないので、エンボは宇宙船乗りを呼び止めてメカニックの居場所を聞き出すと、アンゼランの工房を訪ねてみるといい、と言われた。

「アンゼラン……?」

 そう言われて、エンボは思い出した。前回、ネヴァロに降り立った際、カイボがアンゼランを捕まえてオモチャ代わりにじゃれついていた。だとすると、そのアンゼランの工房なのだろう。

 アンゼランの工房は建物の土台にあり、身を屈めなければ覗き込めなかった。エンボが長い手足を折り曲げると、カイボがするりと脇を抜け、工房の中に入り込んでしまった。止める間もなかった。

「キャアアアア!」

 小さなアンゼラン達が甲高い悲鳴を上げ、工具を放り出して逃げ惑う。

「ワルイコ! ワルイアヌーバ!」

「アッチイッテ! コワイ!」

「コノアヌーバ、アノトキノアヌーバ! アッ、カイヌシモイル!」

 アンゼラン達はエンボに気付き、キャアキャアとますます騒ぎ立てた。カイボはぶんぶんと尻尾を振り、手近なアンゼランを咥えようとしていたが、エンボは相棒を制した。

「カイボ」

 カイボはしゅんと耳を伏せ、工房から抜け出してきた。エンボはカイボを伏せさせてから、ウォー・ヘルメットを少し上げる。

「俺の宇宙船の修理を頼みたい」

「エェッ」

「ハイパードライブユニットが損傷した」

「ソレナラアル」

「他の部分もメンテナンス出来るか」

「アンタノフネ、チョットオボエテル」

「それなら話は早い」

「ソノアヌーバ、アッチイッテテ。ワルイコ、ワルイコ!」

 アンゼランがカイボを指すと、エンボはカイボの背中を軽く叩いた。

「聞き分けろ、カイボ」

 きゅうん、とカイボはあからさまに不満げな声を漏らしたが、そこまで言われては仕方ないと諦めてくれた。エンボはその聞き分けの良さを褒めてから、アンゼランの工房の狭い入口から身を引くと、マンダロリアン達の視線が一斉に外れた。

 アンゼランが騒いだので、マンダロリアン達はエンボが妙な動きをすれば即座に反応するつもりでいたのだろう。その気であればとっくに動いている、とエンボは内心で零してから、カイボを伴って街を去った。

 あの人数のマンダロリアンを捌くにはどう立ち回るべきか、と考えずにはいられないのは、賞金稼ぎの職業病だ。

 もちろん、勝つつもりだが。

 

 

 そして、ギロチンに戻った。

 エンボは機体のチェックを行い、これまでの戦闘で消耗した部品や燃料、ケーブルや回路などの不具合を調べていたが、例のキャビンが常にモニターの端に写っていた。

 ディン・ジャリンとその息子が暮らすキャビンは手狭だが、二人だけならそれだけで充分だろう。貯水タンク、燃料タンク、バッテリーはともかく、N-1スターファイター、レイザークレストは目立ちすぎる上に厳つい。奴はアレを乗り回すのか、余程腕が立つのか酔狂なのか、とエンボは頭の片隅で考えていたが、ふとあるものが目に付いた。

 地面が四角く区切られていて、その中に等間隔に何かが植えられている。しかし、いずれも貧弱で葉が開いていないし、ほとんど伸びていない。

「畑なのか……?」

 いや、アレを畑であると認めたくない。だが、しかし。マンダロリアンのやり方に口出しするのはどうなんだ、とも逡巡したが、苛立ちの方が上回った。

 ギロチンを出たエンボがキャビンに向かうと、銀色のマンダロリアン、ディン・ジャリンがふらりと現れた。息子を学校に送った後、エンボの出方を確かめるために待ち構えていたのだろう。

「ディン・ジャリン!」

 エンボは畑らしきものを指す。

「これは畑か? 畑ではないよな、断じて!」

「お前、そんなに大きい声が出せたのか」

 ジャリンは若干驚いたようだったが、エンボは捲し立てる。

「出したくはないが出る、こんなものを見せられてしまったらな! まずはエンピを貸せ、塹壕掘りに使うものがあるだろう!」

「あるにはあるが」

「出せ、今すぐに」

 エンボが詰め寄ると、ジャリンは首を傾げた。

「何をするつもりだ」

「土を掘る」

 エンボが言い切ると、ジャリンはキャビンの裏手に回り、シャベルを持ってきた。エンボはそれをひったくると、畑らしきものに差し込んだ。

「おいっ!」

 今度はジャリンが大きい声を出す番だった。エンボはジャリンを意に介さず、シャベルを突き刺し、掘り返していく。だが、その土がガチガチに硬く締まっているばかりか、石が出てくる。

 掘れども掘れども石が出てきて、作物の苗は根も伸ばせずにぐったりしていた。エンボは哀れな苗を掘り出し、避難させてやってから、石の山をシャベルで叩く。

「見てみろ、これを」

「石だが」

「ああそうだ、石だ。まずは石を取り除いて、土を柔らかくしないと作付けしても無意味だ。マンダロリアンはそんなことも知らんのか」

「この畑は息子のためのものだ」

「それなら尚更だ。ギロチンの修理が終わるまでは身動きが取れん、こいつをなんとかしてやる」

「誰も頼んでいないが」

「こんなものを畑だとは認めたくない」

 エンボが言い切ると、ジャリンはヘルメットの下で物凄く渋い顔をした、ような気がする。もちろんジャリンにも手伝わせながら、エンボはひたすら石まみれの地面を掘り返したが、なかなか進まなかった。

 上機嫌なナゴンが戻ってきて、ギロチンの中で昼寝をしていたカイボが起きてきて、学校を終えた緑色の子供が帰ってきたが、その頃になると土よりも石の方が多い山がいくつも出来ていた。

 この星は農耕には向かない。

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