レイザークレストが降下を始めた。
言うまでもなく、向かう先はカイドー商会の商船だった。あちらも機首を下げて降下し始めていたが、貨物室のハッチが開いた。墜落しかけているわけでもないのに、空中で積み荷を放出するはずもない。となれば、その理由は明白だ。
二機のTIEファイターが滑り出し、飛行する。目標は当然ながらレイザークレストであり、射線上から回避するために軌道がまたしても大きく変わった。エンボはカイボを担ぎ、コクピットへと叫ぶ。
「途中で落とせ!」
「ジェットパックは?」
「そんなものはいらん!」
「解った」
ジャリンは淡々と返し、操縦桿を曲げた。唸りを上げながらレイザークレストは半回転し、捻じれながら飛び、TIEファイターの追尾から逃れながらも商船へと接近する。かなり腕はいい、但し操縦が荒い。
商船らしからぬレーザー砲による迎撃をシールドで防ぎながら、レイザークレストは急減速して商船の真上に接近した。それと同時に後部ハッチが開き、エンボはカイボと共に身を投じた。
受け身を取り、衝撃と勢いを受け流してから、エンボは手近なハッチを見つけた。そのスイッチをボウキャスターで撃って破壊し、強引に開けて船内に滑り込むと、見覚えのある作業着姿の従業員がブラスターを向けてきた。
「キューゾ!」
エンボは撃たれる前にウォー・ヘルメットを投擲し、その従業員を吹き飛ばした。転がり落ちたブラスターはカイボが齧り、べきりと壊す。安物だ。
「ブリッジは……あっちか」
エンボは通路の前方に向いた。外側からハッチが開けられたことを知り、従業員やドロイドが駆け付けてきたが、エンボはウォー・ヘルメットを盾にして身を屈める。打点を集中させて初撃を凌げば、後はどうにでもなるからだ。
ブラスターの光弾がウォー・ヘルメットに激突して弾ける衝撃を受け流し、交差した通路に滑り込んでからボウキャスターを壁に付けて撃つ。銃声が止むと、カイボが駆けてきた。
「カイボ。ル・モーイはどこにいる?」
エンボが顎で示すと、カイボはふんふんと鼻を利かせていたが、軽やかに走り出した。ル・モーイの居場所を察知してくれたようだ。
エンボはカイボを追った。二人の行く手を阻むべく現れる敵を倒すのは難しくなかったが、商船のすぐ傍でレイザークレストとTIEファイターがドッグファイトをしているため、やたらと商船が傾く。
「このっ」
そのせいで狙いが外れ、エンボは苛立ちながらも追撃を行い、ブラスターの射手を撃ち抜いた。余計な手間が掛かってしまった。直後、派手な爆発音が響いたので、ディン・ジャリンはTIEファイターの片方を撃墜したようだった。
通路の角を曲がり、先に進もうとしたが、不意にカイボが飛び退いた。すかさずエンボが前に出てウォー・ヘルメットで防ぐと、炎が浴びせられた。火炎放射だった。マンダロリアンが牽制として頻繁に使うが、もちろん他の者達も使う。
炎の熱気と圧に負けてエンボとカイボは身を引いたが、通路が再び炎に塞がれる。燃料タンクを背負ったドロイドがホースを動かすと、それに合わせて炎が生き物のように揺れ動き、容赦なく酸素を奪う。
別の通路を探そうにも、そんな時間も余裕もない。エンボはボウキャスターにライフル弾を装填し、ドロイドの動きを注視する。燃料タンクから伸びたホースを左右に動かし、炎を振りまき続けているが、左に戻る時の動作が若干鈍い。どうやら、肩の関節の調子が悪いようだ。
一歩ずつ踏み出してきたドロイドは、ホースを右に振り切った。そして左へと振ろうとしたが、がくん、と制動が掛かった。その隙を見逃さず、エンボはボウキャスターの引き金を引く。通常のエネルギー弾よりも貫通力のある実弾は、的確にドロイドの頭部を撃ち抜き、背中の燃料タンクに命中した。
エンボがウォー・ヘルメットに身を隠して背を丸め、カイボを守ると同時に大爆発を起こし、膨大な炎が通路を埋め尽くした。至るところから悲鳴や絶叫が聞こえてきたので、露払いには丁度良かったようだ。
炎と熱気が収まってから、エンボはカイボを担ぎ、過熱しすぎて塗装が剥げた通路を駆けていく。いかに頑丈なアヌーバでも、爆発した直後の地面を歩かせるわけにはいかないからだ。
途中で待ち構えていた何人かを鎌で捌き、カイボに襲わせながら更に進んでいくと、ブリッジに到着した。ドアが開くと同時に手榴弾を投げ込み、待ち伏せしていた敵を吹っ飛ばした後、エンボはブリッジに踏み込んだ。
ブラスターを握ったル・モーイが立ち尽くしていたが、エンボはそれよりもブリッジの間近に迫ってきたTIEファイターに気を取られた。このままでは激突する、と危惧したが、不意にレイザークレストがTIEファイターの後部に回り込んできた。
正確な射撃でTIEファイターが粉砕し、爆発四散すると、レイザークレストは機首を上げて商船のブリッジのすれすれを通過していった。擦れ違い様、コクピットにいるディン・ジャリンが目に入ったが、やけに得意げだった、ような気がした。
ヘルメットを被っているのに。
改めて、ル・モーイを拘束した。
街から離れた荒野に商船を不時着させた後、片足を引きずっているル・モーイを強引に歩かせ、エンボはカイボを伴って商船から降りた。それと同時にレイザークレストも着陸したが、機体の大きさに比べて着陸脚があまり沈んでいない。ということは、かなり改造して軽量化を施しているようだ。
「あいつは馬鹿か?」
エンボは思わず零した。派手な空中戦がやりたければ、それに見合った性能のスターファイターを使えばいい。それなのに敢えて鈍重なレイザークレストを使うなんて、どうかしている。賞金稼ぎの中には武器にこだわりがある奴がいるが、ディン・ジャリンの場合は宇宙船なのだろう。
「エンボ」
そのレイザークレストから、ジャリンが事も無げに出てきた。グローグーはせかせかと短い足で歩き、カイボを出迎える。
「わきゃあっ」
カイボはグローグーに駆け寄ると、尻尾を盛大に振りながら、がふがふと吐息を漏らした。どんな風に活躍してきたのかを話しているようだ。
「そいつは?」
ジャリンがル・モーイを見下ろすと、エンボはル・モーイを放り出す。
「新共和国に引き渡す」
「それなら丁度良い。カーボン冷凍装置がある」
ジャリンがレイザークレストを指すと、エンボはル・モーイの肩を蹴った。
「準備がいいな」
「カーボン冷凍は……」
ル・モーイが顔を引きつらせたが、エンボはそれを無視して引き摺っていった。ジャリンの言葉通り、レイザークレストにはカーボン冷凍装置が備え付けられていたので、それを借りることにした。ル・モーイは抵抗しようとするも、程なくして凍り付いた。
やはりカーボン冷凍は便利だ。
しばらくするとナゴンがやってきた。
スピーダーバイクを止めたナゴンは、撃墜されたTIEファイターの残骸と不時着した商船、無傷のレイザークレストを見比べ、事の次第を理解した。
「さすがだなぁ」
ナゴンに素直に褒められ、エンボはウォー・ヘルメットを上向ける。
「造作もない」
「それで、ル・モーイはいたのか?」
「ああ。カーボン冷凍しておいたから、逃げられる心配もない」
「それなら、新共和国にでも……」
ナゴンの言葉を、ジャリンが遮った。
「それも済ませておいた。近いうちに回収しに来る」
「だったら、あの商船はどうするんだ?」
ナゴンが商船を指すと、エンボはウォー・ヘルメットの位置を戻した。
「知らん。いずれジャワが分解するさ」
「マンダロリアンにも連絡を入れておいたし、IG-11にも報告した。俺達は帰ろう、畑作りはまだ済んでいないんだからな」
ジャリンがレイザークレストに向かうと、グローグーが足早に父親を追っていく。
「ぱとぅ」
「事後処理に付き合わされると面倒だし、それは俺達の仕事じゃないからだ。引き上げるぞ」
エンボに促され、ナゴンはスピーダーバイクに戻った。
「じゃ、また後で」
ナゴンが去った後、エンボは少し迷ったがレイザークレストに向かった。不本意だが、歩いて戻ると時間が掛かるのは否めないからだ。カイボもちょっと不安げだったが、グローグーに手招かれ、再びレイザークレストに乗り込んだ。
往路は至って平穏だった。
浄水装置とスプリンクラーを設置した。
商船が不時着した地点から程近い場所に草原があり、そこの土は水分を多めに含んで柔らかかったため、それを掘り起こして運び出した。雑草の根を切り、硫黄混じりの土も混ぜ込み、畑に適するように仕込んだ。化学肥料も足し、栄養を補った。
枯れかけていた苗は一時的に水を張った容器に移し、休ませていたおかげで、石だらけの畑に植えられていた頃よりもすっかり元気になっていた。
「日照時間とか気温とか、他にも気にすることはいくらでもあるんだけど……」
ナゴンはふかふかの土を盛った畝に苗を植え直し、軽く押して形を整えた。
「とりあえず、こんなものかな」
ナゴンは立ち上がり、手を払った。すると、エンジン音が近付いてきたのでエンボは反応した。グローグーと遊んでいたカイボもぴんと耳を立て、立ち上がると、ラムダ級シャトルが接近してきた。
尾翼に新共和国軍のマークが入ったラムダ級シャトルはぐるりと旋回し、ギロチンとレイザークレストの間に着陸した。ジャリンは作業を中断すると、ラムダ級シャトルに歩み寄る。
「よう、マンドー」
ラムダ級シャトルから現れたのは、大柄なラサットの男だった。紫の体毛に縞模様が目立つ。
「話には聞いちゃいたが、実際に見るとなんか変な気分になるぜ」
新共和国軍のパイロットスーツ姿のラサットは、エンボを捉えると大きな耳を少し動かした。
「ゼブ。エンボとナゴンが畑を作り直してくれた」
ジャリンが畑を指すと、ラサットは感心した。
「おお、かなりマシになったな。さすがはファトロングの生まれだ」
「ル・モーイを回収した後、カイドー商会についても調べてくれ。分離主義勢力の地下組織に繋がっているのであれば、放っておけない」
「そいつは任せておけ、俺達の仕事だからな」
ラサットは気安い態度でジャリンの肩を叩いた。エンボはラサットを注視したが、動かなかった。このラサットについてはよく知っている。反乱者だったからだ。ガラゼブ・オレリオスという名のベテランの兵士で、ゼブは愛称だ。
「んあっ」
グローグーがぴょんぴょんと跳ね、ゼブに飛び付くと、ゼブはグローグーを難なく受け止めた。
「元気そうだな、ディン・グローグー」
「きゃいっ!」
「畑の作物が育つ前に喰うんじゃねぇぞ、熟してからじゃないと青臭くて喰えたもんじゃねぇ」
「んぃー」
「待つのも大事だ」
「ぶぇ」
不満げなグローグーを、ゼブはジャリンに渡した。
「マンドー。お前のことだから畑の守りも上手くやるだろうが、動物に齧られないようにしろよ? ブラーグがいるから、先に気付いてくれるだろうが」
ゼブが振り返った先では、二頭のブラーグが柵に囲まれ、のそのそと動いていた。
「ああ、あいつらも頼りになる」
ジャリンはグローグーを担ぎ、肩に乗せる。
「あっ、そうだ」
ナゴンはキャビンの傍に置かれたコンテナに入ると、デンタ豆の詰まった袋を抱えてきた。
「デンタ豆だ。新共和国軍がカイドー商会の後始末をしてくれるのであれば、先に礼を言っておくよ。これもその礼のうちだ」
「先にもらっちまうのは据わりが悪いが、その分だけ働くさ。なあマンドー?」
ゼブがデンタ豆の袋を受け取ると、ジャリンは平坦に応じた。
「依頼とあればな」
ゼブとジャリンの親しげなやり取りを横目に、エンボはギロチンの様子を窺った。アンゼランによる修理とメンテナンスは順調で、もう少しで終わるようだった。それなら、ネヴァロを去る日も近い。
せいせいする。