目を覚ますと、真っ暗な場所にいた。…ここはどこだろう。よく分からないまま、歩きだす。
何か忘れている気がするが、思い出せない。けれど、足は止まらない。
いくばくか歩いた後、地面に何かが落ちているのを見つける。
「これは…」
それは指輪だった。
拾った瞬間ーーーー
「…っああ……うああああ…!」
思い出した。すべての記憶を。逃げていたことも、合流したことも、探していたことも。そして、「負けたこと」も。
涙が止まらない。こらえる必要もないからか、とめどなくあふれてくる。
自分は負けたのだ。大切な人を守れず、苦しむさまをみているしかできなかった。
「っああ…」
だけど、後悔しても変わらない。割り切れないし、思い出してしまったからには二度と忘れられない。もはや、あの過去は取り戻せないのだ。
「もー、そんなに泣かないの。」
探していた親友の声が聞こえた。
「…え?」
そこにいたのは、褐色の肌をした自身の片割れと、相棒である親友だった。
「…クロ?美遊?」
ありえない。探してもいなかった。死んだはずだったと思い込んでいた。
嬉しさが込み上げる。よかった。また会えた。
けれど。ここにいるということは。
「…そっか、二人も死んじゃったんだね。」
泣き腫らし、枯れかけた声で言う。そうだ、自分がいるのなら、ここは死者の道。ならば、探していた2人も、もはやあの時には生きていなかったということなのだろう。
「…仕方ないよ、イリヤ。あいつには、勝てなかった。何とかしようとしたけど、もうかなわなかった。」
「ま、強すぎだよねー。」
イリヤの心が、沈む。ああ、自分はマスターだけでなく、親友らも救えなかったのか。
「はあ、だからもうそんな顔すんなっての。わざわざ会いに来たのは傷の舐め合いをしたいわけでも、糾弾したいわけでもないんだし。」
「…?じゃあ何を…」
「やり直させに来た。運命を。」
「…は?」
「わかんない?とりあえず、具体的に言うね。マスターと出会ったときに戻らせてやるから、今度は救ってきてってこと。ちなみに私たちはいけないからイリヤ一人で頑張って。」
「…???」
よくわからない。というか、そんなことできるのか?時間遡行なんて、魔法の域だろう。いくらサーヴァントだからといって、そんなことーー
「私がいるでしょ。」
「美遊…」
そうだ。彼女の力を忘れていた。彼女は完成された聖杯である神稚児、だから普通じゃできないこともできてしまう。
「いやでも、いくら美遊だからってそんなことできるわけが…」
「これを使う。」
そう言って美遊から渡されたのは、星の形をした…石?のようなもの。
「これって…」
「それは、ステッキの欠片。あっちの世界じゃ私たちと一緒に壊されちゃったけど、魔力がこもった一片を託してくれたの。イリヤが持ってるのはルビーの、私のはサファイアのもの。」
「ステッキ…か。」
そうだった。私がやられた後のことは気にしてすらいなかったが、きっと…
「ごめんね、ルビー。」
「ちょっと、感情的になってる場合じゃないんだけど。」
「…ううん、大丈夫。それで、ステッキの力を使うのは分かったけど、なんで二人は来れないの?一緒に来てよ!」
「…ごめんね。一緒には行けないや。だって…」
そういった瞬間、クロエがイリヤを抱きしめて…
「私は、あなたに戻るから。」
イリヤに吸い込まれてゆく。
「…は?クロ、エ?」
理解が追いつかない。いきなり抱きしめられたかと思えば、消えた。
「 …はあ。事情も説明せずに行っちゃって。ま、私も覚悟決めないと。」
「…え。ねえ、どういうこと…?クロはどこに行ったの?美遊は知ってるの?ねえ、ねえってば!」
「…ごめん。その質問には答えられない。ただ、私たちはあなたにすべて託すから、マスターを救ってきてほしい。それがいま言えること。」
そう言って、美遊はイリヤに近づいてくる。
「っ…!いやっ、いや!だめ!」
後退り、逃げようとする。しかし、後ろはいつの間にか壁になっていた。そうしていると、美遊が目の前に迫っていた。
「…今から美遊には、私の聖杯としての在り方を託すよ。きっと、イリヤなら使えるはず。だから、頼んだよ。マスターのこと。そして…っ…」
そう言って彼女は涙をたたえた満面の笑みで微笑み、
「大好き!イリヤ!」
そう言って、イリヤのなかに消えていった。
「……………あ。」
「ああ、ああ。ああ、ああ。……うああっ…ああ…」
死後になり、再会できた親友らをまたもや失った。少女にとってはそれは許容できることではなく、精神は壊れかかる。ーーーだが、彼女に託された力と、想いはそれを許さない。
「ーーーぐっ……ぐあああ…!!!!!」
彼女に完成された聖杯としての在り方が刻み込まれる。もともとあった聖杯としての在り方に競合せず、完全体の魂がそれを受け入れる。
そして、目を覚ました時には。
彼女は、聖杯だった。万能の願望器。自他ともに際限なくどのようなものでも叶えるデメリットが、制御できる小聖杯としての在り方と融合したことで打ち消された、自分の叶えたい願いのみを叶えられる、理想の聖杯。その願いの先はーーーー少女と、マスターのみに向く。
少女は、少女でなくなっていた。3人分の想いが統合され、重すぎる愛を持つ、意志を持った聖杯。
「…これが、力、か。」
少女は、手をみて、足をみて。何も変わらぬ自分の姿に安堵し、そして変わってしまった内部を知って、歪な笑みで微笑む。
「これで…やっと、再会できる。でも、まずは…」
惜しみなく力を使う。ステッキを取り込んだことと、聖杯の特権である、無限の魔力供給を可能にする。そして。
「もう、キャスターなんかじゃ守れない。私は、マスターのためなら…獣になろう。」
霊基が歪む。キャスターであったはずの彼女が、歪んでいく。
人類悪の証明は、人類愛の証明。これは、以前見た、ビーストだった尼さんを参考に。マスター一人に注ぐ愛を持って証明する。
一国を滅ぼすほどの力は…言うまでもない。
そして、体も変質する。魔法少女の証だった衣装は純白の白から、深淵をたたえた黒へ。ビーストの証である角や尻尾は、マスターがびっくりしちゃうから生やさない。
以上の特性を持って彼女のクラスは書き換えられた。
無垢な魔法少女としての在り方も、はたまた制御できる存在として作られたホムンクルスとしての自分もいらない。
其はある三人の少女の愛と、けして潰えぬ復讐心によって生み出された、ただ一人を愛する、存在しないはずの大災害。
その名をビーストⅧ。
七つの人類悪には存在しない例外、"祝福"の理を持つ獣である。
其れはただ、一つの愛のために全てを敵に回す。
そして、少女は歩き出す。時空を渡れる魔法があると仮定し、それを現実に落とし込む。それによって作られた、一番イメージしやすかったかたちであるワームホールへと。そして。
「待っててね、マスター。私たちが助けに行くから。そして、愛すから。だから、…………マスターの愛を頂戴?」
そして、ホールは閉じた。
この日、ある獣が誕生した。それを知るものは、本人以外、そのマスターも、親友も、片割れも知らない。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
クラス・ビースト
スキル
単独顕現(A) 単体で現世に現れるスキル。このビーストは自身のマスター以外何も望まず、邪魔しない限り何も破壊したりしない。邪魔すれば都市だろうと英雄だろうと、殺しにかかる。また、このスキルは“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効化するばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。
ネガ・エネミー(EX) 人類によって付加されたスキルでも何でもない、ただ自分の在り方をそう定めたスキル。無敵や対粛清防御、回避をすべて無効化し、マスターの敵を殲滅することに特化している。また、異星の使徒の名を冠する相手に有利属性と特効が付き、彼等の特殊スキルを弱体化させる隠し能力がある。
神稚児の祈り(EX) 自他の区別なく願望を実現してしまう性質を開放するスキル。…だったのを、彼女の持っていた制御できる聖杯としてのあり方で打ち消した、完成品。彼女の願いは、空の果てにも、地の底にも、世界を超えても届く。
自分の願いを叶え、制限はなく、他人の願いを聞き入れることはしない。
無限の魔力供給(EX) 元はカレイドステッキから文字通り無限の魔力が供給されていたのが、2つ分のステッキを補助に回し、聖杯から直接魔力を無限に取り入れる完成品。出力は術者本人の魔術回路の性能に制限されるが、3人分の魔術回路を束ねているのでそうやすやすと突破されるような出力ではない。
完成された魂(ー)
イリヤスフィールとクロエ、2人が再び融合したことで完全な魂となった。そこに美遊の魂が混ざったことで、常人にはない、サーヴァントですら珍しい、極彩色の輝きを放っている。特に戦闘や生活に影響はない。
約束の地(EX)
意識することによって、辺りの風景を塗り替える、いわゆる固有結界。普通の固有結界と違い、力の差があってもかなり塗り替えづらい。かといってとんでもなくすごいものでもなく、普通にイリヤの士気が上がるだけのもの。
かつてどこかでマスターと行った、約束の地。それである黄昏時の海岸を再現する。そこは幻想的で、あまりにも美しい場所。とても大切な思い出のため、固有結界はよっぽど使わない。
宝具 聖杯砲
イリヤ、クロエ、美遊の3人で協力して対象を攻撃。
聖杯の力を極限まで引き出し、ありったけの魔力をぶつけて攻撃する。武器などでなく、ただの魔力の塊をぶつける。だが、その濃度と範囲、威力の高さで、並の攻撃ではかき消せない。また、単純な質量攻撃なので、投擲属性や剣、銃などの属性もつかないため、武器の属性に由来して無敵になる宝具も通用しない。
宝具は基本的に使わない。使おうと思えば使えるが、使うまでもないといったところ。