『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
第010話 千回目はまだ先ですわ
それから少し日が空いた四月下旬の雑談配信。
《配信コメント》
名無しの領民:1000まであと14
名無しの領民:記念配信いつ?
名無しの領民:グッズ欲しい
名無しの領民:挑戦者ライカ隊でしょ
名無しの領民:もう祝っていい?
「早すぎますの!」
配信を始めて、まだ数分ですのに。
戦闘映像を開く前から、コメント欄だけが十四戦先へ走っている。記念配信も挑戦者も、果ては祝ってよいかまで勝手に決め始めていた。
わたくしは現在の数字を前へ出す。
《防衛成功数:986》
《1000まで残り14》
「千までは、まだ十四戦ございますわ」
《配信コメント》
名無しの領民:14ならすぐ
名無しの領民:誤差
名無しの領民:もうカウントダウン
名無しの領民:986も祝おう
「誤差ではございませんの。十四回すべて防衛して、初めて千ですのよ?」
『14回のうち一回止めりゃいい』
右の通話窓から、ライカの声が重なった。
「あなたはなぜ当然のように妨害側へ座りますの」
『攻略者だからだよ』
「知っておりますわ!」
それはもう、嫌というほど。
同じ十四でも、わたくしには積み上げる回数。ライカには、そのどこか一戦で止めればよい回数ですの。
わたくしは一度、高笑いを挟んでから過去映像を開いた。
◇
《第100防衛》
画面へ出たのは、今よりずっと古い戦場だった。
表示は単純で、攻略側の装備も技能演出も少ない。見慣れた現在の画面と並べると、余白の広さまで違って見える。
『そちらへ来るのは分かっておりますわ!』
昔のわたくしが、たいそう自信満々に宣言する。
その直後。
宣言した側とは逆から、攻略者が一人抜けてきた。
映像を止める。
「……この場面を選んだのはどなたですの?」
《配信コメント》
名無しの領民:100回記念の名場面
名無しの領民:昔から楽しそう
名無しの領民:UI古い
名無しの領民:見事に逆
「最後の一件は不要ですわ!」
次を開く。
《第500防衛》
同じ人数が並んでいても、第100防衛とは見え方が違う。
職業もビルドも増え、前へ出る者、道を作る者、離れた場所から狙う者の役割が細かく分かれている。わたくしも、目の前の一人だけではなく、その後ろに何が繋がっているかを見るようになっていた。
そして。
《第900防衛》
画面を切り替えた瞬間から、攻略側の隊列そのものがわたくしへの対策になっている。
空いているから飛べる、ではない。
飛べば次に使いたくなる場所へ先に人がいる。降りても、その先に別の役割が待っている。わたくしが選びたい場所を一つずつ減らし、残ったところへ攻撃を重ねてくる。
「ずいぶん育ちましたわね、皆様」
『お前もな』
「当然ですの」
返しながら、三つの映像を並べた。
第100防衛。
第500防衛。
第900防衛。
攻略側のやり方は増えた。わたくしも、見るべき場所を増やした。けれど、第900防衛の正解が次でも通るとは限りませんの。
千だけを先に見れば、途中の一戦が小さく見える。
けれど、この三本も当時はただの「次の一戦」だった。
◇
過去映像を閉じると、コメント欄はまるで反省していなかった。
《配信コメント》
名無しの領民:1000はライカ隊がいい
名無しの領民:別隊も見たい
名無しの領民:人気投票しよう
名無しの領民:30人選抜?
名無しの領民:応募ページどこ?
「ございませんの」
《配信コメント》
名無しの領民:え
名無しの領民:まだ募集してない?
名無しの領民:じゃあ予約?
「予約枠も、応募受付も、選考も、現在は何も始まっておりませんわ」
千回目が見えてきたことと、挑戦者が決まったことは別ですの。
コメント欄ではライカ隊の名前が一番よく流れている。名前が多く挙がるからといって、そのまま席を渡す理由にはならない。
通話窓の向こうで、ライカが笑った。
『特別枠はいらない。勝って取る』
その言葉に重なるように、公開投稿が二件流れた。
《高難度攻略隊・公開投稿》
《千回目、空いているなら狙います》
《別攻略隊・公開投稿》
《十四戦のどこかで先に止めてもいい》
《配信コメント》
名無しの領民:増えた
名無しの領民:ライカ隊確定じゃないのか
名無しの領民:争奪戦始まった
名無しの領民:1000前に止める派までいる
「始まっておりませんの!」
まだ募集すらしていないのに、何を争奪していますの?
誰がいつ来るかで十四戦の並びは変わる。それでも、その前の防衛を飛ばして千回目の席だけは出せない。
「それに、記念戦を理由に難度を下げる予定はございません」
『下げたら怒る』
「あなたに言われなくても下げませんの」
《配信コメント》
名無しの領民:記念回なのに容赦なし
名無しの領民:いつもの城主
名無しの領民:じゃあ次は987?
名無しの領民:そっちが先か
「ええ。まずは次の一戦ですわ」
表示を切り替える。
《次回防衛:987》
「千回目の話題で、九百八十七回目を省略しないでくださいませ」
《配信コメント》
名無しの領民:987も祝う
名無しの領民:毎回祝う気か
名無しの領民:非公式カウント続けます
名無しの領民:あと14じゃなくて次は1
最後の一件に、扇子を止めた。
千までは十四。
けれど、次までは一つ。
『千の前に一回止める』
「ええ。止めに来る皆様を、通常どおり防衛いたしますわ」
ライカ隊が来るかもしれない。
別の攻略隊が来るかもしれない。
そのどちらでもなく、まだ名前の出ていない誰かが先に来るかもしれない。
千回目が見えるところまで来たからこそ、その席を今から誰かのものにする必要はない。
わたくしが次に守るのは、第千回ではない。
第九百八十七回ですの。
千回目の席には、まだ誰の名前も書かれていない。