『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
第011話 新しい職業は誰のものですの
「おーっほっほっほ! 本日は《クロスアリーナ》から、実装前の新職業候補、その公開試験を見てまいりますわ!」
円形競技場の中央には、安全試験用の区画が設けられ、その中央でレンが一本の細身の長槍を静かに構えている。
やや長身の細身で、足運びも槍の軌道も隠さない軽装。普段の立ち姿には柔らかさがあるのに、対面の試験人形へ穂先を向けた途端、肩から先の余計な揺れだけが消えた。
《職業登録候補:《リコイルランサー》》
《原型発見者:レン》
《配信コメント》
名無しの領民:新職!
名無しの領民:槍職?
名無しの領民:レンのやつだ
名無しの領民:今日は何を見るの?
「まずは、原型をご覧くださいませ」
試験人形が大剣を肩へ引く。
振り下ろしは正面。まともに受ければ、細い長槍ごと押し込まれてもおかしくない威力ですの。
けれどレンは、穂先で止めようとはしなかった。
左足を半歩だけ引きながら槍身を斜めに差し込み、大剣の軌道に、面ではなく線を合わせる。
《パリィ》
金属音は短い。
大剣の重さが槍身に沿って外へ滑り、本来なら肩へ届くはずだった衝撃が、薄い光となって石突側へ走った。
《リコイル・ストック》
レンの後ろ足が一度沈む。
ただ下がったのではない。槍の後方へ流れた光がそこで留まり、次の一歩を待っている。
試験人形が大剣を戻すより早く、レンの重心が前へ返った。
《リブースト》
溜めていた光が石突から脚へ流れ、身体ごと前へ出る。
受けるために引いた半歩が、そのまま次の踏み込みへ繋がった。
最初の位置から大きく退いていない。受け流し、反動を残し、その反動でもう一度前へ出る。三つの動作が切れ目なく循環しているから、《リコイルランサー》という骨格になる。
《配信コメント》
名無しの領民:受けた力そのまま使ってる?
名無しの領民:かっこいい
名無しの領民:これ覚えたら同じことできる?
名無しの領民:レン専用じゃないの?
名無しの領民:全員レンになれる?
「最後だけ、ずいぶん飛びましたわね」
レンが槍を下ろすと、競技場側で隣に三つの試験区画が開いた。
そこへ入るのは、原型発見者ではない三人の試験者。それぞれが標準試験用の長槍を持ち、同じ三技能を順番に試す。
一人目は《パリィ》を成立させた。大剣の軌道も外れている。
けれど《リコイル・ストック》で反動を槍の中央寄りに残したぶん、後ろ足へ移すまでに一拍かかる。《リブースト》で前へ戻る時には、レンより踏み込みが遅れた。
二人目は反動を後方へ送るところまで滑らかだった。その代わり、《リブースト》で身体を押し出した瞬間に穂先がわずかに上を向き、次の狙いを合わせ直す必要が出る。
三人目は三技能を途切れず繋いだ。それでも、レンより一歩深く下がった。
四人の軌跡で同じなのは、受け流し、反動を残し、再加速へ使うところまで。
どれだけ引き、どの角度で受け、どこまで残すか。標準骨格は、そこまで同じ答えを与えない。
「三名とも、標準骨格の再現には成功しておりますわ」
試験表示に四人分の軌跡が一枚ずつ分かれて並ぶと、レンも三人の動きを見てから自分の槍へ視線を戻した。
「僕の方は、この動きへ来るまでの装備と癖が残っていますから。完全に同じになる方が不思議ですよ」
声は柔らかい。
自分の方が上だと誇る響きではなく、同じ入口から違う形が出たことそのものを面白がっているように聞こえる。
「その通りですわ。職業の骨格と、発見者本人の強さは同一ではございませんの」
《配信コメント》
名無しの領民:同じ職でも動き違う
名無しの領民:じゃあ職業は誰のもの?
名無しの領民:レンが見つけたのに公開するの?
名無しの領民:公開したら功績消えない?
問いが、技能から「誰のものか」へ移った。
共有したら功績が消える。功績を残すなら共有できない。コメント欄が、その二択へ先に飛んでいる。
候補表示がレンの前へ戻り、公開意思の確認へ進む。
レンは長槍を肩から下ろし、短く頷いた。
「はい。使う人が増えれば、対策も派生も増えるでしょう。自分だけで抱えるより、その先を見たいです」
表示上の《原型発見者:レン》は消えない。
正式登録後も《原型発見者》表示は残る。名称の優先提案権と、公開前三十日の調整優先期間もレンのものですの。
「発見者の功績は残りますわ。ですが、職業の入口そのものは、正式登録後、条件を満たした攻略者も標準骨格へ到達できるようになりますの」
《配信コメント》
名無しの領民:名前残るならよかった
名無しの領民:じゃあ槍買う
名無しの領民:槍だけでレンにはならん
名無しの領民:今来た 全員レンになれるの?
「できませんわ」
技能、装備、間合い、積み重ねた操作感覚までは職業名に含まれない。三人の試験者が、もう見せていますの。
候補表示が更新される。
《職業登録候補:《リコイルランサー》》
《原型発見者:レン》
まだ正式登録ではない。今日の結果を受けても、登録候補として残る段階ですの。
◇
公開試験が終わり、三人の試験者が区画を出る。
床に引かれていた計測線が外周から順に消え、防護壁も薄くなっていく。レンも槍を下ろし、競技場の中央から離れ始めた。
その時だった。
誰も立っていない競技場の端で、細い光が一度だけ走った。
反射的に視線を向ける。
槍を振った時の弧に似ている。
けれどレンはそこにいない。三人の試験者も、すでに別の位置へ移っている。
《配信コメント》
名無しの領民:今の何?
名無しの領民:追加演出?
名無しの領民:誰かいた?
名無しの領民:もう一回
「予定演出には含まれておりませんの」
口にするのは、そこまで。
管理AI側の診断結果を確認する。
あの位置に紐づく使用者IDは存在しない。対応する戦闘ログもなく、攻撃判定も状態異常も発生していない。
《技能エフェクト:孤立描画》
《再現:なし》
だからといって、「見えない使用者がいた」とは置けない。光が一度描かれ、主体も理由も取れなかった。それだけですの。
管理AIが孤立した描画データを処理する。
同じ位置を見ても、同じ光は戻らなかった。
「今確認できたのは、一度だけ描画され、再現していないことまでですの」
コメント欄にはまだ「何だったのか」が流れている。答えのない場所へ名前を置いても、説明にはならない。
診断表示から、競技場中央に残った候補表示へ視線を戻す。
《職業登録候補:《リコイルランサー》》
《原型発見者:レン》
《リコイルランサー》は、確認できた骨格と発見者の名を持って候補に残る。
競技場の端の光には、まだそのどちらもない。一度きりの描画として記録だけを残し、表示から消えた。