『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
第013話 九百九十一まで参りましたわ
四月の終わりから、通常防衛は何度か続いた。
千回目が見えても、戦場は記念仕様にならない。来る攻略隊も、見るべきものも、一戦ごとに違う。
◇
《第987防衛》
少人数精鋭の攻略隊は、第1形態の同じ継ぎ目へ攻撃を集中させてきた。
一撃ごとの狙いが揃っている。外装が割れるたび、次も同じ間合いへ入り直し、同じ場所へ攻撃を重ねる。
五度目まで、それは綺麗に通った。
だから、六度目に戻ってくる間合いも読める。
踏み込みに合わせて尾を通すと、前へ詰めていた隊列が左右へ割れた。立て直すまでの時間を取り返せないまま、終了時刻が先に来る。
《防衛成功:987》
◇
《第988防衛》
次の隊は遠距離主体だった。
一方向へ重ねられた射線が、わたくしの進路を細く削っていく。離れたまま撃ち続けるつもりなら、こちらから間合いを潰せばよろしい。
中央へ踏み込む。
後衛が位置を変えるために下がったぶん、前列だけがその場に残った。
そこへ身体を寄せれば、後ろは射線を作り直さなければならない。
《防衛成功:988》
◇
《第989防衛》
この日は、一般観戦席に《六歩前進》の六人も来ていた。
まあ。皆様、ちゃんと見に来ておりますのね。
少しだけ嬉しくなってから、正面へ意識を戻す。
防衛戦が始まった。
正面の攻略隊が六方向へ散開した。わたくしは前列へ踏み込み、まとめて押し下げるように攻撃を振るう。
攻略側が後退する。
前列は東へ。救護側は南へ。射撃役は下がらず、その場から射線だけをずらす。
全員が退いたのに、同じ場所へ戻る者はいない。
それぞれが、次の役割を続けられる位置へ移っている。
なら、その戻り先ごと崩しますの。
《防衛成功:989》
◇
《第990防衛》
攻略隊は、第1形態を早く終わらせることへ寄せてくる。
わたくしは急がない。
形態を進めること自体が目的ではありませんもの。
まだ使える距離があり、まだ残せる時間があるなら、その身体で戦えばよい。
攻略側が次の形態を急ぐほど、こちらは現在の形態で時間を使う。
《防衛成功:990》
◇
《第991防衛》
三十人。
開始配置を見た時点で、第1形態だけを相手にする編成ではないと分かった。
前列が正面を受け、その盾列の背後を縫うように左右の別班が外周へ散っていく。
右を向けば、左が深く入る。
左へ寄れば、中央が前へ出る。
わたくし自身を追い回すのではなく、向きを変えた後に生まれる空白へ先に人数を置く構成ですのね。
第1形態を使い切る。
身体が軽くなり、足裏から返ってくる感覚が変わった。
その差を一歩目へ乗せて外周へ踏み込むと、左班の戻りが半歩だけ遅れた。そこへ身体を通せば、中央がすぐ穴を埋める。
右班が遅れる。
射線が一拍だけ孤立する。
今度はそこへ入る。
崩れた場所ができても、攻略側は開始時の配置へ戻ろうとしなかった。空いた場所へ別の人間が入り、現在の位置から次の形を作り直してくる。
もう一度。
前列を下げ、後ろから人数を足す。
すると、また別の形になる。
長いですわね。
けれど、その長さがよろしい。
最後まで隊列は壊れ切らなかった。
それでも、終了時刻までわたくしを止めるには届かなかった。
《防衛成功:991》
《通算991防衛》
《1000まで残り9》
「おーっほっほっほ! 九百九十一まで参りましたわ!」
《配信コメント》
名無しの領民:一桁
名無しの領民:残り9!
名無しの領民:もう祝っていい?
名無しの領民:まだ早い
名無しの領民:記念映像作り始めました
「まだ九回ございますのよ!」
数字だけが、また先に祭りへ走っている。
986の時は残り十四。五戦を終えて、今は九。
数字は小さくなっても、その五戦まで小さかったわけではありませんの。
配信の終わり際、《六歩前進》の六人にも少しだけ顔を出してもらった。
「三十人だと、戻る場所が役割ごとに違うんだな」
ブランが言う。
「同じ場所に集めたら、逆に詰まりますね」
テトラが続けた。
「よく見ておりますわ」
《配信コメント》
名無しの領民:成長してる
名無しの領民:1000までに挑戦する?
名無しの領民:まず普通に次の相手見よう
名無しの領民:切り抜き素材多すぎ
千回目の話は、今日も勝手に先へ進んでいる。
ですが、こちらが終えたのは991まで。
992はまだ始まっていない。
「では、本日はここまでですわ!」
配信を閉じた。
◇
公開窓が消える。
コメントも、観戦席も、戦場の音も切れた後で、管理側の低優先度一覧が自動整理された。
普段なら、一件ずつ確認して終える程度の記録ですの。
今日は、その中から五件が初めて同じ一覧へ並んでいた。
《元データと一致しない短い音声》
《訓練巨兵・一時的な鱗状表示》
《使用者のいない技能エフェクト》
《再照会で消失した古い識別表示》
《清掃後・同位置へ再表示した残滓》
上から順に視線を通す。
音声。
鱗状の表示。
使用者のいない光。
一度だけ出た古い識別。
清掃したはずの位置へ戻った残滓。
別々の場面で見たものが、一つの窓に並んでいる。
それだけで繋がって見える。だから先に違いを見る。
ワールド、時刻、処理層、影響範囲。どれも揃っていない。
《関連性:未確認》
「関連性は未確認ですわ」
同じ原因だから並んだのではない。比較できる記録が五つになっただけですの。
「一覧へ並んだことと、同じ原因であることは別ですの」
関連性についての仮説候補だけを残す。
優先度は上げない。
ここで一つの名前を置けば、その後の比較まで答えに引かれる。
今あるのは、似て見える断片と、揃わない条件だけですの。
一覧を閉じようとした時、管理AIが別の窓を開いた。
《限定解析協力候補:A.S.T.R.A. Sync》
《対象:未解決異常の比較解析》
《実運用主体:管理AI/運営》
《運営権限追加:なし》
《個別案件情報:本人同意範囲のみ》
すぐには受諾を押さない。
上から一項目ずつ読む。
「比較と仮説整理まで、ですわね」
《受諾確認》
比較し、違いを分け、仮説を事実と混ぜない。
そこまで確認してから、受諾を返す。
「受諾いたしますわ」
《限定解析協力:登録》
表示が変わる。
それでも五件の一覧は低優先度のままだった。
新しい個人名は表示されない。
個体識別も表示されない。
誰がどんな影響を受けたのか、その詳細も表示されない。
受諾しても答えは増えない。五件は五件、関連性は未確認のまま。
ただ、次に比較が必要になった時、わたくしも条件を分け、仮説を整理する側へ座れる。
今のわたくしに増えたのは、答えではない。
比較する席だけだった。