『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第017話 不具合は鳴きませんわ

 

 

「おーっほっほっほ! 本日は予定どおり、城攻め映像の見どころ整理ですわ!」

 

 配信開始と同時に、いつものコメント欄が走り出す。

 

《配信コメント》

名無しの領民:予定どおり助かる

名無しの領民:もう笑った

名無しの噂好き:低ランクのレイド一件止まったって本当?

名無しの検証勢:公開通知では原因調査中まで

名無しの怪談勢:前の音と関係ある?

 

 最初から、この話題が出ること自体は予想していた。

 

「止まっているレイドが一件。原因はまだ調査中――わたくしから申し上げるのは、そこまでですわ」

 

 その先は、わたくし一人の話ではない。

 

《配信コメント》

名無しの噂好き:じゃあなんか知ってる?

名無しの領民:その言い方怪しい

名無しの怪談勢:前の音、鳴いたんでしょ?

名無しの領民:幽霊ボス?

名無しの領民:1000防衛の隠しイベント?

名無しの検証勢:一件止まっただけで話広げすぎ

 

 幽霊ボス。

 

 1000防衛の隠しイベント。

 

 公開された一件から、話はもうそこまで広がっている。一つずつ禁止はしない。ですが、事実とは分けておく。

 

「まず、不具合は鳴きませんわ」

 

 開いていた扇子でコメント欄を指したまま、一拍置く。

 

《配信コメント》

名無しの領民:そこ?

名無しの怪談勢:鳴く不具合もいるかもしれない

名無しの検証勢:いない

名無しの領民:怪談に仕様で殴りかかるな

 

「不具合は現象分類です。発声器官を持ちませんわ」

 

『怪談に技術監修を入れるな』

 

 通話窓のライカが即座に返した。

 

「誤解は早いうちに訂正した方がよろしいでしょう?」

 

『お前が一番楽しそうだぞ』

 

「気のせいですの」

 

《配信コメント》

名無しの領民:楽しそう

名無しの怪談勢:怪談勢が仕様で負けた

名無しの検証勢:勝負してない

 

「それと、以前の異常音は一度だけ確認され、その後は再現されておりませんの。原因も未確定ですわ」

 

 それより先へは進まない。

 

「ですから、今回の保守確認と同じ原因だとも申し上げられませんの」

 

《配信コメント》

名無しの噂好き:じゃあ関係ない?

名無しの領民:逆に関係ある?

名無しの領民:どっちだよ

名無しの怪談勢:怪談続行

名無しの領民:草

 

「どうしてそうなりますの!」

 

 コメントが笑いへ流れたところで、止めていた映像を再生する。

 

     ◇

 

 画面には、第991防衛で攻略側が左右へ広がった場面が映っていた。

 

「ここをご覧なさいませ。右班が先に入ったように見えますでしょう?」

 

《配信コメント》

名無しの攻略勢:見える

名無しの新規領民:右が速い

名無しの構成勢:中央が押してる?

 

「中央ですの」

 

 再生速度を落とす。

 

 中央前列が半歩だけ押し込む。

 

 わたくしが正面へ意識を向けた、その瞬間に左右の二班が外周へ走った。

 

「先に動いた人を見るより、誰が相手の向きを変えたかを見る方が分かりやすいですわ」

 

《配信コメント》

名無しの新規領民:あー

名無しの攻略勢:中央が扉開けてる

名無しの構成勢:左右はその後か

名無しの領民:こういうの見ると30人戦やりたくなる

名無しの領民:1000まだ?

名無しの領民:あと9?

 

「まだ九回ございますの!」

 

 こういう数字だけは、皆様よく覚えておりますわね。

 

 そのまま、右班の深さと中央の残し方まで映像を進める。

 

 配信は、予定どおり戦術解説へ戻っていった。

 

     ◇

 

 休憩に入ると、コメント欄の流れがまた少しだけ変わった。

 

《配信コメント》

名無しの怪談勢:じゃあ前の音は何だったの

名無しの領民:結局なに

名無しの検証勢:分からん

名無しの領民:今来た 怪談回?

名無しの噂好き:今回止まった人を探せば分かるのでは

名無しの規約確認勢:探すな

 

 わたくしが扇子を閉じる前に、別の表示名が続く。

 

《配信コメント》

名無しの領民:誰だったか当てようぜ

 

「おやめなさいませ」

 

 そこだけは待たない。

 

「公開されていない参加者を特定することは、検証ではございませんの」

 

『当てても誰も助からない』

 

 ライカの声が重なった。

 

 コメントの流れが、数秒だけ遅くなる。

 

《配信コメント》

名無しの噂好き:了解

名無しの怪談勢:じゃあ幽霊だけ追う

名無しの検証勢:それも追うな

名無しの領民:戦術映像の続きください

 

「最初からその予定ですわ!」

 

 次の映像を開く。

 

 攻略側の後衛が、撃てる位置にいながら攻撃しなかった場面。

 

「ええ、ここですの。撃てますのに撃ちません」

 

『誰かさんが八周年で散々言ってたやつだな』

 

「どなたのことでして?」

 

『知らねえ』

 

《配信コメント》

名無しの領民:本人

名無しの攻略勢:撃てる=撃つじゃない

名無しの新規領民:前の人の退路残してる?

名無しの構成勢:そこ見るのか

 

 噂の話で始まった配信は、いつものように戦闘の見方へ戻っていった。

 

 予定時刻まで、配信を続けた。

 

     ◇

 

 終了後。

 

 公開窓をすべて閉じる。

 

 コメントも通話窓も消え、配信側の表示がなくなってから、隔離監視の通知が一件だけ開いた。

 

《隔離断片:短時間波形》

 

 増加も移動もない。攻撃判定、権限要求、外部通信もなし。

 

 新しく残ったのは、波形だけですの。

 

 再生する。

 

 短い低音が、一度だけ鳴った。

 

 続きはない。

 

 その後、同じ波形も発生していない。

 

 以前、配信音声へ一度だけ混ざった異常音と照合する。

 

《完全一致:なし》

《近似:あり》

《同一原因:未確定》

 

 近い。けれど同じではなく、原因を結ぶ記録もない。

 

「似ていることと、同じ原因であることは別ですの」

 

 呼びかける理由も、応答だと扱う材料もない。短い波形が一度出た。それだけですの。

 

《分類候補》

 

 既存の確定分類へ入れるには材料が足りない。

 

 事件名にも、主体名にも進めない。

 

 比較と監視のために、保留名だけを置く。

 

《同期ノイズ》

 

 過去の孤立音と同じ監視群へ入れる。

 

《関連性仮説:低 → 低・要観測》

 

 変わったのは、観測優先度が一段だけ。

 

 完全一致でも、主体の応答でもない。だから答えにはしない。

 

 不具合は鳴きませんわ。

 

 そして今聞いたものが、何かの声だったと決める材料も、まだございませんの。

 

 

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