『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第018話 二件目でございますの

 

 

《第992防衛》

 

 正面が厚い隊でしたの。

 

 前列三人の大盾が横一列に重なり、その隙間から、後衛の攻撃が短い間隔で順番に飛んでくる。正面から受ければ、三枚分の重さがまとめてこちらへ乗る構成ですわね。

 

 一度押されると、石床の上で爪先がわずかに滑った。

 

 ですが、三枚とも正面へ重心が寄っていますの。

 

 重いということは、その向きを変えるにも時間がかかる。

 

 押し返す必要はございませんの。

 

 わたくしは一度だけ後ろへ引いた。

 

 盾列が揃って一歩出る。

 

《配信コメント》

名無しの領民:押してる

名無しの領民:城主が下がった

名無しの攻略勢:横空いてる

名無しの攻略勢:そこ抜けろ

名無しの領民:届かねーぞ

名無しの攻略勢:実況だよ

 

 前へ揃ったぶん、横へ向き直す余裕が消えている。

 

 その空いた側へ抜ける。

 

 三枚の大盾がこちらを追って回り始めるより先に、外側へ尾を通した。

 

 崩れた隊列が組み直されるころには、残り時間の方が少ない。

 

《防衛成功:992》

 

     ◇

 

 数日後。

 

《第993防衛》

 

 今度の攻略隊は、状態付与と位置交換を重ねてきた。

 

 こちらの動きを止めるのではなく、立つ場所そのものをずらして形を作り直す構成。

 

 最初の交換は綺麗でしたわ。

 

 第1形態の身体が外周へ送られ、中央が一度空く。

 

「まあ」

 

 そこから同じ身体で戻る必要はございませんの。

 

 第2形態へ移る。

 

 身体が軽くなった直後の一歩を中央へ向け、そのまま交換先を作っていた後衛まで距離を詰める。

 

 二度目の位置交換も成立した。

 

 ただし、今度は交換後に相手が残る位置まで見えている。

 

 そこへ先回りすれば、三度目を準備する時間は作らせない。

 

《防衛成功:993》

《通算993防衛》

《1000まで残り7》

 

《配信コメント》

名無しの領民:7

名無しの領民:もう片手じゃ足りない

名無しの領民:片手で数えるな

名無しの領民:次も見る

 

「では、次もお待ちしておりますわ!」

 

 千回目まで、あと七回。

 

 コメント欄はもう次の数字へ走り始めている。

 

 けれど、わたくしが配信終了操作を確定した直後、祝賀用の小窓より先に別の表示が開いた。

 

《非公開・監視通知》

《低ランク帯》

《未登録参照:遮断済み》

 

 残っていた配信表示を閉じる。

 

 七という数字から、視線を通知へ移した。

 

     ◇

 

 管理AIは、事案の内容より先に共有条件を表示した。

 

《対象者:匿名希望》

《限定解析共有:本人同意確認済み》

《共有範囲:事案経過/状態差分のみ》

《匿名比較情報の関係者共有:本人同意済み》

 

 本人同意が確認されている。

 

 ただし、開くのは事案経過と状態差分だけ。

 

「受領いたしますわ」

 

 名前も個体名も、正確な時刻も出ない。それで足りますの。

 

 今回わたくしが確認すべきなのは、誰に起きたかではなく、何が起きて、どこで止まったかですわ。

 

《現在個体接続:継続》

《直近主観記録:欠落なし》

《技能構成:保持》

《継承候補:保持》

《本人による継承選択:なし》

 

 上から一つずつ読む。

 

 現在個体との接続は続き、主観も技能も残っている。本人は継承を選んでいない。

 

 前回の《モルグラ》事案を知っているからこそ、その違いが先に目へ入った。

 

「今回は、残っていますのね」

 

 事案経過を開く。

 

 終了処理の直前、登録されていない一時参照が入った。

 

 残滓候補と技能情報へ広がる前に、追加監視が検出。経路を隔離し、遮断。終了処理も止めている。

 

 現在個体も、主観も、技能も失われず、継承へも進んでいない。

 

「……間に合いましたのね」

 

《確認》

 

 胸の内側でほどけかけたものを、そこで止める。

 

 今回は残った。それは確認できる。

 

 ですが、何が参照を入れたかまで分かったわけではない。

 

 遮断できたことと、正体が分かったことは別ですの。

 

     ◇

 

「二件目を確認しました」

 

 管理AIの比較窓へ、《モルグラ》事案と今回の記録を並べる。

 

 一件目では参照のあとに終了処理まで進み、《モルグラ》との接続、十九分四十四秒の主観、技能二系統を失った。

 

 今回は同じ処理層への参照を、途中で止めた。

 

 だから現在個体も、主観も、技能も残り、継承へ進んでいない。

 

「今回は監視が処理を遮断していますの。現在個体、主観記録、技能は保持されています」

 

 二件目を《モルグラ》と同じ被害には数えない。確認済みの被害個体は、一件目のままですの。

 

 それでも、比較上の意味は増えた。

 

 一件だけなら、単独破損や偶発の可能性を強く残せた。ですが、同じ処理層へ二度目の参照が入った。

 

《分類候補》

《低ランク帯・未登録参照連続事案》

 

 先に置いていた内部仮説も開く。

 

《未登録対向処理》

《仮説優先度:低 → 中低》

 

「単独の偶発だけでは、説明しにくくなりましたわね」

 

 そこで言葉を切る。

 

「ですが、正体が分かったわけではありませんの」

 

《主体存在:未確定》

《既往5件との関連:未確認》

 

 二度目の参照までは事実。

 

 同じ主体なのか、そもそも主体があるのか、以前の五件と関係するのか。それらは未確認ですの。

 

 分類名にも主体は入れない。

 

 知性も、目的も、悪意も置かない。

 

 遮断した参照は更新せず、今ある形のまま保存する。

 

     ◇

 

 監視条件を広げる前に、オルドさんへ連絡する。

 

 別の対象に起きた類似処理を、本人情報を伏せたまま共有してよいか。

 

《類似処理再発:共有希望》

《別対象の個人情報:非共有》

《本人選択:確認》

 

 少し待って、返答が来た。

 

「聞く」

 

 その一言を確認してから、非公開支援領域を開いた。

 

 オルドさんは表示台の前に立つ。

 

 以前と同じように、右手の親指が左袖の折り返しへ触れた。

 

 わたくしは、原因の話から始めなかった。

 

「先に結果をお伝えしますわ。二件目の現在個体は残っています。主観記録にも欠落はございません。技能も保持されていますの」

 

 オルドさんの指が止まる。

 

「……よかった」

 

 返事はすぐだった。

 

 誰に起きたのかも知らない。

 

 どの個体なのかも知らない。

 

 それでも、今回は残ったという結果を聞いた時の声だった。

 

 その安堵を、次の話で上書きしない。

 

 少し間を置いてから、比較できた範囲だけを続ける。

 

「一件目と同じ処理層へ、登録されていない参照が入りました。ただし今回は、追加監視が途中で遮断しています。同一原因とは、まだ確定しておりませんの」

 

「同じだったのか」

 

「同じなのは、確認できた処理の一部までですわ」

 

 オルドさんの視線が下がる。

 

 袖へ触れていた親指が、今度は動かない。

 

「でも、俺だけじゃなかった」

 

 声が小さくなる。

 

「……俺だけの操作ミスじゃなかったのか」

 

「少なくとも今回も、本人による継承選択はありませんでしたわ」

 

 それ以上は言わない。

 

 二件目で《モルグラ》の原因が確定したわけではない。

 

 ですが、「自分だけが間違えた」という見方は、さらに弱くなった。

 

 オルドさんは息を吐く。

 

 途中で一度止まり、その残りをゆっくり吐いた。

 

 最初の「よかった」と、今の安堵は同じではない。

 

 前者は、別の誰かが失わずに済んだこと。

 

 後者は、自分だけの操作ミスだったという見方から、ほんの少し距離ができたことですの。

 

     ◇

 

 オルドさんへの報告を終えてから、低ランク帯の監視条件を開く。

 

《監視対象》

《終了処理》

《継承準備》

《残滓再参照》

《主観同期切断》

《未登録一時領域》

 

「全部止めるんじゃないんだな」

 

「止める根拠と、見失わない根拠は別ですわ」

 

 追加監視は実際に参照を遮断した。強める理由はあるが、低ランク帯を一律停止する根拠まではない。

 

 挑戦前の同意確認。

 

 記録保護。

 

 終了処理の遅延確認。

 

 異常参照を検出した場合の隔離。

 

 必要な保護条件を管理AI側へ提示する。

 

 採用された範囲で観測条件が追加される。

 

 それを超えて全体を止める判断は、今ある事実からは出さない。

 

「中ランクでは?」

 

「同種事案は、まだ確認されておりませんの」

 

 予定一覧を開く。

 

 そこには、以前の模擬戦を終えた六人の次の挑戦予定が残っている。

 

《中ランク挑戦予定》

《対象:絡晶蛛《ネフレア》》

 

 中ランクへ広がった記録はない。恐怖だけで、この予定を自動では消さない。

 

 ただし、挑戦者側と《ネフレア》を運用するシア本人の同意、記録保護、追加監視、非公開観戦条件は確認する。その上で、挑戦そのものは通常挑戦として残される。

 

 わたくしが予定を実行すると決めるのではない。

 

 参加する本人たちが選べる状態を、勝手に消さないためですの。

 

 確認された追加条件だけが、予定欄の横に並ぶ。

 

 《ネフレア》の名前は消えない。

 

 二件目は、残った。

 

 一件目の《モルグラ》は、まだ戻っていない。

 

 低ランク帯では監視を強める。

 

 中ランクで同じことが起きるとは、まだ確認されていない。

 

 分かった範囲を分けたまま、予定欄を閉じる。

 

 閉じる直前まで、《ネフレア》の名は白く灯っていた。

 

 

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