『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第024話 討伐ではございません

 

 

 翌日。

 

 前夜に六人目まで戻ったことは、すでに確認していますの。

 

《6/6:接続継続》

《本人識別:一致》

《主観記録:欠落なし》

 

 それでも、六人を一度に並べて同じ質問に答えさせることはしなかった。

 

 戦場では、立っていた場所が違う。

 

 見ていた方向も違う。

 

 聞こえた音の位置も、手元へ出た表示も違う。

 

 全員が無事だったからこそ、その違いを消さずに残せますの。

 

 今日は一人ずつ聞く。

 

 誰が、どこから、何を見たのか。

 

 その前に、管理AIが確認表示を一枚だけ開いた。

 

《本人確認:アスト = A.S.T.R.A. Sync》

《今回の役割:限定解析協力》

《運営権限:追加なし》

 

「え」

 

 フィンが表示を見た。

 

「え?」

 

 今度はメイア。

 

 ネネは表示とわたくしを交互に見てから、眉を上げた。

 

「本当に本人だったんだ」

 

「ですから、ずっとそう申し上げておりますでしょう?」

 

 テトラは表示を二度読み、ユアンは短く頷いた。

 

 ライカだけ数秒遅れて、こちらを見る。

 

「……お前、本当にA.S.T.R.A. Sync本人だったのか」

 

「この期に及んで!」

 

 思わず扇子を開きかける。

 

 けれど、その前にライカが六人へ視線を戻した。

 

「驚くのは後だ。先にこいつらの確認を終わらせるぞ」

 

「……その通りですの」

 

 表示を一段下げる。

 

 わたくしに増えたのは、運営権限ではない。

 

 許可された記録を比較する。

 

 本人へ質問する。

 

 確認できた範囲を説明する。

 

 そこまでですの。

 

「原本の保全、隔離、公開判断は管理側に残ります。わたくしが勝手に個人記録を開くこともございませんの」

 

 六人の前で、そこだけは先に揃えておく。

 

     ◇

 

 最初の確認では、戦場の映像を流しっぱなしにはしなかった。

 

 本人が話した位置へ、必要な時だけ記録を合わせる。

 

 先に映像を見せてしまえば、自分が見ていなかったものまで、後から自分の記憶へ混ざるおそれがありますもの。

 

 ブランは、白い脚より先に泥のことを話した。

 

「盾の下が沈んだ。あれが最初だったと思う」

 

 外部記録では、その直後に右側へ脚が出ている。

 

 けれどブランの正面には盾があった。

 

 最初に足元へ意識が落ちたなら、脚を後から見たことと矛盾しない。

 

 メイアが覚えていたのは、出口へ伸びた糸の角度だった。

 

「最初は一本に見えた。でも、テトラへ重なったあと、外へ逃げる線が増えてた」

 

 フィンは、白い脚へ標を置こうとしても対象IDが取れなかったことを先に挙げた。

 

「見えてるのに、いつもの敵として取れなかったんですよ。だから、どこ見ればいいか一回分かんなくなって」

 

 ネネは切った時の表示を覚えていた。

 

「《環境部位》って出た。敵の部位じゃなくて」

 

 テトラだけは、自分の個別映像が観戦側で黒くなったことを知らなかった。

 

「こちらでは見えていました。左腕だけ遅くて、視界は消えていません」

 

 それも記録と一致する。

 

 本人側の視覚が残っていたことと、外へ送られる個別映像が途切れたことは別ですの。

 

 最後の短い音については、さらに分かれた。

 

「右後ろから聞こえた」

 

 ユアン。

 

「俺は上だと思った」

 

 フィン。

 

 同じ音を、違う場所から、違う身体の向きで聞いている。

 

「食い違ってます?」

 

 フィンが尋ねる。

 

「位置も身体の向きも違いますもの。同じである必要はございませんわ」

 

 正しい証言を一つ作る必要はない。

 

 六人の位置を残したまま、それぞれが取得したものを保存する。

 

 共通していたものだけを抜けば、

 

 本体がいなかったこと。

 

 出口側へ伸びる糸があったこと。

 

 テトラへ白い外殻が重なったこと。

 

 脚と顎が身体の続きなしに動いたこと。

 

 床に泥状の変化があったこと。

 

 最後に短い音が記録されたこと。

 

 そこまでは重なる。

 

 音がどちらから聞こえたか。

 

 何を最初に見たか。

 

 どの線を一本に見たか。

 

 そこは揃えない。

 

「証言差は視界の差として保存します」

 

《個別記録:本人選択範囲で固定》

 

 一人目。

 

 二人目。

 

 六人目まで。

 

 同じ一個の証言へ作り替えず、それぞれの記録として固定されていく。

 

 前夜の《主観記録:欠落なし》は、これで初めて、六人が自分の言葉で持ち帰った記憶と照合できましたの。

 

     ◇

 

 その翌日。

 

 非公開支援領域へ、シアが再接続した。

 

 六人の個別確認には同席していない。

 

 管理AIが、彼女にも同じ表示を出す。

 

《本人確認:アスト = A.S.T.R.A. Sync》

《今回の役割:限定解析協力》

《運営権限:追加なし》

 

 シアは一度表示を見て、それからわたくしを見る。

 

「……A.S.T.R.A. Sync、ずっと設定だと思ってました」

 

 口元が少しだけ緩んだ。

 

「本人ですわ。ですが、本日はそこが本題ではございませんの」

 

「はい」

 

 笑みが消えるのを待ってからではなく、彼女自身が記録へ視線を戻したのを見て、次を開く。

 

《本人接続・本人識別:通常》

《最後の確定主観:レイド開始準備》

 

 そこから先が空いている。

 

 次の本人主観まで。

 

《主観記録欠落:11分08秒》

 

 シアの指が、膝の上で止まった。

 

「……十一分?」

 

「八秒ですの」

 

 表示から目を離さないまま、彼女が答える。

 

「何も、ないです」

 

「操作感覚は?」

 

「ありません」

 

 映像が残っていても。

 

 六人が覚えていても。

 

 それをシア本人の十一分八秒へ足すことはできない。

 

 次の記録を開く。

 

《現在個体:絡晶蛛《ネフレア》》

《現在個体防衛数:37》

《血統累計防衛数:86》

《状態:継承段階》

《正式敗北:なし》

《本人削除操作:なし》

《本人継承選択:なし》

《第2形態構成:一部欠損》

《擬装膜/毒晶系統:一部欠損》

 

 正式敗北はない。

 

 本人による削除も、継承選択もない。

 

 それでも《ネフレア》は継承段階へ進み、構成の一部が欠けている。

 

 ここまで揃って、ようやく六人が遭遇した異常と、シア側で起きた現在個体の異常を、同じ事案内の記録として比較できますの。

 

 シアは表示を長く見た。

 

「私の巣で、あの子たちが襲われたんですよね」

 

「あなたが操作した記録はございませんの」

 

「でも、私の巣です」

 

「それと、あなたが行ったことかどうかは別ですわ」

 

 彼女が何を責任だと感じているかまでは、わたくしが決めることではない。

 

 分けられる事実だけを分ける。

 

 巣は《ネフレア》のものだった。

 

 シア本人の操作記録はない。

 

 本人主観には十一分八秒がない。

 

 現在個体は正常敗北なしで継承段階へ進んでいる。

 

 それ以上の意味は、まだ置かない。

 

 管理AIが共有候補を出す。

 

 本人未操作。

 

 主観記録欠落の存在。

 

 現在個体の状態。

 

 どこまで六人へ知らせるかは、シアが選ぶ。

 

 わたくしは選択を待った。

 

《共有範囲:本人選択済み》

《通知先:六歩前進6名/ライカ》

 

     ◇

 

 七人の再接続が揃う。

 

《接続:7/7》

 

 共同確認窓が開いた。

 

 六人の側には、シアが選んだ範囲だけが表示される。

 

 十一分八秒。

 

 本人操作なし。

 

 正式敗北なし。

 

 《ネフレア》現在個体の欠損。

 

 それ以上は開かない。

 

 しばらく、誰も口を挟まなかった。

 

 その沈黙へ勝手な意味を付ける前に、ユアンが先に言う。

 

「シアさんに襲われたとは言ってないです」

 

 ネネも続いた。

 

「シアさんを見たわけじゃなかったし」

 

 シアは目を伏せた。

 

「……ありがとう」

 

 それだけ。

 

《原本保全:継続》

 

 感謝が何を解決したことにもならない。

 

 六人が見たものと、シア本人の主観記録が欠けている十一分八秒は、そのまま別々に残る。

 

     ◇

 

 次に開いたのは、戦場から隔離保全された外殻断片ですの。

 

 本人記録ではない。

 

 隔離保全された物的記録。

 

 比較対象として、以前の事案で保全された《モルグラ》断片を管理側が並べる。

 

 まず表面。

 

 白い外骨格。

 

 細い糸口。

 

 付着した足場構造。

 

 こちらは《ネフレア》の正常構成と比較できる。

 

 次に内部。

 

 圧縮された泥外殻形成。

 

 突進時に使われる荷重配分。

 

 これは《ネフレア》の正常ビルドにはない。

 

 《モルグラ》側の保全断片へ比較を掛ける。

 

 形式一致が返った。

 

《既知構造一致候補》

《モルグラ:外殻/潜行/突進》

《ネフレア:糸/拘束/付着足場》

 

 わたくしは表示を一度読み直す。

 

 片方だけでは説明できなかったものが、二つの既知構造へ分かれていく。

 

「少なくとも、二系統の既知構造と一致する部分までは確認できますの」

 

 そこまでは言える。

 

 ですが、二体の何かが戦場にいた、とは言えない。

 

 同じ一個体が複数の構造を持っていたのか。

 

 一つの処理が混ぜたのか。

 

 複数の異常が重なったのか。

 

 二系統の構造が確認できることと、主体が二つあることは別ですの。

 

《知性/目的/生命:未確認》

 

 前夜に記録された短い波形も、同じ調査群へ残す。

 

 低い周波数成分を含んでいる。

 

 既存記録と比較対象にはできる。

 

 けれど、音が似ていることから発声者まで同じとは決められない。

 

《同一原因:未確定》

 

 分かったことは増えた。

 

 分からない範囲も、そのぶん狭く書けるようになっただけですの。

 

     ◇

 

 最後に、戦績処理が開く。

 

《戦績再判定》

《結果:無効試合/緊急終了》

《通常討伐報酬:なし》

 

 フィンが表示を見上げた。

 

「負け扱いでもない?」

 

「通常の討伐ではございませんもの」

 

 討伐対象として成立していたのかすら、通常の判定へ戻せない。

 

 だから勝ちへも負けへも押し込まない。

 

 ブランは表示を見たまま、何も言わない。

 

「ですが、失敗でもございませんの」

 

 六人全員が戻り、本人識別と主観記録を保ったまま、異常な外殻と六つの証言を持ち帰った。

 

 討伐結果はなくても、次の被害を止めるために使えるものは残っていますの。

 

「一時的に話せる範囲が限られます。一般向けの内容は、後ほど管理側から出る公式告知の範囲に従ってくださいませ」

 

 被害者名。

 

 映像。

 

 隔離断片。

 

 欠落時間。

 

 原因仮説。

 

 ここにいる者が知ったからといって、一般へ出してよい情報にはならない。

 

「理由は、関係者保護、不用意な再現試行の防止、誤情報防止ですの」

 

 一度区切る。

 

「ただし、調査協力を続ける義務はございませんの。辞退しても構いませんわ。次の戦いを休むこともできますの」

 

 守秘と協力義務は同じではない。

 

 知らされた情報を外へ出さないことと、この先も調査へ参加し続けることは別ですの。

 

「今日はそこまでだ」

 

 ライカが先に席を立つ。

 

「次を決める日じゃない。休め」

 

 六人の返事は揃わなかった。

 

 すぐ頷く者もいれば、表示を見たままの者もいる。

 

 それでいい。

 

 ここで次の予定まで同じにする必要はありませんの。

 

 討伐ではございません。

 

 失敗でもございません。

 

 六人全員が、六人のまま戻った。

 

 そして今度は、その記憶が証拠として残った。

 

 シア本人の十一分八秒も、空白のまま残す。

 

 少なくとも二系統の既知構造との一致までは確認できた。

 

 それ以上は、まだ分からない。

 

 公開できることも、ほとんどありませんの。

 

 ですが。

 

 分からないものを分からないまま残しても、持ち帰れたものまで消えるわけではございません。

 

 今回は、それで十分ですの。

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