『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
翌日。
前日の共同確認窓は、もう閉じていた。
シアと六人の接続表示もない。証言窓も、隔離断片も、本人選択で共有された記録も、いま開いている運用画面には出ていない。
非公開の確認領域へ接続しているのは、わたくしと管理AIだけですの。
《監視対象条件》
《終了理由欠落》
《継承原因欠落》
《残滓再参照》
《未登録一時処理》
《主観同期途絶》
《一致検知後:該当条件に対応する受付を一時停止》
縦に並んだ条件を、一つずつ見る。
正常な敗北理由がある試合も、本人選択による継承も、止める必要はない。
通常のレイドも、生活世界も、PvPも、それだけで今回の異常と同じ条件にはなりませんの。
《条件外受付:通常進行》
全面停止ではない。
止めれば安全になる、と確認できたわけでもない。
なら、これまで異常時に確認された条件だけを監視対象にする。
「監視対象は、この範囲までですのね」
《確認》
「条件外へ拡張する根拠は?」
《確認済み根拠:なし》
それなら広げない。
怖いから止める、では安全条件になりませんもの。
止めないから安全、でもない。
確認できた条件だけで線を引く。
《ライカ:再接続》
表示のあと、通話窓が一つ増えた。
「見た」
ライカは挨拶より先に停止条件を上から下まで読んだ。
「全部止めるよりは筋が通る」
「止めれば安全、まで確認できておりませんもの」
「だから条件付きか」
「ええ。少なくとも、正常処理まで一緒に止める理由はございませんの」
ライカの視線が、《主観同期途絶》で一度止まる。
「また同じ入口が出たら?」
「受付側で止めます。本人側へ影響が出る場合は通知が必要ですわね」
管理AIが、ちょうど次の確認を開いた。
《個別通知:要否確認》
《対象:受付停止/戦績反映保留で本人側へ影響》
通知文候補が表示される。
内部では、モルグラとネフレアの既知構造へ一致する部分まで確認している。
主観記録の欠落時間もある。
隔離保全された外殻もある。
ですが、それを通知文へ載せる理由はない。
「通常の保守通知で十分ですの。内部仮説は付けません」
《確認》
対象受付が止まったこと。
戦績反映が保留されること。
必要なら再判定になること。
本人が行動を選ぶために必要なのは、まずそこまで。
原因候補を添えれば親切になるとは限らない。
未確定のものを、管理側から届いた説明という形で本人へ渡せば、それだけで重さが変わりますの。
「これでいい」
ライカが言った。
運用協議はそこで終わった。
彼の接続が切れる。
《ライカ:退出》
前日の共同窓を、そのまま今日まで引き延ばさない。
◇
次に開いたのは、個別通知だけでしたの。
《関係者通知》
《対象:シア/六歩前進6名》
一斉の説明窓ではない。
同じ通知でも、それぞれの確認は本人ごとに分ける。
受付停止の可能性。
戦績再判定。
一般公開する個人情報はないこと。
内部記録の共有範囲は、前日に本人が選んだ範囲を越えないこと。
個別通知をそれぞれ確認したあと、一般公開範囲の確認だけを行う関係者窓へ七人が接続する。
《接続:7/7》
わたくしの正面へ七つの表示が揃った。
「一般向けの告知は、管理AIと運営側から直接出ますの」
七人が聞いていることを確認して続ける。
「皆様のお名前、個人視点、隔離断片、欠落時間、内部での比較結果は出ません」
フィンが小さく息を吐いた。
テトラは表示を読み返している。
シアは自分の共有範囲欄を確認してから、こちらを見た。
「昨日選んだ範囲も、一般には出ないんですね」
「ええ。本人間の共有と、一般公開は別ですの」
前日に七人へ開いたからといって、世界中へ開いたことにはならない。
「外へ出るのは、運用上必要な範囲だけですわ」
《関係者確認:完了》
確認窓を閉じる。
ここまでが内部。
次からは公開側ですの。
◇
少しして、全プレイヤー向けの告知が出た。
《RBO運営告知》
《一部レイド:保守点検》
《該当受付:一時停止》
《一部戦績:反映遅延》
《無効試合:再判定中》
《原因:調査中》
《通常進行:継続》
《参加者個人情報:非公開》
知っていることより、ずっと少ない。
ですが、少ないから間違っているわけではない。
一部の受付は止まる。
一部の戦績は遅れる。
無効試合は再判定される。
原因は調査中。
それ以外の通常進行は継続する。
一般側で確認できるのは、そこまでですの。
わたくしは告知を閉じず、そのまま短い配信枠を開いた。
《配信開始》
白い扇子は手元にある。
いつもなら、開始表示が灯った瞬間に開く。
今日は開かなかった。
《配信コメント》
名無しの領民:高笑いなし
名無しの古参領民:今日は確認回か
名無しの検証勢:一部受付止まってる
名無しの攻略勢:通常レイドは動いてる
名無しの領民:何があったの
コメント欄が、普段より少し遅く見えましたの。
誰も公開情報以上の答えを持っていない。
わたくしは、内部で確認された情報をいくつか知っている。
その二つを混ぜないために、この配信を開いている。
「本日は、先ほど出た公式告知について、この場で確認できる範囲だけ見ますわ」
管理側の説明を代行するためではない。
この場では、わたくしも公開された告知だけを読む。
「確認できるのは、一部レイドの保守点検、該当受付の一時停止、一部戦績反映の遅延、無効試合の再判定、原因調査中。そして通常進行は継続する、という点ですの」
《配信コメント》
名無しの検証勢:参加者は?
名無しの噂好き:消えるボスって本当?
名無しの領民:前の鳴き声と関係ある?
名無しの攻略勢:1000防衛は続く?
名無しの領民:初心者が何かやらかした説ある?
流れた文字を、上から追う。
参加者。
原因。
過去の音。
千回目。
内部情報を使えば、答えられる質問はある。
だからこそ答えない。
「参加者名と結果詳細は、公式告知にはございません」
最後の一件へ扇子の先を向ける。
「参加者が原因だと判断できる公開情報もございませんの」
《配信コメント》
名無しの領民:でも情報少なくない?
名無しの検証勢:少ないのはそう
名無しの噂好き:隠してるってこと?
名無しの攻略勢:非公開と隠蔽は別だろ
名無しの領民:じゃあ何を聞けばいいの
「情報が少ない、と批判することまで止めるつもりはございませんわ」
分からないことを、分からないと言う。
説明が足りないと感じる。
そこまでを封じれば、公開告知を出した意味までなくなりますの。
「ただし、答えが少ないからといって、公開されていない個人を答えの代わりに置くことは別ですわよ」
◇
その言葉を置いた直後でしたの。
《配信コメント》
名無しの噂好き:候補PTいくつか出てるよね
名無しの領民:配信で見た初心者六人?
名無しの検証勢:名前出すな
名無しの噂好き:当てるだけなら
名無しの領民:本人に聞けばよくない?
扇子を閉じた。
「おやめなさいませ」
コメントの流れが一度遅くなる。
「公開されていない参加者を推測して、本人へ接触することは確認ではございませんの」
参加者が誰なのか。
誰が何を見たのか。
誰に何が起きたのか。
それを知っている側から見れば、名前当ては軽くありませんの。
けれど、それを理由として公開することもできない。
「公式告知に参加者個人情報は出ておりません。それ以上を、外から個人へ取りに行く理由にはなりませんわ」
《配信コメント》
名無しの検証勢:了解
名無しの規約確認勢:批判と特定は分けよう
名無しの攻略勢:証拠なしで人に行くな
名無しの領民:1000は?
名無しの攻略勢:通常進行継続なら予定は残る?
名無しの領民:防衛は続くのか
千回目。
そこも、内部で何かを知っているから決める話ではない。
公開予定と通常進行の表示を開く。
予定は消えていない。
「その点は告知どおりですわ。通常進行は継続しますの」
《配信コメント》
名無しの領民:じゃあ原因は?
名無しの噂好き:結局そこ
名無しの検証勢:調査中ってこと?
「この場で確認できる公開情報では、《調査中》までですの」
そこから先は言わない。
十一分八秒も。
隔離断片も。
二系統の既知構造との一致も。
ここには持ち出さない。
高笑いもしなかった。
◇
配信を閉じたあとも、公開空間は止まりませんの。
運営管理下の公開投稿を開けば、もう同じ告知から別々の枝が伸びていた。
消えるボス。
隠しイベント。
千回防衛連動演出。
どれも、公開側から確かめられる証拠はない。
だからといって、全部を消す理由にもならない。
考察すること。
運営の情報量を批判すること。
次の告知を待つこと。
それらまで個人特定と同じ扱いにはできませんの。
個人名へ近づく投稿には注意が付く。
本人への接触を促す投稿は、管理側の規約対応対象になる。
未確認の内容を事実として断定するものも、公開情報とは区別される。
その横で、別の推測は残り続ける。
《公開投稿》
消えるボスって呼び方だけ先に広がってる
《公開投稿》
1000前のイベント演出だったりしない?
《公開投稿》
一部だけ止めてるなら範囲に共通点あるんじゃないの
《公開投稿》
共通点が公開されてない
答えの形をしていない言葉が、次々に増える。
内部では、隔離保全した記録の解析が続いている。
外では、その結果を知る手段がない。
情報を守れば噂が消える、とは最初から考えていませんの。
守る必要があるものと、噂が増えることは、別の問題ですもの。
原因について、公開できる答えはありませんでした。
答えのない場所へ、噂だけが増え始めていましたの。