『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第025話 公開できる答えがありませんの

 

 

 翌日。

 

 前日の共同確認窓は、もう閉じていた。

 

 シアと六人の接続表示もない。証言窓も、隔離断片も、本人選択で共有された記録も、いま開いている運用画面には出ていない。

 

 非公開の確認領域へ接続しているのは、わたくしと管理AIだけですの。

 

《監視対象条件》

《終了理由欠落》

《継承原因欠落》

《残滓再参照》

《未登録一時処理》

《主観同期途絶》

《一致検知後:該当条件に対応する受付を一時停止》

 

 縦に並んだ条件を、一つずつ見る。

 

 正常な敗北理由がある試合も、本人選択による継承も、止める必要はない。

 

 通常のレイドも、生活世界も、PvPも、それだけで今回の異常と同じ条件にはなりませんの。

 

《条件外受付:通常進行》

 

 全面停止ではない。

 

 止めれば安全になる、と確認できたわけでもない。

 

 なら、これまで異常時に確認された条件だけを監視対象にする。

 

「監視対象は、この範囲までですのね」

 

《確認》

 

「条件外へ拡張する根拠は?」

 

《確認済み根拠:なし》

 

 それなら広げない。

 

 怖いから止める、では安全条件になりませんもの。

 

 止めないから安全、でもない。

 

 確認できた条件だけで線を引く。

 

《ライカ:再接続》

 

 表示のあと、通話窓が一つ増えた。

 

「見た」

 

 ライカは挨拶より先に停止条件を上から下まで読んだ。

 

「全部止めるよりは筋が通る」

 

「止めれば安全、まで確認できておりませんもの」

 

「だから条件付きか」

 

「ええ。少なくとも、正常処理まで一緒に止める理由はございませんの」

 

 ライカの視線が、《主観同期途絶》で一度止まる。

 

「また同じ入口が出たら?」

 

「受付側で止めます。本人側へ影響が出る場合は通知が必要ですわね」

 

 管理AIが、ちょうど次の確認を開いた。

 

《個別通知:要否確認》

《対象:受付停止/戦績反映保留で本人側へ影響》

 

 通知文候補が表示される。

 

 内部では、モルグラとネフレアの既知構造へ一致する部分まで確認している。

 

 主観記録の欠落時間もある。

 

 隔離保全された外殻もある。

 

 ですが、それを通知文へ載せる理由はない。

 

「通常の保守通知で十分ですの。内部仮説は付けません」

 

《確認》

 

 対象受付が止まったこと。

 

 戦績反映が保留されること。

 

 必要なら再判定になること。

 

 本人が行動を選ぶために必要なのは、まずそこまで。

 

 原因候補を添えれば親切になるとは限らない。

 

 未確定のものを、管理側から届いた説明という形で本人へ渡せば、それだけで重さが変わりますの。

 

「これでいい」

 

 ライカが言った。

 

 運用協議はそこで終わった。

 

 彼の接続が切れる。

 

《ライカ:退出》

 

 前日の共同窓を、そのまま今日まで引き延ばさない。

 

     ◇

 

 次に開いたのは、個別通知だけでしたの。

 

《関係者通知》

《対象:シア/六歩前進6名》

 

 一斉の説明窓ではない。

 

 同じ通知でも、それぞれの確認は本人ごとに分ける。

 

 受付停止の可能性。

 

 戦績再判定。

 

 一般公開する個人情報はないこと。

 

 内部記録の共有範囲は、前日に本人が選んだ範囲を越えないこと。

 

 個別通知をそれぞれ確認したあと、一般公開範囲の確認だけを行う関係者窓へ七人が接続する。

 

《接続:7/7》

 

 わたくしの正面へ七つの表示が揃った。

 

「一般向けの告知は、管理AIと運営側から直接出ますの」

 

 七人が聞いていることを確認して続ける。

 

「皆様のお名前、個人視点、隔離断片、欠落時間、内部での比較結果は出ません」

 

 フィンが小さく息を吐いた。

 

 テトラは表示を読み返している。

 

 シアは自分の共有範囲欄を確認してから、こちらを見た。

 

「昨日選んだ範囲も、一般には出ないんですね」

 

「ええ。本人間の共有と、一般公開は別ですの」

 

 前日に七人へ開いたからといって、世界中へ開いたことにはならない。

 

「外へ出るのは、運用上必要な範囲だけですわ」

 

《関係者確認:完了》

 

 確認窓を閉じる。

 

 ここまでが内部。

 

 次からは公開側ですの。

 

     ◇

 

 少しして、全プレイヤー向けの告知が出た。

 

《RBO運営告知》

《一部レイド:保守点検》

《該当受付:一時停止》

《一部戦績:反映遅延》

《無効試合:再判定中》

《原因:調査中》

《通常進行:継続》

《参加者個人情報:非公開》

 

 知っていることより、ずっと少ない。

 

 ですが、少ないから間違っているわけではない。

 

 一部の受付は止まる。

 

 一部の戦績は遅れる。

 

 無効試合は再判定される。

 

 原因は調査中。

 

 それ以外の通常進行は継続する。

 

 一般側で確認できるのは、そこまでですの。

 

 わたくしは告知を閉じず、そのまま短い配信枠を開いた。

 

《配信開始》

 

 白い扇子は手元にある。

 

 いつもなら、開始表示が灯った瞬間に開く。

 

 今日は開かなかった。

 

《配信コメント》

名無しの領民:高笑いなし

名無しの古参領民:今日は確認回か

名無しの検証勢:一部受付止まってる

名無しの攻略勢:通常レイドは動いてる

名無しの領民:何があったの

 

 コメント欄が、普段より少し遅く見えましたの。

 

 誰も公開情報以上の答えを持っていない。

 

 わたくしは、内部で確認された情報をいくつか知っている。

 

 その二つを混ぜないために、この配信を開いている。

 

「本日は、先ほど出た公式告知について、この場で確認できる範囲だけ見ますわ」

 

 管理側の説明を代行するためではない。

 

 この場では、わたくしも公開された告知だけを読む。

 

「確認できるのは、一部レイドの保守点検、該当受付の一時停止、一部戦績反映の遅延、無効試合の再判定、原因調査中。そして通常進行は継続する、という点ですの」

 

《配信コメント》

名無しの検証勢:参加者は?

名無しの噂好き:消えるボスって本当?

名無しの領民:前の鳴き声と関係ある?

名無しの攻略勢:1000防衛は続く?

名無しの領民:初心者が何かやらかした説ある?

 

 流れた文字を、上から追う。

 

 参加者。

 

 原因。

 

 過去の音。

 

 千回目。

 

 内部情報を使えば、答えられる質問はある。

 

 だからこそ答えない。

 

「参加者名と結果詳細は、公式告知にはございません」

 

 最後の一件へ扇子の先を向ける。

 

「参加者が原因だと判断できる公開情報もございませんの」

 

《配信コメント》

名無しの領民:でも情報少なくない?

名無しの検証勢:少ないのはそう

名無しの噂好き:隠してるってこと?

名無しの攻略勢:非公開と隠蔽は別だろ

名無しの領民:じゃあ何を聞けばいいの

 

「情報が少ない、と批判することまで止めるつもりはございませんわ」

 

 分からないことを、分からないと言う。

 

 説明が足りないと感じる。

 

 そこまでを封じれば、公開告知を出した意味までなくなりますの。

 

「ただし、答えが少ないからといって、公開されていない個人を答えの代わりに置くことは別ですわよ」

 

     ◇

 

 その言葉を置いた直後でしたの。

 

《配信コメント》

名無しの噂好き:候補PTいくつか出てるよね

名無しの領民:配信で見た初心者六人?

名無しの検証勢:名前出すな

名無しの噂好き:当てるだけなら

名無しの領民:本人に聞けばよくない?

 

 扇子を閉じた。

 

「おやめなさいませ」

 

 コメントの流れが一度遅くなる。

 

「公開されていない参加者を推測して、本人へ接触することは確認ではございませんの」

 

 参加者が誰なのか。

 

 誰が何を見たのか。

 

 誰に何が起きたのか。

 

 それを知っている側から見れば、名前当ては軽くありませんの。

 

 けれど、それを理由として公開することもできない。

 

「公式告知に参加者個人情報は出ておりません。それ以上を、外から個人へ取りに行く理由にはなりませんわ」

 

《配信コメント》

名無しの検証勢:了解

名無しの規約確認勢:批判と特定は分けよう

名無しの攻略勢:証拠なしで人に行くな

名無しの領民:1000は?

名無しの攻略勢:通常進行継続なら予定は残る?

名無しの領民:防衛は続くのか

 

 千回目。

 

 そこも、内部で何かを知っているから決める話ではない。

 

 公開予定と通常進行の表示を開く。

 

 予定は消えていない。

 

「その点は告知どおりですわ。通常進行は継続しますの」

 

《配信コメント》

名無しの領民:じゃあ原因は?

名無しの噂好き:結局そこ

名無しの検証勢:調査中ってこと?

 

「この場で確認できる公開情報では、《調査中》までですの」

 

 そこから先は言わない。

 

 十一分八秒も。

 

 隔離断片も。

 

 二系統の既知構造との一致も。

 

 ここには持ち出さない。

 

 高笑いもしなかった。

 

     ◇

 

 配信を閉じたあとも、公開空間は止まりませんの。

 

 運営管理下の公開投稿を開けば、もう同じ告知から別々の枝が伸びていた。

 

 消えるボス。

 

 隠しイベント。

 

 千回防衛連動演出。

 

 どれも、公開側から確かめられる証拠はない。

 

 だからといって、全部を消す理由にもならない。

 

 考察すること。

 

 運営の情報量を批判すること。

 

 次の告知を待つこと。

 

 それらまで個人特定と同じ扱いにはできませんの。

 

 個人名へ近づく投稿には注意が付く。

 

 本人への接触を促す投稿は、管理側の規約対応対象になる。

 

 未確認の内容を事実として断定するものも、公開情報とは区別される。

 

 その横で、別の推測は残り続ける。

 

《公開投稿》

消えるボスって呼び方だけ先に広がってる

 

《公開投稿》

1000前のイベント演出だったりしない?

 

《公開投稿》

一部だけ止めてるなら範囲に共通点あるんじゃないの

 

《公開投稿》

共通点が公開されてない

 

 答えの形をしていない言葉が、次々に増える。

 

 内部では、隔離保全した記録の解析が続いている。

 

 外では、その結果を知る手段がない。

 

 情報を守れば噂が消える、とは最初から考えていませんの。

 

 守る必要があるものと、噂が増えることは、別の問題ですもの。

 

 原因について、公開できる答えはありませんでした。

 

 答えのない場所へ、噂だけが増え始めていましたの。

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