『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
非公開解析領域に、三つの事案を同じ時間軸へ並べた。
《事案A:モルグラ》
《事案B:匿名/未遂》
《事案C:ネフレア》
同じ画面に置いたからといって、同じ原因になるわけではございませんの。
見るのは、まず各事案でどこまで確認できているか。
空いている工程を、比較のために埋めない。
《モルグラ》。
《最終確定主観》
《現在個体接続不能》
《現在個体終了判断:成立》
《継承段階開始》
《一部技能欠損》
《一時処理領域:参照断片あり》
終了判断は正式な形で成立している。
けれど、その起点記録がない。
一時処理領域には参照断片が残っているものの、それを未登録参照そのものだったとは確定していませんの。
《ネフレア》。
《最終確定主観》
《主観記録欠落:11分08秒》
《現在個体:継承段階》
《一部技能欠損》
《正式敗北:なし》
《本人継承選択:なし》
《戦場側:未登録接続を検出》
こちらでは十一分八秒の主観記録欠落と、正式敗北も本人選択もないまま継承段階へ進んだ結果が確認されている。
戦場側では未登録接続も検出された。
ですが、それを《モルグラ》の一時処理領域に残った参照断片と同じものだとは、まだ置けませんの。
そして、匿名の未遂事案。
《未登録参照》
《追加監視:検出》
《参照遮断》
《現在個体:継続》
《主観記録:保持》
《技能構成:保持》
この事案だけは、未登録参照を追加監視が検出し、その場で遮断したことまで確定している。
被害になった二件では、最後に本人側で確定している主観のあとに空白があり、正式敗北も本人による継承選択もないまま、現在個体が継承段階へ進み、技能構成の一部が欠けている。
ただし、その途中で確認できている処理は二件で同じではありませんの。
「共通して見える結果と、揃っていない途中経路。まずはそこを分けますわ」
《確認》
時刻は違う。
ワールドも違う。
現在個体の身体構成も、ランクも同じではない。
似た結果が残っているからといって、一つの不具合がまったく同じ条件で再現された、と置くことはできませんの。
未遂が止まった位置だけを見ても、それ以前とそれ以後のどこまでが被害二件と同じ処理なのかはまだ分からない。
ですから、揃っていない記録は揃えずに見る。
◇
管理AIへ、正常時の主観同期を開かせる。
《正常主観同期》
本人が現在個体を操作している間、見たもの、聞いたもの、身体を動かした感覚は本人の主観として連続する。
同時に、現在個体側ではそのセッションの記録が続いている。
正常に終了するなら、切断前後の処理を経て、本人側の主観も連続したまま確定する。
そこへ、被害二件を重ねる。
《モルグラ》
《主観記録欠落:19分44秒》
《ネフレア》
《主観記録欠落:11分08秒》
数字だけなら、空白ですの。
けれど、「空白がある」と「そこに何もなかった」は同じではない。
オルドには、最後に《モルグラ》の泥へ前脚を入れたところまでが残っている。
シアには、レイド開始準備までが残っている。
そのあとに外部記録が存在していても、それを見せれば本人の経験へ戻るわけではない。
「映像が残ることと、本人の主観記録として残ることは別ですの」
《確認》
前にオルドの十九分四十四秒を見た時も、空白へ別の出来事を置かなかった。
今回も同じ。
ログにあるからといって、本人の記憶へ足さない。
では、何が違ったのか。
正常図と三件を並べて、どこまで記録が残っているかを見る。
《現在個体接続》
↓
《主観同期》
↓
《正常終了》
その横へ、確定している項目だけを置く。
《モルグラ》
《最終確定主観》
↓
《起点記録欠落/一時処理領域に参照断片》
↓
《現在個体接続不能》
↓
《継承段階》
《ネフレア》
《最終確定主観》
↓
《主観未確定区間:11分08秒》
↓
《現在個体:継承段階》
《匿名未遂》
《未登録参照》
↓
《追加監視:検出/遮断》
↓
《現在個体:継続》
《主観記録:保持》
三本は、同じ工程表ではない。
わたくしは表示を一度止めた。
「『記憶が消された』と確定する必要はございませんの。本人主観へ戻る前に、現在個体との連続のどこかが切れた可能性として見るべきですわ」
《関連仮説:成立可能》
まだ、原因ではない。
ですが少なくとも、
被害二件では、本人主観へ戻らないまま現在個体が継承段階へ進んだ。未遂では、現在個体も主観記録も残った。
そこまでは同じ比較軸へ置けますの。
◇
次に、六歩前進の記録を並べた。
《参加者:6》
《現在個体接続:なし》
《管理AI記録保護:有効》
《主観記録:欠落なし》
六人はレイドボス側ではない。
本人がボス現在個体へ接続し、その個体を継承へ送る経路も持っていない。
それでも《ネフレア》戦では、テトラへ白い外殻が重なり、未登録接続が続いた。
個別映像が黒くなった時も、テトラ本人の視覚は残っていた。
テトラ自身が未知現象を解析したわけではない。
行ったのは、既知の混線時にも使う標準分離要求。
その要求を受けて、主観記録を保護領域へ退避したのは管理AIですの。
《主観記録:保護継続》
《個別主観:欠落なし》
六人が覚えている。
だから安全だった、と逆算してはいけない。
ただ、今回の六人は現在個体の継承経路を持たず、さらに管理側の記録保護へ乗っていた。
被害二件とは、そこが違う。
「被害二件では一定時間の本人主観が残らず、遭遇した六人では欠落がなかった――という結果だけを見るより、どの情報経路で記録が残らず、どの経路が保護されたかを見る方が比較できますわね」
《比較可能》
画面へ仮説欄を開く。
《仮説登録》
《個体継続情報切断仮説》
名前を付けても、事実が増えるわけではない。
今回まとめるのは、
現在個体として続いている身体。
技能。
戦績。
継承へつながる情報。
その連続が、本人側の主観へ戻る前に切られている可能性。
そこまでですの。
◇
正常な継承処理も横へ並べる。
《勝敗確定》
↓
《現在個体終了》
↓
《継承/血統精製選択》
↓
《技能・戦績処理》
↓
《次世代/血統資産》
通常なら、正式な勝敗か本人の選択が先にある。
《モルグラ》にも《ネフレア》にも、それがない。
正式敗北はない。
本人の継承選択もない。
それでも途中から、正規の継承処理に似た形式へ入っている。
《現在個体終了以降:正規形式との一致》
わたくしは、その表示を見てから被害断片を開いた。
モルグラ側で確認された、
泥外殻。
潜行。
突進。
ネフレア側で確認された、
糸。
拘束。
付着足場。
現在個体そのものが丸ごと別の場所に複製された、と示す記録はない。
確認できるのは、既知機能に一致する断片が別の異常記録へ混ざっていること。
「敗北したのではなく、通常なら正式敗北や本人選択のあとに続く処理だけが、先に始まっているように見えますの」
《正式分類:未確定》
《仮説:個体継続情報切断》
タイトルだけ見れば、記憶のない敗北。
ですが正式敗北ではございません。
敗北と呼びたくなる結果が先に残っているだけですの。
◇
最後に、処理側の識別を比較する。
削除。
終了。
継承。
能力抽出。
残滓処理。
いずれも、RBO側に既存登録されている正規処理ですの。
正規の処理は、それぞれ別の目的を持って登録されている。
三事案を横に置くと、正規処理の複数境界をまたいで、既存登録だけでは説明できない参照の痕跡や傾向が残る。
ただし、《モルグラ》の参照断片まで匿名未遂の《未登録参照》と同一だったことにはしない。
《既存登録処理元:該当なし》
《単一/複数:未確認》
《目的:未確認》
《生命:未確認》
《知性:未確認》
管理AIが、分類不能な参照元を置くための欄だけを作った。
《未分類処理元》
「処理元、ですのね」
《意味:既存登録処理元へ分類不能》
何らかの意思ある存在が確認された、という表示ではありませんの。
何かが考えているとも。
誰かが狙っているとも。
悪意があるとも。
まだ言えませんの。
隠しボス。
自律AI。
幽霊。
呼び名だけならいくらでも作れる。
証拠にならないので、どれも置かない。
◇
残る問題は、監視範囲でしたの。
ここまでの確認済み被害は、低ランク上位の《モルグラ》と中ランクの《ネフレア》。
ですが、それだけで低いランクだけが対象だとは言えない。
匿名未遂では、追加監視が参照を拾って止められた。
なら、現在個体との接続と主観同期を守る監視を、もう少し広い範囲へ置く案は作れる。
第3形態そのものを危険条件とはしない。
ただし、ランクや形態数を理由に監視対象から外す根拠もない。
《監視拡張案》
・終了前主観同期の二重保存
・継承開始前の監視強化
・能力抽出先の監視
・残滓再参照検出
・ランク/形態数を限定しない適用範囲拡張(高ランク/第3形態保有個体を含む)
ここで止める。
わたくしができるのは、案を作って根拠を添えるところまで。
《運用提案へ登録》
実装するのは管理側ですの。
提案を送る。
すぐに正式運用へ変わるわけではない。
管理AIと運営側が、既存運用への影響と安全条件を照合する。
待つ間、わたくしは三つの事案をもう一度見る。
モルグラ。
匿名未遂。
ネフレア。
ここまで揃えても、何が起きているのかは分からない。
ただ、どこで本人側との連続が失われた可能性があるかは、前より狭く見られる。
しばらくして、運営側の承認記録が戻った。
それを受けて、審査表示が切り替わる。
《運用提案:審査完了》
《採用項目:4》
《適用範囲:拡張》
《正式運用登録:完了》
《次回通常運用から実装》
わたくしの提案と、正式運用登録は別の表示ですの。
その順番を確認してから、採用後の内容だけをライカへ共有する。
『全部止めるんじゃなく、見える場所を増やすんだな』
「ええ。止める必要が確認できた時は止めますわ」
『今は?』
三つの比較画面へ視線を戻す。
正体は見えない。
けれど、前まで見失っていたのは、異常な結果が残ったあとだけではなかった。
その直前の処理もですの。
「連続が切れる可能性のある場所へ、先に監視を置きますわ」
低ランクだけではない。
中ランクだけでもない。
通常運用そのものを止めもしない。
分からないものへ名前を付ける代わりに、次に同じ順序が現れた時、途中を見失わないようにする。
事件の正体は、まだ分かりません。
ですが、三つの事案を、現在個体との接続と主観同期がどこで保たれ、どこで失われた可能性があるかという一本の比較軸へ、ようやく並べられるようになりましたの。