『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第028話 あと三つですわ

 

 

《第994防衛》

 

 開始表示が開く。

 

 攻略側へ見えているのは、いつもの参加情報だけですの。

 

 三十人。

 

 編成。

 

 開始位置。

 

 勝敗条件。

 

 そこへ、事件用の説明は足さない。

 

 その裏側で、管理側の保護項目だけが増えている。

 

《ボス現在個体主観記録:二重保存》

《終了署名監視:有効》

 

 わたくしの能力が増えたわけではない。

 

 攻略側の条件が変わったわけでもない。

 

 監視は監視として、戦場の外側に置かれている。

 

 正面では、状態異常解除と位置交換を組み合わせる三十人隊が待っていた。

 

 前衛が拘束を受ければ、後ろの解除役が出る。

 

 解除役が狙われれば、さらに別の位置から一人が入る。

 

 一人ずつ役割を固定しているというより、崩れた場所へ次の人間を差し込んで戻す組み方ですの。

 

 わたくしは第1形態のまま正面へ圧を掛ける。

 

 前列が受ける。

 

 拘束が一枚乗る。

 

 すぐに解除役が前へ出た。

 

 そこを見て、尾の軌道を変える。

 

「そこですわ!」

 

 解除役へ先に圧を掛ける。

 

 一度だけ、位置交換が止まった。

 

 前へ出るはずだった一人が足を止め、戻る前衛と進路が重なる。

 

 大きく崩れたわけではない。

 

 それでも、その一拍でわたくしが正面へ戻れる。

 

 攻略側もすぐに組み直す。

 

 残り時間が削れていく。

 

 終盤まで隊列は持った。

 

 けれど、最後まで押し切るには届かない。

 

《防衛成功:994》

 

 戦場が閉じる。

 

 その後ろで、管理側の表示が一つ返った。

 

《監視:異常なし》

 

 監視項目には、異常が出なかった。

 

 以前なら、それだけで終わっていた確認ですの。

 

 いまは違う。

 

 通常の入力。

 

 通常の勝敗。

 

 通常の終了。

 

 その全部が、追加監視を置いた状態でも崩れずに通った。

 

 監視項目に異常が出なかったこと自体が、次に比較できる正常側の記録になる。

 

     ◇

 

《第995防衛》

 

 次の隊は、正面火力より地形を使った。

 

 中庭の進路へ低い壁。

 

 斜面。

 

 踏み込める幅を削る障害。

 

 わたくしが地上を走る先へ攻撃を重ねるのではなく、走れる場所そのものを減らしてくる。

 

「でしたら――」

 

 翼を開く。

 

 地上の狭め方を見たまま、上へ逃がす。

 

《配信コメント》

名無しの領民:また飛ぶ

名無しの攻略勢:地上誘導失敗

名無しの領民:着地ネタまだ生きてる?

名無しの攻略勢:着地狙われてるぞ

名無しの領民:届かん届かん

 

 高度を取ると、地上側がすぐに配置を変えた。

 

 壁の意味が消えたわけではない。

 

 着地先を狭める使い方へ切り替えてくる。

 

 わたくしも、そのまま飛び続ければいいわけではない。

 

 空中から一度進路を見て、空いている場所へ降りる。

 

 着地を待っていた前衛が詰める。

 

 尾で一人を外へ流し、正面を開ける。

 

 戦場は普通に続く。

 

 事件のための監視があるからといって、相手の工夫が薄くなることも、わたくしが手加減する理由にもなりませんの。

 

 終了時刻。

 

《防衛成功:995》

 

 公開側では、いつもの勝敗処理。

 

 管理側では、その後だけ少し長く見る。

 

《終了署名:確認》

《残滓再参照:なし》

《監視:異常なし》

 

 数秒。

 

 それだけ。

 

 参加者へ事件用の操作を求めない。

 

 参加者側の取得項目も増やさない。

 

 追加された監視は、管理側でボス現在個体側の主観同期と終了処理を確認するためのものですの。

 

 正常に終わったものを、異常だったことにもしない。

 

 戦闘表示が閉じる。

 わたくしの視界から消えていたコメント欄が戻り、一気に流れ始めた。

 

《配信コメント》

名無しの領民:本人戻った

名無しの攻略勢:戦術的着地

名無しの領民:着地ネタ継続

 

「先ほどから何ですの、その着地ネタは! 戦術上必要なだけですの!」

 

     ◇

 

 その日のうちに、六歩前進の確認窓も開いた。

 

 次のレイド予定ではない。

 

 六人は、まだ戦場へ戻らないことを選んでいた。

 

 非戦闘の訓練ワールド。

 

 敵はいない。

 

 床へ引かれた六本の進路線だけがあり、六人はその上で声掛けと役割交代を繰り返している。

 

 ブランが先へ出る。

 

 メイアが横へずれる。

 

 フィンが後方から位置を取り直し、ネネが空いた線を抜ける。

 

 テトラの前に、既知の警告が出た。

 

《同期経路混線》

 

「これなら、いつもの手順です」

 

 経路分離。

 

 保護領域への退避要求。

 

 管理AIが受ける。

 

 そこで終わる。

 

 テトラ自身が記録を保存するわけではない。

 

 未知の現象を再現する訓練でもない。

 

 知っている警告へ、知っている手順で対応する。

 

 その確認だけ。

 

 隔離保全された《ネフレア》戦の映像窓も、開ける者と開けない者がいる。

 

「今日は見ない」

 

 ネネが閉じた。

 

「俺も」

 

 フィンも続く。

 

 テトラは、自分の記録のうち調査協力へ出す範囲を確認していた。

 

 六人が同じことを選ぶ必要はない。

 

 見返すか。

 

 見返さないか。

 

 どこまで調査へ渡すか。

 

 そこは本人ごとですの。

 

 ブランが六人を見回した。

 

「今は、正式戦は六人とも休むって決めてる」

 

 誰も反論しなかった。

 

 わたくしも次の戦場予定を置かない。

 

 通常運用が続いているからといって、六人まで戻る必要はない。

 

 戻らないことも、いま選べる一つですの。

 

     ◇

 

《第996防衛》

 

 六歩前進が休んでいても、通常防衛は別に進む。

 

 今度の三十人は、小人数班を頻繁に入れ替える隊だった。前へ出た者が傷めば後ろから別の一人が入り、必要なら人数まで増やして穴を塞ぐ。

 

 わたくしが一人を追えば、その一人が下がった場所へ別の役割が入る。

 

 追うほど、相手側の配置が整っていく。

 

「嫌らしいですわね」

 

 なら、追わない。

 

 一人ではなく、空いた役割を見る。

 

 前へ出た者を追い掛けず、その者が戻るために空けた場所へ射線を置く。

 

 交代する二人が、同じ場所を使えなくなる。

 

 入れ替わりが一拍遅れた。

 

 その一拍へ踏み込む。

 

 前列が下がり切る前に横を取り、後続の進路を潰す。

 

 隊列が一度割れる。

 

 攻略側は別班を寄せて戻そうとする。

 

 そこへもう一度、正面から圧を掛ける。

 

 最後まで簡単には崩れなかった。

 

 それでも終了時刻には、攻略側の攻め手が足りなくなる。

 

《防衛成功:996》

《監視:異常なし》

 

 994。

 

 995。

 

 996。

 

 三戦とも、相手は違う。

 

 戦い方も違う。

 

 監視が異常を拾わなかったという結果だけは同じですの。

 

 だからといって、次も何も起きないとは言えない。

 

 正常が三つ続いたことと、安全が証明されたことも、同じではありませんわ。

 

     ◇

 

 その夜。

 

 公開映像の一覧へ、見覚えのある六人の自主練習が増えていた。

 

《1000防衛想定・公開練習》

《公式選考:なし》

《自主企画》

 

《配信コメント》

名無しの領民:候補来た

名無しの攻略勢:候補じゃない

名無しの領民:でも狙ってるんでしょ

名無しの攻略勢:狙うのは自由

 

「正式応募はまだ開始しておりませんわ」

 

 そこだけは訂正する。

 

 公開されているのは、自主練習をしているという事実まで。

 

 六人が何を経験したか。

 

 なぜいま正式戦へ戻らないのか。

 

 内部でどんな記録を確認したか。

 

 そこへ公開側をつなげない。

 

 自主練習をしていることと、事件の当事者であることも、外から一つの答えにしてはいけませんの。

 

 映像を閉じる。

 

 別の窓には、わたくし自身が作った停止案が残っていた。

 

 通常レイドの中止。

 

 1000防衛の延期。

 

 現在個体の隔離。

 

 提案としては、どれも作れる。

 

 けれど、提案できることと、いま実施を求める根拠があることは別ですの。

 

 ライカとの通話を開いた。

 

 表示台の端には、

 

《次回通常防衛》

 

 その隣に、

 

《監視正式運用》

 

 どちらも残っている。

 

「一時停止を含めて、再検討しておりますの」

 

『監視は?』

 

「正式運用へ入っておりますわ」

 

『止める条件は?』

 

 そこは確認済みの表示へ戻る。

 

 監視対象。

 

 限定停止条件。

 

 新規異常。

 

 いま成立しているものを順に見る。

 

「現時点では成立しておりません」

 

 ライカは、すぐに「なら続けろ」とは言わなかった。

 

『じゃあ、止める理由と続ける理由を混ぜるな』

 

「……続けたいから安全と言うな、ということですのね」

 

『逆もだ。怖いから全部止める、も同じだろ』

 

 少しだけ間が空く。

 

『続けるのも止めるのも、確認できた条件で決めろ』

 

 表示台へ視線を戻す。

 

 三戦、監視項目に異常なし。

 

 限定停止条件、現時点では不成立。

 

 監視は正式運用中。

 

 だから、現時点の確認済み条件からは、通常防衛の停止を求める根拠は成立していない。

 

 その逆に、次の一件で停止条件が成立すれば、残り三つだからという理由で押し通さない。

 

「承知しましたわ」

 

 未知の何かの都合を想像して止まるのではない。

 

 千回へ行きたいから安全だと思い込むのでもない。

 

 こちらで確認できる条件を使って、その都度決める。

 

     ◇

 

《第997防衛》

 

 三十人隊が待っていた。

 

 通常戦ですの。

 

 その言葉を、自分へ言い聞かせる必要はなかった。

 

 開始と同時に前衛が散る。

 

 わたくしは第1形態で受け、相手の配置を見て第2形態へ移る。

 

 それでも追従が切れない。

 

 なら、第3形態。

 

 高度を取った瞬間、攻略側の動きが変わった。

 

 わたくしの現在位置へ寄ってこない。

 

 一度右へ旋回する。

 

 着地できそうな場所へ攻撃が置かれる。

 

 下へ降りず、左へ抜ける。

 

 そこにも、一拍遅れて別の攻撃。

 

 追っているのではない。

 

 飛べる先を減らしている。

 

 過去映像から着地点を拾って、わたくしが次に選びやすい空間を順に潰しておりますのね。

 

「よろしいですわ!」

 

 胸部の出力が上がる。

 

 右が塞がる。

 

 左も置かれる。

 

 なら、その外側。

 

 高度を落としながら身体を傾け、尾から滑り込む。

 

 着地を取らせないつもりだった前衛が、即座に再配置した。

 

 遅れない。

 

 わたくしも止まらない。

 

 正面へ戻れば、盾が来る。

 

 上へ逃がせば、次の射線が待っている。

 

 一つ避けても、次の場所が狭い。

 

 攻略側はわたくしを追わず、わたくしが使える盤面を削り続ける。

 

 長い。

 

 最後まで、食らいついてくる。

 

 喉の奥から、笑いがこぼれた。

 

「おーっほっほっほ!」

 

《配信コメント》

名無しの領民:戻った

名無しの古参領民:高笑い確認

名無しの攻略勢:笑ってる場合じゃない

名無しの領民:相手うまいぞ

名無しの観戦勢:着地点じゃなく次の空間潰してる

 

 残り時間を見る。

 

 攻略側も見る。

 

 まだ攻撃は切れない。

 

 わたくしも第3形態を解かない。

 

 通常の攻略者が、普通に勝ちに来ている。

 

 なら、最後まで普通に防衛する。

 

 終了時刻。

 

《防衛成功:997》

 

 一拍遅れて、管理側の確認が返る。

 

《監視:全項目正常》

 

 そして。

 

《1000防衛まで残り3》

 

 数字を見た瞬間、扇子を開いた。

 

「おーっほっほっほ! あと三つですわ!」

 

《配信コメント》

名無しの領民:3!

名無しの領民:あと3!

名無しの領民:報酬なんだろ

名無しの攻略勢:まず次

名無しの領民:正式募集まだ?

名無しの領民:また怒られるぞ

 

「まだですの!」

 

 正式応募は始めない。

 

 997まで来たからといって、1000達成はまだ未来ですの。

 

 次の攻略隊が勝てば、そこで防衛記録は止まる。

 

 事件の正体にも、まだ答えはない。

 

 千回目の報酬にも、まだ答えはない。

 

 ただ。

 

《次回通常防衛:998》

 

 次の予定だけは、もう入っていましたの。

 

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