『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第029話 千回目の報酬予想ですの

 

 

《配信タイトル》

第1000防衛・報酬予想会

 

《配信開始》

 

「おーっほっほっほ!」

 

 開始表示が灯るのとほとんど同時に、コメント欄が流れ始めた。

 

《配信コメント》

名無しの領民:巨大化

名無しの領民:絶対翼増える

名無しの領民:五人に分裂

名無しの領民:運営権限

名無しの領民:中の人追加

名無しの攻略勢:最後だけ何の報酬だよ

 

「おーっほっほっほ! 皆様、達成前から好き勝手言いすぎですの!」

 

 扇子を開いたまま、現在の戦績表示を横へ出す。

 

《現在個体防衛数:997》

《1000まで残り3》

 

 三つ。

 

 昨日も見た数字ですの。

 

 だからといって、もう千回目まで終わったことにはならない。

 

 次の攻略隊が勝てば、そこで防衛記録は止まる。

 

 それでも、達成した場合の報酬を予想して遊ぶことまで止める理由はない。

 

 事前に取っていた投票結果を開く。

 

《予想1位:超巨大化》

《予想2位:5体分裂》

《予想3位:ゲーム運営権限》

《予想4位:中の人追加》

 

「まず、この投票は同一アカウントから複数案へ投票可能ですので――」

 

《配信コメント》

名無しの領民:そこじゃない

名無しの領民:内容見て

名無しの統計勢:投票者数確認は大事

名無しの領民:統計勢だけ味方

 

「投票者数の確認は大事でしょう!?」

 

 支持が一名でもいるうちに続けたかったのですが、コメント欄はもう一位へ進んでいた。

 

 仕方ありませんわね。

 

「では一位。巨大化」

 

 白亜城中庭の平面図を出し、現在の第3形態の輪郭を重ねる。

 

 その輪郭を二倍へ広げる。

 

 まだ入る。

 

 三倍。

 

 かなり怪しい。

 

 五倍。

 

 外周へ白い輪郭が食い込んだ。

 

「五倍になりますと、中庭へ収まりませんの」

 

『城より大きくなってどうする』

 

 ライカの声が通話窓から入る。

 

「外から防衛すれば――」

 

『城攻めどこ行った』

 

 扇子が止まった。

 

 たしかに。

 

「却下寄りですわね」

 

《配信コメント》

名無しの領民:寄り

名無しの領民:まだ完全却下してない

名無しの攻略勢:城外にボス出たら別ゲー

名無しの領民:でも見たい

名無しの領民:翼だけ大きくしよう

 

「勝手に派生案を増やさないでくださいませ!」

 

     ◇

 

「二位、五体分裂」

 

 中庭図を閉じ、今度は五つの白い竜影を横へ並べる。

 

 見た目だけなら、非常に分かりやすい。

 

 問題はそこからですの。

 

「現在個体が五体へ分裂した場合、どれを現在個体として扱うのでしょう」

 

『知らん』

 

「現在個体の同一性を保ったまま五体へ分けるなら、主観同期をどう扱うか――」

 

『考えるな』

 

「まだ一項目ですのよ?」

 

『お前が五人になったら反省会が五倍だろ』

 

 口を閉じた。

 

《配信コメント》

名無しの領民:致命的欠点

名無しの領民:反省会5倍

名無しの領民:ライカが先に死ぬ

名無しの領民:高笑いも五倍

名無しの領民:音圧で倒せる

名無しの攻略勢:新しい勝敗条件を作るな

 

「同時発声するなら音量規制へ抵触する可能性を――」

 

『だから計算するな!』

 

 通話窓の向こうでライカの声が一段上がる。

 

 コメント欄は笑いで埋まった。

 

 わたくしは五つの竜影を消す。

 

 少なくとも、いま考えるべき正式仕様ではありませんの。

 

「三位。ゲーム運営権限」

 

 これは短い。

 

「ゲーム運営権限は利益相反ですので不要ですわ」

 

《配信コメント》

名無しの領民:即答

名無しの領民:急に真面目

名無しの領民:公共AIなのに?

名無しの領民:権限いっぱい持ってそう

名無しの攻略勢:自分で勝敗決められたらゲームじゃない

 

「公共側の権限と、ゲーム運営権限は別ですの」

 

 攻略者と戦う現在個体でありながら、そのゲーム自体の運営権限を戦績報酬として受け取る。

 

 便利かどうかより先に、役割が重なる。

 

「競技参加者が、自分の戦績で運営権限を得るのは不適切ですわね」

 

『そこだけは予想会なのに審査が早いな』

 

「検討する余地が少ないだけですの」

 

 四位。

 

 中の人追加。

 

「中の人を追加した場合、それは別の方ですの」

 

《配信コメント》

名無しの領民:即答

名無しの領民:本人論開始?

名無しの領民:今日はそこ掘らなくていい

名無しの攻略勢:報酬の話しろ

 

「珍しく正しい誘導ですわね!」

 

 わたくしがわたくしであることと、別の誰かを追加することは同じではない。

 

 そこを掘り始めれば、今日の予想会はいつまでも二位から先へ進めませんの。

 

     ◇

 

 四案を見終えたところで、流れの少し遅い質問が一つ上がってきた。

 

名無しの新規領民:結局、報酬ってもう決まってて非公開なだけ?

 

「そこは違いますの」

 

 ここは推測で答える場所ではない。

 

 公開可能なシステム表示を開く。

 

《個体固有報酬:存在》

《内容:未生成》

《条件達成後:生成/現在個体へ接続》

 

 コメント欄の流れが、ほんの少しだけ遅くなった。

 

「《非公開》ではなく、《未生成》ですわ」

 

《配信コメント》

名無しの新規領民:まだ存在してない?

名無しの検証勢:内容が未生成

名無しの領民:秘密箱があるわけじゃないのか

名無しの領民:じゃあ誰も知らないの

名無しの領民:運営も?

 

「報酬の内容は、まだ確定しておりません。完成形は事前表示されておりませんの」

 

 非公開なら、内容そのものは存在していて、見せないだけという場合があります。ですが今回は条件達成後に生成されるため、いまは内容そのものが未生成ですの。

 

 つまり、わたくしたちが当てるべき正解がどこかへ隠されている、という状態ではありませんの。

 

名無しの検証勢:生成方式は?

名無しの領民:戦績から作る?

名無しの領民:過去の1000達成者の傾向とかないの

 

 そこは、今ある表示から先へ進めない。

 

 固定された景品一覧から選ぶのか。

 

 戦績を参照するのか。

 

 別の方式なのか。

 

 既知の個体固有報酬例を並べても、それだけで1000防衛時の一般的な生成方式までは確定できない。

 

「現時点の公開情報から、一般的な生成方式までは断定できませんの」

 

『当てようがないじゃねえか』

 

「そのようですわね」

 

 ライカの一言で、コメント欄が一瞬だけ止まった。

 

『で、やめるのか?』

 

《配信コメント》

名無しの領民:巨大化

名無しの領民:五人

名無しの領民:翼百枚

名無しの領民:城が動く

名無しの領民:扇子が武器になる

名無しの領民:ティーセット

名無しの統計勢:正解不在でも投票行動は継続

 

「まったくやめませんのね!」

 

 報酬内容としての正解が、まだ生成されていない。

 

 それが分かった結果、予想会が終わるどころか、根拠のない案を出しやすくなっただけに見えますの。

 

『当てようがない。なのにやめないのが領民だな』

 

「それを当然の生態のように言わないでくださいませ」

 

     ◇

 

 コメント欄の横で、公開配信には出ない小さな通知が一度だけ灯った。

 

《新規事案:なし》

 

 視線だけを向ける。

 

 それ以上の表示は開かない。

 

 新規事案として登録されたものはない。

 

 確認できるのはそこまでですの。

 

 窓を閉じる。

 

 配信へ戻るまでに、コメント欄ではもう新しい予想が三つ増えていた。

 

名無しの領民:戦闘向けじゃなかったら?

名無しの領民:家具だったらどうする

名無しの領民:ティーセットなら当たりでは

 

「現在個体へ接続されるものでしたら、用途を確かめますの。戦闘向けであることを、こちらから先に条件へ足す必要はございませんわ」

 

《配信コメント》

名無しの領民:ティーセット生存

名無しの攻略勢:まだ候補扱いするな

名無しの領民:でも巨大化より実用的

名無しの領民:1000確定お祝い配信いつ?

 

「達成前から達成したことにしないでくださいませ!」

 

 扇子で戦績表示を指す。

 

《現在個体防衛数:997》

《1000まで残り3》

 

 三つ残っている。

 

 次は998。

 

 その次が999。

 

 そして、その先の第1000防衛まで守り切って、初めて達成ですの。

 

 どの一戦にも相手がいる。

 

 その相手が現在個体を完全討伐すれば、この個体での千回目は来ませんの。

 

 予想して遊ぶことと、達成済みとして祝うことは別ですわ。

 

《次回通常防衛:998》

 

「次は九百九十八。まず、そちらですの」

 

『観戦する』

 

「普通に、ですの?」

 

『普通に』

 

 短い答えだった。

 

「でしたら、席は空けておきますわ」

 

《配信コメント》

名無しの領民:ライカ観戦

名無しの領民:998楽しみ

名無しの領民:あと3

名無しの領民:巨大化に一票

名無しの領民:五人にも一票

名無しの統計勢:同一アカウント重複票です

名無しの領民:ティーセットにも一票

 

「全部へ入れたら予想になりませんでしょう!」

 

 配信終了の操作へ手を伸ばす。

 

 正解は、まだない。

 

 事件側にも、新しく登録された事案はない。

 

 あるのは、次の予定だけ。

 

《次回通常防衛:998》

 

「では、次の防衛でお会いいたしましょう。おーっほっほっほ!」

 

《配信コメント》

名無しの領民:二回目きた

名無しの領民:5人分ならこれが5倍

名無しの領民:まだ言う

名無しの領民:998待機

 

 報酬の答えは、まだ生成されておりません。

 

 次の一戦は、もう予定されていましたの。

 

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