『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
《配信タイトル》
第1000防衛・報酬予想会
《配信開始》
「おーっほっほっほ!」
開始表示が灯るのとほとんど同時に、コメント欄が流れ始めた。
《配信コメント》
名無しの領民:巨大化
名無しの領民:絶対翼増える
名無しの領民:五人に分裂
名無しの領民:運営権限
名無しの領民:中の人追加
名無しの攻略勢:最後だけ何の報酬だよ
「おーっほっほっほ! 皆様、達成前から好き勝手言いすぎですの!」
扇子を開いたまま、現在の戦績表示を横へ出す。
《現在個体防衛数:997》
《1000まで残り3》
三つ。
昨日も見た数字ですの。
だからといって、もう千回目まで終わったことにはならない。
次の攻略隊が勝てば、そこで防衛記録は止まる。
それでも、達成した場合の報酬を予想して遊ぶことまで止める理由はない。
事前に取っていた投票結果を開く。
《予想1位:超巨大化》
《予想2位:5体分裂》
《予想3位:ゲーム運営権限》
《予想4位:中の人追加》
「まず、この投票は同一アカウントから複数案へ投票可能ですので――」
《配信コメント》
名無しの領民:そこじゃない
名無しの領民:内容見て
名無しの統計勢:投票者数確認は大事
名無しの領民:統計勢だけ味方
「投票者数の確認は大事でしょう!?」
支持が一名でもいるうちに続けたかったのですが、コメント欄はもう一位へ進んでいた。
仕方ありませんわね。
「では一位。巨大化」
白亜城中庭の平面図を出し、現在の第3形態の輪郭を重ねる。
その輪郭を二倍へ広げる。
まだ入る。
三倍。
かなり怪しい。
五倍。
外周へ白い輪郭が食い込んだ。
「五倍になりますと、中庭へ収まりませんの」
『城より大きくなってどうする』
ライカの声が通話窓から入る。
「外から防衛すれば――」
『城攻めどこ行った』
扇子が止まった。
たしかに。
「却下寄りですわね」
《配信コメント》
名無しの領民:寄り
名無しの領民:まだ完全却下してない
名無しの攻略勢:城外にボス出たら別ゲー
名無しの領民:でも見たい
名無しの領民:翼だけ大きくしよう
「勝手に派生案を増やさないでくださいませ!」
◇
「二位、五体分裂」
中庭図を閉じ、今度は五つの白い竜影を横へ並べる。
見た目だけなら、非常に分かりやすい。
問題はそこからですの。
「現在個体が五体へ分裂した場合、どれを現在個体として扱うのでしょう」
『知らん』
「現在個体の同一性を保ったまま五体へ分けるなら、主観同期をどう扱うか――」
『考えるな』
「まだ一項目ですのよ?」
『お前が五人になったら反省会が五倍だろ』
口を閉じた。
《配信コメント》
名無しの領民:致命的欠点
名無しの領民:反省会5倍
名無しの領民:ライカが先に死ぬ
名無しの領民:高笑いも五倍
名無しの領民:音圧で倒せる
名無しの攻略勢:新しい勝敗条件を作るな
「同時発声するなら音量規制へ抵触する可能性を――」
『だから計算するな!』
通話窓の向こうでライカの声が一段上がる。
コメント欄は笑いで埋まった。
わたくしは五つの竜影を消す。
少なくとも、いま考えるべき正式仕様ではありませんの。
「三位。ゲーム運営権限」
これは短い。
「ゲーム運営権限は利益相反ですので不要ですわ」
《配信コメント》
名無しの領民:即答
名無しの領民:急に真面目
名無しの領民:公共AIなのに?
名無しの領民:権限いっぱい持ってそう
名無しの攻略勢:自分で勝敗決められたらゲームじゃない
「公共側の権限と、ゲーム運営権限は別ですの」
攻略者と戦う現在個体でありながら、そのゲーム自体の運営権限を戦績報酬として受け取る。
便利かどうかより先に、役割が重なる。
「競技参加者が、自分の戦績で運営権限を得るのは不適切ですわね」
『そこだけは予想会なのに審査が早いな』
「検討する余地が少ないだけですの」
四位。
中の人追加。
「中の人を追加した場合、それは別の方ですの」
《配信コメント》
名無しの領民:即答
名無しの領民:本人論開始?
名無しの領民:今日はそこ掘らなくていい
名無しの攻略勢:報酬の話しろ
「珍しく正しい誘導ですわね!」
わたくしがわたくしであることと、別の誰かを追加することは同じではない。
そこを掘り始めれば、今日の予想会はいつまでも二位から先へ進めませんの。
◇
四案を見終えたところで、流れの少し遅い質問が一つ上がってきた。
名無しの新規領民:結局、報酬ってもう決まってて非公開なだけ?
「そこは違いますの」
ここは推測で答える場所ではない。
公開可能なシステム表示を開く。
《個体固有報酬:存在》
《内容:未生成》
《条件達成後:生成/現在個体へ接続》
コメント欄の流れが、ほんの少しだけ遅くなった。
「《非公開》ではなく、《未生成》ですわ」
《配信コメント》
名無しの新規領民:まだ存在してない?
名無しの検証勢:内容が未生成
名無しの領民:秘密箱があるわけじゃないのか
名無しの領民:じゃあ誰も知らないの
名無しの領民:運営も?
「報酬の内容は、まだ確定しておりません。完成形は事前表示されておりませんの」
非公開なら、内容そのものは存在していて、見せないだけという場合があります。ですが今回は条件達成後に生成されるため、いまは内容そのものが未生成ですの。
つまり、わたくしたちが当てるべき正解がどこかへ隠されている、という状態ではありませんの。
名無しの検証勢:生成方式は?
名無しの領民:戦績から作る?
名無しの領民:過去の1000達成者の傾向とかないの
そこは、今ある表示から先へ進めない。
固定された景品一覧から選ぶのか。
戦績を参照するのか。
別の方式なのか。
既知の個体固有報酬例を並べても、それだけで1000防衛時の一般的な生成方式までは確定できない。
「現時点の公開情報から、一般的な生成方式までは断定できませんの」
『当てようがないじゃねえか』
「そのようですわね」
ライカの一言で、コメント欄が一瞬だけ止まった。
『で、やめるのか?』
《配信コメント》
名無しの領民:巨大化
名無しの領民:五人
名無しの領民:翼百枚
名無しの領民:城が動く
名無しの領民:扇子が武器になる
名無しの領民:ティーセット
名無しの統計勢:正解不在でも投票行動は継続
「まったくやめませんのね!」
報酬内容としての正解が、まだ生成されていない。
それが分かった結果、予想会が終わるどころか、根拠のない案を出しやすくなっただけに見えますの。
『当てようがない。なのにやめないのが領民だな』
「それを当然の生態のように言わないでくださいませ」
◇
コメント欄の横で、公開配信には出ない小さな通知が一度だけ灯った。
《新規事案:なし》
視線だけを向ける。
それ以上の表示は開かない。
新規事案として登録されたものはない。
確認できるのはそこまでですの。
窓を閉じる。
配信へ戻るまでに、コメント欄ではもう新しい予想が三つ増えていた。
名無しの領民:戦闘向けじゃなかったら?
名無しの領民:家具だったらどうする
名無しの領民:ティーセットなら当たりでは
「現在個体へ接続されるものでしたら、用途を確かめますの。戦闘向けであることを、こちらから先に条件へ足す必要はございませんわ」
《配信コメント》
名無しの領民:ティーセット生存
名無しの攻略勢:まだ候補扱いするな
名無しの領民:でも巨大化より実用的
名無しの領民:1000確定お祝い配信いつ?
「達成前から達成したことにしないでくださいませ!」
扇子で戦績表示を指す。
《現在個体防衛数:997》
《1000まで残り3》
三つ残っている。
次は998。
その次が999。
そして、その先の第1000防衛まで守り切って、初めて達成ですの。
どの一戦にも相手がいる。
その相手が現在個体を完全討伐すれば、この個体での千回目は来ませんの。
予想して遊ぶことと、達成済みとして祝うことは別ですわ。
《次回通常防衛:998》
「次は九百九十八。まず、そちらですの」
『観戦する』
「普通に、ですの?」
『普通に』
短い答えだった。
「でしたら、席は空けておきますわ」
《配信コメント》
名無しの領民:ライカ観戦
名無しの領民:998楽しみ
名無しの領民:あと3
名無しの領民:巨大化に一票
名無しの領民:五人にも一票
名無しの統計勢:同一アカウント重複票です
名無しの領民:ティーセットにも一票
「全部へ入れたら予想になりませんでしょう!」
配信終了の操作へ手を伸ばす。
正解は、まだない。
事件側にも、新しく登録された事案はない。
あるのは、次の予定だけ。
《次回通常防衛:998》
「では、次の防衛でお会いいたしましょう。おーっほっほっほ!」
《配信コメント》
名無しの領民:二回目きた
名無しの領民:5人分ならこれが5倍
名無しの領民:まだ言う
名無しの領民:998待機
報酬の答えは、まだ生成されておりません。
次の一戦は、もう予定されていましたの。