『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
《第998防衛》
白亜城中庭へ転送された三十人を、いつもの開始位置から見渡す。
前へ出る者。
左右へ散る者。
中央付近に残る救護役。
さらに北、東、西へ間隔を取って置かれた三枚の鏡面障壁。
攻略側へ出ているのは、通常の開始表示だけですの。
その裏で、管理側から共有を許可された非公開監視表示にだけ、別の確認が重なる。
《ボス現在個体主観記録:二重保存》
《終了署名監視:有効》
《未登録参照検出:有効》
前回までに正式運用へ入った監視。
ですが、監視が増えても攻略側のHPが増えるわけではない。
わたくしの攻撃が弱くなるわけでもない。
参加者側の取得項目も増えていない。
事件の内部事情を説明して、観測へ協力していただく戦いでもございませんの。
今日は、第998防衛。
それだけですわ。
「では――参りますの!」
開始表示が消える。
◇
第1形態。
正面へ外殻を寄せ、三十人の中央へ踏み込む。
攻略側は受ける人数を増やさなかった。
正面の前衛が押さえている間に、左右の射撃が角度を広げる。
そこへ三枚の鏡面障壁が光った。
正面へ走らせた攻撃の見え方が、一瞬だけ散る。
反射ではない。
攻撃そのものが戻ってきたわけでもない。
こちらが次の照準へ使う像だけが、わずかに遅れて残る。
右へ出た一人を追う。
照準補正がその位置を拾う。
けれど、光った障壁面には、その人が半歩前にいた時の像がまだ残っている。
本人の位置は見えている。
遅れた像を人間そのものと取り違えることもない。
ただ、次にどちらを優先するかという判断へ、古い位置が一つ余計に入る。
「なるほど」
正面へ撃たない。
外殻を寄せたまま左へ踏み込み、障壁を使わずに動いている近接側へ身体そのものを向ける。
射撃だけを迷わせるなら、届く距離では身体を使えばよろしい。
近接班が下がる。
その下がった場所へ、別の前衛が入った。
一人を追っても、そこへ次の人間が来る。
救護役も中央から前へ出すぎない。
崩れた場所だけを戻し、また中央へ下がる。
第一形態を削る間、三十人の形は何度か変わった。
それでも一箇所へ固まらない。
こちらの正面へ人数を足せば、別方向の射線が薄くなることを分かっておりますのね。
第1形態の残りを見て、移行する。
◇
第2形態。
身体が変わった瞬間、北回廊に残っていた近接班が動いた。
同時に、北の障壁。
少し遅れて東。
西はまだ点かない。
攻略者全員へ細かな座標が流れている様子はない。
けれど、北が点けば北回廊側が入る。
東が続けば中央の救護が一歩だけ位置をずらす。
西が点くまで、追撃役は前へ出ない。
三枚の光る順番だけで、次に誰が役割を受けるのかが変わっていく。
こちらが一人を押し返した。
その人は開始位置へ戻らない。
近くにいた別の役割へ道を譲り、空いた位置から次の攻撃へつなぐ。
救護役も、最初に決めた場所へ戻すことを優先していない。
いま負傷者がいる場所へ寄り、そこから最短で中央へ戻れる線だけ残す。
最初の配置を復元し続ける隊ではありませんのね。
なら、こちらも最初の役割だけ見て追う必要はない。
いま前にいる人。
いま空いた場所。
次に点く障壁。
そこを見ますの。
第二形態の攻撃を北へ向ける。
北障壁が点灯。
すぐ東。
西。
光る順番が、さきほどと違う。
近接班が入る方向も変わった。
「毎回、同じ順ではございませんのね」
そのまま一人を押し込み、追撃へ出た人数を見る。
必要な人数だけ。
残りは持ち場を崩さない。
こちらへ届く時間を、誰か一人の妙技で作っているわけではない。
前衛が受けた数秒を。
支援が次へ渡し。
射撃が削り。
救護が崩れを戻す。
それを繰り返して、第二形態の残りが削られていく。
突破。
《第3形態移行》
◇
第3形態《シューティングドラゴン》。
全長約十八メートル。翼端の射撃器官を開き、胸部へ青白い光を集めながら、尾で反動を逃がせるよう身体を傾ける。
白亜城中庭の南側。
高度、約四十メートル。
そこまで上がったところで、戦場全体をもう一度見る。
北。
東。
西。
三枚の鏡面障壁が、地上で三角形を作っている。
中央は救護と再編。
東塔の基部に、まだ前へ出ていなかった射撃役。
北回廊には近接班。
第二形態まで温存していた位置ですのね。
東塔へ翼端を向ける。
発射。
障壁が光った。
射線そのものは通る。
けれど、照準参照が拾った像は、およそ0.3秒前の位置へ残った。
射撃役本人は、その位置から半歩だけ外れている。
「鏡ではなく、こちらの照準参照へ古い位置を残しておりますのね」
東を見たまま右へ旋回しようとする。
その先で北障壁が点き、旋回先にも古い像が残る。次の照準候補が一瞬だけ二つへ割れ、その間に北回廊の近接班が飛行軌道の下へ設置攻撃を置く。
右旋回が閉じる。
「やりますわね!」
左へ切り返す。
西の障壁が待っている。
こちらの射撃予測を遅らせ、その遅れた時間で飛べる場所を一つ減らす。
完全に止める装置ではない。
だから三枚を順番に使っている。
一般観戦席には、《六歩前進》の六人も来ていますの。
ですが、今日はただの観戦者。戦場へ声は届きません。
わたくしも、目の前の三十人だけを見ますの。
攻略者の現在座標だけを見る必要はない。
わたくしは参照先を、障壁の起動順へ変える。
西。
次は東。
北がまだ点かない。
「でしたら、先にこちらですの」
胸部集束器官を攻略者ではなく、西障壁の縁へ向ける。
射撃。
白い光が障壁の端を掠めた。
三枚の点灯間隔が、ほんの少しだけずれる。
遅延像が一つ消えた。
その瞬間。
東塔から本命の射撃。
こちらが障壁へ意識を置いた時間を、そのまま使ってきた。
翼を畳む。
身体が落ちる。
東塔から伸びた射線が、背中のすぐ上を抜けた。
落下の途中で翼を開き直す。
尾で反動を横へ流し、そのまま水平へ滑る。
北回廊の近接班が中央へ寄った。
『追うな! 障壁戻す!』
救護側から声。
こちらの高度が下がったからと、全員で詰めてこない。
近接を追わせず、崩れた障壁の再設置へ人数を戻す。
「良い判断ですわ」
だから、待ちませんの。
再設置へ向かった二方向へ翼端射撃を分ける。
片方は避ける。
もう片方は遅れる。
一班分の攻略者が、まとめて戦闘不能表示へ落ちた。
蘇生は可能。
救護側がすぐに動く。
その間にも時間は減っていく。
攻略側は、一班が落ちても役割交代を止めなかった。
わたくしも出力を落とさない。
事件監視があるから手加減するのでもない。
残り二戦だから守らせてもらうのでもない。
向こうが通常の攻略者として勝ちに来ている。
こちらも、通常の現在個体として防衛する。
最後の数分まで、鏡面障壁は点灯順を変え続けた。
こちらも、その順を見て射撃先と飛行軌道を変える。
もう一度、東。
西。
北。
北を待たずに高度を落とす。
遅延像の外へ抜ける。
前衛が追う。
救護が止める。
射撃が次の空間へ置かれる。
時間。
《防衛成功》
《現在個体防衛数:998》
《1000まで残り2》
戦場が止まった。
◇
公開側の勝敗は、そこで確定ですの。
参加者が通常フィールドへ戻る間だけ、管理側の表示へ視線を移す。
《ボス現在個体主観記録:二重保存確定》
《終了署名:正常》
《未登録参照検出:なし》
《戦績反映:正常》
監視項目には、異常表示が出ていない。
三十人の通常退出も完了する。
通常戦として始まり。
通常戦として終わった。
それを確認してから、公開側へ戻る。
「おーっほっほっほ! 九百九十八ですわ!」
《配信コメント》
名無しの領民:2!
名無しの領民:あと2!
名無しの攻略勢:鏡面班うまかった
名無しの領民:城主楽しそう
名無しの領民:報酬予想更新しよう
名無しの攻略勢:そっちより今日の30人だろ
「そうですの! まず攻略隊を褒めなさいませ!」
鏡面障壁の遅延そのものだけではない。
どの障壁が光った時に、誰が次の役割へ入るか。
そこを少ない共有で回し続けたことの方が厄介でしたの。
一般観戦席の《六歩前進》も、そのまま退出していく。
特別コメントは求めない。
今日は観戦した。
それで十分ですわ。
◇
戦後、ライカとの通話窓が開いた。
『あの鏡、嫌だったろ』
「実に」
『嬉しそうだな』
「強い相手が工夫してくださるのですもの」
嫌だったことと、面白かったことは両立しますの。
その時。
ライカ側へ、新しい正式通知が一件入った。
《雷影獣《ヴァルゼク》》
《プレイヤー:レグル》
《ライカ隊・第4回対戦招待》
《過去対戦:3》
《ライカ隊:3敗》
《直近:第3形態・残存8%》
短い本文。
《千の前に、こっちの8%を取りに来い》
ライカの口元が上がった。
『言うじゃねえか』
通常の公開再戦提案。
いま表示されている範囲では、それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、わたくしの内部監視条件へ照合すると、別の項目が重なる。
《高ランク上位》
《第3形態保有》
《監視正式運用対象:適合》
条件へ当てはまった。
それだけですの。
異常があるとも決まっていない。
正式監視の対象に含まれることと、この再戦を異常調査として扱うことは別ですの。
ライカは通知を見たまま言った。
『受ける。条件は確認してからだ』
「ええ。それがよろしいですわ」
998。
残り二つ。
その表示の隣に、三つの形態を持つ別の現在個体の再戦招待が開いていましたの。