『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第031話 三つ目の形態

 

 

 ライカ隊と《ヴァルゼク》の再戦招待は、まだ通常の公開戦として受けられる状態でしたの。

 

《雷影獣《ヴァルゼク》》

《現在個体防衛数:118》

《血統累計防衛数:322》

《ライカ隊・対戦記録:3敗》

《直近:第3形態・残存8%》

 

 数字だけなら、前回までの続きですわ。

 

 高ランク上位。

 

 第3形態保有。

 

 正式運用で拡張された監視範囲には入る。

 

 ですが、それだけで被害個体になるわけではございませんの。

 

 通常の再戦招待は、まだ通常の再戦招待ですわ。

 

 受諾操作へ進む前に、ライカとレグルを非公開通話へ入れる。

 

 レグルは公開戦績を見ても、招待文を言い直さなかった。

 

「前は八%残した。次は残さないんだろ」

 

「当然だ」

 

 ライカも短い。

 

「なら、先に前の三戦を見せていただきますの」

 

「作戦会議か?」

 

「正常な《ヴァルゼク》を確認するためですわ」

 

 詳細診断を提案するかどうかは、そのあとですの。

 

 いま異常を探すために、過去の映像を異常の答えへ作り替えてはいけませんもの。

 

 まず、三回の敗北で実際に見えていたものを、そのまま見る。

 

     ◇

 

 第一戦の公開映像を開く。

 

 断崖の壁面へ、黒い四脚が低く沈んだ。

 

《第1形態《伏影型》》

 

 全長は約十四メートル。

 

 翼はない。

 

 長い前脚と鉤爪が岩へ掛かり、黒い導電毛は身体に沿って寝ている。

 

 地面を走っていた身体が壁へ移っても、姿そのものが消えたわけではない。

 

 壁面の角度。

 

 岩の影。

 

 死角へ入る一瞬。

 

 それを重ねて、正面から追う側の視界から外れる。

 

 ライカ隊の二班が壁際へ寄った。

 

 追う。

 

 《ヴァルゼク》が上へ跳ぶ。

 

 二班も向きを変える。

 

 その瞬間、黒い身体が壁から離れ、斜め後ろへ落ちた。

 

 尾が振られる。

 

 細い刃のような先端が、追いすぎた隊列の横へ入った。

 

「ここで二班が追いすぎた」

 

 ライカが言う。

 

「追ったから取った」

 

 レグル。

 

「次は追わない」

 

「言ったな」

 

 過去映像の中では、言葉どおり二班が崩れている。

 

 現在の通話では、それ以上を言わない。

 

 前回の失敗が、次回も同じ形で起きるとは限りませんもの。

 

     ◇

 

 第二戦。

 

 壁面へ寝ていた導電毛が立つ。

 

《第2形態《雷装型》》

 

 首筋から背へ、青白い蓄電棘。

 

 着地点へ短い放電域が残る。

 

 接触した前衛の動きが鈍り、追尾する雷球が退避先へ遅れて回り込む。

 

 第1形態で使っていた壁面移動を、そのまま強くした身体ではない。

 

 蓄電。

 

 放電。

 

 行動速度。

 

 接触麻痺。

 

 戦場へ残る帯電域。

 

 見るべきものが変わっている。

 

「ここですのね」

 

 高蓄電へ入った瞬間、胸部外殻が左右へ開いた。

 

 内部に、青白い核。

 

《導電核》

 

 ライカ隊の射撃が一斉にそこへ向いた。

 

 命中する。

 

 《ヴァルゼク》の身体が一度だけ沈む。

 

 けれど、露出時間は長くない。

 

 外殻が閉じ、次の放電へ移る。

 

「二戦目で見つけた」

 

 ライカが映像を止める。

 

「見つけただけだ」

 

 レグルが返す。

 

「三戦目では当てた」

 

「倒してない」

 

「次は倒す」

 

 会話だけなら、いつもの再戦前ですの。

 

 それでいい。

 

 診断を理由に、その関係まで別のものへ変える必要はございませんわ。

 

     ◇

 

 三戦目。

 

 映像の《ヴァルゼク》が、第2形態の終盤へ入る。

 

 蓄電棘が強く光った。

 

 そのまま、さらに棘を増やすのではない。

 

 背の外殻が割れた。

 

 肩。

 

 腰。

 

 脚。

 

 蓄電を抱えていた外殻の大部分が落ちていく。

 

《第3形態《轟駆型》》

 

 身体が細くなり、露出した四肢と長い前脚、鉤爪の輪郭が際立つ。一本の鞭のように伸びた尾刃の後ろで、青白い光が関節と脚部、首筋だけを短く走った。

 

 次の瞬間。

 

 《ヴァルゼク》がいた場所から、黒い像が外れた。

 

 一直線ではない。

 

 右。

 

 壁。

 

 折り返し。

 

 着地。

 

 そこからさらに左。

 

 一回の加速で終わらず、攻撃のあとにもう一度加速する。

 

 第1形態の壁面移動。

 

 第2形態の蓄電外殻。

 

 それらを全部同時に残した身体ではありませんの。

 

 一つ前の構成を捨てて、移動と鉤爪、神経加速へ出力を寄せている。

 

 《ヴァルゼク》の正常時の第3形態は、こういう身体ですのね。

 

 ライカ隊も、一戦目のようには追わない。

 

 《ヴァルゼク》が北壁へ飛ぶ。

 

 その現在位置へ全員が寄る前に、別班の盾が次の足場へ置かれる。

 

 方向転換。

 

 盾へ当たらない。

 

 なら、その先。

 

 射撃が待つ。

 

 《ヴァルゼク》がさらに外へ抜ける。

 

 救護役は負傷者の元へ走り切らず、その先で戻ってくる味方を受けられる位置へ寄る。

 

 追いつけない身体へ、追いつこうとしていない。

 

 次に使う壁。

 

 次に踏む足場。

 

 次に戻る線。

 

 そこへ先に人を置いている。

 

「三戦目から変えた」

 

 ライカの指が、映像の北側を示す。

 

「現在位置を追っても間に合わない。だから次へ置いた」

 

 レグルは映像を見たまま答える。

 

「それで八%」

 

《第3形態・残存8%》

 

 映像の終端。

 

 《ヴァルゼク》はまだ立っている。

 

 ライカ隊は三十人全員が倒れたわけではない。

 

 それでも勝敗条件には届かなかった。

 

 三敗目。

 

 直近八%。

 

 いま表示されている数字と、過去映像がつながる。

 

     ◇

 

「今回は通常難度を下げない」

 

 レグルが映像を閉じずに言った。

 

「診断だろうが何だろうが、《ヴァルゼク》は俺の現在個体だ。弱くして結果だけ取るならやらない」

 

「同意しますわ。診断目的でも、勝負として成立した条件を歪めません」

 

 こちらの目的のために、第3形態へ入りやすくする。

 

 耐久を下げる。

 

 行動を固定する。

 

 そういう変更はしない。

 

 それでは《ヴァルゼク》を見ているのではなく、こちらが作った試験用個体を見ることになりますもの。

 

 レグルがようやく映像を閉じた。

 

「で、何を見たい」

 

 ここから先は公開情報だけでは足りない。

 

「公開可能な範囲だけでは、あなたが判断するための情報が足りません」

 

「なら、足りるところまで話せ」

 

「ええ。本人判断に必要な情報だけ、非公開で共有しますわ」

 

 管理AIへ共有範囲の確認を送る。

 

《非公開協議:開始》

《本人判断必要範囲:共有許可》

 

 確認済みの事案では、現在個体と本人側の連続が失われた可能性がある。

 

 正式敗北も本人選択もないまま、継承段階へ進んだ事案がある。

 

 本人主観の記録が残っていない時間も確認されている。

 

 別の異常戦では、複数系統の既知構造との一致候補が、同じ断片内で確認された。

 

 そこまで。

 

 生命。

 

 知性。

 

 悪意。

 

 単一の何かが行っているのかどうか。

 

 どれもまだ確定していない。

 

 《ヴァルゼク》に異常があるとも、狙われているとも言えない。

 

 だからこそ、高ランクや第3形態保有個体を監視範囲から外してよい根拠もない。

 

「だから、通常監視だけじゃなく詳細診断まで入れたい、か」

 

「ええ。ただし、それを公開再戦の裏で行うことはいたしませんの」

 

 通常戦として観客を集め、その裏で本人の主観同期や継承処理を診断する。

 

 それはしない。

 

 診断するなら、通常再戦とは別の手続きを通す。

 

《診断レイド変更案》

《公開配信:なし》

《外部観戦:なし》

《主観記録:管理AI保護》

《戦闘ログ:分離保存》

《安全警告:事前登録条件のみ》

《アスト:非公開限定観測》

《戦術送信:不可》

 

「わたくしから戦闘中に座標や行動候補を送ることもできませんの。管理AIが送れるのは、事前に登録した安全警告だけですわ」

 

 レグルは条件を上から下まで読む。

 

「途中でやめられるか」

 

「開始前なら撤回できます。参加しないことも選べますの」

 

「始まったあと」

 

「開始後は、事前登録した条件に従いますの。条件が成立すれば、管理側の終了処理を優先します。ただし、戦術上どう動くかまでこちらから決めることはできませんわ」

 

 ライカが表示を横から読む。

 

「三十人も同じだな」

 

「ええ。ライカ隊の皆様も、診断用の駒ではございませんもの」

 

     ◇

 

 ライカ隊三十人へ、条件を個別に提示する。

 

 五人ずつ六班。

 

 ライカを含む三十人。

 

 ガルム。

 

 セラ。

 

 キリオ。

 

 そして、ほかの隊員たち。

 

 参加するかどうかは一人ずつ選ぶ。

 

 参加しないこともできる。

 

 開始前なら撤回できる。

 

 全員分の返答が揃うまで、開始時刻は置かない。

 

《参加同意:30/30》

《レグル本人同意:確認》

《管理条件:確認》

 

 三つが別々に揃う。

 

 ライカが先に「受ける」と言ったことは、この三十個の同意の代わりにはならない。

 

 レグルの同意も、管理AIの条件確認の代わりにはならない。

 

 全部揃って、初めて通常再戦から診断へ切り替えられる。

 

《診断レイド:条件成立》

 

 通常公開戦の予定を取り下げる。

 

《ライカ隊対ヴァルゼク戦》

《実施条件調整のため公開戦中止》

 

 外へ出すのは、それだけですの。

 

     ◇

 

 診断戦場は、《ヴァルゼク》が通常使う断崖型戦場。

 

 中央に深い峡谷。

 

 その周囲へ六つの足場。

 

 三十人は五人ずつ六班へ分かれる。

 

 ライカは所属班から中央指揮を兼ねる。

 

 ガルムは第1班前衛。

 

 セラは中央後方で、保護領域へ戻せる同期経路を確認する。

 

 キリオは第6班から、峡谷を越える射線を取る。

 

 通常の対《ヴァルゼク》戦で使ってきた配置ですの。

 

 診断のために、知らない隊形へ変える必要はない。

 

 レグルはボス側準備領域へ入った。

 

 わたくしは管理側から共有を許可された非公開観測席へ接続する。

 

《診断観測上限:6分31秒》

《上限到達時:終了処理》

 

 数字を固定する。

 

 六分三十一秒。

 

 これは、何かが起きる時刻を予測した数字ではない。

 

 まして、レグルの主観が欠ける時間を先に知っているわけでもない。

 

 主観記録と戦闘ログを分離したまま、安全処理を維持して観測できる今回の最大枠。

 

 それだけですの。

 

「六分三十一秒までに何もなければ?」

 

 キリオが聞く。

 

「診断終了ですの」

 

「何かあったら?」

 

「管理AIから警告が出ます。戦術上どう動くかは、皆様が決めますわ」

 

「了解っす」

 

 セラが自分の表示を確認した。

 

「記録保存は管理AI。私は、保護領域まで戻せる同期経路を維持します」

 

「ええ。役割を混ぜないでくださいませ」

 

 わたくしは記録保存をしない。

 

 セラも記録保存をしない。

 

 管理AIが保存する。

 

 セラは同期経路を守る。

 

 ライカ隊は戦う。

 

 レグルは自分の現在個体で戦う。

 

 それぞれ別ですの。

 

     ◇

 

 ボス側準備領域に、《ヴァルゼク》が表示された。

 

 低い四脚姿勢。

 

 黒い導電毛。

 

 長い前脚。

 

 鉤爪。

 

 鞭状の尾。

 

 過去映像で見た輪郭と変わらない。

 

 レグルが同期操作へ入る。

 

《現在個体署名:一致》

《現在個体防衛記録:118》

《第1形態《伏影型》:正常》

《第2形態《雷装型》:正常》

《第3形態《轟駆型》:正常》

《継承先行:なし》

 

 署名に不一致はない。

 

 三つの形態も重なっていない。

 

 継承処理も先行していない。

 

 管理AIの開始前確認は、正常表示だけを返している。

 

 ここで「正常だから安全」とは言わない。

 

 ですが、異常が出ていない表示へ、こちらから不穏な意味を足す必要もございませんの。

 

 レグルが開始窓へ手を伸ばした。

 

「行くぞ、ヴァルゼク」

 

 選択音が一度だけ鳴る。

 

《診断レイド:開始》

 

 六つの足場へ、参加者側の転送光が立ち上がった。

 

 三つの形態は、すべて正常に表示されました。

 

 レグルが開始を選んだところまで、記録も正常でしたの。

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