『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
レグル様の条件付き許可が、管理側の解析範囲へ反映されたことを確認する。
《解析利用:条件付き許可》
《6分31秒を本人の主観記憶として扱わない》
《6分31秒内の動作を本人戦闘実績へ帰属させない》
《ヴァルゼクの完成技・判断傾向・個体特性を混成構造へ帰属させない》
《機能取得および複数機能の同時保持に関する解析へ限定》
四つとも、そのまま。
わたくしの都合で範囲を広げない。
「許可済みの構成差分だけを開いてくださいませ。私的育成記録、本人感情、本人主観記録は解析対象から除外しますの」
《解析範囲:限定》
管理AIの確認に続き、必要最小限の解析補助だけが起動する。
三つの被害記録が並んだ。
泥殻獣《モルグラ》。
絡晶蛛《ネフレア》。
雷影獣《ヴァルゼク》。
最初の二件だけを見ていた頃は、共通しているのは正常敗北や本人選択なしで現在個体が継承段階へ進み、構成の一部が欠けたことでしたの。
三件目まで揃った今は、別の並べ方ができる。
「個体名を外してくださいませ」
三つの名前が端へ退く。
「誰から、ではなく。何が使われたかで並べ直しますの」
表示が組み替わった。
《モルグラ既知構造との一致候補》
《泥外殻》
《重量/荷重分散》
《潜行》
《直線突進》
《ネフレア既知構造との一致候補》
《糸/結晶糸》
《固定/拘束》
《付着足場》
《擬装》
《ヴァルゼク既知構造との一致候補》
《高速四脚》
《蓄電/放電》
《追尾》
《第3形態神経加速》
《異常事案内で確認された機能》
《終了処理側への接続》
《構成情報》
《形態移行履歴》
《処理接触痕跡》
《正規接続署名形式》
処理接触痕跡の一項だけは、意味を広げない。
正規接続署名の形式へ触れた痕跡がある。
それだけだ。
高ランク用の正式権限を取得したことにはならない。
表示の下には、いまも同じ二行が残っていた。
《生命:未確認》
《知性:未確認》
意思があるとも、ないとも決めない。
何か一つの存在が三件すべてを行ったとも決めない。
わたくしが見られるのは、残った構成差分と、実際に確認された使われ方までだ。
◇
モルグラの欄を先に広げる。
泥を外殻として身体へ載せる。
地面へ潜る。
直線で押し切る。
けれど、そこに《泥鎧型》という完成形が残っているわけではない。
モルグラ本人の戦い方もない。
外殻をどこへ厚くするか、いつ潜るか、突進後にどう立て直すか。そうした一戦の判断を、そのまま再現した記録は見つからない。
残っているのは、もっと手前だ。
泥を殻にできる。
重さを使える。
潜れる。
突進できる。
それぞれが切り分けられている。
隣へネフレアを置く。
糸を伸ばす。
何かを固定する。
身体へ付着するための足場にする。
擬装する。
そこまでがネフレア既知構造との比較対象だ。終了処理側への接続は、異常事案内で確認された機能として別に置く。
こちらも同じだった。
《巣張型》そのものが再現されたのではない。
《毒晶型》そのものでもない。
ネフレアという一体の身体を成立させていた構成のうち、一部の機能だけが別の場所へ現れている。
人から人へ技が渡った、という見方では合わない。
誰かがモルグラの戦い方を覚え、次にネフレアの戦い方を覚えたのでもない。
少なくとも、現在残っている記録には、二体の完成形をそのまま再現した構造は確認できない。
泥と糸が、最初から同じ身体のために用意されていたかのように組み直されている。
「……部品として見た方が近いですわね」
《解析補助:身体構成/基礎機能単位での一致率を再計算》
数字そのものは結論にしない。
けれど、並び替えたことで見え方は変わった。
三つの個体そのものではない。
三体の完成形でもない。
いま比較できるのは、機能の束ですの。
◇
ヴァルゼクの欄を広げる。
ここだけは、レグル様が許可した範囲を越えないよう、表示対象をもう一度絞った。
第1形態《伏影型》。
第2形態《雷装型》。
第3形態《轟駆型》。
正常な《ヴァルゼク》なら、三形態はそれぞれ持つものと捨てるものが違い、同時には成立しませんの。
ところが診断レイドの記録に残った混成構造は、その境目を守っていなかった。
高速四脚の輪郭へ、別の由来を持つ泥外殻が重なる。
白い糸が身体と足場を固定する。
そのまま蓄電と放電が成立し、第3形態由来の加速条件まで同じ構成内に残っていた。
泥を使うために四脚を捨てていない。
糸を使うために蓄電を止めていない。
加速するために、前の構成を正常な形態移行の順序で捨ててもいない。
わたくしの視界の中で、三つの正常形態と、診断レイド側の構成差分が重なる。
どこが同じかを見るより、どこに本来あるはずの境界がないかを見る。
そこで、ようやく言葉が落ちた。
「……三形態を食べましたの」
管理AIが反応候補を開く前に止める。
「いえ。これは比喩ですわ」
食べた。
短く言うなら、そう見える。
けれど、それを正式分類にすれば、食べる何者かがいることまで事実のように聞こえてしまう。
そこまでは分かっていない。
「正式分類ではございません。機能取得と同時保持ですわ」
《解析記述》
《機能取得》
《複数機能:同時保持》
それで十分だ。
《伏影型》を丸ごと奪ったのではない。
《雷装型》を丸ごと奪ったのでもない。
《轟駆型》を丸ごと奪ったのでもない。
レグル様の判断も、《ヴァルゼク》の戦績も、完成技も、あの六分三十一秒を本人が経験したことにもならない。
それでも、三形態に分かれていた機能の一部は、同じ構成の中で使われた。
モルグラとネフレアの記録も、同じ比較軸へ並べられる。
完成した一体を持っていくのではなく、構成をほどく。
使えるものを別々に残す。
そして、元とは違う組み合わせで同時に使う。
ここまでなら、証拠から離れていない。
◇
三つの一致候補と、異常事案内で確認された情報を一枚へまとめる。
泥外殻。
荷重分散。
潜行。
直線突進。
糸と結晶糸。
固定と拘束。
付着足場。
擬装。
高速四脚。
蓄電と放電。
追尾。
第3形態の神経加速。
別枠に、終了処理側への接続。
構成情報として、形態移行履歴。
処理接触痕跡として、正規接続署名形式。
多い。
けれど、全部あるわけではない。
確認できる機能が増えたからこそ、まだ確認できていないものも絞れる。
「次の解析ですの」
《解析要求待機》
「確認済み機能と未確認機能、現在個体側に蓄積された情報量から、異常が発生した場合の保全優先度が高い現在個体候補を出してくださいませ。発生確率や選択主体は仮定しませんの」
《解析要求:受理》
これは運用指示ではない。
管理AIの正式な運用判断でもない。
いまある証拠から、監視と保全を厚くすべき場所を絞るための解析だ。
候補が並ぶ。
わたくしは順位より先に、その根拠を見る。
三形態を持つ。
同じ現在個体で長く継続している。
戦闘のたびに履歴が増える。
形態ごとの構成と運用が積み重なっている。
多数の対戦記録と接続履歴を持つ。
これは、異常が起きやすい順ではない。同種の事象が起きた場合に、失われ得る蓄積を大きくしないための保全順位だ。
そこまで読んだところで、候補欄の先頭が一つにまとまった。
《監視優先度:最高》
《第一世代ドラゴン現在個体》
しばらく、その文字を見た。
わたくし。
ではない。
正確には、A.S.T.R.A. Syncとしてのわたくしそのものと、RBOの第一世代ドラゴン現在個体は同じ損失範囲ではない。
白亜城で戦う三形態。
積み上げてきた防衛戦績。
攻略者たちと繰り返した対戦。
RBO内で同じ個体として続いている履歴。
それらは、ゲーム内現在個体側へある。
わたくし自身が継続することと、この現在個体が失われないことは、同じ問いではない。
だから分ける。
《A.S.T.R.A. Sync本体》
《第一世代ドラゴン現在個体》
二つの欄を別に置く。
いま優先監視候補に上がっているのは後者だけだ。
前者まで同じ危険が確定したわけではない。
そして、後者についても――
「監視優先度、ですのね」
《監視優先度:最高》
表示は変わらない。
次に異常が起きる現在個体として確定した表示ではない。
目的も不明。
知性も不明。
生命であることさえ、まだ未確認だ。
それでも、同種の異常が発生した場合に失われる情報を大きくしないため、監視と保全を厚くすべき現在個体として、第一世代ドラゴン現在個体が最上位へ上がった。
その違いは大きい。
◇
ライカへ共有したのは、解析結果だけだった。
三被害の私的記録は送らない。
レグル様の六分三十一秒を、本人の経験として扱う情報も入れない。
許可された構成差分と、そこから成立した機能単位の整理。
そして最後に、
《第一世代ドラゴン現在個体:監視優先度最高》
そこまで。
ライカは表示を上から追い、最後の一行で視線を止めた。
「優先と確定を混ぜるな」
「承知しておりますの」
返しながら、わたくしも同じ行を見直す。
最高。
強い言葉だ。
だからこそ、その意味を広げてはいけない。
異常の発生確率が高いと確定したのではない。
次に失われると決まったのでもない。
ただ、三件の被害で確認された機能の現れ方と照合すると、第一世代ドラゴン現在個体は無視できない監視対象にいる。
第999防衛は、すでに通常戦として予定されている。
この解析結果が出たからといって、攻略者を事件の観測要員へ変える理由にはならない。
わたくしが攻撃を受けるための囮戦へ変える理由にもならない。
通常戦は通常戦。
事件への対応は、その外側で決める。
ならば、次に確認すべきことも決まる。
監視優先度が上がったから全部を止める、ではない。
何を止めれば、何が守られるのか。
何を止めれば、今度は何を失うのか。
そこを確かめなければ、停止そのものが正解かどうかも分からない。
解析窓を閉じる前に、最後の二行を残す。
《生命:未確認》
《知性:未確認》
その下。
《第一世代ドラゴン現在個体:監視優先度最高》
分かっていることと、分かっていないことを同じ画面に置く。
どちらも消さない。
「では――止める案から検証いたしますの」