『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
「おーっほっほっほ! 第999防衛を開始いたしますわ!」
《配信コメント》
名無しの領民:999!
名無しの領民:あと1!
名無しの攻略勢:先に今日の30人見ろ
名無しの領民:はい
白亜城の主戦場中央。
《第999防衛》
《挑戦者:30名》
《編成:5名×6班》
第1形態《アーマードドラゴン》。
三十人は、中央のわたくしを囲むように六方向へ散っていた。
前へ出る者、少し外に残る者、さらに後ろで救護と射撃線を見る者。同じ五人班でも、六班すべてが同じ形ではない。
けれど、一人だけを見ていればよい配置でもなかった。
正面の前衛が下がれば、その班の後ろから別の一人が半歩だけ前へ出る。隣の班が空いた角度を拾い、反対側はすぐには詰めず、わたくしが装甲を寄せるのを待っている。
誰か一人が抜けても、六方向そのものは残すつもりですのね。
公開登録された装備変更枠は各班最大五セット。
技能ビルドは固定。
途中で別人の技能を持ってくることはできない。
なら、変えられるのは装備と位置と、誰が今その仕事をするか。
「なるほど。最初から人ではなく役割を置いておりますのね」
返事を待つ必要はない。
正面の二班から前衛が踏み込んできた。
◇
胸を落とし、外殻を正面へ寄せる。
前脚を石床へ叩きつけると、衝撃と亀裂が扇状に走った。
真正面で受ければ足が止まる。
けれど正面の前衛は、盾の角度を揃えなかった。一枚は外へ流し、もう一枚は身体ごと斜めへ逃がす。その間を後ろの一人が通り、下がった前衛の代わりに進路だけ残す。
押し切れない。
それなら、正面へ厚くした外殻をそのまま使って前へ出る。
わたくしが重さを載せた瞬間、左から足音が二つ増えた。
「左、入る!」
左隣の班から二人。
薄くなった左脚側へ一人が打撃を重ね、もう一人は深追いせず、その背後に退路を残す。
右へ装甲を戻せば、今度は後方寄りの班が前へ出る。
六方向すべてから同時に最大火力を出しているわけではない。
わたくしが厚くした場所から、薄くなった場所へ仕事を渡している。
「ずいぶん露骨に動かしますのね!」
外殻を左へ返す。
左の二人が即座に離れた。
追おうとした右前脚へ、正面班の牽制が入る。
そちらを払えば、右後方から射撃。
一つずつなら止められる。
けれど、止めた位置が次の班の入口になる。
誰か一人を倒して流れを切ろうと、正面の盾役へ重量を寄せた。
盾役が下がる。
同じ班の支援役が前へ一歩だけ入る。
盾技能を使ったわけではない。
わたくしの前進路を塞ぐために、今いる身体で一瞬だけ場所を埋めただけだ。
その横を別班の盾役が回り込む。
「技能を真似ているわけではございませんのね」
役割を代わる。
できる範囲で。
だから、元の一人と同じことはできなくても、六方向のどこかが完全に空くのを防げる。
ならこちらも、一人ずつ潰すより六方向そのものを崩さなければならない。
外殻の配分を後方へ戻し、正面をあえて薄くする。
来る。
正面二班が詰めた。
そこへ両前脚を広げて面で薙ぐ。
前列が一斉に散った。
初めて、正面が大きく空く。
その空間へ踏み込もうとした瞬間、左右の班が同時に寄った。
「まあ!」
空いたのではない。
空けて、わたくしを前へ出した。
左右から装甲の薄い脇腹へ攻撃が重なる。
HPが削れる。
正面へ戻れば、また六方向。
わたくしは笑った。
「やりますわね!」
◇
第1形態を抜かれるまで、六班の形は一度も完全には切れなかった。
人は入れ替わっている。
前へいた者が後ろへ回り、射撃役が一時的に通路を作り、支援役が攻撃そのものではなく位置を埋める。
同じ人間が役割を守るのではなく、空いた仕事を届く者が拾っている。
形態移行。
《第2形態《ソードドラゴン》》
重さを捨てた身体が前へ伸びる。
装甲で受ける必要はない。
速さと刃で、役割を渡す前に一つの班を割る。
北側へ踏み込み、刃を横へ振るう。
前衛が受けた。
その後ろへ回り込む。
支援役まで一息に届く――はずだった。
石床へ反動杭が打ち込まれる。
わたくしの進行線そのものを止める位置ではない。
右前方。
踏み込みの途中で避ければ、身体の向きがわずかに外へ開く場所。
左へ切り返す。
そこへ別班。
刃を返す前に、さきほど前へいた者がもう後ろへ退いている。
「交代!」
声と同時に、別の一人が前へ。
また同じ技能ではない。
受け方も違う。
けれど、わたくしが一人を押し切ったあとに必要になる「次の身体」が、もうそこにある。
刃で弾く。
前へ出る。
反動杭を避ける。
その回避方向へ別班が入る。
六班が壁になっているのではない。
わたくしが一つを崩すたび、隣から役割が流れ込んでくる。
「そのための六班ですのね!」
一度、北東へ大きく抜ける。
追ってきた二人だけを引き離し、反転。
刃を落とす。
一人が後退する。
もう一人は無理に残らず、そのまま離脱した。
代わりに北班から二人。
人を追えば、役割が残る。
役割を崩そうとすれば、位置が入れ替わる。
なら全部を同時に見て、今いちばん薄い接続を切る。
右後方。
装備変更に入った一人。
その隣で代行へ入ろうとする支援役。
間に一瞬だけ隙間。
踏み込む。
届いた。
けれど、そこへ正面から反動杭がもう一本。
身体を捻って避けたぶん、刃の軌道が浅くなる。
仕留め切れない。
逆側から攻撃が入り、姿勢が崩れた。
石床を削りながら二歩。
そこで止まる。
六班も無傷ではない。
資源も人数も削れている。
それでも、まだ役割が繋がっている。
「第2形態、最後まで使わせるつもりですのね」
答えの代わりに、三方向から同時に足音が来た。
◇
刃と加速を使い切るまで押し合い、第2形態を抜かれる。
《第3形態《シューティングドラゴン》》
翼を開く。
白亜城の上空へ身体を持ち上げると、盤面が一度に広がった。
地上の三十人。
六班。
それぞれの戻り道。
ここからなら、役割交代の途中を射抜ける。
胸部射撃を正面下へ向ける。
撃つ直前、地上に標識が一つ灯った。
そこへいた二人が動く。
左へ。
なら左へ照準をずらす。
もう一つ標識。
今度は、そこへ誰も入らない。
撃つ。
光が通った場所には、もう人がいなかった。
「……なるほど」
標識は、逃げ先を教えているだけではない。
わたくしが次に撃ちたくなる位置から、人を先に外している。
尾を右へ伸ばし、追尾弾を調整する。
右へ逃げると見せた一群は標識の切替と同時に中央へ戻り、追尾を深くすれば反対側への旋回が遅れる。その遅れへ地上三方向から牽制射撃が入り、飛べる空が狭くなる。
「わたくしを追っているのではございませんのね」
人を追えば散る。
なら帰還経路を狙う。
外周の救護線へ照準を移した。
「内周へ!」
救護役が一段内側へ走る。
空いた外周へ、後ろにいた射撃役が二人入る。
救護技能をコピーしたわけではない。
救護役が戻れる場所を残すため、その空間だけを別の二人が埋めた。
撃てば射撃役が退く。
退けば救護役が戻る。
どちらかを追えば、反対側の標識が変わる。
わたくしは胸部射撃の反動を翼で受け、高度を維持する。
その間、翼端側の出力は薄くなる。
地上から一本。
脇へ二本。
薄い瞬間へ攻撃が届いた。
《第3形態HP:24%》
「まだ来ますの!?」
高度を上げる。
標識が三つ動く。
逃げた先へ撃つ。
空振り。
次は標識そのものを無視して、動かなかった班へ射線を置く。
一人が遅れる。
そこへ追尾。
今度は当たる。
けれど、倒れた一人を拾うために六方向全部が寄ることはなかった。
隣の班がその角度だけ広げる。
空いた仕事を引き受ける。
わたくしが次に狙う場所を、完全には固定させない。
もう一度、胸部射撃。
反動。
翼が下がる。
地上から射撃。
《第3形態HP:17%》
そこでようやく、攻略側の攻撃密度が落ちた。
高出力技能は複数班で再使用待ち。
救護線はまだ残っている。
けれど、わたくしの射撃を止めながら、残り十七パーセントを削り切るだけの連続火力はない。
六方向のうち一つを捨て、残りを全部突っ込ませれば、もう少し削れるかもしれない。
けれど、誰もそうしない。
最後まで六方向を残したまま、次の隙を待つ。
わたくしも撃つ。
彼らも避け、繋ぎ直す。
時間だけが減っていく。
《00:00:00》
《防衛成功》
《現在個体防衛数:999》
《1000まで残り1》
一拍遅れて、配信コメントが埋まった。
《配信コメント》
名無しの領民:999!!
名無しの領民:次!!
名無しの攻略勢:17%まで行った
名無しの領民:この六方向つよ
名無しの領民:1000誰だ
名無しの領民:募集まだ?
「おーっほっほっほ!」
笑いながら、わたくしは最後まで形を切らさなかった三十人を見る。
「まず本日の攻略隊を称えなさいませ!」
百回目でも、千回目の一つ前でも。
今日の相手は今日の相手ですの。
「大変見事でしたわ!」
◇
配信終了。
挑戦者三十人の退出を確認する。
《参加者退出:30/30》
公開窓を閉じる。
ここまでが、第999防衛。
戦闘中、限定停止条件は一度も発動していない。
通常戦の勝敗も確定済み。
《戦績同期監視》
《999更新:確定》
内部監視だけが、その後も続いていた。
《更新後:0.1秒》
変化なし。
《更新後:0.3秒》
保全済みの複数の残滓記録に、ごく小さな同期反応が出る。
《更新後:0.5秒》
反応が重なる。
《未分類参照:検出》
未登録参照とまでは確定できませんの。参照らしい反応だけが、既存種別へ分類できないまま残っています。
《参照対象一致候補》
《戦績999》
《三形態履歴》
《多数接続履歴》
《大規模公開同期》
《個体固有報酬関連処理》
最後の一項で視線が止まる。
個体固有報酬そのものは、まだ生成されていない。
だから、この表示を「未生成の報酬内容へ到達した」とは読まない。
いま確認できるのは、戦績999の更新直後に、個体固有報酬に関係する処理を含む一致候補が複数重なったことまで。
《更新後:0.7秒》
反応が消えた。
《使用主体取得不能の攻撃参照:検出なし》
《未登録付着:検出なし》
《未登録権限要求:検出なし》
《個体継続情報切断:検出なし》
《本人主観同期監視:異常検出なし》
緊急終了判定は発動しない。
第999防衛の結果も変えない。
《防衛成功》
《現在個体防衛数:999》
《1000まで残り1》
公開側で確定した二行を、内部側でもそのまま残す。
異常反応があったからといって、終わった通常戦を別の戦いへ変えない。
次に見るのは、この更新直後の反応ですの。
◇
内部結果をライカへ送る。
共有したのは、999更新後の監視結果だけ。
戦闘参加者三十人の個別情報や、封印資料の不要な中身までは開かない。
ライカは一覧を上から一度追い、《999更新:確定》と更新後0.3秒から0.7秒までの監視記録を並べた。
「戦ってる最中じゃないんだな」
「ええ。勝敗確定後ですの」
「攻撃も付着もない」
「権限要求も、継続情報の切断も確認されておりません」
なら、被害が起きたとは言えない。
第999防衛が原因だったとも言えない。
戦績更新を選んで参照した主体がいる、とも言えない。
ただし。
戦闘中には出なかった反応が、正式な999更新後の0.7秒だけ複数の封印残滓で重なった。
その一致まで消す理由もない。
「次の更新と比較する理由は、一つ増えましたの」
ライカが少しだけ黙る。
「確定じゃない」
「はい」
「でも、次の更新も見る理由は増えたな」
その言い方なら、わたくしも頷ける。
次に反応すると決まったわけではない。
何かが待っているとも決めない。
ただ、第999防衛の正式更新直後、0.3秒から0.7秒までの間に、保全済みの複数の残滓記録で反応が重なった。
それを確認した以上、次の戦績更新を以前と同じ監視密度のままにする理由はない。
監視を厚くする理由は増えた。
《第999防衛:正式確定》
《監視記録:保全》
《更新後0.3~0.7秒:同期反応記録・非公開》
九百九十九は、九百九十九のまま残った。
その横にだけ、新しい監視記録が一つ増えましたの。