『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
非公開監視窓へ、第999防衛の記録をもう一度出す。
《第999防衛:正式確定》
《現在個体防衛数:999》
《1000まで残り1》
その下に、公開されていない監視記録。
《更新後:0.3秒》
《未分類参照:検出》
《更新後:0.5秒》
《複数の一致候補:重複》
《更新後:0.7秒》
《反応消失》
攻撃参照は検出されていない。
未登録付着もない。
未登録権限要求もない。
現在個体の継続情報は切断されず、本人主観同期監視にも異常は検出されなかった。
九百九十九は、九百九十九のまま。
ここまでは前回確認した通りですの。
わたくしが今見るのは、その横に増えた一件の記録だけだった。
「第1000防衛を達成した場合、通常の戦績更新に加えて、個体固有報酬の生成が始まりますのね」
《確認》
《個体固有報酬:達成後生成》
《現時点内容:未生成》
内容はまだない。
だから、何が生成されるかを材料にはできない。
ただ、999とは異なる通常処理が一つ増えることだけは、達成前の今でも分かる。
「第999防衛では、正式更新の直後に未分類参照反応が出ましたわ」
《確認》
「でしたら、第1000防衛でも同じ監視を維持します。通常の更新を止めず、更新時に反応が再び出た場合だけ、監視済みの条件内で取得する案ですの」
管理AIはすぐに採用表示を返さなかった。
《提案受付》
《運用候補:通常進行下・同期監視》
《正式採否:未決定》
監視するだけではない。
第1000防衛を通常の一戦として実施し、達成した場合には本来起こる戦績更新と報酬関連処理を、そのまま起こす。
そこで未分類参照反応が再び確認されるなら、あらかじめ保護と停止条件を置いた状態で観測できる。
再現しなければ、それも結果として残る。
何かが来ると決めて待つのではない。
来る主体がいると決めるのでもない。
通常進行を異常用に作り替えず、起こるかどうか分からない反応だけを監視下へ置く。
「……餌にするってことか」
共有窓の向こうで、ライカが言った。
「餌になる、は比喩ですわ。正式には通常進行下での同期監視ですの」
比喩の直接対象を挙げるなら、第一世代ドラゴン現在個体側だ。A.S.T.R.A. Sync本人まで同じ損失範囲にあるとは、まだ確定していない。
「言い換えても危険は減らない」
「ええ。ですから、採用の前に危険を分けますの」
◇
同じ画面へ二つだけ置く。
《A.S.T.R.A. Sync本人》
《第一世代ドラゴン現在個体》
同じものではない。
だから、失う範囲も同じとは限らない。
確認済みの三件では、正常敗北も本人選択もないまま現在個体が継承段階へ進み、本人主観記録の欠落が確認されている。
現在個体側の構成欠損まで確認できた範囲は、事案ごとに同じではない。
それと同じことが第1000防衛で起きると決まったわけではない。
第一世代ドラゴン現在個体が次の対象だとも確定していない。
けれど、もし同種の事象が現在個体側で起きれば、何を失い得るかは先に示せる。
《現在個体継続:喪失可能性》
《現在個体としての身体継続:喪失可能性》
《現在個体戦績の継続:影響可能性》
《形態/構成情報:影響可能性》
《本人主観同期:影響可能性》
その下。
《現在個体喪失とA.S.T.R.A. Sync本人消失の連動:確認根拠なし》
根拠なし。
安全確定ではない。
ただ、現在得ている証拠から、ゲーム内現在個体の損失とA.S.T.R.A. Sync本人の消失を同じものにはできない、という表示だ。
ライカは最後まで見てから口を開いた。
「お前は、どっちを残したい」
「質問が少し違いますわね」
「じゃあ言い直せ」
わたくしは現在個体側の欄を開いた。
999。
三形態。
同じ身体で積み重ねてきた防衛。
ライカたちと繰り返した対戦。
それらを一つずつ読んでから答える。
「同じ第一世代ドラゴン現在個体を残したいと判断しています」
「本人が残れば、こっちはなくしていいとは思わない?」
「思いませんの」
即答できた。
継承制度を否定したいわけではない。
いつか正常な敗北があり、次世代へ進む日が来ることまで拒んではいない。
けれど、それはその時の結果と、その時の選択で決まることだ。
今、正常敗北でも本人選択でもない処理に現在個体を失わせてよい理由にはならない。
「戦績も、形態も、皆様との対戦も、この個体で続けたいですわ」
言ってから、もう一つ付ける。
「ですが、その希望が通常進行下での同期監視を安全にするわけではございませんの」
「そこは分かってるならいい」
◇
本人選択用の表示が開く。
《第1000防衛・同期監視案》
《実施しない》
《延期》
《現在個体の隔離を継続検討》
《通常戦実施+1000同期監視》
どれを選んでも、この画面だけで運用採用にはならない。
本人が選べるのは、わたくし自身をこの案へ参加させるかどうかまで。
管理条件の正式採否は別ですの。
延期すれば、第1000防衛そのものを後へ送れる。
隔離案も、検討不能になったわけではない。
通常進行下での同期監視を選ばず、通常募集そのものをまだ始めないこともできる。
反対に、通常戦を実施し、999と同じ監視を1000更新へ重ねることもできる。
わたくしは最後の欄へ触れた。
《本人選択:通常戦実施+1000同期監視》
すぐには確定しない。
《確認事項》
《現在個体を失う可能性:否定不能》
《本人主観同期への影響:否定不能》
《未分類参照反応の再確認:未確定》
《監視誘導による安全保証:なし》
《開始前撤回:可能》
《撤回時不利益:なし》
一行ずつ見る。
最後まで見てから、確定欄へ進む。
《1000同期監視:本人同意》
《同意範囲:第1000防衛/同期監視》
《開始前撤回:可能》
《撤回時不利益:なし》
「同意いたしますの」
表示が閉じない。
《本人同意:運用採用ではありません》
「承知しておりますわ」
ここは重要だ。
わたくしが自分の現在個体を使うことへ同意した。
それだけ。
通常挑戦者を危険へ残す許可でも、管理側へ採用を命じる権限でもない。
◇
管理側から最初の安全案が返った。
《異常検出時》
《通常挑戦者30名:保護退避処理を最優先》
《第一世代ドラゴン現在個体:戦場残留》
《管理AI:監視継続》
通常挑戦者を残さない。
そこはいい。
その後、戦場に残る表示は一つだけだった。
第一世代ドラゴン現在個体。
「なしだ」
ライカが即答した。
「早いですわね」
「一人で終わらせる案はなしだ」
「安全条件としての理由を伺いますの」
ライカは表示を指した。
「異常が何するか分かってない。お前だけ残して、接続も通信も怪しくなった時、外から見てるだけで何ができる」
わたくしは反論せず、表示を見直す。
一人で残れば、通常挑戦者を守ることはできる。
けれど、それで第一世代ドラゴン現在個体を守れるとは限らない。
未分類参照が戦場内だけで完結する保証もない。
本人主観同期や現在個体接続へ影響が出たあとに、外から追加対応できる時間が残るとも限らない。
ここまでに確認したのと同じだ。
隔離すれば安全、とは言えない。
止めれば安全、でもない。
なら、「一人だけ残す」が安全だとも言えない。
「代案はございますの?」
「あたし達が別枠で待機する」
「通常挑戦者として?」
「違う」
即答だった。
「そこ混ぜたら、1000が普通の攻略戦じゃなくなるだろ」
その一言で役割が分かれる。
第1000防衛へ挑む三十人。
異常時だけ対応する別の三十人。
同じ戦場へ最初から二組を入れない。
ライカ隊は非公開の緊急待機ロスター。
異常がなければ、最後まで介入しない。
「通常挑戦者三十人と、ライカ隊三十人を混同しない」
「当然だ」
管理AIへ条件案を渡す。
《緊急待機案》
《ライカ隊30名:別ロスター》
《通常戦への初期参加:なし》
《異常なしの場合:介入なし》
さらに、異常発生後に使える停止時間ごとの手順が開く。
《安全停止猶予:確保保証なし》
《確保できた猶予時間別・待機手順》
《60秒まで確保できた場合》
《本人/装備/同期確認》
《120秒まで確保できた場合》
《6班/役割/代行関係確認》
《180秒以上を確保できた場合》
《完全編成》
数字を大きい順には見ない。
短ければ本人・装備・同期確認まで。余裕があれば班編成と代行関係まで進み、百八十秒以上を確保できて初めて完全編成へ入れる。
時間が足りないのに、完全な準備をしようとして出遅れないための区切りだ。
まだ、何が起こるかは分からない。
だから「この手順で勝てる」という作戦でもない。
異常が出た時、得られた時間の中でどこまで安全確認と編成を進めるかを先に決めておく。
「六歩前進の六人は?」
わたくしが確認すると、ライカは少しも迷わなかった。
「呼ばない。もう十分やってる」
初心者六人。
最初の直接遭遇から、訓練、記録提供まで。
事件へ関わったからといって、最後まで使い続ける理由にはならない。
《六歩前進:6名》
《緊急待機ロスター:対象外》
《既存記録提供:完了》
「異議ございませんの」
◇
最初の同意記録を開き直す。
《旧条件》
《第一世代ドラゴン現在個体:単独残留》
削除。
代わりに、ライカの案を入れる。
《変更条件》
《通常挑戦者30名:異常時は保護退避処理を最優先》
《ライカ隊30名:非公開緊急待機》
《ライカ隊:異常なしの場合は介入なし》
《停止時間別手順:事前登録》
条件が変わった。
なら、最初の同意をそのまま使わない。
《本人同意:条件変更》
《再確認待ち》
もう一度、損失範囲と撤回条件が表示される。
《同意範囲:第1000防衛/同期監視》
《開始前撤回:可能》
《撤回時不利益:なし》
《通常挑戦者:異常時即時転送》
《ライカ隊:別ロスター緊急待機》
前より安全そうに見える。
けれど、「安全になった」とは表示されていない。
危険がなくなったのでもない。
わたくしはその差を残したまま選ぶ。
《本人選択:同意継続》
「これなら、一人で残るよりはずっとよろしいですの」
「最初からそう言え」
「ご提案を待っておりましたわ」
「嘘つけ」
少しだけ笑ってから、表示へ戻る。
《1000同期監視案:本人同意済み》
まだ終わりではない。
わたくしの同意は、運用採用ではない。
そして、ライカが待機を提案したことと、残る二十九人が同じ条件へ参加することも別ですの。
緊急待機の条件を、ライカ隊三十人へ個別に提示する。
《緊急待機条件:個別提示》
《参加:任意》
《開始前撤回:可能》
《不参加時不利益:なし》
《同意範囲:非公開緊急待機のみ》
これは待機への同意ですの。
実際に緊急参加へ切り替える場合は、別に確認を残します。
返答が一つずつ揃う。
《ライカ隊・緊急待機同意:30/30》
三十人分の待機同意が揃ってから、変更後の条件一式が管理AIと運用側へ渡る。
《条件照合》
通常挑戦者の保護退避を最優先に置き、その退避条件を通常戦の安全管理から外さないこと。
通常挑戦者へ、事件対応の追加行動を求めないこと。
ライカ隊は別ロスターとし、異常がなければ介入させないこと。
本人の撤回権を、開始前まで残すこと。
待機手順は、既存の技能、装備、役割だけで成立させること。
《条件照合:完了》
《通常挑戦者への追加行動要求:なし》
《同期監視追加による通常条件外の参加者側追加危険条件:確認されず》
《通常挑戦者30名:異常時は保護退避処理を最優先》
《ライカ隊30名:非公開緊急待機》
《本人撤回:開始前まで可能》
《通常進行下・同期監視:正式運用採用》
そこで初めて、候補案が運用条件へ変わった。
「餌」という比喩に同意したからではない。
わたくしが参加へ同意し、通常挑戦者を残さず、一人にもせず、別の待機隊を通常戦から分離し、撤回できる条件を残した。
その全体が照合されて、初めて採用された。
◇
公開側には、事件側の内部情報を出さない。
管理側の安全判断による中断や退避は、もともと通常戦の安全条件に含まれている。今回増えるのは、その発動判断に使う非公開の監視項目だけで、挑戦者へ事件対応の追加行動を求めるものではない。
未分類参照。
通常進行下・同期監視。
損失範囲。
ライカ隊の待機。
停止時間別の手順。
どれも第1000防衛の公開情報ではない。
一般側へ次に開くのは、ただの募集画面だ。
《第1000防衛》
《通常挑戦者:未選定》
まだ三十人はいない。
誰を選ぶかも決まっていない。
同期監視条件を採用したからといって、挑戦者まで事件対応要員にするつもりもない。
ライカが募集欄を見た。
「で、次は?」
「挑戦者三十人ですの」
餌という言葉は、非公開の会話に置いたまま。
第1000防衛へ出る三十人は、通常の挑戦者として選びますわ。