『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~ 作:tuna&mayo
《第1000防衛》
《応募受付終了》
白亜の宮殿、その玉座配信室。
受付終了の表示が出ると同時に、応募一覧の更新が止まった。
《応募ロスター数:184》
《構成不備:27》
《選考対象:157》
《配信コメント》
名無しの領民:184
名無しの攻略勢:30枠に184?
名無しの領民:有名どころ多いな
名無しの領民:人気順?
名無しの攻略勢:ライカ隊でいいじゃん
名無しの古参領民:千回目でそれやる?
「人気では決めませんわ」
一覧へ出している評価項目を、そのまま公開側へ表示する。
《公開戦績》
《戦闘不能/安全終了履歴》
《第1~第3形態対応経験》
《蘇生資源の継続性》
《装備再構成》
《指揮継承手順》
《他班代行訓練》
配信規模。
知名度。
顔。
そうした欄はない。
「第1000防衛は記念配信の出演枠ではございませんの。通常の攻略戦ですわ」
《配信コメント》
名無しの領民:千回目でも通常戦
名無しの攻略勢:そこ変えないの好き
名無しの領民:でもライカ隊は?
名無しの新規領民:強い人30人集めるんじゃないの?
名無しの攻略勢:強いだけで8時間回せるなら苦労しない
最後のコメントへ視線が止まる。
その通りですの。
個々の火力が高い。
最高戦績を持っている。
それだけなら候補はもっと簡単に絞れる。
けれど、第999防衛で三十人が見せたのは、誰か一人の強さではなかった。
欠けた仕事へ別の身体が入り、同じ技能を持っていなくても位置と判断順を引き継ぎ、六方向の構造そのものを残した。
第1000防衛で選ぶのも、同じ意味で「三十人」ですの。
最強の一人を三十回並べるのではない。
三十人のうち誰かが戦闘不能になっても、隊全体の判断が止まらない構成を選ぶ。
◇
選考対象を上から順に見る。
公開戦績だけなら、先頭に近い有力ロスターが一つあった。
《三形態対応経験:基準達成》
《安全終了率:基準達成》
《蘇生資源:基準達成》
《装備再構成:基準達成》
ここまでは十分。
その下。
《他班代行訓練:不足》
《主指揮喪失後の継続手順:未提出》
視線を止める。
弱いわけではない。
第1形態にも、第2形態にも、第3形態にも到達経験がある。
正面から戦えば、選考対象の中でもかなり上へ来る。
けれど、主指揮が欠けたあと、誰が次の判断を引き受けるかが事前に決まっていない。
他班へ穴が開いた時、どこまで自分たちの役割を縮小し、どの位置へ入るかも訓練記録が足りない。
「今回は、こちらではございませんの」
《今回選考:非選出》
《配信コメント》
名無しの攻略勢:あそこ落ちるの?
名無しの領民:戦績めちゃ高くなかった?
名無しの攻略勢:条件見ろ
名無しの領民:代行か
名無しの攻略勢:一人欠けた後の設計が今回の条件に足りないだけ
名無しの古参領民:弱い判定ではないぞ
「ええ。落選と弱さを同じにしないでくださいませ」
今回の攻略条件に合わなかった。
それだけだ。
別の防衛で、別の構成なら結果は変わる。
九百九十九回のあいだに、挑戦者側も失敗し、試し、組み直してきた。
その積み重ねまで、今回選ばれなかったという一件で消えるわけではない。
次の候補。
さらに次。
公開戦績の数字より、その下の継続手順を先に見る。
主指揮や救護、射線封鎖が欠けた時、どの仕事を残し、どこを縮小し、誰が代わるか。
その順番が、事前に決まっているか。
ようやく、一つの構成で表示が揃った。
《安全終了率:基準達成》
《三形態対応経験:基準達成》
《他班代行訓練:基準達成》
《固有技能喪失時の戦術縮小手順:提出済み》
六つの機能班が並ぶ。
《装甲誘導班:5名》
《破砕班:5名》
《姿勢制御班:5名》
《射線封鎖班:5名》
《救護・蘇生班:5名》
《代行・予備班:5名》
《合計:30名》
わたくしは選択欄へ触れた。
《第1000防衛 挑戦ロスター候補確定》
まだ「参加確定」ではない。
ここから先は、この三十人自身が決める。
◇
公開発表の前に、選出候補三十人との編成確認を行う。
非公開の戦術室。
中央には六角形の卓があり、卓上へ白亜城の簡略模型が浮いている。
挑戦者たちは五人ずつ、六辺へ分かれて立った。
装甲誘導班。
破砕班。
姿勢制御班。
射線封鎖班。
救護・蘇生班。
代行・予備班。
六班長の前に、主役割と副役割の一覧が開く。
「誰かが倒れたら頑張る、では不足ですわ」
第1形態の簡略外殻を表示する。
「第1形態。装甲を動かす班、薄くなった側へ入る班、救護線を残す班。開始位置から誰がどこへ動くか。欠員が出た時、誰がその位置を受けるかまで確認してくださいませ」
装甲誘導班長が、自班の二番手を指した。
「こいつが欠けたら前寄りの誘導を破砕班へ渡す。こっちは三人で誘導を縮小」
破砕班長が頷く。
「受けるのは位置と装備セット。そっちの固有技能は使えない」
「それで結構ですの」
代行は、本人になることではない。
固有技能をコピーすることでもない。
空いた場所へ入り、その人にしかできないことを無理に再現せず、残った能力で隊全体の形を保つ。
第2形態へ切り替える。
「次。近距離で班が割られた場合ですわ」
姿勢制御班長が、射線封鎖班の位置を一段下げる。
「前の制御が二人落ちたら、封鎖班から一人。代行班から一人。射線は三方向に縮小」
「救護線は?」
「残す。救護を削って追わない」
救護・蘇生班長が、その場で別案を返す。
「蘇生資源が先に減ったら、代行一人をこっちへ。蘇生技能そのものじゃなく、回収位置と帰還路を担当してもらう」
その区別も正しい。
第3形態へ切り替える。
「飛んだわたくしを追う方だけでなく、飛べる場所を削る方が必要ですの」
射線封鎖班長が六方向へ標識を置く。
「北が欠けたら、代行班が北の標識を維持。攻撃技能は引き継がない」
「南の射撃密度は落ちますのね」
「落とす。六方向を五方向にしてでも、帰還路を消さない」
全員が「できることを全部残す」とは言わない。
何を捨てるかまで決めている。
その方が信用できますの。
「では、最後ですわ」
六班すべての一覧を一度消す。
空席だけをランダムに作る。
装甲誘導班から一人。
救護・蘇生班から一人。
代行・予備班から一人。
三つ。
数秒の沈黙。
各班長が一斉に話し始めるのではなく、装甲誘導班長が先に一つだけ決める。
「誘導を四人へ縮小。破砕班一人、前へ」
「受ける」
「救護は?」
「蘇生優先度を一段下げる。回収経路は姿勢制御班から一人借りる」
「代行班欠員分は?」
「埋めない。予備そのものを減らす」
穴を全部埋めようとしない。
必要な仕事だけを残す。
表示上の六班は崩れても、判断の順番は止まらない。
「結構ですわ」
◇
次は戦術ではなく、参加条件。
管理AIが三十人それぞれの前へ同じ確認画面を出す。
《第1000防衛》
《通常攻略戦》
《最大戦闘時間:8時間》
《参加:任意》
《開始前撤回:可能》
《不参加/撤回時不利益:なし》
《管理側安全中断/退避:通常安全条件内》
《事件対応の追加行動要求:なし》
内部の同期監視条件は表示しない。
ライカ隊の待機も出さない。
被害事案も、欠落時間も出さない。
管理側の照合で、現時点では、この三十人側に通常条件を越える追加危険条件は確認されていない。
だから、事件の調査参加同意を取る画面ではない。
これは第1000防衛という通常戦へ参加するか。
その通常戦の中で、いま確認した役割と代行範囲を引き受けるか。
そのための確認だ。
「一つ質問」
破砕班の一人が手を上げた。
「安全中断が入った場合、再開前提ですか?」
「いいえ。安全状態と通常規則に従って管理側が判断しますの。皆様へ継続を義務づける条件ではございませんわ」
「了解」
別の一人。
「代行範囲、今から変更できる?」
「全員の確認前なら可能ですの。変更した場合は、影響する方の確認を取り直しますわ」
代行・予備班の一人が、自分の一覧を開く。
「救護班三番の代行、外します。第3形態で射線側へ入った後だと戻りが遅い」
救護・蘇生班長が確認する。
「代わりは?」
「姿勢制御班の四番。そこまでなら回収位置を持てる」
呼ばれた一人が自分の装備欄と位置履歴を見る。
「受ける。ただし蘇生はできない」
「位置と回収だけで結構ですの」
変更。
影響する三人の表示が更新される。
《代行範囲:更新》
《再確認:対象3名》
三つの承認が揃う。
こうして三十人分を一つずつ閉じていく。
《通常戦参加意思:30/30》
《役割確認:30/30》
《代行範囲確認:30/30》
最後に、
《第1000防衛 挑戦ロスター確定》
表示が変わった。
これで初めて、明日の三十人ですの。
◇
通常挑戦者の画面を閉じ、非公開側を確認する。
《通常挑戦者30名:確定》
別の欄。
《ライカ隊30名:非公開緊急待機》
《通常戦初期参加:なし》
《通常戦中通信:なし》
《異常なしの場合:介入なし》
《緊急待機同意:30/30》
事前の協議で個別に取った待機同意は、そのまま保全されている。
彼らは明日の攻略者ではない。
表の三十人へ指示を送ることもない。
さらに別枠。
《六歩前進:6名》
《既存記録提供:完了》
《緊急待機ロスター:対象外》
《戦闘参加:なし》
記録を提供した六人は、それで今回の役割を終えている。功績と危険参加は別ですの。
ライカ側の事前手順も、登録済みのものを確認するだけに留める。
《安全停止猶予:確保保証なし》
《60秒まで確保できた場合》
《本人/装備/同期確認》
《120秒まで確保できた場合》
《6班/役割/代行関係確認》
《180秒以上を確保できた場合》
《完全編成》
ライカの声が非公開回線から入る。
「事前手順三番。百八十秒取れた場合だけだ」
「承知しておりますの」
「取れなきゃ、準備できてても入らない」
「ええ」
明日の通常戦へ参加する三十人。
異常がなければ最後まで観戦だけの三十人。
既存記録を提供し、戦闘へ入らない六人。
全員を一つの「事件対応班」へまとめない。
それぞれの役割は別ですの。
◇
公開配信へ戻る。
待っていたコメント欄が、一気に動いた。
《配信コメント》
名無しの領民:決まった?
名無しの攻略勢:まだ確認中?
名無しの領民:ライカ隊は?
名無しの領民:30人だれ
名無しの新規領民:千回目いつ?
「お待たせいたしましたわ」
公開可能な情報だけを開く。
《第1000防衛》
《挑戦者:30名》
《編成:5名×6班》
《最大戦闘時間:8時間》
《開始予定:明日20:00》
《装甲誘導班:5名》
《破砕班:5名》
《姿勢制御班:5名》
《射線封鎖班:5名》
《救護・蘇生班:5名》
《代行・予備班:5名》
《現在個体防衛数:999》
《1000まで残り1》
一瞬だけ、コメントの流れが止まる。
次の瞬間。
《配信コメント》
名無しの領民:決まった!!
名無しの攻略勢:六班!
名無しの領民:代行予備班いる
名無しの新規領民:明日で1000確定?
名無しの古参領民:まだ
名無しの領民:www
名無しの古参領民:999回守っただけ
名無しの攻略勢:次の一勝は挑戦者側が潰しに来る
名無しの領民:そうだった普通に敵だ
「ええ」
わたくしは笑う。
「明日、わたくしが勝つと決まったわけではございませんもの」
第1000防衛。
名前だけなら、もう千へ届いたように見える。
けれど、表示はまだ999。
明日の三十人は、その最後の一勝を贈りに来るのではない。
奪いに来る。
だからこそ通常戦ですの。
《配信コメント》
名無しの領民:選ばれなかった隊も見てるかな
名無しの攻略勢:そりゃ見るだろ
名無しの落選隊推し:今回落ちたとこも前の攻略めちゃくちゃ参考にされてる
名無しの古参領民:999戦分の攻略が明日の30人に入ってる
名無しの領民:十二年分だな
その言葉を見て、少しだけ視線を止める。
明日の三十人だけで、ここまで来たわけではない。
最初の攻略者。
途中で離れた方。
何度も戻ってきた方。
新しい形態へ最初に挑んだ方。
攻略法を作った方。
失敗した方。
選ばれなかった隊も、ここまでの攻略史には入っている。
「皆様」
コメント欄が少しだけゆっくりになる。
「明日は、まだ千ではございませんわ」
《現在個体防衛数:999》
「最後の一回を、取りにいらっしゃいませ」
挑戦者三十人の表示が、その隣に並ぶ。
六班。
三十人。
明日20時。
最大八時間。
それ以上の意味を、公開側へ足す必要はない。
第1000防衛は、まだ始まっていない。
今夜はただ、明日の開幕の高笑いを待てばよろしいですの。