『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第043話 千回目を始めますわ

 

《第1000防衛》

《開始前》

 

 白亜城中央広場。

 

 昨日まで掲示板の向こうにあった三十人が、今日は戦場の六方向へ立っている。

 

 北、北東、南東、南、南西、北西。

 

 五人ずつ六班。各班の前衛だけが中央へ半歩近く、その後ろに支援と射撃が距離を取る。装備も配置も、事前に確認した通常攻略用のものだ。

 

 誰一人、記念撮影のためには並んでいない。

 

 こちらを見ている。

 

 倒す相手として。

 

 その配置を一巡したあと、公開画面とは別の小さな窓を開く。

 

《1000同期監視》

《本人撤回:現在可能》

《撤回時不利益:なし》

 

 開始前。

 

 ここまでは、この一戦と同期監視への本人同意を撤回できますの。

 

 開始前に撤回しても、戦績に敗北は付かない。わたくしの同意を撤回したこと自体にも不利益はない。

 

 通常挑戦者三十人へ、事件対応の追加行動を求める条件もない。

 

 ここで続けるかどうかは、まだわたくしが決められる。

 

 広場へ視線を戻す。

 

 六班は待っている。

 

 急かす者はいない。

 

 配信側では、開始前コメントだけが流れていた。

 

《配信コメント》

名無しの領民:きた

名無しの領民:30人いる

名無しの攻略勢:六班配置確認

名無しの新規領民:まだ999

名無しの古参領民:分かってるじゃん

名無しの新規領民:昨日覚えた

 

 思わず口元が緩む。

 

 まだ九百九十九。

 

 だから、この一戦を始めますの。

 

《選択》

《継続》

 

 触れる。

 

「継続いたしますの」

 

《本人選択:記録》

《開始前撤回受付:終了》

 

 表示を閉じる。

 

 非公開の監視窓も視界の端へ退かせた。

 

 ここから先、わたくしが見るべきものは戦場ですの。

 

 息を吸う。

 

「おーっほっほっほ! 領民の皆様、お待たせいたしましたわ!」

 

 一晩待たせた高笑いが、白亜城の石壁へ返る。

 

《配信コメント》

名無しの領民:きたああああ

名無しの領民:高笑い!

名無しの新規領民:始まった!

名無しの統計勢:第1000防衛開始

名無しの領民:アスト様がんばれ

名無しの挑戦者推し:30人がんばれ

名無しの古参領民:両方やれ

 

「第1000防衛戦を開始いたしますわ。記念戦でも、難度を下げる予定はございませんの」

 

 六方向から、短い返答が重なる。

 

「装甲誘導、準備完了」

「破砕、準備完了」

「姿勢制御、準備完了」

「射線封鎖、準備完了」

「救護・蘇生、準備完了」

「代行・予備、準備完了」

 

 役割名だけ。

 

 昨日確認した通りだ。

 

 誰が英雄になるかではなく、欠けたあとに何を残すか。

 

 なら、わたくしもいつも通り参りますわ。

 

《第1形態 アーマードドラゴン》

 

 身体が四脚へ落ちる。

 

 重量が戻る。

 

 前肢を石床へ置くたび、鈍い反力が脚から胸へ返ってきた。肩から背へ重なる外殻を閉じ、首を低くする。

 

 正面だけを見ない。

 

 六方向。

 

 距離。

 

 各班、前へ出た二人。

 

 後ろへ残る三人。

 

 まだ誰も攻撃していない。

 

     ◇

 

 最初に動いたのは北東班だった。

 

 五人のうち二人が、わたくしから距離を保ったまま外周を時計回りへ走る。

 

 北班の前衛は正面へ半歩。

 

 攻撃ではない。

 

 視線を取る位置ですの。

 

 頭を北へ振る。

 

 その瞬間、南西。

 

 石床すれすれに飛んだ破砕杭が、左後肢側の外殻へ当たった。

 

 衝撃。

 

 尾を低く払う。

 

 南西班の前衛は受けない。

 

 一撃入れただけで後ろへ抜け、空いた位置へ南班から二人が斜めに入ってくる。

 

 追えば、別方向へ背を向ける。

 

 追わなければ、その二人が距離を詰める。

 

 なら先に一つ潰しますの。

 

 胸を北へ向け、肩の外殻を正面へ厚く寄せる。

 

 前脚を踏み込む。

 

 石床へ亀裂が走った。

 

 北班の前衛は盾を正面へ立てきらない。斜めに受け、衝撃を外へ逃がしながら下がる。

 

 その間に北東の二人が止まった。

 

 攻撃は来ない。

 

 代わりに、南西からもう一度。

 

 さきほどより浅い角度。

 

 外殻へ小さな損傷が入る。

 

 厚くした北側ではない。

 

 向きを変えたぶん薄くなった場所だけ。

 

「装甲を破る場所を探しているのではございませんのね」

 

 六方向を見直す。

 

 薄い場所が現れるのを待っているのではない。

 

 わたくしへ向きを変えさせる。

 

 装甲を寄せさせる。

 

 その結果として生まれる薄い側を狙う。

 

「装甲を破るのではなく、薄くなる方向を作っておりますのね」

 

《配信コメント》

名無しの攻略勢:作らせてる

名無しの領民:薄いとこ探してるんじゃない?

名無しの攻略勢:違う

名無しの攻略勢:向かせて薄くしてる

名無しの新規領民:六方向こう使うのか

 

 分かれば、こちらも変えられる。

 

 左後肢へ外殻を戻す。

 

 南西班が引く。

 

 すぐには北から来ない。

 

 代わりに北東の二人がさらに外へ広がった。

 

 攻撃しないまま、こちらが厚くした左側と反対の右前方へ圧を置く。

 

 一方向だけを厚くすれば、次の入口ができる。

 

 なら二方向。

 

 肩殻を左右へ開き、荷重を分ける。

 

 北。

 

 南西。

 

 二つへ同時に圧を返せる形。

 

 攻略側は――打たなかった。

 

 北の二人が盾と武器を構えたまま距離を保つ。

 

 南西も前へ出た姿勢を崩さない。

 

 来ない。

 

「……待ちますのね」

 

 わたくしの装甲だけが、左右へ割かれたままになる。

 

 そのぶん、正面中央が軽い。

 

 後ろにいた代行・予備班の前衛が走った。

 

 北でも南西でもない。

 

 正面。

 

「そう来ますの!」

 

 前脚を叩きつける。

 

 亀裂が中央へ走る。

 

 代行班の三人が散る。

 

 一人だけ退避が遅れ、膝をついた。

 

 届く。

 

 もう一歩――。

 

 その肩を後ろの一人が引いた。

 

 倒れかけた一人が後ろへ滑る。

 

 同じ瞬間、空いた正面へ別の一人が入る。

 

 さきほどまで後ろで待っていた者。

 

 同じ技能は使っていない。

 

 同じ受け方でもない。

 

 ただ、空いた位置へ、できる者が入る。

 

「昨日確認した通り、ですわね」

 

     ◇

 

《HP:58%》

 

 外殻の損傷は一方向へ集まっていない。

 

 北側。

 

 左後肢。

 

 右肩。

 

 胸部寄りの継ぎ目。

 

 広く、浅く、何度も。

 

 一撃で破る場所を作らず、こちらが装甲を動かすたび別の場所へ次の傷を置いてくる。

 

 わたくしは正面へ重さを乗せる。

 

 南班が下がった。

 

 逃がしませんの。

 

 前へ出る。

 

 追う。

 

 その一歩で、右側の装甲配分が変わる。

 

「右、今!」

 

 南東班。

 

 短い打撃が二つ。

 

 外殻が鳴る。

 

 一人を追うほど、別の五人が近くなる。

 

 なら、追う相手を変える。

 

 南東へ尾を振る。

 

 そこも一撃で離れる。

 

 今度は北西。

 

 わたくしを中心に、役割だけが回っている。

 

 人間が同じ円を走っているのではない。

 

 攻撃する位置。

 

 注意を取る位置。

 

 後退する位置。

 

 救護へ戻す位置。

 

 それらが人から人へ移っている。

 

「最強の一人を三十回並べたわけではない――ということですのね」

 

 昨日、自分で確認した選考理由が、攻撃として返ってくる。

 

 少し可笑しい。

 

 そして、かなり厄介ですわ。

 

     ◇

 

《HP:34%》

 

 これ以上、一方向だけを厚く守っても同じ。

 

 装甲配分を均す。

 

 肩。

 

 胸。

 

 脚。

 

 どこか一つを明確に薄くしない。

 

 攻略側も止まった。

 

 六方向全部から一斉に殴れば、単純な火力交換になる。

 

 しない。

 

 北東班が外へ下がる。

 

 南班だけが正面へ残る。

 

 盾を見せる。

 

 攻撃はまだ。

 

 わたくしが南へ頭を向けた。

 

 北西。

 

 破砕役が走る。

 

 予備動作は短い。

 

 肩殻の継ぎ目へ杭。

 

 衝撃が一枚の内側へ入り、外殻が石床へ落ちた。

 

《配信コメント》

名無しの攻略勢:作った

名無しの領民:穴!

名無しの攻略勢:最初からそこ狙いじゃない

名無しの新規領民:また向かせた?

名無しの攻略勢:そう

名無しの領民:城主の装甲が動く前提で殴ってるのか

 

 落ちた外殻の位置を見直す。

 

 今の一枚は、最初から壊れていた場所ではない。装甲を均し、わたくしが南へ向いたあとで、初めて北西側へ入った。

 

 待っているのではない。

 

 わたくしの選択を、次の攻撃条件に変えている。

 

「やりますわね!」

 

 前脚を踏み込む。

 

 北西の破砕役が下がる。

 

 その退路を追う。

 

 代行班が横から入る。

 

 今度は盾ではない。

 

 身体ごと正面へ立つのでもない。

 

 進路へ短く入り、わたくしの一歩を外へずらす。

 

 その間に破砕役が戻る。

 

 また六方向。

 

 欠けていないのではない。

 

 欠けた瞬間を、次の人が長く残さない。

 

     ◇

 

《HP:22%》

 

 視界の端で数字が止まる。

 

 二十二。

 

 まだ残っている。外殻も残り、攻略側にも蘇生資源と代行・予備班がある。このまま第1形態で攻防を続けることもできる。

 

 できる。

 

 だからこそ、選べますの。

 

 第1形態は、HPが尽きるまで居続けなければならない形態ではない。

 

 任意移行も通常の戦闘手段ですの。

 

 記念戦だから見せるのではない。

 

 この二十二%を時間へ換えるより、次の身体で三十人へ別の判断を迫る方がいい。

 

 六方向を見る。

 

 彼らもまだ構えている。

 

 千回目だから譲る顔ではない。

 

 なら、こちらも譲りませんの。

 

「第1形態、任意移行します」

 

《第1形態:残存HP22%》

《任意形態移行》

 

 重い四脚の感覚がほどける。

 

 肩から背へ重なっていた外殻が戦闘形態の切替に従って消え、身体の重心が上がる。

 

 脚が軽い。

 

 距離が近い。

 

 六方向の三十人が、さきほどとは違う速度で視界へ入る。

 

《第2形態 ソードドラゴン》

 

《配信コメント》

名無しの領民:22残して行った!

名無しの攻略勢:撃破じゃない

名無しの攻略勢:任意移行

名無しの新規領民:まだ続く

名無しの古参領民:当然

 

 第1000防衛は、まだ始まったばかりですの。

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