『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

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第044話 三形態、すべてございます

 

 

《第2形態 ソードドラゴン》

 

 重い外殻が消えたぶん、踏み出しが軽い。

 

 前脚ではなく、刃を持つ身体で石床を蹴る。

 

 視界の端にいた北東班へ一気に詰めた。

 

 さきほどまでなら、こちらが一歩踏み込むあいだに盾を立て、装甲の向きを見てから受け方を変えていた距離。

 

 第2形態なら、その待ち時間ごと斬れますの。

 

 右から一閃。

 

 前衛が盾を上げる。

 

 受けた瞬間、腕ごと押し切るのではなく、わたくしは刃を滑らせた。

 

 盾の縁。

 

 肩。

 

 そのまま身体を回し、背後へ抜ける。

 

 追撃。

 

 もう一度。

 

 今度は受けない。

 

 盾役が二歩下がり、横にいた一人が進路だけへ入った。

 

 わたくしの刃を止める装備ではない。

 

 身体も正面へ置かない。

 

 ほんの一歩、走る線を外へ押す位置に立つ。

 

 切り返す。

 

 その間に、さきほど盾を受けた者が後ろへ抜けていた。

 

「今度は、人を追わせないつもりですのね」

 

 答えは返らない。

 

 返る代わりに、南側から短い射撃が来た。

 

 首を傾けて外す。

 

 そこへ破砕班。

 

 一撃。

 

 当てて離れる。

 

 追えば、背中側へ別の班が入る。

 

 振り向けば、最初に下がった盾役がもう前線へ戻っている。

 

 同じ人を追っているつもりでも、こちらが次に見る時には仕事の持ち主が変わっている。

 

     ◇

 

 加速する。

 

 北から南へ。

 

 刃を返しながら、二人の間を抜ける。

 

 一人へ浅く当てる。

 

 もう一人が下がる。

 

 そこから右へ旋回。

 

 射線封鎖班の内側へ入る。

 

 近距離ですの。

 

 射撃役が一番嫌う場所。

 

 そのはずだった。

 

「前、渡す!」

 

 射撃役が後ろへ下がる。

 

 代わりに、姿勢制御班の一人がわたくしの進路へ入った。

 

 盾はない。

 

 わたくしの刃を受ける技能もない。

 

 だから受けない。

 

 刃が届く直前に身体を外し、こちらの踏み込み先へだけ足を置く。

 

 踏めない。

 

 一歩ずらす。

 

 その一歩で、射撃役が距離を取り直す。

 

 すぐ後ろから射線が通る。

 

 肩へ衝撃。

 

 刃を返す。

 

 今度は代行・予備班。

 

 さきほど姿勢制御がいた位置へ一人。

 

 同じ動きではない。

 

 こちらの旋回側へ、ただ一歩早く入る。

 

「技能ではなく、次に立つ場所を渡しておりますのね!」

 

 速さで一人を追い切っても、旋回のたびに次の進路が要る。

 

 皆様はそこへ、わたくしを止める人ではなく、次の一歩を気持ちよく踏ませない人を置く。

 

 なら、位置ごと切り崩しますの。

 

     ◇

 

 正面へ二歩。

 

 三歩目を踏まない。

 

 左へ身体を投げる。

 

 予測して前へ出た一人の横を抜け、後ろの射撃役へ刃を伸ばす。

 

 一撃。

 

 退避が遅れた一人が戦闘不能表示へ変わった。

 

 空く。

 

 初めて、六方向の一角に明確な穴ができる。

 

 そこへ踏み込む。

 

 けれど、穴は一歩分しか続かなかった。

 

 後ろで待っていた代行・予備班の一人が、戦闘不能者と同じ技能を使うことなく、その位置へ入る。

 

 射撃もせず、刃へ対抗もせず、後ろにいる残り二人へ通る進路だけを残して、こちらへ別の角度を向けさせる。

 

 振り向いた先へ破砕。

 

 戻れば姿勢制御。

 

 さらに回れば、さきほど退いた盾役。

 

 人が入れ替わっても、次に必要な仕事だけが残る。

 

「なるほど。これなら、欠けてもすぐには止まりませんのね」

 

《配信コメント》

名無しの攻略勢:代行入った

名無しの領民:同じ技使ってない

名無しの攻略勢:場所だけ持った

名無しの新規領民:昨日言ってたやつだ

名無しの古参領民:実戦で見ると分かりやすいな

 

 昨日確認したことが、そのまま今日の攻撃になっておりますわ。

 

 では、こちらも最後まで速度を使いますの。

 

 刃を低く構える。

 

 正面の一人が下がる前に踏み込む。

 

 受けた盾を横へ流し、その反動で半回転。

 

 背後へ刃。

 

 届く直前に救護班の一人が対象を引く。

 

 空いた場所へ代行班。

 

 さらに踏む。

 

 破砕班が横から入る。

 

 刃で弾く。

 

 弾いた反動をそのまま次の加速へ回す。

 

 一度止まれば囲まれる。

 

 なら止まりませんの。

 

 白亜城の中央を斜めに切り、北西から南東へ。

 

 戻る。

 

 また切る。

 

 そのたびに、攻略側の前列が一人ずつ変わる。

 

 同じ相手との連続攻防ではない。

 

 けれど、こちらには休みがない。

 

 誰か一人を押し切った先に、次の誰かがいる。

 

 その積み重ねが、とうとう表示を最後まで削った。

 

《第2形態HP:0%》

 

 刃を返そうとした腕から力が抜ける。

 

 戦闘終了ではない。

 

 身体構成が次へ移る。

 

「第2形態、HP全損。第3形態へ移行しますわ」

 

《第3形態 シューティングドラゴン》

 

     ◇

 

 翼が開く。

 

 翼端の射撃器官。

 

 胸部へ集まる光。

 

 尾先の追尾制御。

 

 地面を蹴る。

 

 先ほどまで身体を回していた速度を、そのまま上昇へ変える。

 

 広場が下へ落ちた。

 

 六班が小さくなる。

 

 これで距離はこちらのものですの。

 

 まず北側。

 

 翼端から射撃を散らす。

 

 地上の三人が同じ方向へ逃げない。

 

 前後へずれ、射線の隙間だけを抜ける。

 

 胸部へ出力を寄せる。

 

 集束。

 

 前方の二班が左右へ分かれた。

 

 撃つ。

 

 光が石床を走る。

 

 その場所には、もう誰もいない。

 

「では、次ですわ」

 

 尾を右へ伸ばす。

 

 追尾を寄せる。

 

 右へ逃げる者を狙う――。

 

 違う。

 

 右へ逃げていない。

 

 地上では、時計回りに移動標識が更新されている。

 

 一つ先。

 

 さらに一つ先。

 

 人がわたくしを見上げて追い続けるのではなく、標識の方へ先に動いている。

 

 追尾を曲げる。

 

 その旋回に合わせて、地上から三方向の牽制が上がる。

 

 正面。

 

 左。

 

 右下。

 

 避ける。

 

 高度を取れば届かない。

 

 翼を打つ。

 

 上へ――。

 

 次の射線が、もうそこに置かれていた。

 

「……先に置いておりますのね」

 

 わたくしの現在位置だけを狙っているのではない。

 

 上がれる側へ置く。

 

 曲がれる側へ置く。

 

 戻れる側へ標識を先に動かす。

 

 だから、飛べる空だけが狭くなる。

 

     ◇

 

 胸部射撃を南へ通す。

 

 南班が割れる。

 

 その隙へ翼端射撃。

 

 二人が下がる。

 

 一人は戻れない。

 

 そこへもう一射。

 

 防御が遅れ、前列が崩れた。

 

 北側でも同時に射線がずれる。

 

 六班すべてが綺麗に残っているわけではない。

 

 なら、ここからですの。

 

 北側へ急旋回。

 

 空いたところから地上を割る。

 

「北、崩れた!」

 

 声が飛ぶ。

 

 次の声はすぐだった。

 

「代行班、北側の封鎖機能を引き継げ」

 

 後ろにいた代行・予備班の二人が北側へ走る。

 

 倒れた射撃役と同じ火力は出ない。

 

 同じ標識制御も持っていない。

 

 それでも、一人が移動標識の位置へ入り、もう一人が空いた通路を塞ぐ側へ回る。

 

 失った射線そのものは戻らない。

 

 だから射線を一本減らしたまま、飛行経路を狭める役割だけを残す。

 

「そうですのよね」

 

 完全には戻さない。

 

 足りないまま続ける。

 

 それが、この三十人の代行ですの。

 

 なら、減った一本を使わせていただきますわ。

 

 北へ抜ける。

 

 射撃。

 

 地上を切る。

 

 北側の標識が一つ後退。

 

 そこへ入る。

 

 今度こそ広い。

 

 翼を返す。

 

「上を見るな。次の標識へ」

 

 地上から声。

 

 誰もこちらを追って走らない。

 

 標識だけが先へ進む。

 

 南東。

 

 東。

 

 北東。

 

 そこへ人が移る。

 

 わたくしが北から旋回して戻るころには、通りたい先にもう次の線がある。

 

 一つの攻撃で落とそうとはしてこない。

 

 こちらが使った器官と反動を見て、次に飛べる側を削ってくる。

 

「わたくしを追わず、飛行できる場所を減らしておりますのね」

 

《配信コメント》

名無しの攻略勢:追うな

名無しの攻略勢:次の空を潰してる

名無しの領民:飛んでるのに包囲されてる?

名無しの攻略勢:地上から飛行範囲を削ってる

名無しの新規領民:上に追いかけないのか

名無しの古参領民:追ったら城主の距離だ

 

     ◇

 

 高度を変える。

 

 右。

 

 左。

 

 胸部射撃の反動を翼で受け、急停止。

 

 そのまま逆へ返す。

 

 まだ抜けられる。

 

 けれど、抜けるたびに次の射線が近い。

 

 標識へ向かう人間を撃てば、その場所は空く。

 

 代わりに、別班が次の標識を受ける。

 

 救護線を狙えば内周へ縮む。

 

 空いた外周へ別の射撃役が入る。

 

 誰かを落とせば構成は崩れる。

 

 けれど、崩れた形のまま次へ繋ぎ直される。

 

 こちらのHPは戻らない。

 

 射撃の反動。

 

 旋回。

 

 迎撃。

 

 同じ攻防を、位置と形を変えながら何度も重ねる。こちらが一つ抜ければ、地上側も次の配置へ繋ぎ直す。その繰り返しのあいだに、時間表示だけが確実に減っていった。

 

 その合間に、地上から届く細い攻撃が積み重なる。

 

《第3形態HP:8.6%》

 

 数字を見る。

 

 八・六。

 

 まだ飛べる。

 

 翼も動く。

 

 射撃器官も使える。

 

 ただ、このまま上に残れば、次にどこへ飛ぶかを地上側へ選ばれ続ける。

 

 高い場所にいることと、自由に動けることは同じではない。

 

 残り時間を見る。

 

《残り時間:00:55:00》

 

 五十五分。

 

 三形態、すべて使った。

 

 第1形態は二十二%を残して、わたくしが次へ移った。

 

 第2形態は皆様にゼロまで削られた。

 

 第3形態は、残り八・六%。

 

 まだ終わっていない。

 

 なら、この八・六%を、飛行先を絞られたまま削らせ続ける必要もございませんの。

 

 翼を畳む。

 

 高度が落ちる。

 

 地上の標識が一斉に動いた。

 

 着地地点へ集中するのではない。

 

 その先の射線をまた作ろうとしている。

 

 だから、降りた瞬間から撃つ。

 

「残存HP、8.6%」

 

 石床が近づく。

 

 脚が触れる。

 

 反動を膝で受け、胸部の集束部を正面へ向けた。

 

「第3形態、地上射撃姿勢へ」

 

 翼はまだある。

 

 空へ戻れないわけではない。

 

 ただ今は、戻らない。

 

 残り五十五分。

 

 地上で、もう一度三十人を見ますの。

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