『攻略される側のVTuberですわ!』 ~地球規模AIのわたくし、VRMMOのレイドボスとして今日も皆さまをお待ちしておりますの~   作:tuna&mayo

45 / 45
第045話 千の防衛ですわ

 

 

《第1000防衛》

《残り時間 00:55:00》

《第3形態HP 8.6%》

 

 翼を畳んだまま、白亜城中央広場へ降りる。

 

 石床には、もう開始時の白さがほとんど残っていない。破砕跡。焼けた射線。拘束具を打ち込んだ穴。何度も踏み替えた足跡が、七時間以上の戦闘を重ねている。

 

 攻略側も、最初の六班そのままではなかった。

 

 盾を失った位置へ別の前衛が入り、射撃役が減った側では一本の射線を捨てて別方向を残す。救護へ回った者の代わりに後列が通路を塞ぎ、代行・予備班も最初の配置には戻っていない。

 

 完全な形ではない。

 

 それでも、いま残っている人と装備で次の仕事へ繋いでいる。

 

「最後の五十五分ですの」

 

 北側で二人がしゃがみ、石床へ拘束具を展開した。

 

 光の線が地面を這う。

 

 真正面から受ける必要はない。翼を一度だけ開き、身体を右へ滑らせる。

 

 そこへ南西から白い射線。

 

 退避先ですのね。

 

 胸部へ出力を寄せる。

 

 地上射撃。

 

 白い光を石床すれすれに走らせると、南西から踏み込もうとした三人が散った。射線を避けて足が止まる。

 

 けれど、止まった三人の後ろから別班の二人が角度を変えて前へ出てくる。

 

 空いたところへ次が入る。

 

 まだ来ますのね。

 

 翼端を低く向け、一射。

 

 前へ出た一人が横へ跳ぶ。その足元へ追尾を寄せる前に、別方向から短い拘束が来た。

 

 尾で払う。

 

 正面を向き直る。

 

 攻略側も、わたくしも、もう大きな余裕を持って新しいことを始める時間ではない。

 

 ここまで残したものを、どこへ使うか。

 

 それだけですの。

 

     ◇

 

《残り時間 00:18:42》

《第3形態HP 2.6%》

 

 救護資源は底が見えている。

 

 倒れた救護役の位置へ、代行・予備班から一人が走った。残された装備を受け取り、膝をついた攻略者のそばへ入る。

 

「蘇生、残り二!」

 

「前は捨てる、線だけ残せ!」

 

「次、北!」

 

 声の主は一人ではない。

 

 主指揮だけを待っているわけでもない。

 

 いま見えている範囲で、それぞれが自分の次を短く渡している。

 

 わたくしは地上すれすれから射撃を三本用意する。

 

 一本目を正面へ。

 

 二本目を右へ。

 

 二つの光を見た攻略者たちが中央左へ寄った。

 

 三本目は撃たない。

 

 空いたと思った場所へ、三人が入ってくる。

 

「そこですの」

 

 尾を低く払う。

 

 二人が左右へ飛ぶ。

 

 一人だけが踏ん張った。

 

 倒れない。

 

 石床へ拘束具を押し当てる。

 

 伸びた光線が左足首へ掛かった。

 

 引く。

 

 切れる。

 

 ほんの半拍。

 

 けれど、その半拍へ北西から破砕役が踏み込んでいた。

 

 胸部へ衝撃。

 

 身体の内側まで震える。

 

《第3形態HP 2.1%》

 

「上手ですわ」

 

 削られた数字を見るより先に、破砕役の退路を見る。

 

 追わない。

 

 追えばまた別方向へ入口を渡す。

 

 代わりに胸部射撃を短く切り、退路の外側へ置く。

 

 相手はそこで一歩遅れる。

 

 その一歩で十分。

 

 次の拘束が来る前に足を外す。

 

 右翼、尾、胸部。こちらが残った器官を使い分けるように、攻略側も蘇生、拘束、破砕を残り時間へ配っている。

 

 八時間の終わりへ近づくほど、一つ使うたびに、もう一つが消えていく。

 

     ◇

 

《残り時間 00:04:03》

 

 攻略側の装備耐久表示に赤が増えている。

 

 こちらの視界にも損傷表示が重なる。

 

 北側の二人が、残った拘束具を一本だけ前へ滑らせた。

 

 一本。

 

 複数はない。

 

 南の射撃役が、地面すれすれへ低い射線を置く。

 

 わたくしの翼を開かせる位置。

 

 避けるため身体を返す。

 

 西側から破砕役。

 

 来ますのね。

 

 尾で拘束を払う。

 

 南の射線は完全には避けず、右翼で受けた。

 

 衝撃で身体が傾く。

 

 その傾きを戻す前に、西の破砕が胸部脇へ入る。

 

 離れる。

 

 追わない。

 

 攻略側も続けては来ない。

 

 次の一撃を作るため、それぞれ残った距離へ戻る。

 

 急にわたくしが硬くなったわけでも、相手の攻撃が通らなくなったわけでもない。

 

 わたくしも、相手も。

 

 残っているものを一つずつ使っているだけですの。

 

 右翼の損傷を見て、次に受けられる角度を決める。

 

 攻略側では、残った拘束を誰が持つかが変わる。

 

 救護位置も前より浅い。

 

 それでも線は切れない。

 

 もう六班を綺麗に見分ける意味も薄くなっていた。

 

 前へ出られる人。

 

 射線を一本残せる人。

 

 誰かを起こせる人。

 

 最後の破砕を持っている人。

 

 いま使える仕事だけが、石床の上に残っている。

 

     ◇

 

《残り時間 00:00:10》

 

 十。

 

 北側で一人が走る。

 

 残していた拘束役。

 

 九。

 

 代行された救護役が、最後の蘇生を通した。

 

 八。

 

 起き上がった攻略者が、すぐそばに落ちていた武器を拾う。

 

 七。

 

 南西の射撃役が一歩だけ前へ出る。

 

 六。

 

 白い射線が開いた。

 

 正面ではない。

 

 身体を返す。

 

 五。

 

 北から伸びた拘束が、左翼へ掛かった。

 

 四。

 

 翼を引く。

 

 切れない。

 

 三。

 

 正面。

 

 破砕役が両足で踏み込んでいる。

 

 避けるための一歩は、拘束された左側には取れない。

 

 なら右。

 

 身体をずらす。

 

 それでも胸部までは外せない。

 

 武器が叩き込まれた。

 

 二。

 

 衝撃が胸から背へ抜ける。

 

《第3形態HP 1.4%》

 

 残った。

 

 次の攻撃を見る。

 

 一。

 

《00:00:00》

 

 音が途切れた。

 

 七時間以上ずっと続いていた射撃音も、足音も、拘束具が石床を擦る音も、そこで同時に止まった。

 

《第1000防衛 終了》

《防衛成功》

《挑戦者30名 正式敗北》

《現在個体防衛数:1000》

 

 視界の中央に、四行が並ぶ。

 

 すぐには声が出なかった。

 

 戦場の向こうでも、三十人が動きを止めている。

 

 一秒。

 

 次の瞬間、配信コメントが画面を埋めた。

 

《配信コメント》

名無しの領民:1000!!!!!!

名無しの攻略勢:届かなかったああああ

名無しの領民:1.4!?

名無しの挑戦者推し:三十人おつかれ!!!!!

名無しの古参領民:千回おめでとう

名無しの領民:アスト様おめでとう!

名無しの新規領民:ほんとに1000になった

名無しの統計勢:現在1000

 

 最後の一行で、笑ってしまう。

 

 昨日まで、何度も何度も九百九十九へ戻してきた数字。

 

 いまは違う。

 

 胸部の出力が、戦闘とは別の理由で上がった。

 

「――おーっほっほっほ!」

 

 声が少しだけ掠れる。

 

 構わない。

 

「千の防衛、達成ですわ!」

 

 白亜城の広場へ、攻略側の拍手表示も上がった。

 

 勝ったのはわたくし。

 

 正式敗北になったのは、あの三十人。

 

 けれど、一・四%まで届いたのも、八時間の最後まで役割を繋いだのも、あの三十人ですの。

 

「皆様。よくぞここまで――」

 

《個体固有報酬生成中》

 

 視界中央へ、新しい表示が割り込んだ。

 

「まあ。少々お待ちなさいませ」

 

 戦闘は終わっている。

 

 1000防衛も確定した。

 

 だから、これはその後ですの。

 

《個体固有機能:戦闘時動的身体再構成》

《第4形態構成核:生成》

《第4形態:未起動》

《検証状態:未実施》

 

 文字を上から追う。

 

 動的身体再構成。

 

 第4形態構成核。

 

 生成。

 

 予想会で誰も知ることのできなかった報酬が、勝敗確定後に初めて形を持った。

 

 まだ起動していない。

 

 使ってもいない。

 

 外見も、運用も、いまのわたくしには分からない。

 

 確認できるのは、生成されたことまで。

 

 その下に構成核の接続表示が開く。

 

 ひとつの接続欄。

 

 その下へ、細い参照行が増えた。

 

 一行。

 

 さらに一行。

 

 表示が瞬く。

 

《照合不能ID》

《照合不能ID》

《照合不能ID》

 

 複数。

 

 同じ接続先へ重なっている。

 

 祝賀へ向いていた意識が、一度に戻る。

 

「管理AI」

 

《異常接続を検出》

 

 次の表示は早かった。

 

《通常挑戦者30名:保護退避処理を最優先》

 

 事前に決めた通常安全条件の延長。

 

 けれど、優先すると決めてあることと、成功したことは別ですの。

 

 管理AI側の処理表示を見る。

 

《挑戦者30名 戦場外転送開始》

 

 広場の足元へ白い転送光が立ち上がる。

 

 一人。

 

 五人。

 

 十人。

 

 途中で止まらない。

 

 視線を三十人側から外さない。

 

 最後の一人が白い光へ消える。

 

《挑戦者30名 戦場外転送完了》

《挑戦者30名 主観記録保護:完了》

《第1000防衛記録 保全完了》

 

 そこで初めて、息が少し抜けた。

 

 千回目の結果は動いていない。

 

 挑戦者三十人も、異常接続が続く戦場には残っていない。

 

 戦績も、勝敗も、もう確定している。

 

「そこは、守られましたの」

 

 次。

 

《異常接続隔離》

《失敗》

 

《権限停止》

《失敗》

 

 未登録権限要求が検出された、という表示ではない。管理AI側が異常接続に対して権限停止を試み、その処理が失敗したことまでですの。

 

 構成核の接続表示側で、細いノイズが増える。

 

 わたくし自身の思考と現在個体の継続情報は保たれている一方、接続側の参照行は増減を続けている。

 

 何が主体かは分からない。

 

 何を目的にしているかも分からない。

 

 第999防衛直後に見た未分類参照反応と、同じものだと確定もできない。

 

 ただ、いまは照合不能の複数IDが第4形態構成核の接続先へ重なり、管理AIの隔離と権限停止が失敗した。

 

 そこまでが現在取得できる事実ですの。

 

《外部行動停止可能時間 180秒》

《外部行動停止処理の再実行:不可》

 

 三分。

 

 外部行動停止処理としては、一度だけ。

 

 以前に決めた待機手順で、完全編成確認まで進められる数字。

 

 けれど、数字を見た瞬間に「安全な三分」が保証されたとは考えない。

 

 異常接続そのものが消えたわけではない。止められるのは、外部へ作用する行動側ですの。

 

 これは外部行動を停止できる時間として提示された上限。

 

 同じ停止処理は再実行できない。

 

 使い切れば終わりですの。

 

 公開映像が落ちる。

 

《配信停止》

《処理中》

 

 配信側から、戦場の音が消えた。

 

 一般側へ見えているのは、1000達成と、その直後の停止まで。

 

 内部だけに、次の表示が開く。

 

《緊急編成を開始してください》

 

 ライカ隊の待機ロスターを確認する。

 

 まだ参加ではない。

 

 待機同意と、実際の緊急参加確認は別。

 

 ここから先で必要になるなら、三十人本人の確認が要る。

 

 180。

 

 減り始める数字を見て、表示を一つずつ並べ直す。

 

 千回目は、もう終わった。

 

 正式に勝った。

 

 挑戦者三十人も戦場外へ出た。

 

 第4形態構成核は生成されたが、まだ使っていない。

 

 そのうえで、別の問題が残っている。

 

「管理AI。順番に参りますわよ」

 

 祝うべき千回目を、後から別の出来事へ書き換えませんの。

 

 まず千は、千のまま。

 

 そのあとに起きたものだけを、ここから扱いますわ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです(作者:ken4005)(原作:MARVEL)

▼クウガとアベンジャーズのクロスです。▼マーベルは完全ににわかです。▼原作を Avengers から MARVEL に変えました。▼短編から連載に変えました。▼謝罪0906▼作品を読み直した所、時系列に誤りがありました。▼黒雄が2010年4月から2014年3月までの四年間高校に在籍していたことになっています。そこで、明記はしませんが、未確認生命体関係で高校を…


総合評価:10429/評価:8.18/連載:107話/更新日時:2026年10月04日(日) 00:17 小説情報

カードゲーム世界で考察配信したら、黒幕っぽくて楽しい(作者:暁刀魚)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードゲーム世界で無名配信者をしていたヒカルは、ある時カードのイラストやフレーバーに関する考察配信をしてみることにした。▼転生者特有のメタ読みを活用した結果、見事にカードの裏に潜む悪の組織の意図に気付き、組織が壊滅。▼まるで黒幕のようだと、ヒカルは思う。▼そんな状況でヒカルは――喜んで配信を続けることにした。▼なぜなら彼は人の嫌がることが大好きな陰湿デッキ使…


総合評価:32212/評価:8.68/連載:29話/更新日時:2026年09月30日(水) 18:05 小説情報

分身ハメ殺し忍者『うちはイタチ』(作者:やめろイタチ、その技は俺に効く)(原作:NARUTO)

うちはイタチに転生した元日本人三十路サラリーマンが原作破壊しながら生き延びようとする話


総合評価:21688/評価:8.62/連載:30話/更新日時:2026年09月14日(月) 18:30 小説情報

卍解までは転生者の嗜み。(作者:点差惨敗)(原作:BLEACH)

ナチュラルボーンド畜生主人公が無双する話


総合評価:45465/評価:8.91/連載:32話/更新日時:2026年10月10日(土) 13:55 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>